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第12話 初陣
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遠くの山々の雪と抜けるような青空のコントラストが美しい。
春の芽吹きが感じられる3月初旬。
僕は9歳になり、来月から学園の寮に入るための準備に追われていた。
同じく11歳になり、ものすごく可愛く成長したキャルン姉さま。
彼女も同じく学園に通う事が決まり、結局一度家族5人で王都へと赴き、殿下の奥様の実家であるオーウェン伯爵のタウンハウスでしばらく滞在させてもらうことになっていた。
うちにもタウンハウスあるのだけれど。
普段全く使わないから使用人すらおいていないんだよね。
父上が、
「うちはそう遠い場所ではない。そんな費用の掛かることをするのならだれかに貸しておく方が良い」
と、いつもの様子。
という訳で今では確か他国から来た豪商の人が住んでいるんだよね。
ハハ、ハ。
あ、もちろん陛下の許可は得ているよ?
本当に父上は筋金入りだ。
因みにサルツさんはたまに報告のため王宮へ行く事があったりしたけど、基本は僕と居ることが多い。
すっかり打ち解けた今、まるで兄のように色々な事を教えてくれていた。
学園にも使用人枠として一緒に行く事になっている。
実はサルツさん、まだ18歳なんだって。
変なワカメみたいな髪形していて、顔を隠しているから分からなかったよ。
当然僕は“鑑定”ができる。
でも僕はこの能力は使いたくない。
見たくないものまで見えてしまう『神級』のスキルなんて。
それはそうと、“忍術”は一通りマスターしたよ?
実を言うと同じような体系の技術、前世にもあったんだ。
魔力と小精霊の相乗効果――その仕組み、同じなんだよね。
「来月にはキャルンとライトは王都暮らしなのね…寂しくなるわ」
そんなことを考えていた僕に、しんみりと言葉を零すお母様。
僕はお母様ににっこりと笑い答えた。
「確かに馬車では2日ほどの距離ですが、週末には2日お休みがあります。それに夏季と冬季には長期休みも。僕が責任をもってキャルン姉さまと顔を見せに来ます」
「……そ、そうよね。ライトは伝説の転移魔術を使えるのだもの……いつでも会えるわね」
実は家族とサルツさんには僕が“転移魔術”を習得したことを伝えていた。
本当はだいぶ前には習得していたのだけれどね。
僕たち姉弟と離れてしまうことが余りにも悲しくて、泣いてしまっていたお母様を見かねて父上と相談した結果だった。
僕はお母様が泣く姿を見たくない。
僕にとって家族は、何よりも大切なものなんだ。
だから当然国も転移魔術のことは知っているはずだ。
何故かそれについて反応はないのだけど……
きっとサルツさんとロキラス殿下がどうにかしてくれているのだろう。
それからこの数年で僕は自身の力をほとんど使えるようになっていた。
ティアとの約束を早く守りたかったんだ。
ここ数年、この星では不穏な事態が急速に増えている。
本来僕が知ることではない。
でも僕には無数のスキル、それこそ人ではない『生存本能に特化』した微生物や昆虫、そして数多くの魔物のスキルまで網羅している。
語ってはいなかったけど、あの『ふざけた創世神』の作った摂理。
最強種は神を除けば人間だった。
だからあの地獄の中、僕は存在するすべての魔物の生活もコンプリート済み。
不穏な事態、いわゆる魔物たちの隆盛。
当然気付いていた。
でもわざわざ目立つ必要もないと思い放置していた。
やっぱり僕は“迂闊”だった。
※※※※※
ルアマナの森を監視する塔の上。
兵士たちに緊張が走る。
「おい、なんだ?…あの黒い靄は」
「あーん?なんだよ、まだ昨日の酒でも残ってるのか?」
「バ、バカ、そんなんじゃ……魔物?……お、おい、警戒の鐘をならせっ!!早くしろっ!!」
王都へ行く2日前。
それは突然やってきた。
辺境伯家が治める我がガルデス領。
国境を守る使命の他、広大な大森林ルアマナの森から出てくる魔物から国を守る使命も課されていた。
深いその森には数多くの魔物が生息している。
ガルデス領を守る辺境伯軍は強固な軍隊で有名だ。
特に父上は『剣聖』の称号持ち。
そして陸戦に特化した重歩兵団の充実。
さらには魔導部隊には伝説級の魔術使い、第6位階に届かんばかりの才能に溢れたギイルード魔術師団長がいる。
もちろん僕の家庭教師であるヒャルマ先生も第5位階まで使える才女、その力は1個大隊の戦力を凌駕する。
普段から警戒を怠ることなく、我が領土は魔物からの被害を最小に抑える事が出来ていた。
そもそも魔物は意外と臆病だ。
それに知能の高いものもいるため、よほどのことがない限りわざわざ人間を襲うものは少ないはずだった。
しかしここ数年で起こっていた不穏な事態。
遂に具現化しその牙をむき襲い掛かってきた。
※※※※※
辺境伯領第2砦軍務室。
重苦しい空気に支配されていた。
「被害状況を報告しろ」
「魔物の第一波、歩兵第3部隊が敗走。死者はおりませんが怪我人多数。北方の領壁が崩されています。今設営部隊が応急処置を行っております。魔法師団第2小隊が警護に当たっているため持ちこたえておりますが……魔物の侵攻状況、楽観視はできません」
領主であるノイドは苦虫をかみつぶしたような顔をしてしまう。
油断していたわけではない。
何より今現在魔物の侵攻を防げていることが何よりの証拠だ。
今回の襲撃、かつてない大規模なものだった。
ざっと数万体。
闇夜に包まれてもその膨大な数は視界を埋め尽くす。
まるで伝説に聞く、“魔王の軍勢”のように連携をとる魔物たち。
背筋に冷たいものが流れ落ちる。
「籠城戦になる。民たちは避難を。…3交代で警戒に当たれ。休めるものは休むように伝えろ。飲酒を許可する。寝酒だ、分量を間違えるなよ?――酔っぱらって戦えぬなど笑い話にもならぬからな」
「はっ、伝令、速やかに通達せよ」
「承知しました」
指示を出し大きく息をつく。
ふいに参謀長であるグラドールがノイドに話しかけた。
「ノイド様……どう見ますか」
「ふむ。守りが足りぬな。……最悪攻め入って首領格をとらねばならぬかもしれぬ」
「っ!?…相手は魔物です。……軍隊ではありません……まさか?!」
「ああ。“その可能性”も視野に入れねば足を掬われよう。此度の魔物の襲撃、今までとは明らかに違う。……何より夜を迎えるとともに魔物たちは襲撃をやめている。理知的な魔物の群れ…厄介極まりないな」
そう言い遠くを見つめるノイド。
今回襲ってきたのは魔物だ。
だが何故か彼らは襲撃をやめ静観している。
激昂している様子もない。
まさに“何かの指示に従っている”ような、そんな不安がノイドの顔をしかめさせる。
「…小隊長のビニイスからの報告だが」
「…ビニイス?」
「…守ったそうだ。――オーガがホブゴブリンを」
「っ!?」
ありえない報告。
今の状況そして齎された事実。
グラドールは身震いを隠せずにいた。
※※※※※
僕たちは今辺境伯家で軟禁されていた。
一応邸宅内は自由を許されていたが、何故かサルツさんが僕を監視していて、部屋から出してもらえなかった。
(まあ、転移できるから関係ないけど……サルツさん、立場上しょうがないよね)
そう思いため息を吐く。
そんな僕にティアが寄り添ってきた。
「うん?どうしたのティア」
「えっ?……い、いえ、その……」
彼女の心配する気持ちが伝わってくる。
僕を心配している?
「僕が一人で行くとか――思ってる?」
「っ!?…………………は、はい」
そしてなぜか決意を込めたような瞳で僕を見つめるティア。
「ライト様は最強です。ですが……まだ9歳の子供でもあるのです。いくら魔物とはいえ……命を奪う行為……」
「ティア?」
「は、はい」
「ありがとう。君に会えてよかった」
「ライト…さま」
彼女は僕の力を知っている。
正直今回の魔物の襲撃、僕なら一瞬で鎮圧できる。
でも彼女はそんな僕の『心』を心配してくれていた。
4年彼女とは一緒に居る。
もうすでに彼女は……
僕の大切な人になっていた。
「行ってくる。ティアは待っていて」
「うあ、で、でも……」
「心配しないで?僕だってむやみに殺したくなんてないよ?…鎮圧してくる」
正直、魔物を殺すことに忌避感はない。
でも今の僕は…ライト・ガルデスなんだ。
今回の魔物の行動、明らかにおかしい。
僕はそれを確かめたいんだ。
それに…
「……力、まだ戻っていないでしょ?」
「っ!?……どう、して……」
今の彼女、すでに人の域を超えた力を持っている。
でもまだ封印されたままだ。
僕にはわかる。
「ねえ、ティア」
「は、はい」
「僕はさ、爺さんとの約束……今はそれだけじゃないんだ」
「……」
「僕は今自分の意志で……みんなを、そしてティアを、僕の大切な君を、守りたいんだ」
「ライト、様………」
「知っているでしょ?僕は最強なんだよ?」
そしてずっと封じていた魔力を開放した。
僕の部屋が魔力圧で軋み出す。
「す、凄い……これが……ライト様の……」
「ねっ?問題ないよね?」
「はい。ライト様は最強です♡」
顔を染めにっこり笑う彼女。
可愛いティア。
僕の好みドストライクだ。
彼女は積極的に僕とスキンシップをとろうとしてくる。
でも違う。
彼女は最初のころ、いつも……“震えて”いたんだ。
彼女は人ではない。
超常の存在である女神。
だけど……女の子なんだ。
僕はそんなティアを、絶対に守るって決めていた。
僕の心が『人ではない何か』にならないように、いつも心配し――
羞恥心を秘めながら可能な限り寄り添ってくれていた彼女を。
いつか僕がもっと大きくなったら。
彼女が欲しいと、本当に思っている。
爺さんの思惑通りで癪だけど……
うん。
今はそんなこと考える時じゃないよね。
僕は魔物の軍勢、その中枢に転移した。
そして最強チートの力の一端。
ついにこの世界の歴史に初めて刻まれることになる。
世界が動き出す。
そして陰謀の一端、明らかになったんだ。
春の芽吹きが感じられる3月初旬。
僕は9歳になり、来月から学園の寮に入るための準備に追われていた。
同じく11歳になり、ものすごく可愛く成長したキャルン姉さま。
彼女も同じく学園に通う事が決まり、結局一度家族5人で王都へと赴き、殿下の奥様の実家であるオーウェン伯爵のタウンハウスでしばらく滞在させてもらうことになっていた。
うちにもタウンハウスあるのだけれど。
普段全く使わないから使用人すらおいていないんだよね。
父上が、
「うちはそう遠い場所ではない。そんな費用の掛かることをするのならだれかに貸しておく方が良い」
と、いつもの様子。
という訳で今では確か他国から来た豪商の人が住んでいるんだよね。
ハハ、ハ。
あ、もちろん陛下の許可は得ているよ?
本当に父上は筋金入りだ。
因みにサルツさんはたまに報告のため王宮へ行く事があったりしたけど、基本は僕と居ることが多い。
すっかり打ち解けた今、まるで兄のように色々な事を教えてくれていた。
学園にも使用人枠として一緒に行く事になっている。
実はサルツさん、まだ18歳なんだって。
変なワカメみたいな髪形していて、顔を隠しているから分からなかったよ。
当然僕は“鑑定”ができる。
でも僕はこの能力は使いたくない。
見たくないものまで見えてしまう『神級』のスキルなんて。
それはそうと、“忍術”は一通りマスターしたよ?
実を言うと同じような体系の技術、前世にもあったんだ。
魔力と小精霊の相乗効果――その仕組み、同じなんだよね。
「来月にはキャルンとライトは王都暮らしなのね…寂しくなるわ」
そんなことを考えていた僕に、しんみりと言葉を零すお母様。
僕はお母様ににっこりと笑い答えた。
「確かに馬車では2日ほどの距離ですが、週末には2日お休みがあります。それに夏季と冬季には長期休みも。僕が責任をもってキャルン姉さまと顔を見せに来ます」
「……そ、そうよね。ライトは伝説の転移魔術を使えるのだもの……いつでも会えるわね」
実は家族とサルツさんには僕が“転移魔術”を習得したことを伝えていた。
本当はだいぶ前には習得していたのだけれどね。
僕たち姉弟と離れてしまうことが余りにも悲しくて、泣いてしまっていたお母様を見かねて父上と相談した結果だった。
僕はお母様が泣く姿を見たくない。
僕にとって家族は、何よりも大切なものなんだ。
だから当然国も転移魔術のことは知っているはずだ。
何故かそれについて反応はないのだけど……
きっとサルツさんとロキラス殿下がどうにかしてくれているのだろう。
それからこの数年で僕は自身の力をほとんど使えるようになっていた。
ティアとの約束を早く守りたかったんだ。
ここ数年、この星では不穏な事態が急速に増えている。
本来僕が知ることではない。
でも僕には無数のスキル、それこそ人ではない『生存本能に特化』した微生物や昆虫、そして数多くの魔物のスキルまで網羅している。
語ってはいなかったけど、あの『ふざけた創世神』の作った摂理。
最強種は神を除けば人間だった。
だからあの地獄の中、僕は存在するすべての魔物の生活もコンプリート済み。
不穏な事態、いわゆる魔物たちの隆盛。
当然気付いていた。
でもわざわざ目立つ必要もないと思い放置していた。
やっぱり僕は“迂闊”だった。
※※※※※
ルアマナの森を監視する塔の上。
兵士たちに緊張が走る。
「おい、なんだ?…あの黒い靄は」
「あーん?なんだよ、まだ昨日の酒でも残ってるのか?」
「バ、バカ、そんなんじゃ……魔物?……お、おい、警戒の鐘をならせっ!!早くしろっ!!」
王都へ行く2日前。
それは突然やってきた。
辺境伯家が治める我がガルデス領。
国境を守る使命の他、広大な大森林ルアマナの森から出てくる魔物から国を守る使命も課されていた。
深いその森には数多くの魔物が生息している。
ガルデス領を守る辺境伯軍は強固な軍隊で有名だ。
特に父上は『剣聖』の称号持ち。
そして陸戦に特化した重歩兵団の充実。
さらには魔導部隊には伝説級の魔術使い、第6位階に届かんばかりの才能に溢れたギイルード魔術師団長がいる。
もちろん僕の家庭教師であるヒャルマ先生も第5位階まで使える才女、その力は1個大隊の戦力を凌駕する。
普段から警戒を怠ることなく、我が領土は魔物からの被害を最小に抑える事が出来ていた。
そもそも魔物は意外と臆病だ。
それに知能の高いものもいるため、よほどのことがない限りわざわざ人間を襲うものは少ないはずだった。
しかしここ数年で起こっていた不穏な事態。
遂に具現化しその牙をむき襲い掛かってきた。
※※※※※
辺境伯領第2砦軍務室。
重苦しい空気に支配されていた。
「被害状況を報告しろ」
「魔物の第一波、歩兵第3部隊が敗走。死者はおりませんが怪我人多数。北方の領壁が崩されています。今設営部隊が応急処置を行っております。魔法師団第2小隊が警護に当たっているため持ちこたえておりますが……魔物の侵攻状況、楽観視はできません」
領主であるノイドは苦虫をかみつぶしたような顔をしてしまう。
油断していたわけではない。
何より今現在魔物の侵攻を防げていることが何よりの証拠だ。
今回の襲撃、かつてない大規模なものだった。
ざっと数万体。
闇夜に包まれてもその膨大な数は視界を埋め尽くす。
まるで伝説に聞く、“魔王の軍勢”のように連携をとる魔物たち。
背筋に冷たいものが流れ落ちる。
「籠城戦になる。民たちは避難を。…3交代で警戒に当たれ。休めるものは休むように伝えろ。飲酒を許可する。寝酒だ、分量を間違えるなよ?――酔っぱらって戦えぬなど笑い話にもならぬからな」
「はっ、伝令、速やかに通達せよ」
「承知しました」
指示を出し大きく息をつく。
ふいに参謀長であるグラドールがノイドに話しかけた。
「ノイド様……どう見ますか」
「ふむ。守りが足りぬな。……最悪攻め入って首領格をとらねばならぬかもしれぬ」
「っ!?…相手は魔物です。……軍隊ではありません……まさか?!」
「ああ。“その可能性”も視野に入れねば足を掬われよう。此度の魔物の襲撃、今までとは明らかに違う。……何より夜を迎えるとともに魔物たちは襲撃をやめている。理知的な魔物の群れ…厄介極まりないな」
そう言い遠くを見つめるノイド。
今回襲ってきたのは魔物だ。
だが何故か彼らは襲撃をやめ静観している。
激昂している様子もない。
まさに“何かの指示に従っている”ような、そんな不安がノイドの顔をしかめさせる。
「…小隊長のビニイスからの報告だが」
「…ビニイス?」
「…守ったそうだ。――オーガがホブゴブリンを」
「っ!?」
ありえない報告。
今の状況そして齎された事実。
グラドールは身震いを隠せずにいた。
※※※※※
僕たちは今辺境伯家で軟禁されていた。
一応邸宅内は自由を許されていたが、何故かサルツさんが僕を監視していて、部屋から出してもらえなかった。
(まあ、転移できるから関係ないけど……サルツさん、立場上しょうがないよね)
そう思いため息を吐く。
そんな僕にティアが寄り添ってきた。
「うん?どうしたのティア」
「えっ?……い、いえ、その……」
彼女の心配する気持ちが伝わってくる。
僕を心配している?
「僕が一人で行くとか――思ってる?」
「っ!?…………………は、はい」
そしてなぜか決意を込めたような瞳で僕を見つめるティア。
「ライト様は最強です。ですが……まだ9歳の子供でもあるのです。いくら魔物とはいえ……命を奪う行為……」
「ティア?」
「は、はい」
「ありがとう。君に会えてよかった」
「ライト…さま」
彼女は僕の力を知っている。
正直今回の魔物の襲撃、僕なら一瞬で鎮圧できる。
でも彼女はそんな僕の『心』を心配してくれていた。
4年彼女とは一緒に居る。
もうすでに彼女は……
僕の大切な人になっていた。
「行ってくる。ティアは待っていて」
「うあ、で、でも……」
「心配しないで?僕だってむやみに殺したくなんてないよ?…鎮圧してくる」
正直、魔物を殺すことに忌避感はない。
でも今の僕は…ライト・ガルデスなんだ。
今回の魔物の行動、明らかにおかしい。
僕はそれを確かめたいんだ。
それに…
「……力、まだ戻っていないでしょ?」
「っ!?……どう、して……」
今の彼女、すでに人の域を超えた力を持っている。
でもまだ封印されたままだ。
僕にはわかる。
「ねえ、ティア」
「は、はい」
「僕はさ、爺さんとの約束……今はそれだけじゃないんだ」
「……」
「僕は今自分の意志で……みんなを、そしてティアを、僕の大切な君を、守りたいんだ」
「ライト、様………」
「知っているでしょ?僕は最強なんだよ?」
そしてずっと封じていた魔力を開放した。
僕の部屋が魔力圧で軋み出す。
「す、凄い……これが……ライト様の……」
「ねっ?問題ないよね?」
「はい。ライト様は最強です♡」
顔を染めにっこり笑う彼女。
可愛いティア。
僕の好みドストライクだ。
彼女は積極的に僕とスキンシップをとろうとしてくる。
でも違う。
彼女は最初のころ、いつも……“震えて”いたんだ。
彼女は人ではない。
超常の存在である女神。
だけど……女の子なんだ。
僕はそんなティアを、絶対に守るって決めていた。
僕の心が『人ではない何か』にならないように、いつも心配し――
羞恥心を秘めながら可能な限り寄り添ってくれていた彼女を。
いつか僕がもっと大きくなったら。
彼女が欲しいと、本当に思っている。
爺さんの思惑通りで癪だけど……
うん。
今はそんなこと考える時じゃないよね。
僕は魔物の軍勢、その中枢に転移した。
そして最強チートの力の一端。
ついにこの世界の歴史に初めて刻まれることになる。
世界が動き出す。
そして陰謀の一端、明らかになったんだ。
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