1 / 14
ファレナの神託 第0話
しおりを挟む
初冬の日差しを受容しない、風も生命の活気も逃げていく廃墟の町。
簒奪、蹂躙、殺生。少なくともそこに住む人間はそうしてそこでの日々を凌ぐ。
力を持たない者は、死んだ事実を誰にも知られぬまま灯を絶やしていく。
そんな中、明らかに場違いな身なりをした少女が一人、
たいして物も入れていない手提げを持ち、ゆっくり歩んでいた──。
─数刻前、ワイル市にて。
「都から正式に許可が出たとはいえ、本当に大丈夫ですか?
防壁を超えたら安全は保障出来ません。護衛をつけるべきだと思いますよ。
新聖都レミニスから派遣されている駐屯兵を雇うことができます。
破落戸(ごろつき)程度なら朝飯前ですよ。」
「大丈夫だよ。私もちゃんと魔法使いだから。」
役場の職員と空色の髪の少女がやりとりしていた。
「知っているとは思いますが、あそこは法律の適用されていない場所です。
襲われないという保証はないし、何かあっては助けもすぐ呼べない・・・。」
「お嬢さん、セオン市にいくのかい。
あんなとこ一人でいっちゃ危ないぞ。俺が一緒にいってやろうか。
俺の炎なら破落戸どもを人生一番の暖かい冬にしてやれるぞ。だはは。」
声と口の大きい暇そうな中年の駐屯兵が腕を組み体を押し込んできながら話を割って入ってくる。
「ニブロスさんも、ありがとう。
でももう今日から私の町なんだから、私が何とかしないといけないの。
セオン市に既に人がいるのなら、ちゃんとすべての人に理解をしてもらう必要がある。
何よりも、力づくな手段は避けたいの。」
少女がそう返すと、ニブロスは声色が少し低くなる。
「あそこにいる奴らは、まともに話が通じないから社会からあぶれ、あそこに集まったんだ。
力でねじ伏せる以外に通用する手段なんかない。」
ニブロスは忠告を続ける。
「それに厄介なのは、唯でさえ一人ひとりが危険なのに奴らは束になっていやがるんだ。
万が一、だぞ。お嬢さん。もったいねえな、若いのに死んだりしたら。」
しかし少女は小さく頷き、ふと役場の窓から見えた朝日に目を細める。
「私は大丈夫。それじゃあ、行ってくるね。
ありがとう、ニブロスさん、マイロさん。」
爽やかに笑い、手を振って、少女は役場を後にした。
─セオン市。
少女の足音が静かなのは、彼女が無意識にそうしているからだった。
役場で忠告を聞き入れなかったのは強がったのではない。
真に、自身の力で町の復興をしたかったからだ。
とはいえ、少し緊張。
どの家屋も、窓が割れ屋根や壁が崩れ落ちて基礎部分が露出し、
蔦(ツタ)が侵し、少なくともまともな人が住める状況などではない。
(どの家も一回建て直さないとだめそうだ)
そう辺りを見回していると、一瞬家屋の中に人影が見えた気がした。
「誰か、いた?」
その家は扉や窓と思わしき場所には木の板がいくつか打ち付けてあり、
修繕された跡のあるものだった。
(・・・。)
氷が触れるような感覚が手足の先にまで至る。
(やらなければ、いけないことだ。)
少女は少し息を吸い、手提げを握る。
その家に歩みを進める。
一歩、二歩。やはり家の中に人がいるのが見える。
ゆっくり歩いているというのに、路面の砂利は音が立つ。
唯でさえ静かな廃れた町。彼女の耳に入る音は今はそれだけ。
その音はどこかへ向っているという事実を自身に突きつけるものだ。風の音すら恋しい。
ついに扉の前までくる。
(通い合う人だと、良いな。)
・・・
弱い握り拳を扉のほうへ向ける──。
簒奪、蹂躙、殺生。少なくともそこに住む人間はそうしてそこでの日々を凌ぐ。
力を持たない者は、死んだ事実を誰にも知られぬまま灯を絶やしていく。
そんな中、明らかに場違いな身なりをした少女が一人、
たいして物も入れていない手提げを持ち、ゆっくり歩んでいた──。
─数刻前、ワイル市にて。
「都から正式に許可が出たとはいえ、本当に大丈夫ですか?
防壁を超えたら安全は保障出来ません。護衛をつけるべきだと思いますよ。
新聖都レミニスから派遣されている駐屯兵を雇うことができます。
破落戸(ごろつき)程度なら朝飯前ですよ。」
「大丈夫だよ。私もちゃんと魔法使いだから。」
役場の職員と空色の髪の少女がやりとりしていた。
「知っているとは思いますが、あそこは法律の適用されていない場所です。
襲われないという保証はないし、何かあっては助けもすぐ呼べない・・・。」
「お嬢さん、セオン市にいくのかい。
あんなとこ一人でいっちゃ危ないぞ。俺が一緒にいってやろうか。
俺の炎なら破落戸どもを人生一番の暖かい冬にしてやれるぞ。だはは。」
声と口の大きい暇そうな中年の駐屯兵が腕を組み体を押し込んできながら話を割って入ってくる。
「ニブロスさんも、ありがとう。
でももう今日から私の町なんだから、私が何とかしないといけないの。
セオン市に既に人がいるのなら、ちゃんとすべての人に理解をしてもらう必要がある。
何よりも、力づくな手段は避けたいの。」
少女がそう返すと、ニブロスは声色が少し低くなる。
「あそこにいる奴らは、まともに話が通じないから社会からあぶれ、あそこに集まったんだ。
力でねじ伏せる以外に通用する手段なんかない。」
ニブロスは忠告を続ける。
「それに厄介なのは、唯でさえ一人ひとりが危険なのに奴らは束になっていやがるんだ。
万が一、だぞ。お嬢さん。もったいねえな、若いのに死んだりしたら。」
しかし少女は小さく頷き、ふと役場の窓から見えた朝日に目を細める。
「私は大丈夫。それじゃあ、行ってくるね。
ありがとう、ニブロスさん、マイロさん。」
爽やかに笑い、手を振って、少女は役場を後にした。
─セオン市。
少女の足音が静かなのは、彼女が無意識にそうしているからだった。
役場で忠告を聞き入れなかったのは強がったのではない。
真に、自身の力で町の復興をしたかったからだ。
とはいえ、少し緊張。
どの家屋も、窓が割れ屋根や壁が崩れ落ちて基礎部分が露出し、
蔦(ツタ)が侵し、少なくともまともな人が住める状況などではない。
(どの家も一回建て直さないとだめそうだ)
そう辺りを見回していると、一瞬家屋の中に人影が見えた気がした。
「誰か、いた?」
その家は扉や窓と思わしき場所には木の板がいくつか打ち付けてあり、
修繕された跡のあるものだった。
(・・・。)
氷が触れるような感覚が手足の先にまで至る。
(やらなければ、いけないことだ。)
少女は少し息を吸い、手提げを握る。
その家に歩みを進める。
一歩、二歩。やはり家の中に人がいるのが見える。
ゆっくり歩いているというのに、路面の砂利は音が立つ。
唯でさえ静かな廃れた町。彼女の耳に入る音は今はそれだけ。
その音はどこかへ向っているという事実を自身に突きつけるものだ。風の音すら恋しい。
ついに扉の前までくる。
(通い合う人だと、良いな。)
・・・
弱い握り拳を扉のほうへ向ける──。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる