聖戦協奏曲〜記憶喪失の僕は王女の執事をしながら音楽魔法で覚醒する〜

フクロウ

文字の大きさ
34 / 116
ギルド訪問編

第32話 ギルドの流儀

しおりを挟む
 ゾーヤが3階へのドアを開けると、急に明るい光が飛び込んできた。明るさの正体は天井に吊るされた大きなシャンデリアが発する光で、薄闇に慣れていた目にはひどく明るく映る。

「ここは貴族、王族の方々専用のフロアです。貴族と言ってもどんな方でもというわけではなく、ある程度信頼のおける方々専用ですけれども。左手には高級店舗が、右手には交流スペースが、そしてこの中央の部屋が受付兼ギルド長室になっております」

 ゾーヤが高級店舗と言うのもうなずける。外観に合うように各店を仕切る壁は全て染み一つない真っ白で、店員もドレスコードと洗練された印象を与える。ぽつぽつと来ている客人もきらびやかで上等な服を着ており、明らかに階層が上なのがうかがえた。

「ここも、窓が一つもないわね」

 ルイスが独り言のように呟くと、ゾーヤがパンッと手を叩いた。

「さすが鋭いですね! 襲撃があった場合に備えて侵入をなるべく防ぐようこのような作りになっております」

「襲撃……なんてされることあるんですか?」

 素朴な疑問だった。魔物もいない平和な街にそんな事件が起こるとも思えない。確かに選抜試験のときには治安が悪化してると言われていたが、こんな猛者達が大勢いるようなギルドを狙う人間なんているんだろうか。1階にいた、いかにも旅人という感じのギルド員の姿が思い浮かぶ。

「やだな~備えですよ備え。まあ、戦争にでもなれば別ですけどね。ギルドって見方を変えれば武具の宝庫ですから、狙われる優先順位も高いのではないかと」

 ゾーヤは眼鏡を押し上げると、中央の部屋のドアをノックした。

 「はい」、と中から冷たい響きが返ってきた。

「ゾーヤです。お客様をお連れいたしました」

「わかった。入ってもらえ。お前は受付に戻っていいぞ」

「かしこまりました。それでは、どうぞ。ーーあっ、最後にハルト様にルイス様、身分を追われるようなことがあればぜひともギルドへどうぞ。お2人なら即戦力になりますので、お待ちしております」

「悪い冗談ね。待たなくていいわよ。そんなことは起こり得ないから」

 ルイスの冷笑に、ゾーヤはにこりと微笑むとドアを押し開いた。促されるままに中へ入ると、 金髪を後ろになでつけオールバックにした女性が机の前に冷然と立っていた。

 パタン、と後ろのドアが閉じると、柑橘系の香りがふわりと漂った。

「私がギルド長のソフィア・オーグレーンだ。君達は……ハルトにルイスだな。あのニコライ執事長の使いで来たんだろ」

「あっ、そうです。ニコライ執事長から──」

「何か王宮の買い出しだろ? そろそろと思って用意はしておいた。そこの長椅子に置いてあるから持ってってくれ」

 指差した方向を見ると、長椅子にぎっしりと品物を詰め込んだサンタクロースの袋のような白い袋が3つ置かれていた。

「ちょっと待ちなさいよ!」

 ルイスは急にいきり立つとオーグレーンギルド長へと詰め寄った。

「なんだ? お金のことか? それならのちほど請求書を送るから心配しないでいい」

「違うわよ! 会ってそうそう乱暴な物言いですぐに帰れだなんて、いくらなんでも横柄なんじゃないの?」

 ギルド長は机の上に腰掛けて脚と腕を組んだ。ゾーヤと同じくらいの細い体だ。

「さすが噂通り、なかなかプライドが高いな、ルイス嬢。そんなに貴族らしさが重要か?」

 冷たいグレーの瞳がルイスを見据える。横に引いた口元はこの状況を楽しんでいるようにも見える。

「貴族らしさとかうんぬんではなく、初対面の人をぞんざいに扱うのがあなたの仕事なのかしら?」

 対するルイスも負けてはいない。負けん気の強さは一流だからな。

「悪いがこれがここの流儀なんでね。優しいニコライ、いや、あのクソジジイはここのことを教えてくれなかったのか?」

「ク……なんですって! 言うに事欠いてク……と、とても私の口からは話せない言葉を! もういいわ! ハルト! 私達でお店をまわりましょう! こんなやつが用意したものなんて何が入ってるかわかったもんじゃないわ!!」

 怒りのままに踵を返して帰ろうとするルイスを僕は手で制すると、何かを窺うように僕を見るソフィアに頭を下げた。

「ハルト! なにやって──」

「失礼しました。ソフィア・オーグレーン様。いえ、スルノアギルドの流儀に習うならばソフィアと呼んだ方がいいか?」

 ソフィアはふっと笑みをこぼすと立ち上がり、僕の前に歩み寄ると手を差し出した。

「いや、こちらこそ失礼した。ハルト殿」

 出された手を思い切り強く握る。

「むっ、痛いぞハルト」

「失礼なやつには思い切り強い握手をするのが僕の礼儀なんだ」

「そうか」

 ソフィアは離した手を軽く上下に振ると、また机の上に座った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...