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第二百十四話『悪意と信仰1』
門の前に着くと騎士が数人集まっているのを見かけた。
俺たちを見ると顔を見合わせ、話の内容を知らせてくれた。
「……実は先日、王国の外にある村が魔物に滅ぼされたんです。ここ最近では珍しい話でもないですが、気になる情報がありまして」
難民は国に留まらず、まっすぐアストロアスを目指しているという。先導を行っている者が何者か聞くと、意外な名前が出てきた。
「難民は女神様の導きに従っていると言っているのです。ただ早馬で確認に向かった者の話を聞くに、我々の知る女神様とは別人のようでして」
「別人?」
「髪は灰色で顔立ちは静か、加えて槍使いの女性でした。他の特徴をまとめても、魔物災害の夜に見たルーラニアス様とは似ても似つきません」
ルーラニアス、とはアストロアスの住民が決めた女神の名前だ。難民らは先導を行っている女性の名前を知らず、ただ「女神様」と呼んでいるとか。
(……灰色の髪に槍の使い手って)
思いつく人物は一人しかいなかった。いずれ俺たちの前に現れるとは思っていたが、難民を引き連れている意味が分からなかった。嫌な予感がした。
本来なら検問で止め、入国の目的を確認するはずだった。だが気づいた時には突破されていたらしく、難民は徒歩で数時間の距離にきているそうだ。
「…………ガーブランドさん、これって」
「催眠術で兵士を眠らせたのであろうな」
様子を見てくると言い、ニーチャを下ろした。
ついて行くと言われるが、穏当に諭して断った。
「昼間のお主はろくに力が使えぬであろう。日が暮れるまで安全な場所におり、何かあったら動けるように準備をしておくのだ。よいな」
「…………うん、分かった」
「そう心配するでない。あの夜の吾輩には迷いがあったが、もう消えた。トリエルに何をされても、遅れを取ることはないと約束しよう」
ガーブランドは騎士から馬を借り、門の前から去った。
難民の接近は広く周知され、祭りの準備が中断された。
アストロアスの方針として魔物災害に遭った者たちはできるだけ受け入れているが、いささか規模が大きかった。住居の用意は間に合わぬし、アストロアス内での決まり事を共有させる時間もなかった。
「……しかし帰ってもらうわけにもいかんだろうて。彼らは女神様に救われた者たち、これもルーラニアス様のお導きかもしれん。温かく迎え入れてやるべきだ」
中央区画の村長の言葉に住民らが同意した。
トリエルの行動はルルニアの意思と何の関係もなかったが、指摘はできなかった。住民らの人の良さとルルニアの素性を隠すしかない事情が、危険を呼び込む流れを生んでしまった。
「おうさ! まずは話を聞いてみるべきだっぺよ!」
「祭りの前で食材はある。腹いっぱいに食わせてやろう」
「掘っ立て小屋なら何とか作ってやれなくもないべ」
俺はもっと慎重を期すべきだと意見を出した。各区画の村長もそこについては同意し、難民らに関する対応を決めた。まずは難民全員でなく、責任者数名を中に入れることになった。
(……今できるのはこれぐらいか)
ガーブランドからの一報を待ちたかったが、姿が見えなかった。仕方ないのでニーチャに言伝をし、一度家に帰らせた。ルルニアが山を下りぬよう、プレステスに見張ってもらう手はずにした。
「ねぇ、グレイゼル。これはどういう騒ぎよ?」
大通りを歩いているとドーラから声を掛けられた。後ろにはクレアを含めた四人のサキュバスがおり、町の案内をしている途中と知らされた。
「詳しい事情は分からないが、トリエルが難民を大勢連れてきたそうだ」
「……トリエル?」
「前にクレアと一緒にアストロアスに襲撃を仕掛けたサキュバスだ。ここで何かを始める気だろうが、それが何かさっぱり分からなくてな」
もしもの備えとして、クレアとドーラには心構えをしてもらった。
これで戦力は十分となったが、胸中の不安は消えてくれなかった。
(……もし住民を襲う素振りを見せたら、俺が始末をつける)
そうこうしているうちに難民の列が見え、門が開かれることとなった。こちら側の提案を向こうは承諾し、選別された四人が中に入ってきた。先頭にはトリエルがおり、人間を引き連れていた。
「ようやく着きましたね、女神様!」
「皆もよく頑張ったこれでこっちの目的は達成された」
「何をおっしゃいますか! 今後も我ら信徒をお見守り下さい!」
難民の声に笑みで応えるが、目元は笑っていなかった。何らかの計画を実行するつもりなのは間違いなく、俺は腰に差した剣の柄を握って待機した。
「…………トリエルちゃん」
クレアがそう言うと、トリエルは口角を上げた。
温かな空気を破るように、破滅を呼ぶ声がした。
「────女神の試練をあなたたちは乗り越えられる?」
俺たちを見ると顔を見合わせ、話の内容を知らせてくれた。
「……実は先日、王国の外にある村が魔物に滅ぼされたんです。ここ最近では珍しい話でもないですが、気になる情報がありまして」
難民は国に留まらず、まっすぐアストロアスを目指しているという。先導を行っている者が何者か聞くと、意外な名前が出てきた。
「難民は女神様の導きに従っていると言っているのです。ただ早馬で確認に向かった者の話を聞くに、我々の知る女神様とは別人のようでして」
「別人?」
「髪は灰色で顔立ちは静か、加えて槍使いの女性でした。他の特徴をまとめても、魔物災害の夜に見たルーラニアス様とは似ても似つきません」
ルーラニアス、とはアストロアスの住民が決めた女神の名前だ。難民らは先導を行っている女性の名前を知らず、ただ「女神様」と呼んでいるとか。
(……灰色の髪に槍の使い手って)
思いつく人物は一人しかいなかった。いずれ俺たちの前に現れるとは思っていたが、難民を引き連れている意味が分からなかった。嫌な予感がした。
本来なら検問で止め、入国の目的を確認するはずだった。だが気づいた時には突破されていたらしく、難民は徒歩で数時間の距離にきているそうだ。
「…………ガーブランドさん、これって」
「催眠術で兵士を眠らせたのであろうな」
様子を見てくると言い、ニーチャを下ろした。
ついて行くと言われるが、穏当に諭して断った。
「昼間のお主はろくに力が使えぬであろう。日が暮れるまで安全な場所におり、何かあったら動けるように準備をしておくのだ。よいな」
「…………うん、分かった」
「そう心配するでない。あの夜の吾輩には迷いがあったが、もう消えた。トリエルに何をされても、遅れを取ることはないと約束しよう」
ガーブランドは騎士から馬を借り、門の前から去った。
難民の接近は広く周知され、祭りの準備が中断された。
アストロアスの方針として魔物災害に遭った者たちはできるだけ受け入れているが、いささか規模が大きかった。住居の用意は間に合わぬし、アストロアス内での決まり事を共有させる時間もなかった。
「……しかし帰ってもらうわけにもいかんだろうて。彼らは女神様に救われた者たち、これもルーラニアス様のお導きかもしれん。温かく迎え入れてやるべきだ」
中央区画の村長の言葉に住民らが同意した。
トリエルの行動はルルニアの意思と何の関係もなかったが、指摘はできなかった。住民らの人の良さとルルニアの素性を隠すしかない事情が、危険を呼び込む流れを生んでしまった。
「おうさ! まずは話を聞いてみるべきだっぺよ!」
「祭りの前で食材はある。腹いっぱいに食わせてやろう」
「掘っ立て小屋なら何とか作ってやれなくもないべ」
俺はもっと慎重を期すべきだと意見を出した。各区画の村長もそこについては同意し、難民らに関する対応を決めた。まずは難民全員でなく、責任者数名を中に入れることになった。
(……今できるのはこれぐらいか)
ガーブランドからの一報を待ちたかったが、姿が見えなかった。仕方ないのでニーチャに言伝をし、一度家に帰らせた。ルルニアが山を下りぬよう、プレステスに見張ってもらう手はずにした。
「ねぇ、グレイゼル。これはどういう騒ぎよ?」
大通りを歩いているとドーラから声を掛けられた。後ろにはクレアを含めた四人のサキュバスがおり、町の案内をしている途中と知らされた。
「詳しい事情は分からないが、トリエルが難民を大勢連れてきたそうだ」
「……トリエル?」
「前にクレアと一緒にアストロアスに襲撃を仕掛けたサキュバスだ。ここで何かを始める気だろうが、それが何かさっぱり分からなくてな」
もしもの備えとして、クレアとドーラには心構えをしてもらった。
これで戦力は十分となったが、胸中の不安は消えてくれなかった。
(……もし住民を襲う素振りを見せたら、俺が始末をつける)
そうこうしているうちに難民の列が見え、門が開かれることとなった。こちら側の提案を向こうは承諾し、選別された四人が中に入ってきた。先頭にはトリエルがおり、人間を引き連れていた。
「ようやく着きましたね、女神様!」
「皆もよく頑張ったこれでこっちの目的は達成された」
「何をおっしゃいますか! 今後も我ら信徒をお見守り下さい!」
難民の声に笑みで応えるが、目元は笑っていなかった。何らかの計画を実行するつもりなのは間違いなく、俺は腰に差した剣の柄を握って待機した。
「…………トリエルちゃん」
クレアがそう言うと、トリエルは口角を上げた。
温かな空気を破るように、破滅を呼ぶ声がした。
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