【完結保証/毎日3話投稿】転生龍覚者と導きの紋章 〜始原の森から始まる、現代知識チートによる最強建国記〜

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2章:星脈の鍛冶師と亡国の姫君 〜始原の森に集う新たな絆〜

第58話:夜明け

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村では収穫した作物で、ささやかな宴が開かれていた。仲間たちの笑い声、温かい食事の匂い、松明の灯り。その全てが、俺が命がけで守り抜きたいと願う、かけがえのない日常の光景だった。

俺はその喧騒から少し離れ、一人で物思いにふけっていた。公王という立場、帝国という巨大な敵、そして……俺自身の心の問題。考えなければならないことは多い。そこへ、オリヴィアが静かに隣に立った。

「レンさん、少しよろしいでしょうか」

彼女の紫色の瞳は、夜の灯りを映して、これまでに見せたことのないほど真剣な光を宿していた。

「ええ、もちろん。何か気になることでも?」

「いえ、ただ……旅を前に、皆さんのご様子を拝見しておりました。カイルさんも、村の方々も、皆、頼もしい顔つきですわ。この国は、あなたが不在の間もきっと安泰でしょう」

オリヴィアは穏やかに微笑んだ後、ふと視線を宴の中心で笑い合うアリシアとティアーナに向けた。

「アリシアさんも、ティアーナさんも……本当に良い表情をなさっています。ですが、その笑顔の奥にこれからの旅への不安と、あなたを想う故の寂しさが見え隠れしているようにも感じます」

彼女の鋭い洞察に、俺は言葉を失う。オリヴィアは、そんな俺の心中を見透かすように、静かに続けた。

「……差し出がましいことをお聞きしますが、レンさん。お二方とは、もう一つ屋根の下にお住まいと聞いております。……夜伽(よとぎ)はもうお済みになられましたか?」

「なっ……!?」

予期せぬ単刀直入な問いに、俺は思わず言葉を失う。顔に熱が集まるのが自分でも分かった。前世の記憶を持つ俺にとって、その言葉の直接的な響きはあまりにも衝撃的だった。

「な、何を突然……!」

オリヴィアは、そんな俺の動揺には構わず、静かに、しかし諭すように続けた。

「先日、アリシアさんたちとお話する機会がございまして。お二人が、あなたのことを心から深く想い、そしてあなたの多忙を気遣うあまり、ご自身の気持ちを抑えていらっしゃることを知りました」

オリヴィアは、ただの慣習としてこれを言っているのではない。アリシアとティアーナの友人として、彼女たちの想いを汲んでくれているのだ。

「国を背負う王として、世継ぎをもうけることは民に未来の安寧を示す重要な責務です。ですが、わたくしが申し上げたいのは、それだけではありません」

彼女は俺の目を真っ直ぐに見据えた。

「同じ家に住みながら、夫として一線を越えずにいるのは、かえって彼女たちを不安にさせるだけではありませんか? 明日からは、我々は命の保証もない危険な旅に出ます。あなたが、二人の心を本当の意味で受け止め、覚悟を示すことで、彼女たちも安心してあなたを送り出せる。……王として、そして夫として、けじめをつけるべきです」

オリヴィアの言葉は、単なる王家の義務論ではなかった。友人としての、そして同じく国を背負う者としての、誠実な気遣いと激励だった。

俺は、二人への想いを自覚しながらも、どこかでその最後の責任から目を背けていたのかもしれない。公王としての重圧、帝国との戦いへの不安。それらを理由に、最も大切にすべき二人の心と向き合うことを、先延ばしにしていた。

彼女たちの優しさに甘え、自分の心の整理がつくまで待ってもらおうなどと、勝手に考えていた。だが、オリヴィアの言う通りだ。俺が覚悟を決めなければ、彼女たちを不安にさせたまま、この危険な旅に出ることになる。それは、夫として、そしてこの国を率いる者として、決して許されることではない。

(けじめを、つけなければ)

俺は、心の中で固く誓った。


◇◇◇


その夜。

村で一番大きな家の自室で、俺は静かに決意を固めていた。心臓の音が、やけに大きく聞こえる。

俺はアリシアの部屋の扉を、俺は自らの手で叩いた。

コンコン、と控えめなノックの音。

「アリシア? 俺だ。少し、話せないか?」

扉が開き、驚いたような顔のアリシアが現れた。彼女は少し緊張した面持ちで、しかしその緑色の瞳は潤み、俺への確かな想いを物語っていた。

「レン……どうしたの?」

「いや……アリシアと話したいと思ってな……」

彼女は俺の手を取り、自室へと導いた。部屋の中央に立つと、俺は彼女に向き直り、その両肩に手を置いた。

「アリシア。俺は、お前を愛している。陽だまりのようなお前の優しさに、俺は何度も救われた。これからの未来も、ずっと隣にいてほしい」

耳元で囁くと、彼女の体がびくりと震えるのが分かった。陽だまりのような温かい光が、部屋と、俺たちの心を優しく満たしていく。唇を交わした後は、言葉は、もう必要なかった。

翌朝、俺の隣で安らかな寝息を立てるアリシアの髪をそっと撫でながら、俺は守るべきものの温かさを、その重みを、改めて胸に刻んだ。彼女の幸せそうな寝顔を見ていると、不思議と力が湧いてくる。

これが、守るべきものを持つ者の強さなのかもしれない。


◇◇◇


そして次の夜。

俺は、月明かりが差し込むティアーナの部屋を訪れた。彼女は、複雑な術式が描かれた羊皮紙を前に、自室でも研究に没頭していた。

「……レン。どうかなさいましたか?」

俺の姿に気づいた彼女の青い瞳には、知的な輝きの中に、これまで見せたことのない熱が秘められていた。

「ティアーナ。君と、話しておきたいことがあるんだ」

俺たちは、未来の技術について、星の伝説について、そして互いの心について、夜が更けるのも忘れて語り合った。彼女の魂に触れるような、穏やかで、しかし情熱的な時間。

知的な会話の中で、俺たちの心は自然と寄り添っていく。夜が明ける頃、俺たちはどちらからともなく手を取り合っていた。

翌朝、窓から差し込む光の中で目覚めた俺の隣には、安らかな寝息を立てるティアーナがいた。普段の理知的な表情とは違う、無防備で穏やかなその寝顔を見つめながら、俺はこの聡明で愛おしい人を必ず幸せにすると、改めて心に誓った。


◇◇◇


少しの時間が過ぎた後、俺の家の食堂へ向かうと、そこには既にエプロンをつけたアリシアが、朝食の準備をしてくれていた。

「レン、おはよう!」

「おはよう、アリシア。いい匂いがするな」

 「うん! 今日は温室で採れた卵で、オムレツを作ってみたの。レン、好きかなって」

 「ああ、すごく嬉しいよ。ありがとう」

そんな会話をしていると、ティアーナも身支度を整えて食堂へやってきた。

「おはようございます、レン、アリシア」

彼女もまた、いつもと変わらぬ落ち着いた様子だが、その声と表情には、以前にはなかった柔らかな親愛の色が滲んでいる。俺と目が合うと、ほんの少しだけ頬を染めて視線を逸らす仕草が、たまらなく愛おしかった。

こうして、三人の、初めての朝食が始まった。 食卓に並ぶのは、アリシアが作ってくれたふわふわのオムレツ、焼きたての黒パン、そして温かい野菜スープ。どれも心の底から美味いと感じる。

だが、どこかぎこちない空気が流れていた。俺たちは、夫と、二人の妻となった。この新しい関係を、どう築いていけばいいのか、三人とも少し戸惑っているのだ。

(このままじゃダメだ……)

 オリヴィアの言葉が脳裏をよぎる。『王として、そして夫として、けじめをつけるべきです』と。そのけじめとは、彼女たちを不安にさせないための、確かな約束のことでもあるはずだ。

俺は意を決して、スプーンを置いた。

 「……アリシア、ティアーナ」

 俺が真剣な声で呼びかけると、二人は少し驚いたように顔を上げた。

「あのさ……これからの、俺たちの……その、夜のことなんだが……」

 言い出した途端、顔が熱くなるのを感じる。なんて切り出し方だ。もっとマシな言い方はなかったのか。

俺の言葉に、アリシアとティアーナの顔も、ぽっと赤く染まった。

「よ、夜のこと……?」 

アリシアが、小さな声で聞き返す。

俺は咳払いを一つして、続けた。

「ああ。俺は、二人を、平等に、同じように愛している。どちらか一方を優先するなんてことは、絶対にしない。だから……その……順番を、ちゃんと決めておきたいんだ。俺が勝手に決めたり、曖昧なままにしたりするのは、二人に失礼だと思うから」

俺がそう言うと、アリシアは少し驚いたように目を見開いた後、ふわりと微笑んだ。

 「……レン。ありがとう、私たちのこと、ちゃんと考えてくれてて」

彼女は、俺の不器用な言葉の奥にある誠実さを、きちんと受け取ってくれたようだった。

「うん、私も……どうしたらいいのかなって、少しだけ……思ってた。だから、ちゃんと話し合えるのは、すごく嬉しいな」

ティアーナも、冷静な表情を取り戻し、しかしその青い瞳には温かい光を宿して頷いた。 

「ええ。曖昧さは、不要な誤解や不安を生む要因となり得ます。明確なルールを定めることは、私たち三人がこれから家族として暮らしていく上で、重要だと思います。」

二人の前向きな反応に、俺は心から安堵した。

「それでね、レン」

アリシアが、少し照れながらも、はっきりとした声で提案してくれた。

「難しく考えることないと思うの。シンプルに、一日ずつ、交互にするっていうのはどうかな? 今日は私、明日はティアーナ、みたいに」

「それが一番公平で、分かりやすいですね。私も、アリシアの案に賛成ですわ」

ティアーナも、すぐに同意してくれた。

俺は、二人の顔を交互に見つめた。そこには、嫉妬や駆け引きなど微塵もない。ただ、俺を想い、そして互いを尊重し合う、澄んだ瞳があるだけだった。

(俺は……本当に、世界一の幸せ者だな……)

「……分かった。ありがとう、二人とも。じゃあ、これからはその約束でいこう。もし、何か不満や、変えてほしいことがあったら、いつでもすぐに言ってほしい。俺たちは、三人で一つの家族なんだから」

俺の言葉に、アリシアとティアーナは、顔を見合わせて、そしてこれまでで一番美しい笑顔で、同時に頷いた。

「「はい、レン!」」

ぎこちない空気は、もうどこにもなかった。 三人の笑い声が、温かい朝の光が差し込む食卓に響き渡る。 俺たちの、本当の意味での新しい生活が、今、この場所から始まったのだ。
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