苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

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蛇令嬢

87 制圧

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下階に降りると魔獣寄せのせいか階段の近くにモンスター達が群がっていた。

 次に手を出したのはミューだ。幸いなことに今の階層もモンスターが一ヶ所に集まっていたらしく、スムーズに進んだ。

 唱えた詠唱は広範囲に鎌鼬を出現させる魔法。風の刃でモンスターは切り刻まれ、道は切り開かれた。

 探索もしなくていい、雑魚にかまけなくてもいい。

 そんな状態になった彼ら彼女ら七人はやってきたとき以上の速度でダンジョンの出口へと突き進んでいた。

 似たような妨害はあったものの降りていけば降りていくほどモンスターは弱くなるし、さほど体力も魔力も消費していないので足止めとしての効果はさほど発揮されなかった。

 永華は魔方陣の飽和攻撃、カルタは一気にたくさんの光の弾丸を撃ちだし、ローレスは雷魔法で感電させ、ミューは風まほうできりきざみ、ザベルは炎魔法で消し炭にして、ヘラクレスは剣で切り刻む。

 ついに、永華達はダンジョンの出入口に到着したのだ。

 そとに出ればついてきたいたであろう例の冒険者パーティーの誰かに襲われることは間違いないだろう。

 ならば、それに対応できる者が先頭にいたつべきだ。



 メルトポリア王国、王都アストロ。ダンジョン前。

 ある男は虎視眈々と獲物が出てくるのを待っていた。

 彼はメルトポリア王国の隣国公認の冒険者パーティーに所属する魔導師であり、人身売買に手を染めた犯罪者であった。

 彼らが犯罪行為に手を染めた理由、単純に金に目が眩んだ。それだけだった。

 国公認の冒険者パーティーなのに王を裏切ったのか?依頼をクリアすればたんまりと報酬をもらえるのに?

 違う、彼らが国公認の冒険者となる前から犯罪行為に手を染めていた。国公認の冒険者になったことは彼らからすれば収入源が増えたよう認識だった。

 足を洗おうと思わなかったのか?

 足を洗うよりも、今まで通り犯罪行為をしたほうが報酬がいい。だから続けている。それだけ。

 常習的に犯罪を行っていた彼らの感覚は壊れていた。

 そんな彼は自分達のやっていることがバレかけていることをリークされ、彼らの邪魔をするものを排除しようと動いていた。

 彼の担当はダンジョンに潜った七人。

 証拠を誰かに送っていたバカが到底生きているとは思えないが、そのバカが残した証拠を持ち帰るとも考えらえる。

 だから妨害、証拠を奪い取ってしまえばいい。

 殺すことも襲撃することも考えたがメルリス魔法学校の生徒と教師、軍で働く騎士が同時になかあれば確実に勘ぐられるから無しになった。

 ヘラクレス・アリスがいるが妹のもとに仲間が向かっている。人質にとってしまえばいい話だ。

 他にいる厄介者は教師程度、まぁそいつもヘラクレスの妹が人質となれば動きを阻害できる。

 ダンジョンの出入口が光り、人が出てきた。

 完全に姿を表したところで魔法を発動させる。透明化と獣人対策で消臭の魔法を行使して、静かに近づいていく。

「証拠だけ持ち逃げ?」

「え?」

 猫を連想させる瞳孔の不気味な女がしっかりと自分と目を合わせていった。

 唖然とする冒険者をよそに、静かに居場所を指し示す。

 女の横から何かが飛んできた。

 バシャン__

 女に自分の居場所がバレていることへの驚きで反応が遅れ、飛んでくる何かを避けることはできなかった。

「ぐっ!なんだ!?」

「そこだな」

 騎士にも居場所がバレて__

 そう認識すると同時に胴体に激痛が走り、素顔がバレ防止の仮面が叩き落とされた。ヘラクレスに切られたのだ。

 慌ててバックステップで飛び退く。

 さっきまで自分の位置には蛍光色の液体がぶちまけられているのが目にはいった。なるほど、透明になってても実態があるから色つきの水でもかけてしまえば居場所はまるわかりか。

 これは尾行していたのもバレてる。

「チッ」

 距離をとらないと__

「魔導師は近接が弱い、剣士相手なら距離をとるのが常識。なら距離をとらせなければいい……だっけ?」

 ギュルル__

 金属製の者がすれるような音がした。

 振り返れば金属製の糸に逃げ道になり得そうな裏路地への道を潰されていた。

 男が逃げ道を潰されてることに気を取られてる間に何人か制服を着たものが走っていくのが見えた。しかも、その背中には死んでいるはずの男が乗ってるではないか。

「なっ!」

 まずい。まずい、まずい、まずい、まずい、まずい!!!!

 足を刺して動けなくしたのに!モンスターの群れのなかに置いてきたのに!

 なんでお前が生きてるんだ!

「殺さないと……」

 あいつは生き証人になる!

 詠唱しようも距離が足りない、逃げようにも道がない。追いかけたとしても同じ。

「俺がいるのによそ見とは余裕だな!」

「ひっ!」

 ヘラクレスの剣が眼前に迫っていた。



 場所は変わってレーピオ達のいる宿屋。

 黒服の半数は倒れ、壁は崩れる宿屋。

 周囲の人間は怯え惑うが生徒二人は怯えもせず、狙われているデーヒルの側にたって瓦礫やこぼれた攻撃が飛んでこないように防衛魔法で守っていた。

「すげえ……」

「これ、僕達いりませんでしたねえ」

 二人の目線の先にある緑色の触手のようなものはうねり、襲撃者をとらえている。つけていた仮面は触手に砕かれている。

「んぅ~……改良したけど制御効きにくいな」

 緑色の触手のようなものはジャーニーの自己魔法で操っている魔法植物である。

 ジャーニーの自己魔法、自分の魔力で成長させた魔法植物を操れるようになるもの。シンプルである、がシンプル故に強力。

 本来強者である国公認の冒険者である襲撃犯、麻痺毒を持つ魔法植物の毒を受けたちまち動けなくなってしまった。

「な、ぜ……」

「なんで俺がいるって言いたいん?」

 動けない体で襲撃犯はジャーニーを睨み付ける。

「お前らうちの職員に手出したじゃん?それにかわいい生徒にお願いされちゃあね?あぁ、それとも一応は国公認の冒険者のお前に勝てたかが知りたいわけ?」

 睨み付けられているジャーニーは余裕綽々といった表情。

「そりゃあ、お前よか生徒のほうがヤバイもん。そんな生徒を日常的に相手にしてるんだぜ?こうもなるっての」

 ケラケラと笑うジャーニーに襲撃犯はあり得ないものを見る目をしていた。その目はレーピオやベイノットにも向けられていた。

「いや、俺達そこまでできねぇからな?」

「僕も無理ですう」

 永華が体調不良だったとは言えカリヤを倒したことを考えると、永華と一緒に訓練しているこの二人も襲撃犯相手に善戦できるんじゃ、なんてジャーニーは思ったが言わないことにした。面倒だったので。

 レーピオの視界の隅で黒服の一人が立ち上がる。

その手にはナイフを持っていた。

「ベイノット!」

「わかってらあ!」

 黒服がナイフをもってデーヒルに向かって走り出すと同時にベイノットはデーヒルの前に立って構える。

「心、技、体、揃いて武人の道開かれん。ブースト!」

 身体強化魔法をかけると思いきり床を蹴った。

「せあ!」

 振るわれたナイフはベイノットのここを浅く切り、振り抜かれたベイノットの拳は鍛えぬかれた筋肉をものともせず腹に深々と突き刺さっていた。

「かはっ……」

 黒服は数歩さがったとおもえば、力なく倒れた。

「やっぱり紛れてましたねえ。ここをリークしたのもこの人かなあ?」

「ふん、そうなんじゃねえの?」

 ベイノットは黒服が沈んだのを確認して、さっきの位置に戻る。

「ほっぺ切られちゃいましたねえ」

「反射神経もろもろ上げてあれだから素じゃ反応できなかったな」

「次はダメですよお?怪我しないのが一番なんですからあ」

「わかってるっての」

 レーピオはベイノットの頬の傷を魔法で直す。

 襲撃犯と協力者の制圧が完了した。
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