苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

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異世界旅行

225 パンドラの遺産

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暴れているのか、ドシン、ドシンという音と共にダンジョンが揺れる。

 向こう側の草木が枯れだし、容赦なく私たちに襲いかかってきたはずの獰猛な魔獣達は上層のときのように全うではないモノとは反対方向に我先にと逃げ出している。

 本能が恐怖している。

 本能が得たいの知れないものを警戒しろと言っている。

 視線がそらせない。

 死の気配が迫ってくる。

「厄介なのが、追っ手としてきたな。これ、妾以外のことを殺すつもりだろう……」

 枯れた木が倒れ、折れて、地に伏す。

 濃厚な死の気配と共に現れたのは、色の違う複数の眼球が浮かび、あちこちに大小年齢様々な手や足や耳が映えている、醜く、そしておぞましい肉塊がスライムのように固まったモノだった。

 いや、モノたちといった方がいいのかもしれない。

「何、これ……」

「おぞましい……」

「嫌な予感して逃げてたけど、逃げて正解だったな……」

 ゾワゾワと全身の怪我逆立つ。

 私たちは、これに追いかけられていたのか……。

 肉塊のようなスライムは得たいが知れないが、確実にわかることは一つだけある。

 触れられること、即ち死であると。

 逃げるべきだが、濃厚な死の気配に足と地面が釘で縫い付けられてしまったかのように動かない。

「“パンドラの遺産”だ……。あの肉塊に触れられれば、等しく死ぬ。作ったモノ以外は、な」

 カムラさんの警告と同時に肉塊が波打つようにうごめきだしたかとお思えば、体の一部を鞭のように変形させて私とキノさんめがけて振り下ろされた。

 その場から全員が飛び退き、バラバラに散るがパンドラの遺産は誰一人として逃すきは全くないようで、追撃が行われる。

 そこらの木をも越え、小さな山のような肉塊の体から何本もの触手を動かして私たちを追いかけてくる。

 必死に逃げ回っていると、肉塊の影に隠れていた黒服が姿を表した。

「うげっ!」

 SDSとキノさんの口から聞いたときから薄々、また現れるのではないかと考えていたが、こんな早い再開になるとは……。

 現れた黒服たちはパンドラの遺産の攻撃から逃げ回る私たちの行動を阻害して、更には捕まえようと考えているのか逃げようとした先で袋が広げられていたりと、魂胆が見え見えだ。

 だが、そんな見え見えな魂胆も“触れれば即死”というパンドラの遺産に追いかけ回されていると話が変わってくる。

 死にそうで、必死になっている状態で他者の明らかな妨害があるなんて、時間がかかればかかるほど私たちが不利になっていく。

 箒持ってきていて、空を飛べるカルタと、賢者が使ってそうな巨大な枝を加工して作っただろう杖に乗って空を飛んでいるカムラさんは、まだ逃げられるだろう。

 いざとなればパンドラの遺産の頭上を通り越してダンジョンの外を目指してしまえば良いのだから。

 それまでに私たちを回収できるかどうかは、わからないけれども……。

 刻み込んだ魔方陣で強化した木刀を古い、黒服達を振り払い、私を狙ってきたパンドラの遺産の攻撃を叩き落とした瞬間、木刀が変色した。

 カムラさんが言っていた。

 パンドラの遺産に触れれば、等しく死ぬと。

「……は?」

 変色した木刀は萎れ、まるで枯れたキノえだのようになってしまった。

 まさか、まさか木刀が枯れるなんて現象が起こるとは思っていなかったのだ。

 等しく死ぬって、萎れることなんてないはずの加工された木すらも対象になるのか。

 これは……生き物や植物どころか、無機物にまで能力が作用していそうだ。

 パンドラの遺産が現れた土地は不毛の地になってしまうんじゃないか?それどころか、触れた建物すら腐食なりなんなりして、壊してしまいそう。

「最悪……」

 徐々に萎れていく木刀を適当に投げ捨てる。

 木刀がダメなら、生物由来の私の糸も触れたとたん使い物にならなくなってしまうだろう。

 となれば、行えるのは魔法での攻撃だけ……。

「大丈夫か!?」

 さっきの光景を見ていたのだろう、キノさんの心配の声が飛んできた。

「大丈夫!でも、剣は使いものにならなくなるかも!」

「まじか!」

 キノさんは剣にかけていたてをどかし、忌々しげにパンドラの遺産を睨み付ける。

 話を聞いていただろうカルタが箒で上空に飛び、弓をつがえて弦をひいて、矢が放たれた。

 その矢はパンドラの遺産に触れたとたん、鉄製の鏃は錆びてしまい竹で作られた胴体は枯れ、羽の部分なんか粉となってしまった。

 それどころか、パンドラの遺産は一切のダメージを受けていないように見える。

「ふざけた性能だ……。っと!」

 飛んでいるカルタ目掛けて触手が振るわれるが、ギリギリで避けれたようだ。

 一瞬でも触手が箒に触れてしまえば箒にかけている浮遊魔法は意味をなさなくなり、落下してしまうだろう。

 カルタの動きと、カルタの狙う触手の動きを見て何となくわかったことだけれど、これは箒で飛んでダンジョンの外に逃げるのは、ちょっと無理があるかもしれない。

「剣なんか使ったら一瞬で錆びて折れてしまうな……。魔法や飛び道具なんて使えないぞ」

「恐らくは魔法はもあまり意味がないぞ」

 これでキノさんの剣が使えないことが確定して、戦えないことも確定してしまった。

 かく言う私も多分ダメ、それに使おうとしたって固定砲台のそれである糸で編んだ魔方陣が破壊されてしまえば意味はないし……。

「それは時間がたてばたつほど、己の力で自壊していく。パンドラ本体じゃないから耐久力がないのだ!力を使えば使うほど壊れる早さは増すぞ!」

 逃げるのも難しいし、倒すのも難しいから、なるべく力を使わせてパンドラの遺産が自壊して攻撃できなくなるまでの持久戦ってこと?

 そうなったら残りは黒服だけになって、どうにかできるだろうけど……。

 このデカイのが自滅するまで、逃げきれるだろうか。

 そうこうしているうちにパンドラの遺産の触手が振るわれる。

 狙った先にいるのはキノさんだった。

 逃げようとしたキノさんだったが、黒服の妨害により逃げようにも逃げられない。

 パンドラの遺産の触手がキノさんに触れる直前、飛んでもない火力の火がパンドラの遺産を燃や__いや、物量で吹き飛ばした。

「妾の婿に何をする!」

 さっきまで襲いくるパンドラの遺産の触手から飛び回りながら逃げつつ、どうにかキノさんのことを回収できないかと試行錯誤していたカムラさんの怒りの籠った声がダンジョンのなかに響いた。

 夫であるキノさんの命を明確に狙ったパンドラの遺産の行動と、キノさんが死んでもおかしくないような状態に追い込んだ黒服たちの行動はカムラさんの逆鱗に触れたらしい。

 黒服をあしらいつつ、無詠唱で次から次に強力な魔法をパンドラの遺産に打ち込んでいる。

 その様子に恐ろしさを感じるも、パンドラの遺産はカムラさんの魔法を殺しきれずにわずかにではあるが押されていた。

 しかもパンドラの遺産は私たちよりも危険度からカムラさんを優先したのか、狙ってくる触手の数は少なく、逆にカムラさんの方にはたくさんの触手が命を狙っている。

「無詠唱……」

 カムラさんがだしていた火柱を見て、焼かれたあとを見たときから思っていたことだが、カムラさんはザベル先生たちよりも強いのかもしれない。

 強さは抜きにしても、魔法の扱いは先生たちよりもうまいことが確定している。

 カリヤ先輩は風魔法だけだったけど、カムラさんはいろんな魔法を無詠唱で使っている。

「でも、あんな高出力の魔法をたくさんうっていたら魔力切れになるんじゃ……」
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