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続編その①〜初めての発情期編〜
20.僕のもの
しおりを挟むムニルさんのお店を出ると、外に行列が出来ていた。
「すごい!見て見てフレイヤさん、こんなにお客さんが並んでる!」
「ムニルの作ったハルオミの世界の料理、絶品だったからね。話題になっているのかもしれないね」
「ムニルさん忙しそうだったけど、楽しそうだったなぁ……」
「きっとハルオミのおかげだ。店を開きたがっていたムニルに君が声をかけたんだったね。君が居なければムニルも踏ん切りがつかなっただろし、君はムニルが居たからこうして料理を広められる。二人で努力したからこそ、こんなに客を笑顔にする店を作れたんだ。本当に凄いよ」
フレイヤさんは感慨深げに店を眺めながらそう言った。最初は人の役に立ちたいと言うよりも、ただ自分のやりたいことを仕事にできないかと思いムニルさんに話を持ちかけた。
でもメニューを考えたり失敗や成功を繰り返すうち、まだ見ぬお客さんの顔を想像しながら、美味しいって思ってくれたら嬉しいなとか、僕の世界の料理を好きになってくれたら良いなとか、お客さんの一日にちょっと幸せが与えられたらな、とか、そういうことを思い浮かべて準備した。
お店の中のお客さんも、並んでるお客さんも、心を弾ませているのが分かる。みんな笑顔で、楽しそうに笑っている。
「フレイヤさん」
「何だい?」
「好きなことをさせてくれて、ありがとね」
彼に笑いかけると、ふわっと体が浮いた。
「っちょっと、もう! 一人で歩けるって言ったでしょ……恥ずかしいからおろしてよー!」
「ははっ、デートの時くらい良いじゃないか。君が嬉しそうだから、私も気分が高まってしまった」
彼は何食わぬ顔で歩き出す。
「気分が高まったからって、抱っこするのやめてよー」
「正直最初は、ハルオミの世界の美味しい料理が広まり独り占めできなくなることは複雑だったが、仕事をしている時の君はとても幸せそうだ。それに、寝ぼけ眼をこすりながら前掛けをかけて作ってくれた君の朝食を食べられるのは、今までもこれからも、私だけの特権だからね」
「おろしてくれないとその特権も無くしちゃうよ!」
「! それは困る。君の作ったフレンチトーストも、甘くて四角い卵料理や煮物や漬物や味噌汁も私の大好物なんだ。あんなにうまいものは君にしか作れないよ。ハルオミ、機嫌を直しておくれ」
料理を褒められてちょっと嬉しくなってしまい、あわや許してしまいそうになった。
「っ、そ、そんなに褒めてもダメだよ。ほら……周りの人に見られてるじゃん。自分で歩けるから、ね?」
こそっと彼の耳元で懇願すると、周りを少し見渡してこう言った。
「………残念だが、そのお願いは聞けないな。ほら、あの藍色のシャツを来た男やあの長髪の男なんかは君を熱い視線で見つめている。そういえば店でも君のことを頬を赤らめて見ている者が多く居たな。ハルオミが私のものだと分からせなければならない」
なんか……フレイヤさんいつもより笑顔が黒い。
っていうか! 顔を赤らめて見られていたのはフレイヤさんじゃないか。そりゃ、魔祓い師っていう偉大な立場の人だから仕方ないけどさ、フレイヤさん男前で背も高くて体もおっきくて……カッコイイの自覚してないんだ。そういえば昔はフレイヤさんの側仕えになりたいって言い寄って来た人も多かったってウラーさん言ってた。……複雑だ。
なんか……なんか、フレイヤさんこそ僕のものだって分からせなきゃいけないって気がして来た。
——ギュっ……
「おや、ハルオミ、抱きついて来てどうしたんだい? 下ろして欲しいんじゃ無かったのかい?」
僕は無意識にフレイヤさんの首に手を回してしまっていた。
「だって……フレイヤさんはそう言うけど、フレイヤさんだって僕のものなんだからね? 分かってる? 色んな人からうっとりした目で見られてるの、気づいてないの?」
「私がかい? それは無いよ、私のような無骨な者に……」
「無骨! よく言うよ! そんなキラキラの髪の毛とキラキラの瞳と、ムキムキなのに着痩せするからしゅっとして見える体! ただでさえかっこいいのに、そんな風に笑顔向けたらみんなフレイヤさんのこと素敵だと思っちゃうじゃん……この無自覚魔祓い師!」
「無自覚……なんだろう、そっくりそのまま君に言い返してしまいたい気分だ。それに、私がハルオミ以外に笑顔を向ける訳無いだろう」
「そっ……それもどうかと思うけど……とにかく! フレイヤさんは僕だけのだよ? 分かった?」
「ふふっ……もちろんだ。私はハルオミしか愛おしいと思わないし、ハルオミだけを愛している」
フレイヤさんは甘い声でそう言いながら、なんと僕に公衆の面前で口付けをしようとして来た。
「ちょ……それはダメ!」
「おや、どうしてだい? 君が私のものだと見せつけようと思ったのに」
「恥ずかしいからダメ! それは……帰ってから、さ……お部屋でね」
「!! そうだな、では早速部屋に戻ろう」
「ダメダメ! 今日はデートなのに! 早く市場に行こうよ」
「おっとそうだった。ハルオミがあまりにも愛おしくて、昨日の今日でまた部屋に閉じ込めて骨の髄まで可愛がってしまうところだったよ」
「っ!? 昨日の今日でとか言わなくて良いの。周りの人に聞こえてたらどうするの…!」
「聞かせてやれば良い」
「……もう!」
僕たちは言い合いながらも、無事市場に到着し、そして無事フレイヤさんの腕から降りることができた。
後日『大通りで魔祓い師のフレイヤ・ヴィーホットと側仕えのハルオミが痴話喧嘩をしていた』というニュースが大々的に流れることを知らずに、丸一日デートを楽しんだのである。
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