ファレナの神託

かの

文字の大きさ
上 下
8 / 14

ファレナの神託 第4話

しおりを挟む
ソフィアが立ち上がる。

「みんな、聞いてほしい。私はみんなに提案をしに来たの。」



一人ひとりの顔をソフィアは確実に目にいれてゆく。

「あなたたちは明日から、人の道から外れた奪いを行わなくていい。
ワイル市や交易ルートから強盗の被害、
そして犯人はこの町のほうへ逃げ去っていくという報告を受けているの。
すべてを調べ切ったわけではないけれど、きっとあなたたちの中にその人はいると思う。
でも、もうそんなことはしてくていい。」

ソフィアは薄暗い教会の中で山積みになった荷物のほうへ歩み、荷物に手を伸ばした。
そして自信に満ちた表情でこう続ける。

「全員に仕事を与える。
人並の苦労はしてもらうと思うけど、そうしたほうが少なくともきっと今より幸せになれるよ。
給料はしばらく私が払う。なるべくあなたたちの普段の生活も便利になるよう対応する。」

男たちは少しどよめく。

「俺は自分で持っている。必要ない。」

ファルティスが呟く。

「うん。君はなんとなく、本当は生活が整っているんだろうなって気はしていた。
あそこ、一時的に利用しているおうちなんでしょ?
あっ、ねえ。ファルって呼んでもいい?」

ソフィアとファルティスがやりとりをしている中、
回復してきたヘリックスが上体を起こしていく。

「なんだと・・・。どこからそんな資金が出るっていうんだよ。
あんたまだ子供だろ。。」

「うん、私の財政の証明としては・・・
これは私が持っている会社のひとつのものなんだけれど、昨年の決算書。」

ソフィアの手提げから紙がひらひらと出てきてはそれぞれの手へ渡る。

「お、俺にはよくわかんねえ。」
「資産が、にっ、二千?か?」「違う、単位が万だぞ!二千の一万倍だから・・・。」
「えぇっ!?す、すげえ・・・本当かこれ?」

金の話となると少し賑やかになる。

ファルティスも決算書を見つめる。

「ねっ。一時的なら皆食べていけるでしょ?」

続けて、ソフィアの表情が真剣になる。

「でも、私と約束してほしい。
まずは、自分が全ての罪を認め、省みてほしい。
今まで悪意を以て傷つけた人たちへ直接すべて返してとまでは言わないから
もう決して踏み外すことを無くしてほしい。
整合性の取れた件については私が補償を行っていくから、
どうか勇気を出して、私に話してほしい。」

男たちの表情が曇る。

ヘリックスは低い声で尋ねる。

「あんたがしようとしていることはわかった・・・。
だがどうして信用すればいいんだ?話がおいしすぎるんだ。
憲兵の手先じゃないのか。洗いざらい話したら、刑罰を受けるんじゃないのか。」

「私からは、信じてほしいとしか今は言えない。」

静寂の中、男たちは互いの顔を見合う。
ヘリックスも揺らぐ眼でソフィアを見る。

「何を言っている。」

席を立つ音が聞こえる。

「お前達はゆっくりと滅びへ向かう中で、このソフィアに全て託すという選択肢ができた。
そう遠くないうちにレミニスの連中は来る。
古臭い弓やらこん棒なんかで抵抗できる相手ではない。
信じられるとかの次元の話をしてる場合ではないんだよ。」

ファルティスの後にソフィアが尋ねる。

「どうしてファルはここに残っているの?」

「俺は、奴らと戦える。新設された"上のやつら"までは未知が多いが。」

「新聖都レミニスの最高戦力、四剣聖だね。
・・・誰も血は流させない、自由も奪われない努力はするよ。」

「出来るかな。間違いなく一人は面倒なのが・・・。」

ソフィアに返すというよりかは独り言というのが適切な小声で何かを言いかけた。

「どうするか、とは聞かない。私は否が応でもあなたたちから信用してもらう。」

それでも男たちは言葉を返すことができずにいた。

唐突に降ってきては向かい続けて来ようとする安寧の約束がまだ彼らには砂塵で映りきらない。

穏やかな風が屋内に吹き込む。それが聞こえるほど教会は静かだった。

ファルティスは小さくため息をした。

「お前らがどうなろうと俺はどうでもいいが、
少なくともこいつはホンモノだ。お花畑なんてものではない。
救いたいという部分の気概は本気だ。」

ソフィアの頭を鷲掴みにしファルティスは言う。

「だが、人は殴れないらしい。このままではさぞ短命だろうな。」

「だって。だめでしょ人を叩いたりしたら。」

「生き残らなければその主張もできない。
人々を救いたいというなら、多少の流血は覚悟しろ。」

「・・・。」

「で、お前らはどうする?」

先ほどの荒くれたものと打ってかわってヘリックスは落ち着いた声で答えた。

「・・・わかった。」

「何がだ。」

「・・・あんたたちの言うとおりだよ。
なあ、お前ら。俺たちは多分もう詰まるところまで詰まっちまった。
来た道を、直しながら戻っていくしかねえんだよ。」

男たちはヘリックスへ不満を漏らさなかった。
彼ら自身も察していたらしい。
ヘリックスをまっすぐ見る者、うつむく者。
気力の尽きそうな者。

「どうやって。」

ファルティスの問いは冷たい。

「悪い。あんたたちが・・・頼りだ。
何でもする。」

「ほう。何故俺も一緒にされているのかは疑問だが。
聞いたか、ソフィア。こいつらなりに覚悟はできたらしいぞ。」

「ファルも一緒に、来てくれるの?」

「バカ言え。」

北西端、セオン市。荒廃した街に差した日の光は
まだ雲の光で遮られていた。
しおりを挟む

処理中です...