カスタムキメラ【三章完結】

のっぺ

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第40話『遭遇戦』

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 武人カマキリの標的となったのは図体がでかい俺だ。二度目の通過はより高度が低く、背の高い土の段差もろとも大鎌でスライスされる。何とか横っ飛びで回避するが、切っ先をかすった岩が無残に砕け割れた。

(――――そりゃ岩石の巨人ともやり合ってたしな。この程度は障害にもならないか。隠れててもいずれ切り殺される。……なら!)

 俺は大剣を両方地面に突き刺し、暴風の発射姿勢を取った。武人カマキリは攻撃時に直線軌道を取るため、ここなら撃ち落とせると予測した。

「――――ギィ! ギラァァァァァァァ!!」

 ギリギリまで引き付け、威圧の咆哮と共に暴風を発射する。だが武人カマキリは高速飛行の最中に身体を傾け、微妙に進入角度をズラす。二射目でその身を捉えようとするが間に合わず、三度目の大鎌が迫ってくる。
 とっさに倒れ伏した瞬間、ギンッと金属が弾ける音が響いた。防御のために設置していた大剣はどちらも折れ、柄付きの破片が後方へと吹っ飛んでいった。

(…………っ、マジかよ)

 スキルによる乗算防御など関係ない、あれを受けるのは不可能だ。何としても逃げるべきだったが、武人カマキリは容赦なく四度目の旋回軌道に入った。
 物陰を探して近くの林に飛び込むが、そこも大鎌で裂かれた。ミトラスとグロッサも銃で応戦してくれるが、豪速の武人カマキリに命中することはなかった。

「あんにゃろう! 正々堂々戦えっす!! うがー!」
「くそっ! そこの勇者様はまだ起きねぇのか!?」
「ギウガ、ガウ!」
「叩いてもダメっす! 完全に寝てるっすよ!」
「……いっそおとりに使うか? だが……」

 新しい潜伏先も平らにされ、切断された木々が威力を持って降ってきた。
 今更だがリーフェと見た広い瓦礫地形の正体を知り、厄介さで奥歯を噛みしめた。

(……せめて地上に下ろさなきゃ話しにならないぞ。暴風さえ当てれば落ちてくれるかもしれないが、その隙はどうやって作ればいい)

 二人を庇いながら森を進むと、ミトラスがつまづき転んだ。
 足元にあったのは岩場の影にいた鹿魔物の頭で、俺はハッと思いついた。

(――――そうか、もしかしたら!)

 ギウガウと鳴いて二人を誘導し、ゴリラ魔物の元まで走った。ゴリラ魔物は初遭遇時と同じ状態で固まっており、その後ろへと三人で飛び込んだ。
 武人カマキリは突如視界に映ったゴリラ魔物へと狙いを定め、赤黒い体毛と肉を大鎌で断とうとし……止まった。

「ギチッ!? ギチギチギチギチ!!??」

 ガギンという重い高音を響かせ、武人カマキリは体勢を崩した。
 勢いのまま俺たちの横を通り過ぎ、木々をなぎ倒す形で転がっていった。
 予想通り固定化された魔物は硬く、ストッパーの役目を果たしてくれた。相手が復帰する前に逃げようとするが、すぐ後ろで地鳴りが起きた。あれだけの速度で墜落したのに武人カマキリは健在だったのだ。

「ギチ、ギチ、ギチギチギチギチギチギチギチギチ!!!」

 奇怪な鳴き声に肝を冷やすが、それでも目に見えたダメージがあった。片方の鎌は刃こぼれし、高い空戦能力を誇る羽がクシャクシャに折れていた。
 俺たちはゴリラ魔物を盾にし、大鎌の突き刺しを防いだ。元々勝ち目の薄い戦いのなので撤退を視野に入れるが、退路は木々の瓦礫で埋まっていた。
 生き残るためには相手を追い払うしかなく、覚悟を決めた。
 俺が先陣を切って駆け込み、グロッサとミトラスも応戦を開始した。

「――――行くっすよ! 先輩!」
「…………しゃあねぇ、やったるか」

 ミトラスは接近戦を行う俺と武人カマキリの横を駆け、背に回していた単発式の散弾銃を構えた。挑発として一発目を放ち、繰り出された薙ぎ払いをスライディングで避けてみせ、二発目の弾を装填した。

「へいへい! こっちっすよ! おらぁ!」

 銃弾など豆鉄砲ほどの威力にもならないが、武人カマキリは怯んだ。あの弾丸には魔除けの魔石の粉末が練り込まれており、関節的な痛みを与えることが可能だ。
 撃ち終わった二発目を捨て、ミトラスは口に加えた三発目の弾を装填する。武人カマキリは邪魔者を狩ろうと大鎌を広げるが、俺が先に動く。辺りに散らばっていた木々の瓦礫を掴み、奴の顔面目掛けて投げ込んだ。

「ナイスっす! クー隊員!」
「ギウッ!」
「こいつを倒せれば昇進間違いなしっすよぉ!!」

 ミトラスは安全域の木まで駆け、幹のデコボコを足場に跳ぶ。さらに枝を掴んで登り、身体を回転させながら機敏に上昇する。葉っぱの隙間から銃声が鳴るが、鎌が振られた場所にミトラスはもういない。

「ギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチ!!!」

 手あたり次第大鎌が振られるが、ゴリラ魔物の盾で防ぎきった。
 グロッサは安全な場所に移動し、長銃による狙撃を浴びせる。武人カマキリは苛立って喉を鳴らし、急に目の色を黒から赤へと変えた。

(――――これは?)

 嫌な予感がするが、戦況はこちらが有利だ。ミトラスとグロッサも同じ考えで、このまま押し切り勝てると確信する。……だが甘かった。
 武人カマキリは急に動きを止め、大鎌を胸元でクロスさせた。最初は防御行動を取ったのかと思ったが、危機察知スキルは冷たい殺気を伝えてきていた。

「…………なんだ?」
「…………止まったっすね」

 チャンスとばかりに銃弾が撃ち込まれるが、一切動じてなかった。武人カマキリは足だけの跳躍で真上へ飛び、折れた羽を震動させて滞空した。
 大鎌がどけられて胸部が晒されるが、そこには白い光が煌めていた。
 俺とミトラスはゾッと背筋を震わせ、グロッサを連れてこの場から逃げた。

「おい! そっちは調査基地と逆方向だぞ!」
「そんなこと言ってる場合じゃないっす! 魔力がグワングワンしてるっす!」
「なに!?」
「魔力持ちは分かるんっすよ! あれからは全力で逃げなきゃ死ぬっす!!」

 幾重にも茂みを飛び越すが、これでもまだ足りなかった。俺はミトラスの先導に従い、グロッサを両手で抱えたまま森の中を駆けていった。
 武人カマキリは全身に白い光を纏い、上半身を地上に向ける。輝きが一番の高まりを見せた瞬間、巨体が流星のごとき速度で落ちてくる。

「…………あーあ、これは厄介だねぇ」

 背中から青の勇者の声が聞こえ、直後白い光が差し込んできた。
 巻き起こったのは高威力の衝撃波で、真下の大地が地鳴りと共に崩壊した。

「ちょっ!?」
「な?」
「ギウ!!?」

 俺たちはどうすることもできず落下した。真上に映る空が遠ざかり、視界は黒一色に塗りつぶされていく。人生二度目の敗北を喫した。
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