苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

文字の大きさ
104 / 234
恐るべき執着心

103 まさかの縁

しおりを挟む
ローレスがいなくなってから二日、ローレスの母と連絡が着かないことが判明した。

 ローレスの家は母子家庭、兄弟はおらず父親も不明。

 別段、おかしいことでもない。

 死別したのか、家を追い出されたのか。それとも逃げてきたのか、あとは……。

 この世界にはよくあることだから、誰も深く探ろうとはしなかった。

 アーネチカがいなくなったのはローレスのいなくなる七日前。

 レイス親子と仲良くしていた老人がアーネチカがいないことに気がつき、魔導警察や軍に知らせて行方不明になっていることが発覚したのだそうだ。

 家は抵抗したのか、荒れていたものの金品が持ち出された形跡はなく、金品目的ではなくアーネチカ自身かレイス親子が目的だというのが魔導警察や軍の見解だ。

 ローレス宛にアーネチカが行方不明になったむねを書いた手紙を速達で学校宛のものと一緒に送ったのだが、郵便屋の手違いで学校宛の手紙が遅れた。

 ローレスが飛び出ていった理由は、母が行方不明になったことが原因だろう。

 飛び出したあとの足取りはわからない。けれど箒が一本なくなっていることを考えると飛行魔法で飛んでいったんだろうと予測はできた。

 ローレスとお母さんのアーネチカはとても仲がいい。それは、ここ数ヵ月の付き合いである永華達でも知っていることだ。

 時々ある皆で料理を作って食べる会__とでも言おうか。その会で、たまたま永華は隣り合って作業することがあった。

 ふとローレスの手元を見てみるとサクサクと野菜を切っていっている。大きさも形も揃っていて、慣れが見えている。

「ローレスってさ、結構なれてるよね」

「ん?まあね、本格的に料理することってあんまり無いけど、手伝いはよくしてたからな」

「そうなんだ。ありがたいわ~。メメとレーピオがあれだから……。教えたらできるんだろうけどね」

「はは、そりゃどうも。俺も昔はあんなんだったぜ?母さんに楽させたい一心で覚えたんだよ」

「お母さん思いだねえ」

「女で一つで俺のこと育ててくれたからな」

 なんて会話をしていたこともあったからだ。

 それにクリスマスになると少しお高めのハンドクリームをプレゼントに送っていたり、綺麗な刺繍がされたハンカチが届いたりといった光景も見たことがある。

 手紙にも家族を守りたかったとあるくらいだ。

 理由には十分だろう。

 家族思いで、女の子には甘いけど紳士で、優しくて、いい人。

 ローレスがいなくなった教室は、どこか静かで活気がなかった。

 それは一緒にいることが多かった永華達もそうだった。



永華視点

 ローレスがいなくなって一週間がたった。

 学校側は王都アストロにローレスがいないことが確定すると、置き手紙があるとはいえ事件性があると見なされてレイス親子の捜索は魔導警察に任せることになった。

 別におかしいことではない。そもそも、一生徒にたいして、ここまで時間を割いてくれるのは珍しいんではないだろうか。

 学校のはしに生えている木を背もたれにしながら、空を見上げ、ボーッとしながらそんなことを考えていた。

 こうなってから、調べものにも授業にも身が入らない。どこか上の空になってしまっている。

 稽古のときはリアンがガンガン、遠慮なしに攻めてくるからローレスのことを考えずにいられるけど相変わらずボコボコにされる。

「……」

 隣にいる篠野部は、ずっと本を読んでいる。

 それを見てよくやるなあ、なんて思ってる私の膝の上にも本が乗っかってたり……。

 調べものにも身が入らないので、この状態だ。

 木陰でボーッとしていると、どこか見覚えのある上級生が近寄ってきた。

「君たちが母さんの言っていた子達かな?」

 声をかけてきた上級生は紫の髪が印象的な、どこか見覚えのある男子生徒だった。

「……誰ですか?」

 どこかであったことがあったか?いや、間違いなく初対面だろう。

 “母さんの言ってた子達”と言ってることから、この人の親と知り合いなんだろうけど……誰だろう?

「俺はスノー・カティ、三年生で君たちの先輩。そして、マーキュ・カティの息子だよ」

「え、マーキュさんの?」

 バイスの町の薬師兼医者、ケイの時や怪我したとき、風邪を引いたときなんかにお世話になった人だ。

 子供がいるなんて話し聞いたこと無かったし、結構求婚とかされてたから勝手に独り身なんだと思っていたけど、こんなに大きい子供いたんだ。

 でも確かに似ている。

 特徴的な緩くパーマのかかった紫の髪、物腰柔なかな振る舞いとマーキュさんのようなふんわりとした雰囲気、マーキュさんを男にしたらこんな感じかなって見た目の人だ。

「そう、バイスの町の薬屋であり医者の、ね」

 ウィンクしてきた。茶目っ気のある人だな。

 本に夢中の篠野部を肘でつついて立ち上がる。

「永華です。マーキュさんにはよくお世話になってました」

「篠野部です」

 篠野部のやつ、相変わらず名前名乗らないな。

「よかった、あってた。間違ってたら下級生にいきなり話しかけた不審者になるからどうしようかと……」

 なんだろう。今まで関わってきた上級生が色々とぶっ飛んでる人が多かったからか、スノー先輩がだいぶん薄味に感じる……。

「母さんから手紙はもらってって、もっとはやく声をかけたかったんだけど、研究がなかなか進まなくて声かけられ無かったし……正直ちょっと前まで忘れてたって言うか……。まあ、シマシマベアーから逃げきったり、森で怪我人拾ってきたりしたって聞いてて、どんな子達なんだろうって思ってたんだけど、まさかカリヤさんと決闘するとは思ってなかったよ」

 それは張本人でもある私たちも思ってたことです。

 あの決闘から、私はなかなかに有名になっている。

 カリヤ先輩と決闘したり永華、なんて感じで声をかけられることもしばし……。

「あ、それでね。声をかけた理由なんだけど、ちょっと俺の実験に付き合ってくれないかな?」

「実験?」

「付き合う?」

 その言葉で脳裏に現れたのは前にあったマッドサイエンティスト、ケイネ・ドラスベリーだった。

 マッドサイエンティストを思い出して、もしかしたらこの人も似たようなことを思うのでは?なんて考えが頭をよぎり、思わず後ずさる。

「え、どうしたの?」

「い、いえ、ケイネ・ドラスベリーに狙われてる身なので、ちょっと……」

「え、ケイネちゃんに狙われてるの……」

 とても可愛そうなものを見る目をされてしまった。

 あのマッドサイエンティストの話しは学校中に広まっているらしい。

「僕のはそういうのじゃないよ。自己魔法関係で研究しててね?自己魔法が使える人なら誰でもいいんだけど、教職員は軒並み忙しそうだし、使える生徒につてなんて無くて……。それで母さんの手紙に書かれてた君たちのことを思い出したんだ」

 なるほど、それで声をかけたのか。

 手伝いの内容は自己魔法を使って色々試す、らしい。

 自己魔法の補助のための魔具や、自己魔法を刻み込んだ魔具などの製作をしているらしい。

 手伝ってくれたら今できる限りの私たちに会う補助の道具を作ってくれると言った。

「どうする?」

「道具なんて渡されてからしかわからないからな……」

「正直、燃えなかったり簡単に切れない糸とか欲しいから渡しはしてもいいかなって思うんだけど……」

「……まあ、今は別にしなければ行けないこともないし、片手までいいのなら」

「いいよ!全然いいよ!俺がお願いしたときに魔法使ってくれたらいいだけだから!」

 一気にテンションが上がっている。

「……あ、乗り気の割にって思われるかもしれないですけど、私今集中できませんよ?」

「ん?何かあったの?」

「……まあ、あったっていうか起きたって言うか」

 学校で噂されている行方知れずになった生徒、それが私たちの友人なのだと話したらスノー先輩は納得してくれた。

「なるほど、友達が……。それは、あー、声かけるタイミングミスったな……」

 先輩はなにも悪くないんだけどね……。

「えっと、無理しなくてもいいよ?母さんに世話になったからとか、気にしなくていいから」

「いや、大丈夫です。何かしてないと落ち着かないし」

「そう?それなら、まあ……。うん、お願いするね」

 スノー先輩の実験を手伝うことになり、上機嫌の先輩に連れられて実験塔にやってきたらマッドサイエンティストと遭遇した。

「あ!いた!」

「うげっ!マッドサイエンティスト……」

「あれが噂のマッドサイエンティスト。ずいぶん特徴的な見た目をしているな」

 マッドサイエンティストが私たちを見つけた瞬間は知りよってくる。

「モルモットが自分から来た!」

「誰がモルモットだ。聞いてた通りヤバイな」

 ドン引いた篠野部がひきつった表情で走りよってくるマッドサイエンティストを見ていた。

「コラッ!ケイネちゃん、人をモルモット扱いしたらダメだって言ってるでしょ」

「うっ!スノー……」

「先輩をつけなさい」

 あれ?さっきまで目をキラキラさせて今にでも飛びかかってきそうだったのに、スノー先輩に起こられたとたんシュンとしてしまった。

「スノー、先輩」

「はい。で、どうしたの?」

「もるも……実験対象が自分から実験されに来たと思って……」

「違うけど?」

「違うが?」

 私たちはまだ死にたくないんだ。ばらされる可能性があるのに誰がマッドサイエンティストに協力しに来るか。

「この二人は俺に実験を手伝ってくれるんだよ」

「え……」

 そんな“私のこと手伝ってくれないの?”なんて目をして見つめてくるな。

「私の実験……」

「行きませんけど?」

「なんで?」

「なんでも立ってもないでしょう。戌井に聞いてたときから思ってましたけど、先輩の実験は身の危険を感じるので手伝いません」

 篠野部が思い切りきっぱりと断った。

 そのあと、ショックを受けたような表情をしたマッドサイエンティストが駄々をコネだしたがスノー先輩に叱られて渋々帰っていった。

 ……もしかしてスノー先輩、怒るとめちゃくちゃ怖い人なんだろうか?

 日常に、暇になればスノー先輩の実験を手伝うが追加された。





 ……ローレスは、まだ見つからない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

処理中です...