【完結】眠れぬ異界の少年、祓魔師の愛に微睡む

丑三とき

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続編その②〜魔力練習編〜

〈閑話〉ハルオミ不在の日々

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ーーーーーーーーーーーーーーーーside Phanêsパネースーーーーーーーーーーーーー

今日の十一時と約束していたのに、思ったとおり、約束の場所に彼はいなかった。

「まったく。掃除をしたいだけなのに、どうして毎回毎回イザベラを探すところから始めないといけないのでしょう」

中庭にいると踏んで捜索にあたるも、いつものように簡単には見つからない。

「おや……菜園にもいない」

彼の作業場(もちろん爆弾を製造するための)にもいなかったし……どこにいるのだろう。

「パネース殿。何かお探しですか?」

「あら、ウラーさん。ちょうどいいところに。イザベラを見かけませんでしたか?」

「イザベラ殿ですか?」

執事さんなら何か知っているかと思い、ちょうどすれ違ったウラーさんに聞いてみた。
しかし期待通りとはいかず、「さぁ、今日は城の外には出ていないはずですから、どこかほっつき歩いていらっしゃるのでは?」という返答が来た。

心当たりのある場所を列挙し、いや、そこは探した、ここも違ったと二人で言葉を交わしているうち、ふと、視線がぶつかった。
まさか。

あと探していない場所は……

ウラーさんと共に早足で、いや、ほとんど駆け足で廊下を進み、辿り着いたのはハルオミ君の部屋の前。
まだ距離のあるうちから、扉に身を寄せてこっそりと中を窺う金髪が目に飛び込んでくる。ウラーさんと顔を見合わせ、二人揃って呆れた。

あまり距離を詰めすぎるとハルオミ君の発情に当てられてしまう可能性があるため、少し遠くから小声で叱る。

「やっぱりここにいた。イザベラ、入ってはいけないと言われているでしょう?」

これまた小声でこう返ってきた。

「別に入ってねえじゃんか」

「ああ言えばこう言うんですから」

「だって、ハルオミが辛くなってないか心配じゃん」

ハルオミ君は、昨日から無事に発情期に入ったと聞いた。

発情期前の時期は体調やメンタルがすぐれないと聞くし、発情期に入ったら入ったで、気分が高揚して辛いかったり、一日中眠くて辛かったりするそうだ。

「それはそうですが……だからって覗き見は趣味が悪いですよ。それに、ハルオミ君にそんなに近づいて発情期にあてられたらどうするんです。あなた、ハルオミ君を襲わない自信はないとあんなに高らかに宣言してたじゃないですか」

「そうですよイザベラ殿。ハルオミ殿に手を出したとあらば、フレイヤ殿に半殺しにされかねないのは私なんですから」

ウラーさんが迷惑そうな表情を浮かべ、イザベラを説き伏せにかかる。

「その通りです。それに、ハルオミ君の様子はウラーさんが定期的に確認してくださってるから、心配はないでしょう」

そう諭すと、イザベラは愛らしい顔を不満げに歪め、唇を尖らせた。

「……ウラーだけずるいじゃんか」

やっぱり、それが本音か。

ウラーさんと思わず顔を見合わせた。彼の目にも同じ理解が映っている。

すると、ウラーさんが咳払いひとつ。

「いくらハルオミ殿がいなくて寂しいからといって、覗きとは感心しませんね。……まあ、しかし、体調管理も執事の仕事。ハルオミ殿のご様子は、今どのような?」

言葉とは裏腹に、その声音には隠しきれない好奇心が滲んでいた。実のところ、私自身も気にならないといえば嘘になる。視線は自然と、イザベラへと注がれていた。

「今はよく寝てるよ。さっき一瞬目ぇ覚ましてポケ~っとしてたんだけど、やっぱり眠いみたいだ」

イザベラの言葉を聞いて、私の中で何かがざわついた。
眠っているハルオミ君……か。

彼が発情期に入ってから、もう丸一日以上会っていない。いつもなら城のどこかで顔を合わせるものだが、こうして隔離されていると、妙に気になってしまう。眠っている姿など、これまで何度も見てきたはずなのに。

いや、待て。何を考えてるんだ、私は。

理性がそう囁く一方で、視線は勝手にハルオミ君の部屋の扉へと向かっていた。

「おや……パネース殿?」

ウラーさんが怪訝そうな声を出す。
はっとして我に返ると、彼もまた、扉の方をちらちらと見ていた。その様子は、悪いことを思いついた子供のようで——いや、人のことは言えない。私だって同じ顔をしているに違いない。

「ウラーさん」

「……何でしょう」

「ほんの少しだけ、ほんの少しだけですよ」

「……ええ、ほんの少しだけ」

互いの言葉に、互いが頷く。
イザベラがにやりと笑った。「やっぱお前らも見たいんじゃねえか」

「違います。これは、その……友人として、彼がゆっくりと休めているかどうかを確認するために」

「お前さっき俺が同じこと言った時怒ったじゃねえか」

という彼の言葉を受け流して、音を立てぬようそっと扉へと近づいた。

イザベラが得意げに場所を空け、扉の隙間から中を覗けるよう道を譲る。

薄暗い室内。カーテン越しに差し込む柔らかな光の中、ベッドの上でハルオミ君がすやすやと眠っていた。

——ああ。

思わず息を呑んだ。
普段の、愛らしい中に凛々さが一本通った雰囲気とはまた違い、安らかな寝息を立てる横顔は、まるで絵画の天使のようだった。
少し乱れた黒髪が額にかかり、長い睫毛が頬に影を落としているのが、この距離からでもわかる。唇はわずかに開き、頬は枕に押し付けられ、その無防備な様子に、胸の奥が妙にざわついた。

いつのまにか一緒になって覗いていたウラーさんが、

「……天使か」

と小さく呟く。

「天使だな」

イザベラが同意する。

「……ええ、天使ですね」

私も思わず彼らに続いた。

三人並んで扉の隙間から覗き込み、誰も何も言わず、ただハルオミ君の寝顔を見つめていた。

気のせいだろうか、甘い香りが漂ってくるような気がする。

不思議と、襲いかかりたいという衝動よりも、ただただ守ってやりたいという穏やかな感情が胸を満たしていた。

しばしの沈黙の後、イザベラがぼそりと言った。

「……な?癒されるだろ?」

「……ええ」

「……まったくです」

「ずっと見てられるだろ?」

「ええ」

「まったくです」

三人揃って、深い溜息をついた。



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【裏話】
しっかりとハルオミの発情期に当てられた三名は、その晩、各々のパートナーといつも以上の盛り上がりを見せたという。
誰もそのことを口にはしなかったが、翌朝三人が顔を合わせた時、互いに気まずげな視線を交わし合ったのは、言うまでもない。
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