『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!

たらふくごん

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第57話 まだ出会っていないライトの婚約者

魔王との和平が済み、いまだ王都にとどまっている魔将たち。

そのうち数人は今、王国が誇る近衛兵団との修練としての『模擬戦』を行っていた。


※※※※※


「ふむ。弱いと馬鹿にしておったが…いやはやヒューマンの皆は戦闘に対する工夫、凄まじいな。…ここまでレベル差があるというのに…ヒヤリとする場面、多々あるとは…」

魔将ザッガンルーバが独り言ちる。
彼は魔将の中でも魔物寄りの姿をしている半獣人の悪魔。

特に物理に特化している実力者だ。

当然だが1対1では勝負にすらならないため、ヒューマン側は5名での集団戦闘訓練という体で行っていた。

「はあ、はあ、はあ。…ザ、ザッガンルーバ殿…模擬戦、ありがとうございます」
「うむ。俺にとっても意味のある鍛錬だった。またお願いしたいものだ」

(ふむ。ヒューマンは本当に義を重んじるのだな…かような模擬戦、それにすら謝意を示すとは。…もっとも“この国だから”、と言うことかもしれぬが)

ついこの前まで怨敵だった両陣営。
お互いの弱点を熟知している両者。

このような模擬戦でもお互いに得る物は多かった。

何より想定しているよりもずっと強いヒューマンたち。

もちろん純粋な力では全く悪魔に及ばないが。
それを補うための工夫、そして研鑽。

ヒューマンに比べ絶対強者であるザッガンルーバは魔王の言葉を思い出していた。


※※※※※


絶対者である魔王ギルイルド。

きつく釘を刺されていたことが脳裏に浮かぶ。

『いい?あんたたちは強い。でもね。ヒューマンだからってバカにしちゃいけないよ?!彼らには個を犠牲にしてでも集団を守る覚悟があるんだ。そして彼らはきっかけでとんでもなく強くなる可能性がある。…甘く見ると足元をすくわれるよ』

魔力を噴き上げ鋭い視線を我らに向ける魔王様。
自然と背筋が伸びたことを思いだす。

『…何しろボクの旦那になるライトだって元はただのヒューマンだ。あんたたちが束になったってかなわないんだからね。…ライトが愛しているこの国に対して酷い事をしたら…分かってるよね?!』

今思い出しても冷や汗をかいてしまう魔王ギルイルドの威圧。

あの魔王様と女神の一騎打ちのとき。
ライト様全力の魔力により力を増した我ら。

しかし魔王様はそんな俺たちの数段高みにいるのだ。


※※※※※


もちろん誰も知り得ない事だが。

式典の日。
かの帝国の宰相がアーティーファクトでこっそり確認した魔王の魔力数値(レベル)は400越え。

しかし当然ながら隠蔽している。
実際には今すでにルイは700を超えていた。

最強であるライトがカンストの1000、それに次ぐ女神ティアリーナ720。
そして魔王ギルイルド・レゾナルーダは715。

まさに天上の存在だった。


※※※※※


そんな超絶者たちと我が国が誇る近衛兵の鍛錬の様子。

修練所に併設されている観覧席で、一人の少女が父親であるロキラスの腕を取り、興奮気味に目を輝かせていた。

「ふわー。凄いですわ、お父様。…あのおっきい方…すっごく強いですわ」
「う、うむ。少し落ち着きなさい」

ロキラスの長女シャルル。
現在8歳。
ライトの婚約者として『教育を進められている』少女だ。

実は今回のこの見学。
『将来の為』と国王に言われて連れてきたものだった。

ライトとともにある未来。
そのためには国内の戦力の把握、少しでもした方が良い。

恐がると思いきや、さすがは王家の血を引く少女。
肝が据わっている。

そんな事に気を取られつつもロキラスは思考を巡らせていた。


※※※※※


既にロキラス自身は王族を抜ける算段が付き、来年には公爵位を叙爵されることが決まっていた。

もちろん本来は、兄であり皇太子としてすでに公務を務めているオブレイド第一王子の即位を持ってからの叙爵。

だったのだが。

どういう訳か陛下が痛くライトを気に入ってしまったため、シャルルのみならず、ロキラスの腹違いの妹である第3王女リュイネまでをも、婚約者候補にねじ込もうと画策をしている状況だ。

そんなわけで認められた王籍からの除籍。
国のためにと、自身の娘の将来を決めてしまっていたロキラスは複雑な思いが噴出してしまう。

何はともあれ来年には幼少部へと入学が決まっている娘シャルル。
権威ある公爵家の娘。

通常の婚約なら問題はないのだが。

相手は何といってもあのライトだ。
思わずため息が出てしまう。

(…まあ。…ライトの事だ。きっと我が娘も愛してはくれるのだろう。…だが…)

この国は一夫多妻制が認められている。
だがロキラス自身はそれについては否定派だ。

何より彼は妻を愛しており、同時に数名を愛するなどあり得ないと思っているくらいだ。

もちろん彼だって王国の王子。
幼少の頃より婚約者は数名いた。

しかし学園で今の妻、オーウェン伯爵の息女フィアリナと知り合い恋に落ちた。

当然ロキラスはライトのことを高く評価しているし、自分とは比べるべくもない器の大きな人物であると確信している。

だが彼とて愛する娘の父親だ。
出来れば自身の娘を、真に愛する人の元へ嫁いでほしいと思うのは仕方がない事だろう。

(…我が異母妹である第3王女リュイネ…その婚姻がまとまるのなら――我が娘には別の道も…)

正直娘であるシャルルは今現在ライトとの面識はない。

それに実のところライトは。
別に部類の女好きではない。

話せば、何より普段の彼を見ていればわかる。
彼は通常の倫理観を持つ男性。

そんな思いにわずかな希望を見出していた。

(…一度ライトと話をしてみるか…)

はしゃぎながら近衛兵たちと魔将の模擬戦に目を輝かせている愛娘を見やり、ロキラスは静かに決意を固めていた。


※※※※※


「いいですよ」
「う、うむ」

訪ねたライトの暮らす寮のリビングルーム。
さんざん悩んだ挙句、自ら言い出したことに対しあまりにも格好悪いのだが…

婚約の解消の打診をしたその回答が、冒頭の言葉だった。

「はあ。良かった。…だって僕、まだお嬢さんと会っていませんもんね。できればこんな色々と“訳アリ”の男なんかよりも、お嬢さんであるシャルルさんを真に愛してくれる男性の方がいいですよ」

「あ、う、うむ。…だ、だが…」

思っていたことをズバリと言うライト。
逆になぜか申し訳なさが前面に出てしまう。

「それに」
「…それに?」

「ロキラス殿下の腹違いの妹君、僕の婚約者確定なのですよね?…“王国の楔”、それで十分では?…もっとも僕はこの国を捨てる気はないですけど」

「っ!?」

ライトが転生者であること。
ロキラスは既にサルツより聞いていた。

何よりついこの前、本当の姿を見せてもらっている。
遥かに達観した言葉。

全て承知。
そして受け入れる覚悟。

余りにも卓越した存在と改めて認識してしまう。
何故か居た堪れなくなってしまっていた。

「…すまない。…色々と迷惑をかけた」
「ん?いやいや、迷惑なんて思っていません。…何よりロキラス殿下は僕や父上たち家族の恩人です。…あの時あなたが止めてくださった事実、僕は恩しかありません」

ライトが5歳の時。
実は王国の権力者たちはライトを危険視し、軟禁するつもりだった。

それを防いだのはロキラスの働きと、道理をわきまえている陛下の言葉だった。

すでにライトは。
その事実までをも承知をしていた。

「僕は別に威張ろうだとか、何かを思い通りに動かそうとか…そう言う欲はありません。ただ僕の好きな人たちが、笑って暮らせたらいいなって思っています。だからあの時僕を守ってくださった殿下と陛下には感謝しかないんです」

真剣な真直ぐな言葉。
そしてそれを通せる覚悟と実力。

ロキラスは改めてライトの器の大きさに、心の中で感嘆の言葉を漏らしていた。


※※※※※


取り敢えず話し合いは終わり、今は僕と殿下の二人で紅茶を楽しんでいる所だ。
先ほどからティアが覗いてきていたけど。

僕のお願いを聞き、今彼女にはキャルンの鍛錬を見てもらっていた。

今日は木曜日。
あと2日しかないからね。

そんなことを思っていた僕に、唐突に殿下が話しかけてきた。

「…なあライト」
「はい」
「婚約は解消だ…だが自由恋愛なら私は止めはしない」

「はい?!」

そしてなぜか優しげな瞳で僕を見つめる殿下。
とんでもない事を言い出した。

「我が娘シャルル。実にいい女だぞ?まだ8歳だが将来は我が妻に似てすさまじい美人になるだろう」

「…えっと?…な、なにか話の方向がおかしいような…」
「…まさかライト。我が娘、不満だとかは言わぬよな?」

うん?
婚約の解消、したばかりだよね?

なんか話の方向がおかしいような…

「お前が『どうしても』というのなら私は許可するぞ?」
「…はい?」

うー。
ロキラス殿下?

なんか変なスイッチ入っちゃってるような…

「取り敢えず婚約は解消だ。だが私は今回の件でさらにお前を気に入ってしまった。できれば息子にしたいと思う」
「はあ?!」

「うん?不服か?」
「っ!?い、いえ、そういう訳じゃ…」

なぜか大きくため息をつくロキラス殿下。
そしてゆっくりと口を開いた。

「すまんな。…我ながらめちゃくちゃだ。混乱しているのだ。…支離滅裂にもほどがある…だがライト。これだけは信じてほしい」

「……」

「お前は俺の親友の息子だ。そして愛する我が国の国民。それは絶対に変わらん。…そして尊敬する人生の大先輩だという事もな」

「っ!?」

ロキラス殿下は彼らしからぬ、ガジガジと頭を乱暴にかきむしる。

「つまり俺はお前に惚れたんだ。同じ男としてな。…だからより近くにいたいしずっとお前を見たい、かかわっていきたいんだ。…親子として、友として…そして同志として、な」

ああ。
本当にこの人は。

王子なのに真直ぐすぎて…
心配になってしまう。

僕は改めて殿下の瞳を見つめた。

「…ありがとうございます。殿下の想い、しかと承りました。…婚姻の件は出会ってからです。その時には真剣に応対することここに誓います」

「ああ。まあ我が娘はしっかりとした目を持っている。早いか遅いかだ。…覚悟しろよライト?我が娘はしたたかだぞ?」

「ハハ、ハ。…お手柔らかに」


※※※※※


結局。

僕のお嫁さん候補。

その数は変わらないようだった。
ていうか。

いつの間にか殿下の腹違いの妹、増えてますけど?!

――8人目?


ハハハ、ハ。

『…せめて10人くらいには押さえて欲しいのだけれど?』

お母様のあの言葉。
それを思い出した僕は身震いしていたんだ。
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