苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

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蛇令嬢

85 仕掛け

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永華視点

話はダンジョン組に戻る。

 永華達は第十三階層から第十四階層に移動していた。

 ダンジョンに潜ってからどれ程の時間がたったのだろうか。

 比較的、難易度が変わらなかった第十層まではモンスター達の襲撃も現在の階層に比べればとても少なかった故に一時間もかからなかった。

 第十階層に来てからモンスターの襲撃頻度も増えたし、それに応じて捜索時間も増えた。

 恐らくは、ダンジョンに潜ってから半日近くはたっている。

 他の、もっと難易度の高いダンジョンだともっと時間がかかっていただろうし、今は怪我人は出ていないが難易度が違えば命だって危なかっただろう。

 そもそも、ここまで時間をかけているのか。

 タイムリミットが今日だからである。

「今日が終わればダンジョンは封鎖。そんで俺たちがあいつを見つけられなかったら……捜索はされねえだろーな」

「は?事件が公になればダンジョンは一時封鎖、ですか。まぁ、証拠隠滅などしかねないので変な話ではないですが、なんで……ネレーオさんでしたっけ?捜索はされないんですか?貴族ならば建前でも捜索はするでしょう?」

 ビーグルがこぼした不安の言葉にミューが噛みついた。

「貴族なら、な。今のあいつは一冒険者、偽名も使っているから冒険者登録もそっちで登録してるだろうし、ネレーオとその偽名のやつがイコールになる証拠何てほぼねえし」

「……証拠が、無い?」

 そう、ネレーオと偽名の冒険者を紐付ける証拠がないのだ。

「あるとしたら……まぁ、カリヤとやり取りしてた手紙かぁ?いや、あれも偽名で出してたらいみねえな。表向きは商会で働いて遠征してることになってるしよ。カリヤ以外の家族はその認識で、商会の長は裏切ってるから証言してくれてるかは怪しいし」

「……マジで証拠ないの?」

「カリヤ先輩の証言だけに、なるのかしら。それも、錯乱した妹の妄言で処理されかねないけど」

「ちょっと前まで精神状態ひどくて他の生徒に絡んでました、だもんね」

「最悪、病院送りだろう」

 兄が行方知れずになって精神崩壊した妹という筋書きになりそうだ。

 今まで事件のことを抱えつつも兄を信じて気丈に振る舞っていたことを考えれば、カリヤは大分精神的にも物理的にも強かだというのに。

「それにダンジョンで冒険者が死ぬこと事態ありふれた出来事だ。誰かが死ぬ度にダンジョンを封鎖なんてできない、証拠保護のために数日封鎖が妥協点だろうね」

 ダンジョンだって立派な、この国も資源だ。それが使えなくなるなんて国にとってもギルドにとっても冒険者や商人にとっても大きな損失にしかならない。

 証拠保護という建前があって数日封鎖がやっとだろう。それ以上はあちこちから苦情が来るし、経済にも影響が出る。

「表だってネレーオ・ベイベルツとして活動していたのなら話して別だろうけどね。貴族だと知られるとトラブルが起こるかもしれないから、旅先で仕事をするため、円滑に動きまわるため、って隠してたのにこれは運が悪いとしかいえないよ」

 運が悪いという話し、大変同意だ。

 仕事先?旅先?__まぁ、この際、表現はどうでも良いか__でたまたま声をかけてきた隣国公認の冒険者達が犯罪者だとは誰も思うまいよ。

「でもネレーオがダンジョンに置き去りにされてから三週間近くたってる現状、ネレーオが本名で活動してたとしても同じ結果になってそうだがな」

 三週間近く、もっと言ってしまえば二十二日間もたっている。

 もとの世界の警察だってなんで早く知らせなかったんだってキレるレベルだ。

 カリヤ先輩の場合、監視がついてたし教師が原因で女軍人にめをつけられてるんだから教師に相談しないことを選ぶのも当然だろう。

 なんで、とカリヤ先輩を責めるのは見当違いと言っても良い。

「それがわかってるなら、なんでもっと早くダンジョンに来なかったんですか?一昨日は無理でも、昨日はいけたのでは?」

「いえ、今日が最短なんです。ダンジョンに関しては、どんな時間に申請しようが必ず一日はまたされます。今回は二日、これでも早い方なんですよ」

 お役所仕事は面倒なものだな……。

 猶予は一日、過ぎてしまえば捜索されることもなく死んだことになる。

「本当はもっとかかるはずでしたがメルリス魔法学校の名前を出して、なんとか今日にしたんです」

 ……世知辛い世の中だ。

 さて休憩を終えて、またダンジョンの中を進んでいく。

 モンスターに魔法を打って、剣で切りつける。助けたり、助けられたり、そうしてネレーオさんを調べているとミューがなにかに気がついた。

「ねえ、なんか匂いが……ここの床、汚れてない?」

 ミューが指差した床には黒いシミのような汚れがあった。汚れは転々と先に続いている。

 ……汚れのが続いている方向は嫌なざわめきが聞こえてくる

 鳥肌たってきた……。

「うっすらと鉄っぽい匂いするんだけど……」

 黒いシミに、鉄のような匂い……。

「ふむ、いったん汚れのある方向に進んでみましょう」

 ザベル先生の言葉に頷き、警戒しつつシミをたどって進んでいくとおぞましい光景が広がっていた。

「……」

 絶句、表す言葉すら見つからない。というか視界にいれたくなくて篠野部の背中に隠れた。

「戌井……」

「これは……」

「き、気持ち悪!」

「ひうっ!」

「うげぇ……」

「吸虫の群れ?」

 シミの先、そこにあった壁には結構な範囲で大量の吸虫が集まり動き犇めいている、虫嫌いでない者ですら近寄りたくない光景になっていた。

「いや、いやいやいや!可笑しいだろ!あの数!本来の吸虫は群れで行動しない。近くに死体でもあ、るん……なら……」

 ヘラクレスがあまりの状態にツッコミを入れる。

 そして、自分で話していて気がついたらしい。

 この状態、永華達の目的、ネレーオの状態。考えると吸虫があつまっている理由は自然と導き出せた。

「どんな状態かはわからないけど、吸虫があんなに集まるかも知れねえ何かがあるってわけだな?」

「でも壁ですよ?」

「ダンジョンに隠し部屋は付き物です」

「あの壁の向こうにあるんすか?」

「恐らくは」

 一筋の希望が見えてきた。

 そう思い、メンバーの士気が上がっているところ、さっきまで吸虫の大群に顔を青ざめさせカルタの背に隠れた永華がスッと出てきた。

「戌井?」

 カルタが少し様子の可笑しい永華を呼ぶもろくな反応は返ってこない。不思議に思いつつ見守っていると懐から大量の虫除けを取り出し、持っていた糸で縛り上げひとつにする。

 そして、魔法の杖を構えた。

「お、多くない?永華ちゃん、使う量多くない?勿体ないよ?ひとつで十分だからね?」

 急いで持っていた虫除けの束をローレスが取り上げる。こんな大量に使えば人体に害が出てしまうだろうと考えての行動だ。

 束の中から一本、取り出して永華に渡す。

「……我が道を照らし、暗き道に光を灯さん。トーチ」

 不服そうな顔をしたものの文句よりも虫退治を優先したのか、詠唱を唱える。杖の先にはライター程度の火が灯されていた。

 火を虫除けに近づけ、虫除け効果のある煙が出たのを確認した永華は美しいフォームで虫除けを虫の大群に投げつけた。

「たい!さん!」

 曲線を描いた虫除けは見事、目的の壁に命中。

 煙をいやがった吸虫は我先にと壁から離れていき永華達の方に来ようとしたが、それを見て慌てた永華がもう一つ虫除けを使ったことで進行方向を変えてどこかに消えていった。

「……よし」

「……まぁ、相手にするよりは良いですね」

 篠野部やミューが何か言いたげだったが、壁の調べることになった。

 木刀で壁をつついてみると音が響く。少し離れた場所をつつくと音は籠ったものに変わった。

 それに虫除けから放たれる煙は壁にできている隙間に吸い込まれていった。これは空気が流れている証拠だ。

「やっぱりあんな。隠し部屋」

「わかったはいいが入る方法がわからないな……」

 壁は他の箇所と全く代わりのないように思える作りだ。

 一先ず、あちこち探してみると床と壁に隙間があるのをローレスが発見した。

「ん、これかな?あ、でもこれパズルみたいになってるな」

「時間はかかりそう?こう言うの大体、時間かか__」

 ガコン__

 ズズズ……__

 何かが外れる音と何かが擦れていく音が響く。

 地べたに引っ付いていたローレスが慌てて離れると壁が動きだし、人一人が通れそうな通路が出現した。

「……早くない?」

「簡単でしたよ?」

「うそ……」

 ローレスをあり得ないものを見るような目で見るヘラクレスに対して、ローレスは笑顔で首をかしげる。

「パズルは得意なんで!」

「そういうことじゃないんだけどなぁ?あれ?これ俺が可笑しいの?」

「安心してくれや。この一年坊が可笑しいからよ」

「だよね!?」

 この仕掛け、本来ならば二十分ほど時間がかかる仕掛けである。

 ほぼ一瞬で、こんなあっさりと解かれてしまい、ダンジョンを作った者も涙目だ。
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