甘い年下、うざい元カレ

有山レイ

文字の大きさ
56 / 104

第056章 第三者には絶対に知られちゃダメ!

しおりを挟む
第056章 第三者には絶対に知られちゃダメ!
*
仕事量は相変わらず少なかったが、ジャオ・ナンフォンは気にする様子もなく、むしろみんなを早めに退社させた。この機にしっかり休み、人生を楽しめというわけだ。
「そうおっしゃるなら、春節(旧正月)は二日ほどお休みをいただいてもいいですか?」スー・シエンが提案した。「一応日本の会社ですけど、社員の75%は中国人ですから。」
「いいだろう。」
「社長、太っ腹!」彼女は大げさに褒めちぎり、すぐに本田とリー・チョンシーに伝えた。
三人は揃って彼の元へお礼を言いに行った。
「社長、社員旅行はどうですか? 一泊二日の小旅行。」本田が提案した。
「二人も行きたいか?」彼はスー・シエンとリー・チョンシーを見た。
二人は声を揃えて答えた。「行きたいです!」
*
社員旅行となれば、費用は当然会社持ちだ。しかし、会社が現在赤字であることを知っている三人は、それぞれ自腹を切ると申し出た。
ジャオ・ナンフォンは苛立ちを込めて言った。「会社は赤字だが、俺には金がある。自分の女に金を出させない、自分の社員にも金を出させないのが、俺のルールだ!」
彼がそこまで言うならと、みんなも固執しなかった。話し合いの結果、熱海に行くことに決まった。
「本田の実家じゃないか?」ジャオ・ナンフォンは眉をひそめた。彼女は元旦に帰ったばかりだ。
しかし、一泊二日の旅行には熱海がちょうど良かった。遠すぎず、温泉があり、美術館もあり、活気もある。それに、彼は来宮神社(きのみやじんじゃ)を参拝し、樹齢2000年を超える大楠(御神木)を拝みたいという気持ちもあった。普通の小神では自分を救えないと思ったのだ。
「露天風呂付きの部屋を予約してくれ。」
「任せてください!」本田が威勢よく答えた。
**
出発当日は快晴だった。前半はリー・チョンシーが、後半はスー・シエンが運転した。道中少し渋滞したが、三時間弱で糸川(いとうがわ)のほとりに佇む「月影湯宿(つきかげゆじゅく)」に到着した。名前は風流だが、車を降りた瞬間、ジャオ・ナンフォンは絶句した。彼が想像していた高級な和風温泉旅館ではなく、ごく普通の民宿だったからだ。
主人は中年の夫婦で、質素な着物姿で入り口まで迎えに来てくれた。
「……誰がここを選んだ?」彼は低声で問い詰めた。
「私よ。」スー・シエンが小声で答えた。「見た目だけで判断しないで。中に入れば満足するから。」
部屋は全部で三つ。糸川のせせらぎと対岸の木々を真正面に望むテラスがあり、そこには露天風呂も付いていた。この設備なら、新しくも古くもない、こだわりを感じられない内装も我慢できた。
部屋割りを決めて荷物を置くと、既に午後一時。最初の食事は民宿で取ることになった。
*
ジャオ・ナンフォンがスー・シエンとリー・チョンシーの向かいに座り、辺りを見回した。「本田はどうした?」
スー・シエンが台所の方を指差した。
彼がそちらを見ると、本田がトレイを持って料理を運んでくるところだった。
「お待たせしました。」彼女は満面の笑みでお盆をジャオ・ナンフォンの前に置き、次を取りに戻った。

「……どういうことだ?」彼は混乱した。
スー・シエンが教えた。「ここ、本田さんのご両親が新しく始めた民宿なのよ。ラーメン屋さんは辞めたんですって。」
「実家の売り上げに協力してるのか?」騙された気分だった。
「急に決まった旅行だもの、高級旅館なんてどこも予約できるわけないでしょ。感謝しなさい。それに、三割引きにしてくれてるのよ。」
これ以上何も言えなかった。幸い、料理はなかなかの出来だった。
本田が全ての料理を運び終えてジャオ・ナンフォンの隣に座ると、スー・シエンが乾杯をしようとした。そこへ女将(本田のお母さん)がサービスだと言ってさらに数皿持ってきた。
本田はレバーの煮物をジャオ・ナンフォンに指差して言った。「社長のために作った新メニューです。どうぞ。」
**
午後は本田の運転でMOA美術館を見学し、水晶殿から街の景色を眺め、伊豆山神社で縁結びを祈願した。
当然、ジャオ・ナンフォンは祈願しなかった。
本田は敬虔な様子で絵馬にこう書いた。「彼氏、授けてください。」それを願掛けの木に結びつけると、ジャオ・ナンフォンの隣に戻って話しかけた。
「社長はいいんですか? こちらは恋愛のパワースポットですよ。」
「いいよ、別に。」彼の視線はスー・シエンに向いていた。自分とリー・チョンシーが同時に祈ったら、神様は絶対に自分を助けてくれないだろう。
本田は彼の視線を追った。「だめですよ、社長。自分の縁を大切にしないで人の縁を壊そうとしたら、バチが当たりますよ。」
「うるさい。俺のバチはお前に出会ったことだろう。」
「ひどい! 泣きますよ。」
ジャオ・ナンフォンが彼女を振り返った。
「へへ、嘘です。」
ジャオ・ナンフォンは絶句し、再びスー・シエンとリー・チョンシーの方に目を向けた。
*
リー・チョンシーはこう書いた。「キノコ仙人の導きに感謝。二人が永遠に続きますように。」サインをしてスー・シエンに渡した。
スー・シエンはひとしきり笑い、自分もサインを添えた。そして、さらに一言書き加えた。「梁総(リャン総)の差配に感謝。私たちは必ず永遠に続きます。」
リー・チョンシーは不思議そうに聞いた。「どうして梁総に感謝するの?」
「安梁(アンリャン)の社員旅行では、男女は必ず分けて住むなんだけど、あの時、君と私と許書一(女性)と同じ別荘にしたのは原因があった。設計二組は元々全員女性だったんだけど、章(ジャン)さんが急に入院して、ちょうどあなたが代わりに加わったでしょ。人数は変わらなかったから、秘書の小衛(シャオウェイ)が部屋割りを組み直すのを忘れちゃって、当日に現地でようやく気づいたのよ。梁総が私と許書一に、あなたは若くておとなしそうだから、そのままでいいかって相談してきたの。同じ別荘なんだけど、部屋は別々だし、当時の私たちは、あなたのことを『男』だなんてこれっぽっちも思ってなかったから、『いいですよ』って答えた。それがまさか……ね。へへ。」
リー・チョンシーにはそんな裏話があったとは知る由もなかった。しかし――「ちょっと待って。どうして僕のことを『男』として見てなかったんだよ?!」
「チームに入って二ヶ月、私と話す時に目も合わせられなかったじゃない。まるで小学生が担任先生に会ってるみたいだったわ。だから、あの日(事件)の後の私の最初の感想は『なんてこと、恥ずかしすぎる! 第三者には絶対に知られちゃダメ!』だったのよ。」
「……そんなに困らせてしまって、どうもすみませんでしたね。」彼は嫌味っぽく言った。
「もう過去のことよ、ハニー。今は超愛してるわ。」
「今は僕を『男』として使ってるけど、まだ『男』として見てくれてない。ふん!」
「何を言ってるのよ。自分を卑下しないで。お正月だし、お姉さんが大きな『お年玉(紅包)』をあげようか?」
「お年玉なんていらないよ。」
「じゃあ、何が欲しいの?」
*
話が止まらない二人を見かねて、ジャオ・ナンフォンが声を張り上げた。「おい、行くぞ!」
**
本田は観光客のいない、地元の人しか知らない市場へ連れて行ってくれた。そこでたくさんの新鮮な食材を買い込み、月影湯宿へ戻った。彼女の両親は既に中国風の正月の準備を始めていた。窓には中国式の切り絵(窓花)が貼られ、姉夫婦もわざわざ顔を出しに来ていた。
中国人は正月には餃子を食べるものだと知っている本田の母親は、あらかじめ生地を仕込んでおき、スー・シエン、リー・チョンシーと一緒に餃子を包み始めた。本田と父親、そして姉は他の料理の準備に取り掛かった。そして、一家のインテリ担当である義兄(地元の高校の国語教師)を、ジャオ・ナンフォンの話し相手として送り出した。
**
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

フリーランスエンジニアの優しすぎる無償の愛

春咲さゆ
恋愛
26歳OLの木崎茉莉は人生のどん底にいた。上手くいかないことに慣れ、心を凍らせることで自分を守る毎日に絶望した茉莉は、雨の夜に思わず人生の終わりを願ってしまう。そんな茉莉に手を差し伸べたかっこいい彼。茉莉は、なぜか無償の愛のような優しさをくれる不思議な男性に少しずつ救われ、前を向いていく。けれど、疑ってしまうほど親切な彼には、親切であり続ける理由があって……。雨の夜の出会いがもたらした、優しくも切ない物語。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

処理中です...