婚約破棄を言い渡されたので、大人しく実家へ帰ろうと思います 他

星山遼

文字の大きさ
14 / 15
婚約者を妹に奪われた結果、本命との恋が叶いました

前編

しおりを挟む
「俺の新たな婚約者を皆に紹介しよう。フィアナ・ローゼルトだ」

 華やかなパーティー会場に、十八歳の第六王子・ラルドの声が響く。歓談に興じていた貴族達が一斉に顔を上げた。一拍の間を置いて、どよめきが場を満たす。
 会場内の視線を一気に集めたラルドは、かたわらに立つ少女・フィアナの柳腰やなぎごしを抱いて引き寄せた。フィアナは青い瞳をキラキラ輝かせてラルド王子を見上げた後、これ見よがしに体を密着させる。
 幸せそうに微笑み合う二人の前に、一人の女性が進み出た。フィアナと似た顔立ちの女性は、唇を引き結んで壇上の二人をめ付ける。
「サリーネお姉様・・・・・・」
 その眼差しに気圧けおされたフィアナが青褪めた顔で女性の名を呟く。後退あとずさったフィアナを背後にかばい、王子が前へ進み出た。
「何か意見があるのか?サリーネ・ローゼルト」
 ラルド王子は傲然ごうぜんたる態度でサリーネを見下し、端正な顔に愉しげな笑みを浮かべる。サリーネは両手を握り締め、震える声を絞り出す。
「ラルド王子、つまりわたくしとの婚約は解消なさると?」
「そうだ」
 間髪入れず肯定されて、サリーネの肩がびくりと跳ねる。長い金髪が、心の内を表すかの様に揺れた。
 ラルド王子とサリーネの婚約は、政治的な思惑の結果だ。同い年の男女とは言え、そこに恋や愛は存在しないと教え込まれてきたし、王子に愛されない覚悟は出来ていた……出来ていた、つもりだった。
 だが、自分サリーネが得られなかった王子の愛を、二歳年下のフィアナが得たとなれば話は別だ。
「国王陛下のお許しは」
「勿論得ているとも」
 サリーネの懸念を、ラルドは当然とばかりに一笑いっしょうに付す。
 国王にとって、第六王子は末子にあたる。他の王子達を厳しく育ててきた後悔があるのか、あるいは孫ほどに年が離れているからなのか、国王はこの第六王子に甘かった。ラルドもそれを承知しており、我儘わがままが散見される。
 それでも政略結婚である以上、『嫌いだから』『相手が不細工だから』程度の理由では婚約解消などまかり通らない。たとえ王子であってもーー否、王子であるなら尚更。
「ローゼルト伯爵家から婚約者を迎える事に変わりない。問題は無かろう?」
 堂々と言い放たれて、サリーネは青い瞳をすがめる。
 国王に可愛がられている王子と言えど、他家の令嬢では国王も認めない可能性が高い。でもローゼルト伯爵家の令嬢であれば長女サリーネではなく次女フィアナでも国王は反対しないはずーーなどと思い付くほどの知恵を、この王子が持ち合わせているとは到底とうてい思えない。
「急な婚約解消の詫びとして、お前にはエルラム辺境伯を新たな婚約者として推薦しておいた」
 挙げられた名に、会場の人々から悲鳴に近い声が上がった。サリーネも顔色を変えてその身をおののかせる。
 辺境伯ガトー・エルラム、またの名を半獣人伯ガトー・エルラム。辺境で国防を任された、文字通り半人半獣の伯爵だ。
 結婚していて然るべき地位と年齢であるにも関わらず、その獣じみて人間離れした風貌を恐れられて未だに婚約者すら決まっていない、言わば曰く付きの。
 くすり、と小さく笑う声が聞こえた気がして、サリーネは顔を上げた。ラルド王子の背後に隠れる、青色の瞳と視線がぶつかる。
 鮮やかな紅で彩られたフィアナの唇は、笑みの形をしていた。彼女の勝ち誇ったかの様な表情を見て、サリーネは悟る。
 王子に入れ知恵をしたのは、フィアナだったのか。
 しかし、それが分かったところでもう遅い。
 サリーネは胸の前で組んだ指にきつく力を込めた。ゆっくり息を吐きながら、胸中に渦巻く怒りを懸命に鎮める。
「それが、王家の決定であるならば」
 伯爵令嬢としてのプライドを総動員して全ての激情を飲み込むと、優雅に一礼してみせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

婚約破棄された堅物令嬢ですが、鬼の騎士団長の娘として宮廷の陰謀を暴くのに忙しいので、美貌のカストラート(実は王子)に溺愛される暇はありません

綾森れん
恋愛
「お前のような真面目くさった女はいらない。婚約は破棄させてもらう!」 婚約者だった公爵令息に冷酷に言い放たれたリラ・プリマヴェーラ。 だが、彼女の心にあったのは悲しみではなく―― 十年前の王族暗殺事件を調査したいという情熱だった。 伯爵令嬢であるリラは、鉄の掟を守る『鬼の騎士団長』の娘。 彼女には恋よりも何よりも優先すべき使命があった。それは、十年前に幼い王子が暗殺された事件の真相を暴き、父を、そして王国を陰謀から救うこと。 婚約破棄直後、彼女の前に現れたのは、天使の歌声を持つ美貌のカストラート(去勢歌手)、アルカンジェロだった。 彼が十年前の事件について密かに調べていることを、リラは知ってしまう。 真相を探るため、リラは彼を自分の音楽教師として迎え入れ、距離を縮めていく。 事件解決の協力者として彼と接するうち、リラは謎めいたアルカンジェロに危機を救われることになる。 しかし、リラは知らない。 アルカンジェロの正体が、十年前に暗殺されたはずの第三王子であることを。 そして彼にとってリラこそが、初恋の女性であることを。 彼は十年間、密かにリラを想い続けていたのだ。 王位を狙う者たちから身を隠すため、声楽の技術を駆使して、教会歌手として大聖堂で生き延びてきたアルカンジェロだったが、王家を巡る不穏な陰謀が静かに動き始めていた。 捜査に猪突猛進な堅物令嬢と、彼女を影から支え執着を見せる、カストラート歌手のふりをした王子。 宮廷の闇を切り裂く二人の恋と事件の行方は――? ※本作は、過去に投稿していた『真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています』の設定・キャラクター・構成を大幅に改稿し、新作として再構成したものです。 物語の結末やキャラクターの掘り下げを強化しておりますので、初めての方も、以前お読みいただいた方もお楽しみいただけます。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

婚約破棄された侯爵令嬢ですが、帝国の次席秘書官になりました ――王の隣ではなく、判断を誤らせない場所へ

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として王宮に仕える侯爵令嬢ゼクレテァ。 彼女は華やかな場に立つことはなく、ただ静かに、しかし確実に政務と外交を支えていた。 ――その役割が、突然奪われるまでは。 公の場で告げられた一方的な婚約破棄。 理由はただひとつ、「愛している相手がいるから」。 ゼクレテァは感情を見せることなく、その決定を受け入れる。 だが彼女が王宮を去った後、王国には小さな歪みが生じ始めた。 些細な行き違い、遅れる判断、噛み合わない政策。 それらはやがて、国家全体を揺るがす事態へと発展していく。 一方、行き場を失ったゼクレテァの前に、思いもよらぬ「選択肢」が差し出される。 求められたのは、身分でも立場でもない。 彼女自身の能力だった。 婚約破棄から始まる、 静かで冷静な逆転劇。 王の隣に立つことを拒んだ令嬢は、 やがて「世界を動かす場所」へと歩み出す――。 -

処理中です...