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東の祓魔師と側仕えの少年
64.和気藹々
しおりを挟む約束通り起こしてくれたフレイヤさんに連れられて食堂へ向かう。あまり部屋から出ていなかったので、なんだか新鮮な気分だ。
ちなみにデザートはある程度仕上げをしてウラーさんや給仕さんにことづけた。
食堂に入ると、先に来ていたビェラ様とイザベラが話しかけてくれた。
「おぉハルオミ! 顔色良くなったな!」
「本当に良かったハルオミ君。イザベラも良かったね。1分に一度はハルオミ君の名前を口に出していたものね」
「また余計なことを……っ!」
イザベラの睨みつけをものともしないビェラ様はニコニコ爽やかな笑顔を絶やさない。さすがだ。
「はい。本当に皆様のおかげです。イザベラも、たくさんお見舞いありがとうね」
「ハルオミが元気になってくれないと暇で仕方ないからな」
つん、とそっぽをむいて言うけど、かけてくれる言葉はとても温かいイザベラ。
「おっ、お前ら早いな」
続いて入ってきたニエルド様……の腕の中にはパネースさん。なぜか抱え上げられている。
「ちょっとっ、いい加減下ろしてくださいニエルドさん」
恥ずかしそうにしながらプンプンと苦言を呈すパネースさん。例えばフレイヤさんがああいうふうに僕を抱えるのって、僕の調子がすぐれない時だから……
「パネースさん、どこか悪いの?」
体でも崩したのだろうかと心配の声をかけると、
「いえいえ全くとっても元気ですよ! そんなことよりハルオミ君、体調が良さそうで安心しました! 本当に良かった」
と元気そうな声が返ってきた。
「おかげさまで。本当にありがとうパネースさん……それにしても、なぜ抱えられているの?」
「これはっニエルドさんがいきなり」
「おい暴れるな。さっき割れた花瓶で指を切っちまっただろ。安静にしてろ」
「花瓶で指を切ったくらいで抱き上げられてはたまったものじゃありません!それにほら、こんな数ミリですしもう血も止まっています」
パネースさんの人さし指の先に、チョン、と小さな小さな切り傷がある。確かに血も止まってるし目を凝らさないとわからないくらいの小ささだ。
……この過保護さ、フレイヤさんと良い勝負だな。
「いいだろ、それにちょっとくらい目立っとこうぜ。今日はめでたい事づくしなんだからよ」
「めでたい事?」
ニエルドさんの発言に頭を捻っていると、イザベラが横から「知らねえのか?」と教えてくれた。
「今日の食事会のメインはハルオミの快気祝い、それからニエルド様の当主就任祝いだ」
イザベラの言葉に、開いた口が塞がらない。
当主、就任…!?
聞いてない!
ていうか、それ僕の快気祝いメインにしてる場合じゃないでしょう!
「……………おいフレイヤ、お前ハルオミ殿に重要な事なんも伝えねーじゃねえか。まったく呆れる」
「本当だよフレイヤ兄さん。ハルオミ君開いた口が塞がってないよ、かわいそうに」
兄と弟から同時に責められるフレイヤさん。
イザベラとパネースさんもヤレヤレといった表情だ。
そんな彼らに対してフレイヤさんはこう言い返した。
「当主就任なんてそんなに盛大に祝うものじゃないって言ったのはニエルド兄さんだろう。どうしても祝うと言うならハルオミの快気祝いのついででいい、と」
「確かに言ったが。それとこれとは話が違うだろう。ハルオミ殿に最低限の連絡事はしてやれよ」
いやほんとだよ。何も知らないの僕だけじゃないか。
でももうこの際フレイヤさんが報告不足なのはどうでもいい。
「ニエルド様、この度はおめでとうございます! これからも、よろしくお願いいたします」
頭を下げてお祝いの言葉を述べると、
「おう! こちらこそ、当主としてこの愚弟をよろしく頼むぞ、ハルオミ殿」
「お任せください」
「ハハハッ、頼もしい限りだ!」
豪快に笑うニエルド様だが、当主就任という一大イベントを差し置いて自分の快気祝いをしてもらうなんて納得できるはずもなく、あまりにも恐れ多すぎて膝から崩れ落ちそうになっていた。
その光景を見たフレイヤさんが僕の肩を支え「ハルオミ、やはり体調が万全では無いんだね、足元がふらついている」
と的外れなことを言うので、
「ちがうよ! 当主就任祝いを僕の快気祝いのついでになんて、なんかもうあたまがこんがらがっちゃって恐れ多くて足元がおぼつかないんだよ!」
「そうだったのかい、可哀想に。ほら、こっちへおいで」
僕を抱え上げようとする彼を手で制止する。
「いいよ大丈夫だよ、だいぶびっくりしたけど体調がすぐれない訳じゃないから!」
というか「可哀そうに」って…、誰のせいだと思ってんだ! ニエルド様が当主になるって分かってたらもっとこう色々お祝いの言葉とか心の準備とかできたのに!
僕を抱き上げようとするフレイヤさんと、フレイヤさんを払いのけようともがく僕。
パネースさんもニエルド様に対して全力で抵抗しており、イザベラとビェラ様は面白そうにこの光景を眺めている。
「皆揃っているか。……なにやら賑やかだな」
わちゃわちゃしていたらいつの間にかギュスター様とムーサ様が入り口に立っていた。
いちはやく声を上げたのは、ニエルド様に抱きかかえられていたパネースさん。
「ギュスター様! も、申し訳ございませんこのような体勢でっ、ちょっとニエルドさん、いい加減に降ろしてくれないと絶交しますよ!」
「ぜっ…! おいおい、つれないじゃないかパネース、いつもは四六時中くっつい…モゴッ」
「み、醜いものを見せてしまい、失礼しました。ほらニエルドさん、皆さん席に着かれますから。時と場所とわきまえてください!」
ニエルド様の口をふさいで言葉をさえぎったパネースさん。ニエルド様は「仕方ねえなあ」と残念そうに腕の中のパネースさんをおろし、皆わらわらと席に着く。
フレイヤさんの抱き上げ攻撃を無事阻止した僕も席まで歩きながら、ふーん、普段のパネースさん、四六時中ニエルド様とくっついてるんだー、と思っていた。
友達の惚気話ってこんなにうきうきするんだね。
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