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第6章 誰かのために戦うってこと
第94話 一人で戦うのは、まだ無理
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私の問いに、チハヤは不意にクローバーの髪留めに触れた。トクン、と鼓動が跳ねる。
「い、いきなりなに……するんだよ!」
触れられた手を跳ねのけなきゃいけないのに、体はなぜか硬直して動かない。チハヤは優しく微笑むと、指先に力を込めた。
クローバーが淡い緑色の光に包まれる。同時に温かい感情のようなものがクローバーを通して流れ込んできて、私の体を包んでいく。
「チハヤ、これは……?」
「心配ありません。じっとしていてください。今、クローバーを通して私の魔力を注入しています」
魔力を注入? それは、どういうこと──。
ああ、そうだ。思い出した。クリスさんが魔法使いになる前に、チハヤに同じようなことをされていたはずだ。あのときは、よくわからん飲み物を飲んでいたけど。
「サラ様には魔法の適性がありません。ですが、このクローバーは私が作ったもの。クローバーを介して少しの魔力ならサラ様に移すことができる。……言ってみれば、これは魔導具と同じようなものです」
「魔導具……それなら!」
「ええ。サラ様の魔法で戦うことができます」
チハヤの指が離れる。温かさと緑色の光はクローバーの宝石の部分に残った。とてもきれいな光だ。
ちょうどそのとき、バン、と大げさに音を立てて扉が開かれる。
「さあ、お待たせしましたわ、サラ! わたくしと勝負とまいりましょう!!」
勢いよく飛び出てきたマリーはビシィッと私を指差すと、こう宣言した。
「こてんぱんにやっつけて差し上げますわ!!」
さっきエルサさんやクリスさんが戦っていた舞台で、私たちは向かい合っていた。──正直、怖い。自信なんてない。いくらチハヤの魔力をもらったからと言ったって、私は戦いの素人だ。
この前は、チハヤを助けなきゃって思ってたから、無我夢中だったけど……あんときだってチハヤに心配かけたわけだし。
……あれ、そう言えば。
私は、ふと後ろにいるチハヤを見た。目が合うと、チハヤは人差し指をくちびるに当てる。<秘密>という意味だ。
チハヤは前まで私が戦うことに反対していた。いや、まあ今回はマリーが相手だから命の危険はないんだけど……それでも、もしかしたら認めてくれているのかもしれない。
私が戦うこと。守られてばかりじゃないんだってことを。
「なにをしているのでしょう。わたくしはこの戦いに負けるわけにはいかないのです。さっさと始めますわよ! サラ!」
うるさいマリーの声に振り返った私は、チハヤにもらったクローバーの髪飾りを落とさないように確認する。マリーにもチハヤにも気づかれないようにそっと笑みを浮かべて。
「……私だって負けられないんだよ! だから、絶対に勝つ!!」
歯を食いしばり、拳を握りしめた私の頭にチハヤが直接語り掛ける。
<問題ありません。サラ様。私とサラ様なら絶対に負けません>
チハヤの言葉を背に受けて、私はがむしゃらにまっすぐ突撃していった。
「そんな真正面から──ですが、手加減はしませんわ! 行きますわよ!」
マリーは剣を抜いた。刃先に火の魔法をまとわせ、赤色に変わった。
これは、マリーの得意とする戦い方。チハヤとの戦いでも見たし、モンスターの群れにもあの剣で応戦していた。
剣だけの威力だけじゃなくて、きっと火の魔法を使うことによって威力を高めているのだろう。直撃したら私なんて一発でノックアウトしてしまう。
だから、ここは。
<水魔法の盾を張ります。詠唱してください。ウォーター・プルーフ>
私は、チハヤに言われるがままに魔法の言葉を復唱する。
「ウォーター・プルーフ!」
マリーの刃が斬りかかってきたところで、床から水流が現れて赤い炎を弾いた。マリーの目が信じられない、と言うふうに見開かれている。
「……なんですって!?」
動揺したマリーに隙ができたところを右ストレート!!
「くっ……!」
当たる直前にかわされると、マリーは後ろへ逃げて距離を取った。
「あなた……チハヤの力を借りていますわね」
「そうだよ」
ご名答。っていうかそれくらいしか考えられないだろう。マリーは、チハヤがブローチに魔力を込めたところを見てはいなかったけど、魔法が使えない人間を急に使えるようにするのは、チハヤくらいしかできない。
「なるほど、おそらくはその輝いているブローチになんらかの仕掛けがあって、一時的に魔法が使える状態に」
「チハヤの力を借りてるけど、戦ってるのは私一人。問題ないでしょ?」
「そうですわね。なんら問題はありません。まあ、これしきの障害、越えてみせますわ!」
マリーは強気に笑うと、剣先を私に向けた。
……でもね、マリー。私たちの作戦はこうだ。
クローバーを通して、チハヤの指示で私が戦う。実際には私一人じゃないし、私たち以外には誰にも聞こえない声だから、ちょっとズルいかもしれないけど、まあそこはハンデでいいだろう。無茶苦茶な戦いを仕掛けてきたのは、マリーなんだし。
ちなみに、右ストレートは思いっきり殴ってやろうと思って、私が勝手にやったことだけど、ね。
「では、今度はこちらから行かせていただきますわ」
銀色の剣を下ろすと、マリーは片方の手のひらを私に向けた。小さな炎の渦がその手に現れる。
「わたくしのギルド名はコンフォーコ。音楽用語で火のように、という意味ですわ。わたくしはあくまでも、燃えたぎる炎のように攻めて攻めて攻めまくるのです!」
「い、いきなりなに……するんだよ!」
触れられた手を跳ねのけなきゃいけないのに、体はなぜか硬直して動かない。チハヤは優しく微笑むと、指先に力を込めた。
クローバーが淡い緑色の光に包まれる。同時に温かい感情のようなものがクローバーを通して流れ込んできて、私の体を包んでいく。
「チハヤ、これは……?」
「心配ありません。じっとしていてください。今、クローバーを通して私の魔力を注入しています」
魔力を注入? それは、どういうこと──。
ああ、そうだ。思い出した。クリスさんが魔法使いになる前に、チハヤに同じようなことをされていたはずだ。あのときは、よくわからん飲み物を飲んでいたけど。
「サラ様には魔法の適性がありません。ですが、このクローバーは私が作ったもの。クローバーを介して少しの魔力ならサラ様に移すことができる。……言ってみれば、これは魔導具と同じようなものです」
「魔導具……それなら!」
「ええ。サラ様の魔法で戦うことができます」
チハヤの指が離れる。温かさと緑色の光はクローバーの宝石の部分に残った。とてもきれいな光だ。
ちょうどそのとき、バン、と大げさに音を立てて扉が開かれる。
「さあ、お待たせしましたわ、サラ! わたくしと勝負とまいりましょう!!」
勢いよく飛び出てきたマリーはビシィッと私を指差すと、こう宣言した。
「こてんぱんにやっつけて差し上げますわ!!」
さっきエルサさんやクリスさんが戦っていた舞台で、私たちは向かい合っていた。──正直、怖い。自信なんてない。いくらチハヤの魔力をもらったからと言ったって、私は戦いの素人だ。
この前は、チハヤを助けなきゃって思ってたから、無我夢中だったけど……あんときだってチハヤに心配かけたわけだし。
……あれ、そう言えば。
私は、ふと後ろにいるチハヤを見た。目が合うと、チハヤは人差し指をくちびるに当てる。<秘密>という意味だ。
チハヤは前まで私が戦うことに反対していた。いや、まあ今回はマリーが相手だから命の危険はないんだけど……それでも、もしかしたら認めてくれているのかもしれない。
私が戦うこと。守られてばかりじゃないんだってことを。
「なにをしているのでしょう。わたくしはこの戦いに負けるわけにはいかないのです。さっさと始めますわよ! サラ!」
うるさいマリーの声に振り返った私は、チハヤにもらったクローバーの髪飾りを落とさないように確認する。マリーにもチハヤにも気づかれないようにそっと笑みを浮かべて。
「……私だって負けられないんだよ! だから、絶対に勝つ!!」
歯を食いしばり、拳を握りしめた私の頭にチハヤが直接語り掛ける。
<問題ありません。サラ様。私とサラ様なら絶対に負けません>
チハヤの言葉を背に受けて、私はがむしゃらにまっすぐ突撃していった。
「そんな真正面から──ですが、手加減はしませんわ! 行きますわよ!」
マリーは剣を抜いた。刃先に火の魔法をまとわせ、赤色に変わった。
これは、マリーの得意とする戦い方。チハヤとの戦いでも見たし、モンスターの群れにもあの剣で応戦していた。
剣だけの威力だけじゃなくて、きっと火の魔法を使うことによって威力を高めているのだろう。直撃したら私なんて一発でノックアウトしてしまう。
だから、ここは。
<水魔法の盾を張ります。詠唱してください。ウォーター・プルーフ>
私は、チハヤに言われるがままに魔法の言葉を復唱する。
「ウォーター・プルーフ!」
マリーの刃が斬りかかってきたところで、床から水流が現れて赤い炎を弾いた。マリーの目が信じられない、と言うふうに見開かれている。
「……なんですって!?」
動揺したマリーに隙ができたところを右ストレート!!
「くっ……!」
当たる直前にかわされると、マリーは後ろへ逃げて距離を取った。
「あなた……チハヤの力を借りていますわね」
「そうだよ」
ご名答。っていうかそれくらいしか考えられないだろう。マリーは、チハヤがブローチに魔力を込めたところを見てはいなかったけど、魔法が使えない人間を急に使えるようにするのは、チハヤくらいしかできない。
「なるほど、おそらくはその輝いているブローチになんらかの仕掛けがあって、一時的に魔法が使える状態に」
「チハヤの力を借りてるけど、戦ってるのは私一人。問題ないでしょ?」
「そうですわね。なんら問題はありません。まあ、これしきの障害、越えてみせますわ!」
マリーは強気に笑うと、剣先を私に向けた。
……でもね、マリー。私たちの作戦はこうだ。
クローバーを通して、チハヤの指示で私が戦う。実際には私一人じゃないし、私たち以外には誰にも聞こえない声だから、ちょっとズルいかもしれないけど、まあそこはハンデでいいだろう。無茶苦茶な戦いを仕掛けてきたのは、マリーなんだし。
ちなみに、右ストレートは思いっきり殴ってやろうと思って、私が勝手にやったことだけど、ね。
「では、今度はこちらから行かせていただきますわ」
銀色の剣を下ろすと、マリーは片方の手のひらを私に向けた。小さな炎の渦がその手に現れる。
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お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
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