異世界転生者と始めるギルドづくり~稼げるギルド目指します~

フクロウ

文字の大きさ
125 / 128
第8章 ギルド長の任務は大変だ

第125話 どんなにときめいても、時が止まるなんてことはない

しおりを挟む
 ヤマトさんが刀を抜くと、凄まじい竜巻が巻き起こる。チハヤは私を抱えると、上空に飛んで攻撃をかわした。……なんで私を助けるんだ?

「まずはサラから離れてもらいます。……エルサさん!」

「行っくよ~!」

 エルサさんは白い壁を伝うと、私たちの元へ突進していく。瞬時にチハヤの至近距離へ移動すると、躊躇なく剣を振るった。チハヤの髪の毛が何本か斬られるが、落ち着いた様子で地面へと加速していく。

 そこへ、ヤマトさんが待ち構えていた。

「マズい……」

 チハヤがそう呟いた直後、私は床にお尻をぶつけていた。隣には倒れたままのマリーが。

「え? マリー!? ってことはチハヤ!?」

 私が時空魔法で移動させられたんだ。チハヤの位置を確認しようと慌てて顔を上げると──そこには、ヤマトさんの大きな背中があった。

「ヤマトさん!?」

 様子がおかしい。まったく微動だにせずに、刀を振り上げたまま。

 もう一度名前を呼ぶと、ヤマトさんの体がゆっくりと前に倒れていく。そこに現れたのはチハヤの姿だった。燕尾服が切り刻まれているが、全く血は出ていない。息が多少上がっているだけ。

 チハヤの瞳が私をとらえた。

「サラ様ご無事でしたか。ヤマトさんとエルサさん、同時に二人相手は少し手間がかかりました」

「手間……だって?」

 私の目の前にエルサさんが落ちてくる。他のみんなと同じように、すでに気を失っていた。

「エルサさん……」

 目を閉じて長い髪が床に伸びている。腕を顔の下にして、まるで眠っているような姿勢。だけど、チハヤに攻撃されたんだ。……私の大事なギルド員が。

「さて、話の途中でしたね。サラ様には私を殺してもらわなければいけない理由が──」

 チハヤの言葉には耳を傾けず、私は床に爪を立てた。

「なんで!? なんでこんなことをするんだよ!! お前にとってエルサさんは仲間じゃなかったのか!?」

 チハヤは目を丸くするが、悩むことなく言葉を述べた。

「仲間です。ですから、大変心苦しい」

「黙れ! 仲間にこんなことをするわけがない! 手間なんて言葉を使うわけがない!! お前は本当に、魔王だ!!!」

 チハヤは乱れた服を直しながら、目を細めた。

「ええ、私は魔王です。だから、早くこの世界から処理しなければいけない。そのためにサラ様にお願いしているのです。私を、その剣で一思いに貫いてください。仲間を、これ以上の犠牲を生まないために」

 私はマリーの剣を握った。だけど、その手は震えている。刺せるわけがない、でも刺さないといけない。チハヤは仲間だ。でも、仲間を攻撃した。チハヤは魔王だ。でも、私の──大切な人だ。

 感情がバラバラになる。思考も心もまとまらない。なにが正しいのか、なにがしたいのかわからない。

 だから私は、子どもみたいに叫ぶことしかできなかった。

「お前は……お前はいったいなんなんだよぉおおおおお!!!!!!!!」

 チハヤはにっこりと微笑むと、ゆっくりと私に向かって歩みを進めてくる。

「混乱していますね。サラ様。……それでいいのです。そのサラ様の感情を突き動かす一つの事実を今からお話しします。それが、私の計画の始まりであり、そして計画の終わりです」

「何を言って……」

 チハヤは私に近づくと、私の頬に優しく触れた。時が止まったように思えた。止まればいいと思った。だが、残酷なことに時が止まるなんてことはない。

「サラ様には物心ついたときからご両親がいませんね」

 ドクン、ドクンと鼓動がうるさい。チハヤにも聞こえるんじゃないかと思うほどだ。

 両親はいない。顔も知らない。だから、私はずっとおじいちゃんと一緒に暮らしてきた。

 だけど、それがいったい──。

「サラ様のご両親は、私が……」

 チハヤは口を動かして、何事かを話したが、最後の言葉が何か聞き取れなかった。爆風で扉が吹っ飛んだからだ。

「お~痴話喧嘩かい? 男はぐっと我慢しないとダメだよ、チハヤくん」

「サラ! しっかりしろ! 惚れた男は殴ってでも連れ帰れ!」

 レオンさんとクリスさんの親子が合流した。その後ろにはフランチェスカさんとグレースも。

「……派手にやってるね」

 フランチェスカさんは腕を組んだまま靴音を鳴らして、部屋の中に入ってくる。

「なるほど、魔法の本領発揮かい? うちのギルド長もこんな目に合わせて」

 チハヤは真面目な顔に戻ると、私から離れる。

「4人相手はさすがに骨が折れますね。しかも一人は、私が育てた魔法使い」

 はっ! そうだ!

「みんな逃げて! 仲間も関係なく、チハヤは容赦なく攻撃してくる!!」

「容赦はします。殺さない程度にですが……」

 チハヤの一言によって場に緊張が走った。みんなそれぞれが構える中で、フランチェスカさんだけはただ一人、チハヤの前まで歩いていく。

「自分を殺させるために、仲間をも攻撃する。非情だね。だけど、どこまでが計画のうちなんだい?」

「質問の意図がわかりかねます」

「稚拙な計画だってこと。私なら一人を除いてみんなを殺る。その方が憎しみが生まれて自分を刺す動機になるだろう?」

 フランチェスカさんは冷たい笑顔を見せた。背中に氷が入れられたみたいにゾッとする。だけど、確かにそうかもしれない。

「答えられないようだね。私が君の代わりに答えてあげよう。この計画の肝は、サラにある。君は最大限、サラを苦しめないように配慮している。だから、中途半端な計画になっているんだよ」

 チハヤはうつむくと、すっと後ろに下がった。

 フランチェスカさんが理詰めでチハヤを押している。さっきまで圧倒的な感じだったのに、もしかしたらこのまま──。

 そう思ってしまった私がバカだった。

「では、本気を出します」

 一言。たった一言チハヤが言ったあと、何の前触れもなく私以外の全員が倒れてしまった。

 大きく息を吐くと、チハヤは傷一つない黒い燕尾服に身を包む。

「ふう。時空魔法は魔力の消費が激しい。あまり使いたくないのですが」

 チハヤはフランチェスカさんの前に立つと、胸倉をつかんで持ち上げた。気を失い、なにも抵抗できないでいるフランチェスカさんは、手のひらから魔導具を落とした。

「やめろチハヤ!!」

「やめません。確かに私の計画には甘さがありました。なので、ここは一人犠牲になってもらいます」

 ヤバい、あの目はマジの目だ。グレースがさらわれたときや私が危険な目にあったときに見せるマジの目! 止めないと! 何が何でも止めないといけない!!

「そうだチハヤ! レオンさんが来る前に何を言いかけてたんだ!? 途中で遮られてわからなくなった話だ!!」

「……全員がそろったので、話す必要はありません」

「気になるだろ! お前の計画の始まりはなんなんだ! 私の、私の両親がどうしたんだ!?」

 チハヤの目に動揺の色が広がる。眉間にしわが寄り、唇を噛んだ。

「チハヤ。教えてくれ。なんでこうなってるんだ。お前がなにをそこまで追いつめている! 私の執事になる前、お前はなにをしていたんだ!?」

 チハヤはフランチェスカさんの体を放した。そのまま床に激突する。

「……チハヤ?」

 おかしい。いや、この事態がそもそもおかしいけど、そうじゃなくて。チハヤの様子がおかしい。

 いつもならあんなふうに人を乱暴に扱わない。それに、今、あいつは額に手を当てて顔を隠している。まるで、泣いているみたいだった。

「サラ様……」

 チハヤの声が震えていた。初めてみせる弱々しい姿だった。

「私はもう魔王なんです。大きな罪を犯しているんです」

「罪? なんなんだその罪って」

 聞かなきゃよかったと思ったのはすぐ後だった。追及しなければよかったと、心の底から思った。

 チハヤは目の端に涙を溜めるとこう言った。

「私は、サラ様の両親をこの手にかけたんです」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった! 落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。 オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。 ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!? *カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

転生幼子は生きのびたい

えぞぎんぎつね
ファンタジー
 大貴族の次男として生まれたノエルは、生後八か月で誘拐されて、凶悪な魔物が跋扈する死の山に捨てられてしまった。  だが、ノエルには前世の記憶がある。それに優れた魔法の才能も。  神獣の猫シルヴァに拾われたノエルは、親を亡くした赤ちゃんの聖獣犬と一緒に、神獣のお乳を飲んで大きくなる。  たくましく育ったノエルはでかい赤ちゃん犬と一緒に、元気に楽しく暮らしていくのだった。  一方、ノエルの生存を信じている両親はノエルを救出するために様々な手段を講じていくのだった。 ※ネオページ、カクヨムにも掲載しています

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

処理中です...