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序 章【出逢い】
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しおりを挟む城の入口前に戻ったマヤはキョロキョロと辺りを見回した。
「お父様?」
「ああ、戻ったか…早くしなさい。」
マヤの父は仁王立ちをして城の扉の前で待ち構え…マヤは護衛の兵達に押されるように…先を歩く父王のあとを追った。
‡
大事な会議などに使われる部屋へと通されたマヤとピッシュ国王は大きく長いテーブルと整列された椅子に座るよう促された。
父王と対面するように座るザバス国王は、執事が出したお茶をのみながら仕事の話を始めた。今は何が売れているかとか…治安について等々、マヤには到底わからない内容だった。
寄り道してから来た二人はザバス国王の隣の席がいまだ空いていることに疑問を抱いて父王は聞いてみた。
「ご子息は?どうされましたか?」
ザバス国王は冷や汗をかき始め…
「いやぁ今日のことは伝えてあるんだが…仕事熱心でね。」
「そうですか…娘は始めての場所に行くと、どうも散策するところがありまして…今日の事も時間を正確に決めなかったのもこのためでして…」
マヤはふと、持っていたはずの猫のぬいぐるみが無いことに気がついた。
「お父様…さっきの場所でぬいぐるみを忘れてきたみたい。取りに行ってもいいでしょうか…?」
マヤはしょんぼりした顔で、隣に座るピッシュ国王に上目使いに訴えると、ピッシュ国王はピシッと答えた。
「ダメだ。諦めなさい。」
「…はい。」
しょんぼりしていると…部屋の扉の向こうから声がした。
「リュシンです。入ります!」
扉を開けて現れたのは漆黒の髪の青年だった。
「紹介しよう…こちらがピッシュ国王と第3王女のマヤ・ピッシュ殿だ。」
「リュシン・ザバスと申します!」
直立するリュシンは強面で無愛想…ザバス国王はヒヤヒヤしながらリュシンの様子を見守るなか、リュシンは深い礼をし、静かに顔をあげた。
「マヤ殿!先ほどは挨拶もできず失礼した。」
リュシンは身につけた漆黒の鎧の隙間から小さい猫のぬいぐるみを取り出し、思わずてがすべってテーブルに落ち、ザバス国王は心の中で(客人の前に猫を投げた!)と悲鳴をあげた。
マヤは立ち上がるとリュシンの方を向きスカートの裾をつまみ上品に礼をした。
「リュシン様ありがとうございます。」
「ああ、あなたは慌ただしくふわふわと跳んでいってしまって…あなたの落とし物が階段に落ちていたんだ。本当はこの席に欠席するつもりで地下に隠れるつもりだったのに…婚約予定の女性と同じ名前のあなたがこれを落として行ったから…」
リュシンは深いため息をつき、部屋を後にしようと背中を向けると、マヤは席から離れてリュシの右手を両手で握りおねだりするようなキラキラする瞳で体格さのあるリュシンを見上げた。
「さっきの地下にいかれるんですか?どうなってるんですか?」
リュシンは表情は変わらないが小さく柔らかなてで握るマヤに赤面していた。
「見たいのか?」
「はい!」
「…」
リュシンは席に座る両国の王をチラリと見た後でマヤの耳に顔を寄せて呟いた。
「昔の拷問部屋だぞ?」
マヤの握るては更に強くなり、リュシンはここでようやく強面な頬が緩んで苦笑いしたのだった。
「父上、マヤ殿と行ってもいいか?」
両国の王は顔を見合わせひと呼吸した。
「なら、同意でいいんだな?リュシン。」
「…ああ。怖がらない姫君はそういないでしょ?」
ザバス国王がリュシンの返事を聞いた後、続いてピッシュ国王もマヤに聞く。
「マヤも…いいのか?」
「はい!」
「わかっているのか?」
再度のピッシュ国王の問に、マヤは笑顔で頷いた。
「婚約成立したんですよね?」
両国の王はそのまま部屋を去る二人をため息混じりに見送った。
「婚約の意味を理解しているのか…」
ピッシュ国王の呟きに続いてザバス国王は苦笑いした。
「そうですな…」
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