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異世界転移
3 雑な作戦、決行
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走りつづけているとだんだんと息が苦しくなってくる。いくらまだ余裕があるとはいえ、このままの状態が長くつづけばそのうちに追い付かれてしまうだろう。そのあとは想像もしたくない……。
嫌な想像を現実のものとしないためにも即席のシンプルかつ、雑といわれても仕方ないような作戦を成功させる他ない。緊張から音楽プレイヤーをキツく握ってしまう。
スピーカーから大音量でながれるのは永華にとって特別な曲だった、聞き入る暇もなくスピーカーの音量を保ったまま鞄にしまう。
ついで醤油のせんが開けられ熊の目に中身がかかるように狙いボトルが振りかざす。醤油は見事なコントロールにより目と鼻にかかる。
「しっ!かかった!」
熊は目にかかった醤油により少しの間動きを止めていたがすぐさま顔を上げ、使えない目と鼻の代わりにしようと必死に首を動かし音を拾う。音を拾えたのか永華とカルタのいる方へ、いや永華のへと走ってくる。
「距離空いた。このまま木に登って退避しよう」
「うん」
永華は鞄を少し奥にある巨木の近くに投げ、近場の木に駆け寄る。カルタはすいすいと登っていくが永華はさすがに高校生になった今、木登りなんてするなんて思ったいなかったから方法やこつなんて知らないらしく、登ろうにも少し進んだあと嫌でもずり落ちてしまう。そんな永華にカルタは余り変化のない、彼の珍しい呆れた表情を向けてため息をはいた。
「はぁ……」
「……JKに、木登りなんてさせるなっ」
「うるさい、引っ張り上げてやるから静かにしろ。作戦を失敗させるきか」
「ぐぐ、ごめん」
そもそもなんでそんなにするすると登れてん?なんて言葉を飲み込み、永華は引っ張り上げてもらおうと手を伸ばすとカルタは永華の脇に手を差し込む。脇に差し込まれた手は細い見た目からは予想できないような力で引っ張り上げ、永華は思わず縮こまる。
「落ちるなよ」
永華を落とさにないように木と自分の間にそっと下ろし、腕で落ちないように囲う。
「さて、うまくいくか」
篠野部が聞き取れるかどうかの音量で呟く、それをおおい隠すかのように大きな熊の鳴き声をおげ、鳴き声は森に響き渡る。
正しく猪突猛進、走る猪のごとく草むらも花もなぎ倒し、体を枝に引っ掻けて傷から血を流そうとも一切気にする素振りはない。
見えない、嗅げない、音を頼りに獲物を狩ろうとする熊は二人の横を素通りして少し先にある巨木に気づくことなく、スピードを落とすこともなく、そのまま突っ込んだ。
熊の巨体がぶつる。とたんに周囲にいた動物は悲鳴のような鳴き声を上げ我先にと逃げだす。
木の上で様子を見ていると熊の体はゆっくりと動き出す、ぐらりと揺れたかと思えばすぐに仰向けにして地面に倒れた。自分よりはるかにデカイ巨木にそれなりのスピードでぶつかったことにより気を失ったようだ。
「……動かないな」
体感では五分ほど、木の上で様子をうかがっていた篠野部がポロっと一言こぼした。
「そろそろ降りるか。音楽止めてくれ、起きるかもしれない」
「……」
頷き握りしめていた音楽プレイヤーを操作する。
「……なんで借りてきた猫みたいになってるんだ?」
永華はカルタに抱えられた辺りから借りきてた猫のように大人しくなった、というか微動だにしなくなっていた。
「び、ビックリしただけだよ」
「そうか?まあいい、降りて荷物を回収するぞ」
「うん」
見た目が細いからそこまで力がないと思っていた。自分をあっさりと持ち上げたことに驚いたのは事実だ。
ただ固まっていたのは慣れない人と物理的に急接近したからだ。抱きついてくる女友達はいるし、なんならそいつは腕を組んで引っ付いてくるレベル距離が近い、膝の上にも乗ってくる。だから距離が近いのには慣れている。
けどあれは驚いた、というか緊張した。ほんとに。
木からスルスルと降りていく篠野部を見てため息をはいた。
「緊急事態とはいえ綺麗な顔面が近くにあったら緊張するっての……」
誰だって高級品の壺が近くにあれば緊張するだろう?あまつさえ、それが自分の手の届くところに、真横にあれば緊張しない方が難しい。
誰にいうわけでもない良いわけを心のなかで並べ立てる。
「おい、降りれるか?」
「ん~っと、いけるかも?」
「ならとっとと降りてこい」
それだけいってさっさと荷物のある方に歩いていった。
「お~」
木登りは慣れない、無論降りることもだ。
降りようとした。ただ、降りる途中でずるっと足が滑った。
「お?……おあっ!?」
「戌井!?」
手が木から離れて背中から落っこちていく。内蔵がヒュッと宙に浮く感じがして、冷や汗が背中をつたう。
「ふんっ!」
木から落ちた永華はギリギリのところで、猫のように体を捻って三点着地を綺麗に決めた。
「し、死ぬかとおもった」
「はぁ……。君、犬じゃなくて猫だろ」
慌てて駆け寄ってきたカルタは元気そうなだとがわかると着地した姿勢のまま永華に呆れの眼差しを向けた。
「たく、驚いた」
「いやあ、仕方ないとはいえ慣れないことはするもんじゃないな」
「はぁ……なんでヘラヘラしてられるんだか」
「さてと、スピーカー諸々は無事かな」
「気を付けろよ。いつ起きるかわからんからな」
「わかってるよ」
なるべく音を立てないように近づいていく。今もまだ目を回している熊を視界にいれつつ、ささっと鞄を回収し中身を確認する。
「うん、中身は無事だね」
「それは良かった。さあ、とっとと離れよう」
「そうだね。でもさ、この熊、だいぶ変わってない?」
「ああ、毛の色がシマウマのそれだな」
染められたか、一瞬そう思ったが熊の毛の染色なんて聞いたこともないし、野生っぽいし、この熊の自前だろうと結論づけた。
「でもシマウマっていうよりは、囚人服みたいじゃない?靴下猫みたいに手とか足とか顔とか縞々じゃないし」
「あ~、確かにそっちっぽい。ってなに談笑してるんだ。早く移動するぞ」
「は~い」
一難去って安心した二人が熊の側から離れようと歩きだした。その直後、気絶した熊のいる背後からガサガサと音がした。
思わず振り返るも熊は今も地に伏していた。近くにいた動物か、なにかだろうか?でも危険を察知し逃げた野生動物がそんなに早く、この場所に戻ってくるのだろうか。
熊を視界にいれ、ジリジリと後退していく。
「武器になりそうなものはあるか?」
鞄の中を隙間から確認する。武器になりそうなもの、何が使えそうか考えると折り畳み傘が目にはいった。
「折り畳み傘くらい。そっちは?」
「あいにく、コンビニにはいったところで気絶したんだ。持ち物は財布だけだな」
「一回帰ったのね」
「ああ」
はりつめた空気の中、鞄から折り畳み傘を取り出して柄の部分を伸ばしておく。安物のこれが多少でも役に立てば良いのだけれど。
少し間を置いてまたガサガサと音がした。音の発信源は巨木で、なにかがコロンと落ちてきた。
「うわぁ!!」
何かとおもったら最初に熊に追いかけられていた人が落ちてきたようだ。落ちてきた人は背中をしたたかに打ったのか、涙目で自分の背中をさすっていた。
顔を上げて永華とカルタをみて、次に気絶した熊を見る。慌てたようすで熊から距離を置いて、木に背中をつけて自分から逃げ道を少なくしているあたり混乱しているらしい。
「とりあえず、危なくはなさそう?」
「待て待て、どんな奴でも危ない奴は危ないからな。例え見た目が幼くてもな。警戒心を捨てるなよ」
「あ、うん」
そう言われたものの、どうにも怯えかたに親近感を覚えてしまったのか。警戒心よりも心配が勝つし、怯えように警戒する気が削がれてしまう。
「ああ……怪我、大丈夫?」
とりあえず、声かけよう。
嫌な想像を現実のものとしないためにも即席のシンプルかつ、雑といわれても仕方ないような作戦を成功させる他ない。緊張から音楽プレイヤーをキツく握ってしまう。
スピーカーから大音量でながれるのは永華にとって特別な曲だった、聞き入る暇もなくスピーカーの音量を保ったまま鞄にしまう。
ついで醤油のせんが開けられ熊の目に中身がかかるように狙いボトルが振りかざす。醤油は見事なコントロールにより目と鼻にかかる。
「しっ!かかった!」
熊は目にかかった醤油により少しの間動きを止めていたがすぐさま顔を上げ、使えない目と鼻の代わりにしようと必死に首を動かし音を拾う。音を拾えたのか永華とカルタのいる方へ、いや永華のへと走ってくる。
「距離空いた。このまま木に登って退避しよう」
「うん」
永華は鞄を少し奥にある巨木の近くに投げ、近場の木に駆け寄る。カルタはすいすいと登っていくが永華はさすがに高校生になった今、木登りなんてするなんて思ったいなかったから方法やこつなんて知らないらしく、登ろうにも少し進んだあと嫌でもずり落ちてしまう。そんな永華にカルタは余り変化のない、彼の珍しい呆れた表情を向けてため息をはいた。
「はぁ……」
「……JKに、木登りなんてさせるなっ」
「うるさい、引っ張り上げてやるから静かにしろ。作戦を失敗させるきか」
「ぐぐ、ごめん」
そもそもなんでそんなにするすると登れてん?なんて言葉を飲み込み、永華は引っ張り上げてもらおうと手を伸ばすとカルタは永華の脇に手を差し込む。脇に差し込まれた手は細い見た目からは予想できないような力で引っ張り上げ、永華は思わず縮こまる。
「落ちるなよ」
永華を落とさにないように木と自分の間にそっと下ろし、腕で落ちないように囲う。
「さて、うまくいくか」
篠野部が聞き取れるかどうかの音量で呟く、それをおおい隠すかのように大きな熊の鳴き声をおげ、鳴き声は森に響き渡る。
正しく猪突猛進、走る猪のごとく草むらも花もなぎ倒し、体を枝に引っ掻けて傷から血を流そうとも一切気にする素振りはない。
見えない、嗅げない、音を頼りに獲物を狩ろうとする熊は二人の横を素通りして少し先にある巨木に気づくことなく、スピードを落とすこともなく、そのまま突っ込んだ。
熊の巨体がぶつる。とたんに周囲にいた動物は悲鳴のような鳴き声を上げ我先にと逃げだす。
木の上で様子を見ていると熊の体はゆっくりと動き出す、ぐらりと揺れたかと思えばすぐに仰向けにして地面に倒れた。自分よりはるかにデカイ巨木にそれなりのスピードでぶつかったことにより気を失ったようだ。
「……動かないな」
体感では五分ほど、木の上で様子をうかがっていた篠野部がポロっと一言こぼした。
「そろそろ降りるか。音楽止めてくれ、起きるかもしれない」
「……」
頷き握りしめていた音楽プレイヤーを操作する。
「……なんで借りてきた猫みたいになってるんだ?」
永華はカルタに抱えられた辺りから借りきてた猫のように大人しくなった、というか微動だにしなくなっていた。
「び、ビックリしただけだよ」
「そうか?まあいい、降りて荷物を回収するぞ」
「うん」
見た目が細いからそこまで力がないと思っていた。自分をあっさりと持ち上げたことに驚いたのは事実だ。
ただ固まっていたのは慣れない人と物理的に急接近したからだ。抱きついてくる女友達はいるし、なんならそいつは腕を組んで引っ付いてくるレベル距離が近い、膝の上にも乗ってくる。だから距離が近いのには慣れている。
けどあれは驚いた、というか緊張した。ほんとに。
木からスルスルと降りていく篠野部を見てため息をはいた。
「緊急事態とはいえ綺麗な顔面が近くにあったら緊張するっての……」
誰だって高級品の壺が近くにあれば緊張するだろう?あまつさえ、それが自分の手の届くところに、真横にあれば緊張しない方が難しい。
誰にいうわけでもない良いわけを心のなかで並べ立てる。
「おい、降りれるか?」
「ん~っと、いけるかも?」
「ならとっとと降りてこい」
それだけいってさっさと荷物のある方に歩いていった。
「お~」
木登りは慣れない、無論降りることもだ。
降りようとした。ただ、降りる途中でずるっと足が滑った。
「お?……おあっ!?」
「戌井!?」
手が木から離れて背中から落っこちていく。内蔵がヒュッと宙に浮く感じがして、冷や汗が背中をつたう。
「ふんっ!」
木から落ちた永華はギリギリのところで、猫のように体を捻って三点着地を綺麗に決めた。
「し、死ぬかとおもった」
「はぁ……。君、犬じゃなくて猫だろ」
慌てて駆け寄ってきたカルタは元気そうなだとがわかると着地した姿勢のまま永華に呆れの眼差しを向けた。
「たく、驚いた」
「いやあ、仕方ないとはいえ慣れないことはするもんじゃないな」
「はぁ……なんでヘラヘラしてられるんだか」
「さてと、スピーカー諸々は無事かな」
「気を付けろよ。いつ起きるかわからんからな」
「わかってるよ」
なるべく音を立てないように近づいていく。今もまだ目を回している熊を視界にいれつつ、ささっと鞄を回収し中身を確認する。
「うん、中身は無事だね」
「それは良かった。さあ、とっとと離れよう」
「そうだね。でもさ、この熊、だいぶ変わってない?」
「ああ、毛の色がシマウマのそれだな」
染められたか、一瞬そう思ったが熊の毛の染色なんて聞いたこともないし、野生っぽいし、この熊の自前だろうと結論づけた。
「でもシマウマっていうよりは、囚人服みたいじゃない?靴下猫みたいに手とか足とか顔とか縞々じゃないし」
「あ~、確かにそっちっぽい。ってなに談笑してるんだ。早く移動するぞ」
「は~い」
一難去って安心した二人が熊の側から離れようと歩きだした。その直後、気絶した熊のいる背後からガサガサと音がした。
思わず振り返るも熊は今も地に伏していた。近くにいた動物か、なにかだろうか?でも危険を察知し逃げた野生動物がそんなに早く、この場所に戻ってくるのだろうか。
熊を視界にいれ、ジリジリと後退していく。
「武器になりそうなものはあるか?」
鞄の中を隙間から確認する。武器になりそうなもの、何が使えそうか考えると折り畳み傘が目にはいった。
「折り畳み傘くらい。そっちは?」
「あいにく、コンビニにはいったところで気絶したんだ。持ち物は財布だけだな」
「一回帰ったのね」
「ああ」
はりつめた空気の中、鞄から折り畳み傘を取り出して柄の部分を伸ばしておく。安物のこれが多少でも役に立てば良いのだけれど。
少し間を置いてまたガサガサと音がした。音の発信源は巨木で、なにかがコロンと落ちてきた。
「うわぁ!!」
何かとおもったら最初に熊に追いかけられていた人が落ちてきたようだ。落ちてきた人は背中をしたたかに打ったのか、涙目で自分の背中をさすっていた。
顔を上げて永華とカルタをみて、次に気絶した熊を見る。慌てたようすで熊から距離を置いて、木に背中をつけて自分から逃げ道を少なくしているあたり混乱しているらしい。
「とりあえず、危なくはなさそう?」
「待て待て、どんな奴でも危ない奴は危ないからな。例え見た目が幼くてもな。警戒心を捨てるなよ」
「あ、うん」
そう言われたものの、どうにも怯えかたに親近感を覚えてしまったのか。警戒心よりも心配が勝つし、怯えように警戒する気が削がれてしまう。
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