苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

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魔法学校入学試験

44 赤色の魔方陣

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カルタ視点

ドゴォン!!!!___

 ワイバーンの怪力が民家をえぐりとる。民家の瓦礫が吹き飛び、なにかに引火したのか火がつく、六人分の悲鳴が無人の港町に響きわたった。

 まき起こった土煙から五つの影が飛び出した。

「ゲホッ!ゲホッ!くっそ!ンでばれやがった!」

「話してたからだろ!」

「やっぱりあのワイバーン怖いですぅ!!!」

「なんなのあれ!」

「飛んで逃げるのも限界があるぞ!」

咄嗟に箒にまたがって空を飛んだは良いもののワイバーンはカルタ達のいる方向へと向かってきていた。

 このままじゃいずれ追い付かれて全滅する。どうにかして足止めの手段を考えなければ。

「君たち、得意な魔法はなんだい?」

「あ?身体強化!」

「俺、雷魔法!」

「メメちゃんは傀儡魔法です」

「防御魔法よ」

 今の状況的に使えそうなのは雷魔法と防御魔法くらいだろうか?傀儡魔法も使い方によっては役に立てそうではあるが、難しいのが身体強化魔法。

「だああ!おいかけてくんなぁ!!」

 ローレスが杖を振り上げる。

「全知の神罰、降って災害、槍となって不敬者を貫け!」

 ローレスの詠唱に反応して快晴だった空が曇り出す。

 雲は渦巻き、暑さを持ち黒くなっていく。次第にゴロゴロと腹のそこに響くような音を鳴らしだし、光が駆け巡る。

「ボルトスピア!!!」

 ドォン!__

 雷の槍が雲から落ちてワイバーンを貫いた。

「ギュァァァアアアアアア!!!!!」

 ワイバーンの悲鳴が轟く。町が揺れた。

 ワイバーンはあちこち焦げて、体制を崩したまま民家の上に墜落していった。

「やったか!?」

「ワイバーンが初級の雷属性の魔法でどうにかなるわけないでしょ!今のうちに距離とるわよ!」

「待て、永華どこだ?」

「はぁ!?……あ゛!飛べないんだった!」

 となるとさっきの場所に置いてきてる?いや、瓦礫の周辺に戌井の姿は見えない。

 じゃあどこだ、どこにいる?

「……あ!いた、あそこです!」

 メイメアが海の方向に向かって自転車を走らせる永華を見つけた。

「海の方に向かってね?」

「とりあえず遠ざかろうとしてるんだろう!」

 ワイバーンがこっちに向かってきている以上、今はあのまま放置しても良いかもしれない。

 民家を下敷きにしてぺしゃんこに押し潰したワイバーンはふらふらと起き上がり、また飛び立つ。

「ほぉらあ!起きてきたわよ!」

 飛び立ったワイバーンは永華に見向きもせず、他の五人がいる方向に飛んでくる。

 ガパッと口を開いたかと思うと酸素が集まり火球が形成されていく。下級の熱気がこちらまでやってきて、だんだんと周囲の温度が上がっていく。

「いやああああ!」

「ブレス!?」

「ワイバーンってブレス吐いたっけ?」

「吐かねえはずだぞ!」

 汗が額を伝って落ちていく。

 ブレスを吐くのは正真正銘のドラゴンだけのはずだ。分類はドラゴンとは言えどもワイバーンにブレス生成するための術なんてない。生物的にあり得ない行動、いったい何が起こっている。

「これは試験、なんだよな?」

 カルタ達なんて用意に飲み込んでしまいそうな火球が眼前に迫っていた。

「逃げろお!」

 ベイノットの言葉に硬直した体が動き出す。

 旋回、上昇、降下、思い思いの方法で火球から逃れる。

「ぐっ!」

 火球を避ける拍子に体制を崩してしまい、あと少し勢いがあれば投げ出されそうになる。しかも箒の穂先に火がついてしまった。

「くっそ!」

 何とか体制は建直せたものの、いくら叩けど火が消える気配はいっこうにない。

「消えろ!消えろ!」

 穂先が燃えているせいで飛行が安定しない。思う方向に飛ばないし、だんだんと地面か近くなっていく。

 焦りのあまり水魔法を使うという発想も出ずに頭が真っ白になる。

「篠野部!!!」

 誰かに呼ばれて、なんとなしに振り返る。

 振り返ったj先には口を大きく開けて、今にも僕を飲み込もうとしているワイバーンがいた。

「うわっ!」

 ガクンッと高度がさがり、間一髪でワイバーンの口の中に入ることはなかった。

 僕の頭の真上に、ワイバーンの口がある。

「……っ!」

 冷や汗が背中をつたう。

 何とかワイバーンの噛みつきを避けつつ、どうにか不時着しようと試みる。だが箒が言うことを聞かない。

 バキン__

 箒が、折れた。

 体が空中に投げ出される。浮遊感を感じる暇もなく上から影が射した。ワイバーンがまた僕を食らおうと大口を開けていた。

「……終わった」

 箒は使えない。この高さからの自由落下は脱落は不可避だろう。まぁ、落ちる前に、ワイバーンに食べられてしまうだろうが。

 戌井の心配をしていたのに自分がこの有り様じゃあ世話がないな。

「勝手に終わってンじゃねえぞ!」

 戌井?

「にゃぁぁあああああ!!!!!」

「うぐっ!」

 いったい何が起こったんだ?ってきりワイバーンに食べられてしまったと思ったんだが……。

 今、カルタはミューに抱えられ空を飛んでいた。

 戌井はアルマックに抱えられて、ワイバーンと向かい合っていた。

 ギュルッ!__

 何かが擦れる音がしたと思ったら、赤色に淡く光る巨大な魔方陣がワイバーンの眼前に現れた。

「ぶっ飛べ!」

 魔方陣から間欠泉が如く水が吹き出して、ワイバーンを吹き飛ばし、角度と位置を変えワイバーンを地面に叩きつけた。

「全知の神罰、降って災害、降りてその者に害をなせ!!」

 ゴロゴロ!!__

 いまだとどまっていた雷雲のあちこちから光が漏れ出す。

「サンダー!!」

 思わず耳を押さえたくなるような落雷の音と、目をおおいたくなるほどの光が辺り一帯に響き渡る。落ちた落雷に地面や民家を揺らし、落雷地点の近場の窓ガラスをわった。

 びしょ濡れになったワイバーンに落ちた雷は、一瞬だけだった雷槍とは違い長い間帯電し続け、ワイバーンに帯電し続ける時間だけダメージを与える。

 雷槍の時以上の悲鳴をあげた。

「傀儡が踊り、演じる舞台。願われるアンコール、なされることなく糸切れて落ちて石となった」

 メイメアは手に持っていた人形をワイバーンに向かって放り投げる。人形は徐々に大きくなっていき、ワイバーンと同じ程度の大きさになる。

「ビック・ヘビー・ベアー」

 魔法により大きさと質量が増したテディベアがワイバーンの胴へと落ちる。

 ドォン!__

 大きくなったとはいえ布と綿の固まり、落ちたところでそれほどのダメージは入らないはずなのにワイバーンは悲鳴を上げることもなく、変わりに骨や鱗のわれる音がした。

「その熊さんは今だけ大岩も同然なのです!」

 暴れる四肢は地面や瓦礫を砕き、やがて動かなくなった。

 おそらく、絶命した。

 ようやっと状況が把握できた。

 食べられる寸前にレイにさらわれ、追いかけてこようとするワイバーンに向かって戌井が魔法を放ち足止めした。空を飛べない戌井をアルマックが補助して、レイスとファーレンテインが追撃した。

「……なるほど、助かった」

「お礼はあとよ!試験のあとでスイーツでも奢ってちょうだい!」

「わかった」

 男一人を抱えて飛ぶのは辛いのか、ミューはしかめっ面になっており早々に不時着した。

「ふう……怪我は?」

「してない」

 怪我はないが着ていたベストの背中側の裾が少し焦げてしまった。

 まぁ、試験が終われば戻るし、別に構わないんだが。

「篠野部!!!」

「っ!?お、大声を出すな!ビックリするだろう」

「だって!今さっきワイバーンに食べられそうになってたじゃん!死ぬかと思って心臓とまるかとおもったんだよ……!」

「君、な……あ……」

 試験なんだから死ぬわけがない。心配のしすぎだ。そう言葉を続けようとしたが、言葉がでなかった。

 カルタが振り返ったとき見た永華の表情は今にも泣き出しそうなものだった。

「……」

「いきなり箒が折れてたし、二回も食べられそうになるしぃ!」

「ぁ、あぁ……」

「どうせ!篠野部は心配のしすぎとか言うんだろうけど心配するに決まってるじゃん!ビビるよあんなもん!」

「ご、ごめん……」

 普段見ないような永華の泣きそうな表情にカルタは無表情ながらに、どうしたら良いかわからずにたじたじになっていた。

 今まで見せる表情と言えば笑顔などの明るい感情がほとんどで、泣きそうな表情や暗い感情はケイ達を見つけたときのたった一回見ただけ。

 それだって状態を考えれば仕方のないことで、まさか自分を心配して泣きそうになるなんて思っても見なかった。

「よっと。ん?え、痴話喧嘩中?」

「雰囲気ぶち壊しなのです」

 ワイバーンに追撃していた二人が合流した。

 二人の言葉にハッとして、睨み付ける。

「わ、わりぃ。はは……」

「変なこと言うからこうなるのです」

「痴話喧嘩でも何でもない。……説教されてた、だけだ。ビビらすなってね」

「あぁ、そういうこと……。まあ、されるわな」

「長い付き合いならなおさらね。私だって文句言いたいわよ。いくら試験とは言え見殺しにはできないし……」

「俺は永華に文句言いたいがな。いきなりワイバーンの前に行けって言われたんだぞ」

「あ、ごめんなさい」

「結果的に倒せたから、かまわねえけどよ」

 四人が同じタイミングでため息を吐く。カルタは顔をそらし、永華は気まずそうにしていた。

「それにしたって貴女、あの巨大な魔方陣、どうやって用意したの?しかもあれ転送魔法でしょう?水の出所はどこなのよ?」 

「あ、それ俺も気になってた」

「メメもです」

「俺もだ」

「え?あぁ、あれ?えっとねえ」
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