セカイの果たてで

星山遼

文字の大きさ
1 / 4

しおりを挟む
「セラ様!」
 名を呼ばれ、簡素な白い長衣を纏った人影が立ち止まる。腕に提げた籠から山葡萄がこぼれ落ちないよう注意しながら振り返った。
 整った顔立ちと細い四肢からは性別を判別し難い。僅かに膨らむ胸元が、成長途中の少女である事を示していた。
 十代半ばの少女は、足首まで届く長さの白銀髪を払い退けて紫の双眸を向ける。声を掛けて来た壮年の男が、とある方向を指さしてがなり立てた。
「こいつが俺の指示を聞かずに山仕事をさぼるんだ。セラ様、“契約者”の御力で死の罰を!」
 示された先に立っていたのは、セラの十倍近い身長を持つ大男だった。裾が擦り切れた粗末な衣服に身を包んだ巨人は、大きな黒眼でセラ達を睨み下ろす。歯を剥き出しにして唸られて、男は「ひっ!」と情けない悲鳴を上げてセラの背後へ隠れた。セラは無言のまま大男の視線を受け止めた。
「・・・・・・ちっ」
 憎々しげな舌打ちを残して、巨人が踵を返す。地震と勘違いしそうな地響きと共に、山へ歩いて行く。
「ふん、“契約者”がいる限り、お前達巨人族が逆らえる訳がないんだよ!」
 セラの背後から姿を現した男が、腰に手を当てて嘲笑う。巨大な生き物が己の命令に従うさまがおかしくてたまらないのか、笑い声は止まない。
 男から、巨人から逃げる様に、セラは足早に神殿の入り口を潜った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

蝋燭

悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。 それは、祝福の鐘だ。 今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。 カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。 彼女は勇者の恋人だった。 あの日、勇者が記憶を失うまでは……

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

良くある事でしょう。

r_1373
恋愛
テンプレートの様に良くある悪役令嬢に生まれ変っていた。 若い頃に死んだ記憶があれば早々に次の道を探したのか流行りのざまぁをしたのかもしれない。 けれど酸いも甘いも苦いも経験して産まれ変わっていた私に出来る事は・・。

悪役令嬢を彼の側から見た話

下菊みこと
恋愛
本来悪役令嬢である彼女を溺愛しまくる彼のお話。 普段穏やかだが敵に回すと面倒くさいエリート男子による、溺愛甘々な御都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

処理中です...