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東の祓魔師と側仕えの少年
51.団欒②
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日が沈み、月が輝き始めた。
皆の支えのおかげでなんとか絶えず魔力を与え続けることができている。
「しかしハルオミ君、すごい吸ってんな、魔力」
クールベ叔父上が氷嚢を取り替えながらハルオミを覗き込んだ。
「吸って、いる……とは……」
「お前魔力枯渇しかけたことあるか?」
「ありません」
「ハッ、だろうな。あのな、魔力が枯渇すると他人に魔力を与えてもらわなきゃならねえんだけど、渇ききってるからめちゃくちゃ吸うんだよ。カッスカスのスポンジが水をよく吸うみてえにな。ハルオミ君は今、その枯渇状態によく似ている」
叔父上はニカっと表情を緩めた。
「つまり……」
「ハルオミ君の中に魔力が芽生え始めているってことだ。まだその魔力が小さすぎて、お前から奪おうと必死になってる」
「クールベさん、それ本当!?」
イザベラが元気な声をあげた。
「ああ、しかし気を抜くな。こっからが勝負だ。ハルオミ君とフレイヤの体力がもたねえと意味がねえ」
ハルオミは必死に呼吸をしている。
苦しそうだ。可哀想で仕方がない。けれど今、彼が必死にもがいてくれていることが私の心を支えた。
今すぐに抱きしめたい。
「ハルオミ……」
戻ってきてくれ。
君の声が聞きたい。
君の笑顔が見たい。
私は全身に力を込めて、腹の底から力の限り魔力を放出した。
「クールベ様。薬草酒が完成しました」
調理場から出てきたウラーは酒瓶を叔父上に手渡す。
「おっ、早いな、よくやった」
「いえ……」
「よし、フレイヤ、飲め」
叔父上に言われた通り、盃の中身を一気に飲み下す。
爽やかな甘苦い液体が喉を降りていき、口の中には薬草の独特な香りが残った。
「ハルオミ君にも飲ませてやれ」
ハルオミの肩を抱き起こし、手渡された盃を口元寺傾ける。少し流し込むと、嫌そうにほんの少しだけ首を逃す。彼の口端には行き場を失った薬草酒がツゥーと伝う。独特な風味に拒否を示したのだろうか。
反射的な拒否反応。彼が私に生きていることを教えてくれているように見えた。
感に堪えるも、しかしこれを飲まさなければという使命感に無意識に体が動いていた。
盃の中身を口に含み彼の口の中に直接、少しずつ流し込む。先ほどのように顔を背けようと反応する頭をそっと包み込み逃がさない。
すまないハルオミ。苦いね、くるしいね。もう少し我慢しておくれ。
私の思いが伝わったのか、彼はおとなしく身を預ける。私はいつしか薬草の風味など感じなくなっており、彼の香りにうっとり目を閉じた。
「ワォ、兄さん大胆」
「まあそうなるわな」
ビェラや叔父上が好き好きに感想を述べているのが耳に入る。そこで自分の行動をやっと自覚し、すんでのところでハルオミの唇を貪り食おうとする自分に理性が働いた。
ハルオミの喉が上下したのを確認し、顔を離した。
「……………これで少し楽になればいいが」
「いやお前、今一瞬めっちゃハルオミ君の唇貪ろうとしたろ。見逃さねえからなそういうの俺」
クールベ叔父上は魔物に対して少々アブノーマルな癖へきを持つ変わり者だが、こういう人の機微に鋭いところは見習わなければならないと思う。
人を見習わねば思うのも始めてだ。
こういう時は、どうすればいいのだろう。そうだ。教えを乞えばいいのだ。
「本能が理性に負けてしまうなどあってはならないことだ。しかし叔父上、私は今、息をするのも苦しい。はからずも判断力が鈍ってしまったようです。こういう時は、どうすれば…」
「あーもうはいはいはい、わかったからお前は何も喋るな。そんで『理性が本能に』な。もういいから今はハルオミ君だけに集中しろ」
「なるほど、かしこまりました」
何が面白いのか、皆がくすくす楽しそうに笑っている。
屋敷の者が笑顔なのはいいことだ。
ハルオミ、君も早く笑顔を見せておくれ。
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