『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!

たらふくごん

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第151話 忍び寄る感染症に似たナニカ

第2王女メリルーギュの自室。

陛下と、やっぱり具合悪そうなミャルナに回復と状態異常魔術を施した僕は、ティアと一緒にかぐわしいお茶を前に打ち合わせを始めていた。

「…大変お忙しい仲…呼びかけに応じていただき感謝いたしますわ」
「いえ。ミャルナにお願いされましたし…あっ、失礼…“ミャルナ殿下”ですね」

僕の何気ない言葉。
それに従者の女性の眉が上がる。

うん。

メリルーギュ第2王女と僕は正直面識がない。
今日初めて会ったんだ。

いくら同級生で、大公爵とは言え。
…彼女の弟であるミャルナ、呼び捨ては不敬だろう。

「ふふっ。良いのですよ?それに…あなた様の方がわたくしよりも格上です。ライト大公爵様」

花がほころぶような笑顔を向ける第2王女。
凛とした姿と漂う高貴な姿。

つい顔が赤くなってしまう。

「コホン。…それで?あなたは何を知っているのです?」

なぜか冷気を纏うティア。
えっと…

「…大変失礼いたしました。女神ティアリーナ様…“クロノス商会”…御承知でしょうか」
「っ!?」

驚いた。
まさにさっきティアが僕に告げた商会の名前。

彼女メリルーギュ――どうやらかなり優秀のようだ。

「…承知しています。この世界最大のポーションを取り扱う商会――そうですわね」
「ええ。さすが女神さまです」

そう言い、紅茶に口をつける。
所作どれひとつとっても彼女は優雅だ。

そして。

「っ!?…メリルーギュ王女?その腕…」

今は10月。
初秋とは言えまだ暑さの残るこの時期。

長袖を着ていた王女の腕に、痣のような跡がちらりと見えた。

「…“後遺症”…そういう認識でしょうか。かの商会のポーションによるものです…ライト様――あなた様の“医療の知識”、どうご覧になります?」

っ!?…この人。
知っている。

異常に遅れているこの星の医療。
そもそも“医療”と言う言葉すらしっかり認識されていない状況。

でも…

「メリルーギュ第2王女…あなたは…いったい」

「メリ、とどうぞ呼び捨てで。…この世界、明らかにおかしいのです。留学先であるフィニール聖王共和国、禁書指定されていた書物…その中に…ムニーサ」

「はい」

王女の声掛け。
それに反応した従者の女性、ムニーサは一冊の本を棚から取り出し僕に手渡した。

受け取り僕は驚愕してしまう。

「っ!?…これって…」

『生活習慣と感染症』――そう書かれたボロボロの本。
まさに今回の大元である病気、それを記している本だ。

――正直、初めて見た。
僕は幼少のころから、本の虫だった。

この世界の常識、そして文化。
転生してきた僕は、なにより貪欲にこの星の情報を集めていたからだ。

だけど。

医療に関する本や記述。
まったくなかった事実。


驚愕に固まる僕。
そんな様子に、彼女は静かに口を開く。

「…ビニュールディース、ご承知ですよね?」
「っ!?…確か…フィニール聖王国監査院の…」

(…確かルイに告白した悪魔…だったよね)


「彼が命懸けで手に入れた本です」
「っ!?」


※※※※※


正直僕は。
今の世界の状況、ほとんど把握できていない状況だ。

病気、感染症。
実は僕の魔力感知、そういうものには反応しない。

何より僕自身には。
ほとんどすべての病原菌やウイルス、すでに耐性がある。

つまり――危機ですらないのだ。

当然反応しない。

そして悪魔の強者であるビニュールディースが命懸けで手に入れた?


その事実――僕は背中に嫌な汗をかく。

「…拝見しても?」
「ええ」

微かに震える指先。
僕はゆっくりとページを開く。

そこには。


当たり前の知識、そしていわゆる民間療法からこの世界での抗生物質になりえる植物。

事細かに記してあった。


「…メリ」
「…はい」

「…あなたは…この内容――理解できるかい?」

大きくため息をつくメリルーギュ。
そして改めて僕に視線を向ける。

「残念ですが…正直理解しかねます。聞いたことの無い固有名詞、そして概念です。当然字はわかりますが…理解は――難しいのが現状です」

「そっか」

「すみません…まるで知らない魔術ようなのです…聞いたことの無い単語ばかりで…」


――ぞわり。
僕の危機感知が仕事をする。


本来あった医療の知識。
そしてそれを引き継いだはずのクロノス商会。

この世界の医療の異常な遅れ。


点はやがて線になり――
最悪の想像が僕の脳内を駆け巡る。

「…ティア?やばいかもしれない」
「…ライト様…」


ただの風邪、そして感染症。
そう僕は思いたかった。

でも。

彼女の留学先であるフィニール聖王国の聖王猊下、そして陛下とミャルナの様子。
聞いて、見た限り――かなりの重症だ。

もしこれが――意図的なものだったら。


「メリ…この事、誰かに伝えた?」
「いいえ。…正直出国するときに…数名の黒づくめの者に襲われかけました。…それが影響しているのか…分かりませんが」

世界の脅威。
それが取り払われたミラリルス。

でも…

「襲われた?…大丈夫だったの?」
「ええ。我が国の近衛兵、あなた様の擬似ダンジョンでとても強くなりましたから」

「ちなみに規模は?どこかの軍隊とか?」
「いいえ。それは無いかと…ただ。――明らかに訓練されている様子――ですが」
「うん?」

「…見たことの無い…細い剣、そして…こんなものが」

差し出したもの。
十字架のネックレス。

正直僕はこの世界で初めて見た。

(…ティア)
(…わたくしも見たことありません)

沸き上がる違和感、そして不安感。
僕は軽く頭を振る。

(…情報が少なすぎる…それよりも)

僕は改めて本の内容に思考を向けた。

正直この本の内容。
日本なら小学生高学年でも理解できる内容だ。

でもこの世界において。
――これは医療を否定する者たちにとってまさに禁書。

彼らの利権、全てが失われる――まさに脅威。


僕は思わず。

唇をかみしめていたんだ。


※※※※※


「こほっ…こほっ…」
「っ!?マリナス…大丈夫か?」

一方イスタール帝国、皇妃の部屋。

懐妊中のマリナスは、数日前からイヤな咳に囚われていた。
そして浮かび上がる小さな発疹。

食も細くなり、今日はスープしか飲めていない。
明らかに衰弱していく様子に、ヴィラーリヒは唇をかみしめる。

帝国にとって、マリナスの懐妊はまさに希望。
元皇后が早くに儚くなったことで、この国の正統なる後継者はヴィラーリヒ一人。

強大な帝国、本来ありえない事だった。
そんな中でのマリナスの懐妊。

帝国はあの異星の神との決戦に勝利したことよりも。
大きな幸せと祝福に溢れていたのだ。

「こほッ…だ、大丈夫ですわ。ヴィラーリヒ様…くうっ?!」
「っ!?マリナス?…マリナス?!!」

咳き込み――顔色を青くし意識を失うマリナス。
その様子にヴィラーリヒの背に嫌な汗が流れる。

「くっ、回復術師を、早くっ!」
「はっ!」


忍び寄る悪意。

それは遂に。


帝国の希望――マリナスに、その手を伸ばしていた。
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