望郷の空

フジオリ。

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「普通に生きたい」

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 今日、世界が終わるらしい。


 携帯を見ると昼の2時を示している。
 今の季節であれば太陽はまだ上にあるはずなのに見上げた空は黒一色だ。

 ため息を吐く。
 最後に通っていた学校に来てみたものの、とくに
 
 《メッセージを受信しました》
 
 不意に着信が届いた。

「誰だろう」

 携帯を開いてみたらメールが届いていた。
 迷惑メールだろうか
 メッセージを確認する。

『こんにちは、あなたは誰ですか?』

「こんにちは、私はユウです」

 どうせ世界は終わるんだ、名前ぐらい名乗ったって大したことないだろう。

『ユウは今何をしていますか?』
「今は空を見上げています」

『空、となるとその世界ではもう何も見えないはずですが』
「そうですね、でも“過去はこうだった”と思い出に浸ることはできます」
『それは、望郷でしょうか』
「かもしれませんね、もう帰る家もありませんが」

 住んでいた家もよく行ったコンビニもあったところは空と同じで黒い。
 想像していた世界の終わりとは違ったけど確かにこれも終わりだ。

 あの黒に飲み込まれたものは何一つとして帰ってきていない。
 無になるのだと、科学者を目指していた少年は言っていた。

『あなたの望みはなんですか』

「望み…」

 返信する指が止まった。
 こんな絶望的な状況で望みなんて

「でもいっぱいあったな…」

 将来叶えたかった夢や理想もあった。
 けど今のは私はそれらを叶えるための下地になる日常が足りなかった。

 「“──”、っと」

 適当な机に携帯を置く。
 返信なんて期待していない。
 どうせ叶えられない望みだ

 窓に近づき景色を見下ろす。
 よく通った道もさっきまでいたグランドも、もう見えない。
 
「こんなことなら寝ていればよかった」

 寝ている間に世界が終わっていればこんな気持ちにならなかった。

 返信が来たのだろう、教室にバイブ音が響く。

「嘘つき」

 かすかに見えた文字に顔が歪む。

「それが叶ったって、私が生きたかった世界は終わるのに…!」

 泣くな、最後は思い出に浸って終わると決めてきたんだ。

 教室の外が暗くなった。
 いよいよ、ここも消える。

 じわじわと教室の端を侵食する黒を睨む。

 たとえここで終わっても居なくなっても私は忘れない

 この世界が終わっても、だ。









「それは思春期の少女が願うには普通のことで、でも切実な願いだった」

 とある少女はつまらなさそうにどこかの世界の終わりを見た者について語り、感想を述べる。

「その世界の終わりが目の前に来たら、あなたはどうします?」
「オレは、……その時まで怯えて過ごすと思う」

 おまえは?と少女に問いかける。

「そうですね、その時もきみの隣にいれたらいいな」
「なぜ?」
「世界の終わりに抗う私のそばにきみがいてくれたらがんばれる気がするから」
「抗えないから、終わりなんだろうが」

 この少女は前提を変えてくる。
 いつもそうだ、ルールを変えてでも理想を叶えてくる。
 だからオレもここにいるのだが

 照れ臭くて視線を外す。
 視線をそらしたというのにそれでもコイツが笑ったのは感じ取れた。

「だってきみたちがいる世界を終わらせるなんて理想、私にはないもの!」

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