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湖畔の孤児、祓魔師の愛を悟る
6.私の気持ち
しおりを挟む「じゃ、いただこう」
「……はい」
向かい合って席に着く。それはそれは豪華な料理の数々に、私は空いた口が塞がらなかった。
茹でパンは今朝出来上がったばかりのようにふんわりしっとりしていて、いつも食べているのとは明らかに違う。しかも切れ目が入っていて、中にはお肉みたいなのやお野菜みたいなのが挟まっている。
孤児院でもこういうのが出たことがあって、美味しかったのを覚えてる。でも種類の多さが孤児院とは比べ物にならない。どれが何かわからないけど、とにかく美味しそうだ。
ポットに入っていたスープも器に注いで用意をしてくれていた。
透き通ったスープに、たくさんの具が入っている。
そのほかにも大きなお肉の塊や、お野菜を酢漬けにしたもの、こんがりと揚がった何か、等々……
味の想像ができないものまで、色々な料理が並んでいる。
「す、すごい……、これ、全部ニエルドさんが持ってきてくださったんですか?」
「そうだ。どれが好きだ?」
「どれ……えっと、パン、とか?」
かろうじて知っている料理名を口にすると、ニエルドさんは私のお皿に次々と取り分けてくれた。
「このサンドイッチはうちの執事の好物だ。確かアイツはお前と同い年だったな。どれがいい? 肉と葉野菜を挟んだものと、卵のペーストを挟んだやつと……まあいい、全部食え。それからこれは肉を炭火で焼いてある。根菜の酢漬けと一緒に食べると美味い。こっちの揚げ物も中々だぞ」
「あっ、そ、そんなにたくさん……」
「いいから一通りつまんでみろ、苦手だったら残せばいい、俺が食うから」
「いえ、残すだなんて! 全部いただきます!」
「無理するなよ」
ニエルドさんに感謝を述べ、料理にお辞儀をしてサンドイッチに手を伸ばす。
柔らかい……。表面が乾燥していないパンを食べるのは孤児院ぶりで、少し緊張してしまう。お肉の挟まった部分を一口食べると、あまりの美味しさに頬っぺたがぴりぴりと歓喜している。
「お、美味しい…!!」
「お、そうか? んじゃ俺もそれを食おう」
ニエルドさんがサンドイッチに手を伸ばす。
私は、彼よりも先に自分が頬張ってしまったことに気づいて焦った。
「ごめんなさい、おいしそうだったから、つい先にいただいてしまいました」
肩を落として謝ると、大きな手のひらで豪快に頭を撫でられ、「謝るな」と言われた。
「先だ後だのと、そんなことをいちいち気にすんな、神経質か。美味けりゃいいんだ、ほらもっと食え」
「あ……ありがとうございます!」
私は言葉に甘えて、彼が取り分けてくれたお肉も一口食べる。
「っ! こんなに柔らかいお肉……はじめて……」
「うまいか?」
「はいっ! それに、風味もなんだか食べたことない感じ」
「炭火で焼いてあるからな、香ばしいだろ」
「とってもこうばしいです! あの……もっとたべても、いいですか?」
「当たり前だろ、俺の了承なんかいちいち得なくていい。全部食うんだろ?」
「はい、いただきます!」
私は目の前の豪華な料理に夢中になっていた。
孤児院でもしっかりと栄養のあるものが出ていたけれど、こんなにも食べ物を美味しいと感じたのは初めてだ。
どれもこれも体に染み渡って、生命を鼓舞してくれる、活力が漲ってくる。
気がつけば、彼の取り分けてくれたお皿は空っぽになっていた。
「良い食いっぷりだな、まだいけるか?」
「ま、まだいただいてもいいのですか?」
「ああ。見てみろ、こんなにあるんだ。遠慮するな」
「はい!」
食べたものが血となり肉となり、私の活力となる。それは当然のことだけれど、生きてきた中でこれほどまでその摂理を身をもって実感したことは無かった。食べ物に元気をもらって…いや、それだけじゃない、ニエルドさんと一緒に同じものを食べるのが楽しい。
食事が楽しい。
私の中に、また初めての感覚が生まれた。
「ニエルドさん……」
呼びかけると、彼は私のお皿に再び料理を取り分けながら返事をした。
「どうした?」
「わたし、ニエルドさんと一緒にご飯をたべることができて、とても楽しくて、うれしいです、心と体が、よろこんでいます」
「それが今のお前の気持ちか?」
「はい」
「ははっ、そりゃいいな。俺も最高の気分だ」
「ニエルドさんもですか?」
「ああ。お前のうまそうに食う顔がたまらなく良い。ほら、おかわりだ」
またいっぱいに盛り付けられたお皿が差し出される。
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