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『拓郎との約束とルインのダンス』
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魔王との決戦が終幕し、勝ち取った平穏を享受し少し経ったころ。俺のスマホへと一つのラインが届いた。
『煉太、そろそろ動画制作しようぜ!』
見て見ぬフリをしそうになったが、送り主の拓郎には返しきれない借りがある。仕事が始まればどのみち手伝えないので、今のうちに協力しておくのが吉だろう。
今日中にでも可能なのかと返信すると、すぐに既読がついて「おう!」と勢いのいい返事がきた。今は午前の九時ぐらいなので、上手く立ち回れば昼食時に切り上げることも可能だろう。
「エリシャ、ルイン。急だけどちょっと拓郎のとこに行ってくる」
一緒に日本語学習していた二人に言い、俺は外着へと着替えていった。すると玄関口の方までルインが来て、拓郎の元で何をやるのか質問してきた。
「たぶんだけど、前見た創作ダンス撮影とかじゃねぇかな。ほら、初めて図書館に行った時に金髪の奴がくねくね踊ってただろ?」
「ダンス撮影……、ルインも見に行っていい?」
「うーん。ダメってことはないけど、たぶんルインにはつまらないぞ?」
「いいよ。それに拓郎さんに、まだ感謝を伝えてなかったから」
雪の日の救出劇の時は、ルインは疲れて眠ってしまっていた。そういうことならばと、俺はルインも連れて行くことにした。
(まぁ、今日の撮影場所は前回見た図書館の敷地らしいから。飽きたらルインにはそっちで時間を潰してもらうのも一応可能だしな)
念のためエリシャにも詳しい事情を相談し、最終的に皆で出かけることになった。拓郎からのラインは「ギャラリーは大歓迎だぜ!」というもので、むしろ大人数の方が嬉しそうだった。
「それじゃあ終わったら、今日こそ喫茶店で美味しいものを食べるか」
「うん!」
嬉しそうなルインと手を繋ぎ、俺たちは三人で外へと繰り出した。
俺たちが図書館前に到着すると、拓郎はすでに準備を済ませて待っていた。
「よう、煉太! こっちだこっち!」
拓郎は歩いてくる俺たちへ向け、元気よく腕をブンブン振るっていた。近くまで行くとセットしていたカメラから離れ、何故か俺の隣にいるエリシャを見てピタリと止まった。
「やばっ……、昼間に見るエリシャさんめっちゃ綺麗やん……」
急に髪をセットし始め、顔に冷や汗を浮かべ、拓郎はギクシャクした動きで近づいてきた。
「おっ……、おはようございます。エリシャさんの方も……、ご機嫌麗しゅう」
大げさに腕を振り上げ、それを恭しいお辞儀と共に振り下ろしていた。身体のぎこちなさも相まってかなり変な動きで、俺は初めて見る拓郎のキモイ姿に「突然どうした」と疑問を投げた。
「……いやさ、改めて見てみると美人過ぎて、変なテンションになっちまった。俺も異世界に行けば、あんの子をモノにできるのか?」
「頑張り次第だな。分かってると思うが、エリシャは俺の嫁だから色目は使うなよ」
「うげ、自信ねぇ……」
顔を突き合わせてヒソヒソ話をしていると、エリシャとルインが不思議そうに俺たちを見ていた。一旦話し合いを打ち切り、本題の撮影をすることに決めた。
「それじゃあ俺は、そこのカメラでお前を撮ればいいのか?」
拓郎が用意していたビデオカメラは結構デカい奴で、相場に詳しくない俺でも高そうだと分かった。話を聞くと値段は十万越えしているらしく、想像以上に配信業へ力を入れているのだなと感心した。
(こんな立派な奴だと、なんかやる気が湧いてくるな)
子供心的な思いがくすぐられ、俺は早速拓郎にカメラの使い方を聞いた。だが返ってきた返答は、俺の湧き上がってきたやる気を一瞬で元に戻すものだった。
「……まぁ、それは持ってきただけで、今日は使わないだよね」
「は?」
「いやぁ、買ったはいいんだけど。操作が複雑でまだ使い方がよく分かってないんだよねぇ。おいおい使えるようにするから、今日はスマホでやろうぜ!」
ポカンとする俺の手に、拓郎のスマホがポンと置かれた。俺は横目で高級感溢れるビデオカメラを見つめ、もう一度手元のスマホに視線を戻した。
(…………うん、まぁ。別にいいけどさ)
そもそも何故持ってきたのだという疑問はあったが、理由はただ自慢したかっただけだろうと察し辞めた。
エリシャとルインは木陰にレジャーシートを広げ、少し離れた位置で俺たちを見守ってくれていた。俺と拓郎は二人や通りすがりの人たちに見られながら、目的だったダンス撮影を開始することとなった。
「―――どうだ、煉太! 今のめっちゃ決まってただろ⁉」
「うーん……たぶん」
「あっ、でももう一回やりたくなってきた! 悪いけどもう一回撮影頼むぜ!」
「…………おう」
一通りダンスが終わり、拓郎はビシッと決めポーズを取った。俺は「いいんじゃないか」と精いっぱいの返事をし、内心でこれまでと今のダンスのことを考えた。
(……なんだこのダンスは? 盆尾通り? パラパラ? フラダンス? なんですべて動きに、くねくねした動作があるんだ……?)
やはり常人には理解しえないものなのだろうか。
一つだけ凄いと思ったのは、一見バラバラな動きにちゃんと連続性のようなものが見い出せたことだ。拓郎が創作ダンスを始めたのは中学生ごろかららしいので、本人的には完成したものなのかもしれない。
困惑しつつもまた撮影を進めていくと、俺の近くにルインが歩み寄ってきた。そして服の袖をクイと引き、じっとくねくねする拓郎を見て恐ろしいことを口にした。
「パパ、タクロウさんの動き……凄いね」
「……?」
「ここが日本じゃなかったら、とんでもないことになっていたと思う。あんな稀代の才能を持つ人が近くにいるなんて、さすがはパパだね」
「…………??」
ルインが何を言っているのか分からず、俺は終始頭に疑問符が浮かんでいた。あのダンスにどういう意味があるのか聞いても、「分かってるくせに」と理解顔で言われてしまった。
困惑で撮影の手が止まっていると、ルインは拓郎へと近づいていった。そして創作ダンスの内容を聞き、一緒に踊りの練習を始めてしまった。
ルインがくねくね踊る姿は愛らしかったが、相変わらず俺は置いてけぼりだ。諦めてルインの姿を撮影していると、エリシャも俺たちの方に歩いてきた。
「……拓郎さんの踊りには、高度な魔法式に通ずるものがありますね。私としても参考になります」
「???」
結局理解できぬまま、拓郎と一緒の撮影会は終わった。
……ちなみに今回の動画は、再生数が短い期間で一万回を超えた。
理由はメインで踊っているルインが可愛かったからというもので、ダンスそのものについては「変な動き」とか「理解不能」とか「男どっかいけ」という感じのが多数だった。
(俺がおかしいのかとも思ってたけど、違ったようで良かった……)
もし拓郎が異世界に行っていれば、ダンスで世界を取っていたかもしれない。そんな冗談……かもしれないことを考え、俺はルインが踊っている動画を閉じた。
『煉太、そろそろ動画制作しようぜ!』
見て見ぬフリをしそうになったが、送り主の拓郎には返しきれない借りがある。仕事が始まればどのみち手伝えないので、今のうちに協力しておくのが吉だろう。
今日中にでも可能なのかと返信すると、すぐに既読がついて「おう!」と勢いのいい返事がきた。今は午前の九時ぐらいなので、上手く立ち回れば昼食時に切り上げることも可能だろう。
「エリシャ、ルイン。急だけどちょっと拓郎のとこに行ってくる」
一緒に日本語学習していた二人に言い、俺は外着へと着替えていった。すると玄関口の方までルインが来て、拓郎の元で何をやるのか質問してきた。
「たぶんだけど、前見た創作ダンス撮影とかじゃねぇかな。ほら、初めて図書館に行った時に金髪の奴がくねくね踊ってただろ?」
「ダンス撮影……、ルインも見に行っていい?」
「うーん。ダメってことはないけど、たぶんルインにはつまらないぞ?」
「いいよ。それに拓郎さんに、まだ感謝を伝えてなかったから」
雪の日の救出劇の時は、ルインは疲れて眠ってしまっていた。そういうことならばと、俺はルインも連れて行くことにした。
(まぁ、今日の撮影場所は前回見た図書館の敷地らしいから。飽きたらルインにはそっちで時間を潰してもらうのも一応可能だしな)
念のためエリシャにも詳しい事情を相談し、最終的に皆で出かけることになった。拓郎からのラインは「ギャラリーは大歓迎だぜ!」というもので、むしろ大人数の方が嬉しそうだった。
「それじゃあ終わったら、今日こそ喫茶店で美味しいものを食べるか」
「うん!」
嬉しそうなルインと手を繋ぎ、俺たちは三人で外へと繰り出した。
俺たちが図書館前に到着すると、拓郎はすでに準備を済ませて待っていた。
「よう、煉太! こっちだこっち!」
拓郎は歩いてくる俺たちへ向け、元気よく腕をブンブン振るっていた。近くまで行くとセットしていたカメラから離れ、何故か俺の隣にいるエリシャを見てピタリと止まった。
「やばっ……、昼間に見るエリシャさんめっちゃ綺麗やん……」
急に髪をセットし始め、顔に冷や汗を浮かべ、拓郎はギクシャクした動きで近づいてきた。
「おっ……、おはようございます。エリシャさんの方も……、ご機嫌麗しゅう」
大げさに腕を振り上げ、それを恭しいお辞儀と共に振り下ろしていた。身体のぎこちなさも相まってかなり変な動きで、俺は初めて見る拓郎のキモイ姿に「突然どうした」と疑問を投げた。
「……いやさ、改めて見てみると美人過ぎて、変なテンションになっちまった。俺も異世界に行けば、あんの子をモノにできるのか?」
「頑張り次第だな。分かってると思うが、エリシャは俺の嫁だから色目は使うなよ」
「うげ、自信ねぇ……」
顔を突き合わせてヒソヒソ話をしていると、エリシャとルインが不思議そうに俺たちを見ていた。一旦話し合いを打ち切り、本題の撮影をすることに決めた。
「それじゃあ俺は、そこのカメラでお前を撮ればいいのか?」
拓郎が用意していたビデオカメラは結構デカい奴で、相場に詳しくない俺でも高そうだと分かった。話を聞くと値段は十万越えしているらしく、想像以上に配信業へ力を入れているのだなと感心した。
(こんな立派な奴だと、なんかやる気が湧いてくるな)
子供心的な思いがくすぐられ、俺は早速拓郎にカメラの使い方を聞いた。だが返ってきた返答は、俺の湧き上がってきたやる気を一瞬で元に戻すものだった。
「……まぁ、それは持ってきただけで、今日は使わないだよね」
「は?」
「いやぁ、買ったはいいんだけど。操作が複雑でまだ使い方がよく分かってないんだよねぇ。おいおい使えるようにするから、今日はスマホでやろうぜ!」
ポカンとする俺の手に、拓郎のスマホがポンと置かれた。俺は横目で高級感溢れるビデオカメラを見つめ、もう一度手元のスマホに視線を戻した。
(…………うん、まぁ。別にいいけどさ)
そもそも何故持ってきたのだという疑問はあったが、理由はただ自慢したかっただけだろうと察し辞めた。
エリシャとルインは木陰にレジャーシートを広げ、少し離れた位置で俺たちを見守ってくれていた。俺と拓郎は二人や通りすがりの人たちに見られながら、目的だったダンス撮影を開始することとなった。
「―――どうだ、煉太! 今のめっちゃ決まってただろ⁉」
「うーん……たぶん」
「あっ、でももう一回やりたくなってきた! 悪いけどもう一回撮影頼むぜ!」
「…………おう」
一通りダンスが終わり、拓郎はビシッと決めポーズを取った。俺は「いいんじゃないか」と精いっぱいの返事をし、内心でこれまでと今のダンスのことを考えた。
(……なんだこのダンスは? 盆尾通り? パラパラ? フラダンス? なんですべて動きに、くねくねした動作があるんだ……?)
やはり常人には理解しえないものなのだろうか。
一つだけ凄いと思ったのは、一見バラバラな動きにちゃんと連続性のようなものが見い出せたことだ。拓郎が創作ダンスを始めたのは中学生ごろかららしいので、本人的には完成したものなのかもしれない。
困惑しつつもまた撮影を進めていくと、俺の近くにルインが歩み寄ってきた。そして服の袖をクイと引き、じっとくねくねする拓郎を見て恐ろしいことを口にした。
「パパ、タクロウさんの動き……凄いね」
「……?」
「ここが日本じゃなかったら、とんでもないことになっていたと思う。あんな稀代の才能を持つ人が近くにいるなんて、さすがはパパだね」
「…………??」
ルインが何を言っているのか分からず、俺は終始頭に疑問符が浮かんでいた。あのダンスにどういう意味があるのか聞いても、「分かってるくせに」と理解顔で言われてしまった。
困惑で撮影の手が止まっていると、ルインは拓郎へと近づいていった。そして創作ダンスの内容を聞き、一緒に踊りの練習を始めてしまった。
ルインがくねくね踊る姿は愛らしかったが、相変わらず俺は置いてけぼりだ。諦めてルインの姿を撮影していると、エリシャも俺たちの方に歩いてきた。
「……拓郎さんの踊りには、高度な魔法式に通ずるものがありますね。私としても参考になります」
「???」
結局理解できぬまま、拓郎と一緒の撮影会は終わった。
……ちなみに今回の動画は、再生数が短い期間で一万回を超えた。
理由はメインで踊っているルインが可愛かったからというもので、ダンスそのものについては「変な動き」とか「理解不能」とか「男どっかいけ」という感じのが多数だった。
(俺がおかしいのかとも思ってたけど、違ったようで良かった……)
もし拓郎が異世界に行っていれば、ダンスで世界を取っていたかもしれない。そんな冗談……かもしれないことを考え、俺はルインが踊っている動画を閉じた。
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