ママは男の娘

狐猫(キツネコ)

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#06

#06-11

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「……サキ?」

 後ろから声をかけるも反応がない。

 私は前に回り込んで、俯いたままのサキの顔を覗き込む。

 その顔はまるで生気を失っており、その瞳は汚れた沼の底のように淀んでいる。

 私はサキの肩を掴み、体を揺さぶるが反応はない。

 その体も抜け殻のように軽く、まるで魂だけがどこかへと消えてしまったかのようだった。

「サキに何をしたんですか!?」

 私はどこかで聞いているであろう源蔵に向かって叫んだ。

「別になんてことはないですよ、ちょっと仕事をしてもらっているだけです」

「仕事?」

「ええ、この世界を救う仕事ですよ」

 世界を救う仕事?

 この男は何を言っているのだろうか?

「とにかくサキを元に戻してください!」

「それはできない相談だ、なぜならそんなことは不可能ですから」

 源蔵は笑いながら答えた。

 その笑い声は明確に私を馬鹿にしているものであった。

「戻せないって、どういうことですか?」

「そのままの意味ですよ。さあ、もうお帰りください。その体は好きにして構いませんから」

 それを最後に、源蔵の声は聞こえなくなった。
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