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スルノア王宮防衛戦
第48話 総力戦
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ルイスたちだけが捕縛されているということは、それ以外の兵士は皆殺しにされたということ。さらに自分たちの仲間も殺されたと思っているこんな状況で、なぜ、平然と世間話のような会話ができるんだ?
「どうしたの? 震えてるよ? 稀人くん。もしかしてやっぱり怖いの?」
グラティスから嘲《あざけ》るような笑い声が起こった。それに同意するようにアルヴィスも下卑た笑みを浮かべる。
「それだけの実力があれば仲間にとも思ったが、戦場で震えるようなやつは要らないな」
「違うわ! ハルトは怒ってるのよ!」
後ろから颯爽と現れたカロリナは、怒気を含んだ声でそう言った。
「私たちとは違う。人の死を見たことがないから、戦争を知らないからこそ、ハルトは純粋に怒れるのよ。人の痛みを、命を弄《もてあ》ぶような行為に」
「これはカロリーナ様。お久しぶりです。お噂はかねがね。ですが、その言い振りだと御自身のしたことも否定することになりませんか?」
カロリナは腕を組んで、アルヴィスの顔を見上げた。その背丈といったら子どもと大人ほどの差がある。
「もちろんそうよ。かつての戦争において私は、多くの人の命を奪ってきた。それは償わなければいけない罪。だからこそ私は、この国の王女としてここを一歩も引くわけにはいかないの! この国に住む人達の未来をつくるために!」
アルヴィスの瞳から親しみの色が消えた。笑顔もなくなり、代わりに色のない冷たい灰色が静かに瞬く。
「それは投降を拒否するということと捉えてもよろしいですか?」
「ええ。我が軍は命を落としたものも含めて誰一人として賊に投降なんてすることはないわ!」
カロリナの挙げた大声に賛同の声が鳴り響いた。
「はぁ……」
頭の後ろを撫《な》でると、アルヴィスは首を横に振った。
「だから言ったでしょ? こいつらプライドだけは高いから投降なんてしないって。最初から皆殺しにしとけばよかったんだよ」
グラティスは剣を空に向けてかざした。アルヴィスも背負った大剣に手を伸ばす。
「物事には順序があるんだ。我が軍は現王家の圧政から国民を救う解放軍。闇雲に殺戮を行うわけではない」
「大義名分ってやつ? 人間ってのはやっぱりまどろっこしいね」
血に濡れたその剣が振り下ろされると同時に、空を舞う魔物が一群となって地上へと滑空してきた。その雷雲の前には逃げる道筋などどこにもなかった。
「行くわよ! ハルト! フェルセン中将!」
カロリナの号令とともに3人は分散した。カロリナは魔法でルイスたちの縄を焼き、フェルセン中将はアルヴィスへ、そして僕はグラティスの元へと駆けていった。
それぞれの持つ刃が衝突するなか、カロリナはピアノをその場に創り出し、降ってくる魔物の侵攻を止める焔の防波堤を現出した。荒ぶる火の粉に触れただけでその身が焼き尽くされていく。
「総員体勢を整えて、目の前の敵を倒すことに集中!! 」
その指示に全員が声を上げて応えると、講師や生徒達は弦楽器、管楽器、打楽器──それぞれの楽器を手に燃える網から外れた魔物へ応戦を始める。
急に頬が切られる。
「よそ見してる場合かい?」
瞬時に左横に移動したグラティスが長剣を振り上げた。大量の血潮《ちしお》が顔に降りかかる。なんとか眼前で凶刃を止めることには成功したが、衝撃に耐えきれず体が後ろへと飛ばされる。
「ふーん。その真っ黒な剣どこで手にいれたか知らないけど、僕と同じ感じがする。その剣なら僕を殺せるかもね。もちろん、当たればの話だけど」
そう言い切るとグラティスは草花の揺れる地面を踏み締め、宙に舞った。その剣さばきはまさに舞のようにしなやかに、かつ鋭く僕の動きを追い詰め、攻撃を止め、確実に傷口を増やしていく。
その痛みを意識的に思考から外して、黒剣を振るうが、連撃をさばくのが精一杯でじりじりと宮殿近くへと後退させられていく。
「どうしたの? その程度? 魔法じゃなくて剣を覚えた方がよかったねぇ。もっと楽しめるかと思ったのに!」
グラティスが身を低くして踏み込んできた。下から突き上げられたその一撃は、きつく握り締めていたはずの剣をたやすく上空へと弾き飛ばした。
悪魔のような微笑みの前に、ヴェルヴが落下し地面へと突き刺さった。刀身が消滅し、ただの木の柄だけが地面へと投げ出される。すかさずグラティスはそれを何度も踏みつけた。
「これで武器も破壊、と。もう、終わりだね」
バラバラに壊されたヴェルヴの残骸が風に吹かれ飛んでいく。
冷たい刃先が首筋を這い、喉元に突き付けられた。後ろに下がろうとしても、すでに背中は宮殿の白壁にピッタリとついていた。
「この血にはいったい何人分の血液が入り交じっているんだろうね」
猫のような瞳が収縮する。
「君らはためらいなく僕のモンスターを殺したけど、それは罪に問われないのかなぁ」
「どうしたの? 震えてるよ? 稀人くん。もしかしてやっぱり怖いの?」
グラティスから嘲《あざけ》るような笑い声が起こった。それに同意するようにアルヴィスも下卑た笑みを浮かべる。
「それだけの実力があれば仲間にとも思ったが、戦場で震えるようなやつは要らないな」
「違うわ! ハルトは怒ってるのよ!」
後ろから颯爽と現れたカロリナは、怒気を含んだ声でそう言った。
「私たちとは違う。人の死を見たことがないから、戦争を知らないからこそ、ハルトは純粋に怒れるのよ。人の痛みを、命を弄《もてあ》ぶような行為に」
「これはカロリーナ様。お久しぶりです。お噂はかねがね。ですが、その言い振りだと御自身のしたことも否定することになりませんか?」
カロリナは腕を組んで、アルヴィスの顔を見上げた。その背丈といったら子どもと大人ほどの差がある。
「もちろんそうよ。かつての戦争において私は、多くの人の命を奪ってきた。それは償わなければいけない罪。だからこそ私は、この国の王女としてここを一歩も引くわけにはいかないの! この国に住む人達の未来をつくるために!」
アルヴィスの瞳から親しみの色が消えた。笑顔もなくなり、代わりに色のない冷たい灰色が静かに瞬く。
「それは投降を拒否するということと捉えてもよろしいですか?」
「ええ。我が軍は命を落としたものも含めて誰一人として賊に投降なんてすることはないわ!」
カロリナの挙げた大声に賛同の声が鳴り響いた。
「はぁ……」
頭の後ろを撫《な》でると、アルヴィスは首を横に振った。
「だから言ったでしょ? こいつらプライドだけは高いから投降なんてしないって。最初から皆殺しにしとけばよかったんだよ」
グラティスは剣を空に向けてかざした。アルヴィスも背負った大剣に手を伸ばす。
「物事には順序があるんだ。我が軍は現王家の圧政から国民を救う解放軍。闇雲に殺戮を行うわけではない」
「大義名分ってやつ? 人間ってのはやっぱりまどろっこしいね」
血に濡れたその剣が振り下ろされると同時に、空を舞う魔物が一群となって地上へと滑空してきた。その雷雲の前には逃げる道筋などどこにもなかった。
「行くわよ! ハルト! フェルセン中将!」
カロリナの号令とともに3人は分散した。カロリナは魔法でルイスたちの縄を焼き、フェルセン中将はアルヴィスへ、そして僕はグラティスの元へと駆けていった。
それぞれの持つ刃が衝突するなか、カロリナはピアノをその場に創り出し、降ってくる魔物の侵攻を止める焔の防波堤を現出した。荒ぶる火の粉に触れただけでその身が焼き尽くされていく。
「総員体勢を整えて、目の前の敵を倒すことに集中!! 」
その指示に全員が声を上げて応えると、講師や生徒達は弦楽器、管楽器、打楽器──それぞれの楽器を手に燃える網から外れた魔物へ応戦を始める。
急に頬が切られる。
「よそ見してる場合かい?」
瞬時に左横に移動したグラティスが長剣を振り上げた。大量の血潮《ちしお》が顔に降りかかる。なんとか眼前で凶刃を止めることには成功したが、衝撃に耐えきれず体が後ろへと飛ばされる。
「ふーん。その真っ黒な剣どこで手にいれたか知らないけど、僕と同じ感じがする。その剣なら僕を殺せるかもね。もちろん、当たればの話だけど」
そう言い切るとグラティスは草花の揺れる地面を踏み締め、宙に舞った。その剣さばきはまさに舞のようにしなやかに、かつ鋭く僕の動きを追い詰め、攻撃を止め、確実に傷口を増やしていく。
その痛みを意識的に思考から外して、黒剣を振るうが、連撃をさばくのが精一杯でじりじりと宮殿近くへと後退させられていく。
「どうしたの? その程度? 魔法じゃなくて剣を覚えた方がよかったねぇ。もっと楽しめるかと思ったのに!」
グラティスが身を低くして踏み込んできた。下から突き上げられたその一撃は、きつく握り締めていたはずの剣をたやすく上空へと弾き飛ばした。
悪魔のような微笑みの前に、ヴェルヴが落下し地面へと突き刺さった。刀身が消滅し、ただの木の柄だけが地面へと投げ出される。すかさずグラティスはそれを何度も踏みつけた。
「これで武器も破壊、と。もう、終わりだね」
バラバラに壊されたヴェルヴの残骸が風に吹かれ飛んでいく。
冷たい刃先が首筋を這い、喉元に突き付けられた。後ろに下がろうとしても、すでに背中は宮殿の白壁にピッタリとついていた。
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猫のような瞳が収縮する。
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