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4章:帝国大侵攻と龍覚者の反撃 〜裁かれる罪、王女の決断〜
第125話:不器用な二人と触媒
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レヴァーリア連合王国の貧民街。 血と埃の臭いが漂う戦いの跡地で、俺たちは荒い息を整えていた。
「……ふぅ。なんとか片付いたね」
リゼット・ブランが、大斧についた血糊を布で拭いながら呟く。 その視線は、瓦礫の陰で身を寄せ合っている子供たちに向けられていた。
「さて、と。……問題はこれからだね」
彼女の表情が曇る。
「あんたたちには感謝してるよ、イリス、それにそこの兄さん。 でも、この子たちをどうする? あたし一人ならどうとでもなるけど、この人数を連れて逃げるのは……」
「心配いらない」
俺は彼女の言葉を遮り、何もない空間に手をかざした。
「逃げる必要はない。家に帰るだけだ」
「は? 何を……」
俺はストレージから、以前作成した「携帯型転移門」のフレームを取り出し、魔力を流し込んだ。
ブォン……!
空間が唸りを上げ、光の渦が形成される。 殺伐としたスラムの風景の中に、突如として現れた神々しい光の門。
「なっ……!? なんだいこりゃあ!?」
リゼットが腰を抜かしそうになり、子供たちが「わあぁ……」と目を輝かせる。
「転移門だ。この先は、俺たちの国――エルム公国に繋がっている」
俺は子供たちに優しく手招きした。
「さあ、おいで。向こうには温かいご飯と、ふかふかのベッドが待ってるぞ」
「……嘘みたい」
子供たちがおずおずと、しかし希望に引かれるように門へ近づいていく。
カイルがニッと笑い、イリスが静かに頷く。
リゼットは、信じられないものを見る目で門と俺たちを交互に見つめた後、覚悟を決めたように大斧を担ぎ直した。
「……へっ。退屈しなさそうな国じゃないか」
俺たちは、光の中へと足を踏み入れた。
◇◇◇
一瞬の浮遊感の後。 俺たちの足元は、整備された石畳の感触に変わっていた。
「……え?」
リゼットが呆然と周囲を見回す。
そこは、首都エルムヘイムの中央広場。 鼻をつく腐臭の代わりに、パンの焼ける香ばしい匂いと、風に乗った森の香りが漂っている。
レンガの美しい街並み。 行き交う人々は、人間だけでなく、エルフやドワーフ、獣人が当たり前のように笑い合っている。
「……夢か? ここは天国か何かかい?」
リゼットが口を開けたまま固まっている。
俺は、彼女に向き直り、改めて名乗ることにした。 ここまで慌ただしくて、まともな挨拶もしていなかったからな。
「ようこそ、エルム公国へ。 まだ名乗っていなかったな。 俺はレン。この国の公王を務めている」
「……はぁ!?」
リゼットが素っ頓狂な声を上げて、俺を凝視する。 その目は、先ほどの転移門を見た時以上に見開かれていた。
「こ、公王だって!? あんた……いや、あなたが、この国の王様なのかい!?」
「ああ、そうだ」
「なんてこった……。 あたしゃてっきり、イリスが連れてきた腕利きの傭兵か魔法使いだと……。 王様自ら、あんな泥臭い場所に助けに来たってのかい……」
彼女は信じられないといった顔で首を振り、そして慌てて居住まいを正した。 大斧を置き、バツが悪そうに頭をかく。
「……こりゃあ、失礼しました、公王陛下。 命を助けていただいたこと、改めて感謝いたします」
「堅苦しいのは無しだ。リゼット、君はもう仲間なんだから」
俺が苦笑して答えると、彼女もニカっと笑い返した。
「へっ、粋な王様だね。気に入ったよ!」
その時だった。
「――リゼット!!」
王宮の方から、よく通る凛とした声が響いた。
人垣を割り、一人の女性が駆けてくる。 サンダルが脱げるのも構わず、ドレスの裾を泥で汚しながら。 だが、その足取りには迷いがなく、その瞳は真っ直ぐにリゼットを捉えていた。
オリヴィアだ。
「……姫、様……?」
リゼットの目が、大きく見開かれる。
オリヴィアは、リゼットの目の前まで来ると、荒い息を整えながら立ち止まった。
リゼットは、ハッとして居住まいを正した。 その場に片膝をつき、騎士の礼をとる。
ボロボロの鎧、傷だらけの体。 だが、その姿勢は紛れもなく、誇り高きドラグニアの騎士のものだった。
「……オリヴィア様。 遅くなり、申し訳ありません。 騎士リゼット・ブラン、ただいま帰還いたしました」
彼女は深く頭を垂れた。 再会の喜びよりも、騎士としての礼節を優先する。 それが、彼女なりのけじめなのだろう。
オリヴィアは、そんな彼女をじっと見つめた。 その紫色の瞳が潤み、一筋の涙が頬を伝う。 だが、彼女は泣き崩れたりはしなかった。
彼女は静かに歩み寄り、跪くリゼットの手を取ると、力強く立たせた。
「……顔を上げなさい、リゼット」
「姫様……」
「礼など、よいのです。 あなたが……友が生きていてくれた。 それだけで、わたくしは……」
オリヴィアは、リゼットの手を両手で包み込み、その温もりを確かめるように強く握りしめた。 その手は震えていたが、決して弱々しくはない。 失ったと思っていた友を取り戻した、確かな実感がそこにあった。
「……おかえりなさい、リゼット」
万感の思いを込めたその言葉に、リゼットの瞳からも、堪えていたものが溢れ出した。
「……ただいま戻りました。……我が主君」
オリヴィアは涙を拭い、かつてのような気品ある、しかし温かい微笑みを向けた。
「また、共に歩めますね」
「ええ。この命ある限り」
主従であり、親友。 二人の再会は、派手な抱擁こそなかったが、誰よりも深く、強い絆を感じさせるものだった。
◇◇◇
数日後。
リゼットと子供たちは、驚くほどの早さで公国の生活に馴染んでいた。 彼女の実力は本物で、即座に軍事都市『アイギス・フォート』の防衛隊に配属されることになった。
そしてこの日。 俺は視察のため、首都の訓練場を訪れていた。
活気ある掛け声が響く中、一際目立つ集団がいた。 カイル、イリス、そしてリゼットだ。
「……なるほどな」
俺は、少し離れた場所から彼らの様子を眺めることにした。 どうやら、面白いことが起きそうだ。
◇◇◇
「ふんっ!!」
私の振るった大斧が、風を切り裂く音を立てて止まる。 久しぶりの本格的な訓練。 なまった体が悲鳴を上げているが、心地よい疲労感だ。
「ふぅ……。この国は、本当に退屈しないねぇ」
私は汗を拭いながら、訓練場の隅に目をやった。
そこには、私の親友であるイリスと、あの緑の盾使い――カイルがいた。
二人は、並んで剣を振るっている。「魔法剣」の連携訓練らしい。
「……」
私は、水筒の水を飲みながら、二人をじっと観察した。
動きは完璧だ。 カイルが踏み込めば、イリスがその隙をカバーする。 イリスが引けば、カイルが盾を構えて前に出る。 言葉など交わさなくても、互いの呼吸が手に取るように分かっているようだ。
戦士として見れば、これ以上ない相棒(バディ)だろう。
だが。
「……はい、休憩!」
教官の声がかかり、二人が剣を収めた瞬間。
「あ、あの……お疲れ様です、カイル殿」
「お、おう。イリスも……水、飲むか?」
「あ、ありがとうございます……」
途端に、二人の間に妙な空気が流れた。 視線が合うと、パッと逸らす。 指先が触れると、ビクッと震える。
距離感が、おかしい。 近すぎるようで、遠い。 戦闘中は熟年夫婦のような阿吽の呼吸を見せるくせに、剣を収めた途端、初恋の中学生のような反応をする。
(……ん~?)
私はニヤリと笑った。
(こりゃあ、見ててじれったいねえ)
イリスの、あの堅物が。 あんな風に頬を染めて、男の顔色を窺うなんて。
(背中を押してやるのが、親友の務めってやつかい?)
私は大斧を肩に担ぐと、忍び足で二人の背後へと回り込んだ。
「お疲れさん! 二人とも、熱いねえ!」
私が二人の肩にガシッと腕を回すと、イリスが飛び上がった。
「リ、リゼット!? いつの間に……!」
「カイルも、お疲れ。いい動きだったじゃないか」
私は強引に二人を引き寄せ、至近距離で向かい合わせる形にした。
「お、おう。サンキュ」
カイルが戸惑ったように私を見る。
私はニカッと笑うと、イリスの耳元で、しかしカイルにも聞こえる声量で囁いた。
「ねえイリス~」
「な、何ですか? 顔が近いです」
「あの不器用そうな盾……カイルだっけ? あんたの新しい『守るべき相手』ってわけかい?」
「……は?」
イリスが、キョトンとする。
私は畳み掛けた。
「昔から、あんたは真面目で、放っておけないタイプが好きだったものね~。……姫様だけじゃなくて、アイツのことも、守りたくなっちゃった? それとも……守られたい?」
その言葉の意味を理解した瞬間。
ボンッ!!
という音が聞こえそうなほど、イリスの顔が真っ赤に染まった。
「なっ、ななな、何をバカなことを!!」
「カイル殿は戦友で、その、信頼できる仲間であって……! け、決してそのような不純な……あわわ!」
目が泳ぎまくっている。 分かりやすすぎる。
「おい、どういう意味だよ?」
カイルが、首を傾げて聞いてくる。
「はあ!? 分かんないのかい、この朴念仁!」
「なんだよ、いきなり!」
「イリスがね、あんたのこと『頼りになる殿方』だってさ!」
「リ、リゼットォォォッ!! 言ってません! 言ってませんよ!!」
イリスが涙目で私の口を塞ごうとする。 カイルも、さすがに顔を赤くして頭をかいている。
「そ、そうかよ……。ま、まあ、俺も……イリスのことは、その……信頼してる、けどよ」
「……っ~~~~!!」
イリスが湯気を出しながら、その場にうずくまってしまった。
「あははははっ! あんたたち、青春してるねえ!」
私は腹を抱えて笑った。
まったく、不器用な二人だ。 でも、悪くない。 かつて、死に場所を探していた私の親友は、今、生きるための「熱」を見つけたようだ。
「……ま、頑張んなよ。応援してるからさ」
私はカイルの背中をバンと叩き、親指を立てた。
◇◇◇
一部始終を見ていた俺は、苦笑しながら柱の陰から出てきた。
「……リゼットのやつ、いい仕事をするな」
リゼット・ブラン。 豪快で、明るくて、少しお節介な元近衛兵。
彼女の登場は、ただの戦力増強だけではない。 張り詰めていた公国の空気や、膠着していた人間関係をかき回し、前へと進める最強の「触媒(起爆剤)」となったようだ。
俺は、顔を赤らめて視線を逸らし合っている二人と、それを楽しそうに眺めるリゼットを見て、小さく笑った。
平和な日常の一コマ。 だが、嵐は確実に近づいている。 この笑顔を守り抜くために、俺たちはもっと強くならなければならない。
俺は、次なる計画――魔術師団の再編と、総力戦への準備を進めるべく、執務室へと戻るのだった。
「……ふぅ。なんとか片付いたね」
リゼット・ブランが、大斧についた血糊を布で拭いながら呟く。 その視線は、瓦礫の陰で身を寄せ合っている子供たちに向けられていた。
「さて、と。……問題はこれからだね」
彼女の表情が曇る。
「あんたたちには感謝してるよ、イリス、それにそこの兄さん。 でも、この子たちをどうする? あたし一人ならどうとでもなるけど、この人数を連れて逃げるのは……」
「心配いらない」
俺は彼女の言葉を遮り、何もない空間に手をかざした。
「逃げる必要はない。家に帰るだけだ」
「は? 何を……」
俺はストレージから、以前作成した「携帯型転移門」のフレームを取り出し、魔力を流し込んだ。
ブォン……!
空間が唸りを上げ、光の渦が形成される。 殺伐としたスラムの風景の中に、突如として現れた神々しい光の門。
「なっ……!? なんだいこりゃあ!?」
リゼットが腰を抜かしそうになり、子供たちが「わあぁ……」と目を輝かせる。
「転移門だ。この先は、俺たちの国――エルム公国に繋がっている」
俺は子供たちに優しく手招きした。
「さあ、おいで。向こうには温かいご飯と、ふかふかのベッドが待ってるぞ」
「……嘘みたい」
子供たちがおずおずと、しかし希望に引かれるように門へ近づいていく。
カイルがニッと笑い、イリスが静かに頷く。
リゼットは、信じられないものを見る目で門と俺たちを交互に見つめた後、覚悟を決めたように大斧を担ぎ直した。
「……へっ。退屈しなさそうな国じゃないか」
俺たちは、光の中へと足を踏み入れた。
◇◇◇
一瞬の浮遊感の後。 俺たちの足元は、整備された石畳の感触に変わっていた。
「……え?」
リゼットが呆然と周囲を見回す。
そこは、首都エルムヘイムの中央広場。 鼻をつく腐臭の代わりに、パンの焼ける香ばしい匂いと、風に乗った森の香りが漂っている。
レンガの美しい街並み。 行き交う人々は、人間だけでなく、エルフやドワーフ、獣人が当たり前のように笑い合っている。
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リゼットが口を開けたまま固まっている。
俺は、彼女に向き直り、改めて名乗ることにした。 ここまで慌ただしくて、まともな挨拶もしていなかったからな。
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「……はぁ!?」
リゼットが素っ頓狂な声を上げて、俺を凝視する。 その目は、先ほどの転移門を見た時以上に見開かれていた。
「こ、公王だって!? あんた……いや、あなたが、この国の王様なのかい!?」
「ああ、そうだ」
「なんてこった……。 あたしゃてっきり、イリスが連れてきた腕利きの傭兵か魔法使いだと……。 王様自ら、あんな泥臭い場所に助けに来たってのかい……」
彼女は信じられないといった顔で首を振り、そして慌てて居住まいを正した。 大斧を置き、バツが悪そうに頭をかく。
「……こりゃあ、失礼しました、公王陛下。 命を助けていただいたこと、改めて感謝いたします」
「堅苦しいのは無しだ。リゼット、君はもう仲間なんだから」
俺が苦笑して答えると、彼女もニカっと笑い返した。
「へっ、粋な王様だね。気に入ったよ!」
その時だった。
「――リゼット!!」
王宮の方から、よく通る凛とした声が響いた。
人垣を割り、一人の女性が駆けてくる。 サンダルが脱げるのも構わず、ドレスの裾を泥で汚しながら。 だが、その足取りには迷いがなく、その瞳は真っ直ぐにリゼットを捉えていた。
オリヴィアだ。
「……姫、様……?」
リゼットの目が、大きく見開かれる。
オリヴィアは、リゼットの目の前まで来ると、荒い息を整えながら立ち止まった。
リゼットは、ハッとして居住まいを正した。 その場に片膝をつき、騎士の礼をとる。
ボロボロの鎧、傷だらけの体。 だが、その姿勢は紛れもなく、誇り高きドラグニアの騎士のものだった。
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オリヴィアは、そんな彼女をじっと見つめた。 その紫色の瞳が潤み、一筋の涙が頬を伝う。 だが、彼女は泣き崩れたりはしなかった。
彼女は静かに歩み寄り、跪くリゼットの手を取ると、力強く立たせた。
「……顔を上げなさい、リゼット」
「姫様……」
「礼など、よいのです。 あなたが……友が生きていてくれた。 それだけで、わたくしは……」
オリヴィアは、リゼットの手を両手で包み込み、その温もりを確かめるように強く握りしめた。 その手は震えていたが、決して弱々しくはない。 失ったと思っていた友を取り戻した、確かな実感がそこにあった。
「……おかえりなさい、リゼット」
万感の思いを込めたその言葉に、リゼットの瞳からも、堪えていたものが溢れ出した。
「……ただいま戻りました。……我が主君」
オリヴィアは涙を拭い、かつてのような気品ある、しかし温かい微笑みを向けた。
「また、共に歩めますね」
「ええ。この命ある限り」
主従であり、親友。 二人の再会は、派手な抱擁こそなかったが、誰よりも深く、強い絆を感じさせるものだった。
◇◇◇
数日後。
リゼットと子供たちは、驚くほどの早さで公国の生活に馴染んでいた。 彼女の実力は本物で、即座に軍事都市『アイギス・フォート』の防衛隊に配属されることになった。
そしてこの日。 俺は視察のため、首都の訓練場を訪れていた。
活気ある掛け声が響く中、一際目立つ集団がいた。 カイル、イリス、そしてリゼットだ。
「……なるほどな」
俺は、少し離れた場所から彼らの様子を眺めることにした。 どうやら、面白いことが起きそうだ。
◇◇◇
「ふんっ!!」
私の振るった大斧が、風を切り裂く音を立てて止まる。 久しぶりの本格的な訓練。 なまった体が悲鳴を上げているが、心地よい疲労感だ。
「ふぅ……。この国は、本当に退屈しないねぇ」
私は汗を拭いながら、訓練場の隅に目をやった。
そこには、私の親友であるイリスと、あの緑の盾使い――カイルがいた。
二人は、並んで剣を振るっている。「魔法剣」の連携訓練らしい。
「……」
私は、水筒の水を飲みながら、二人をじっと観察した。
動きは完璧だ。 カイルが踏み込めば、イリスがその隙をカバーする。 イリスが引けば、カイルが盾を構えて前に出る。 言葉など交わさなくても、互いの呼吸が手に取るように分かっているようだ。
戦士として見れば、これ以上ない相棒(バディ)だろう。
だが。
「……はい、休憩!」
教官の声がかかり、二人が剣を収めた瞬間。
「あ、あの……お疲れ様です、カイル殿」
「お、おう。イリスも……水、飲むか?」
「あ、ありがとうございます……」
途端に、二人の間に妙な空気が流れた。 視線が合うと、パッと逸らす。 指先が触れると、ビクッと震える。
距離感が、おかしい。 近すぎるようで、遠い。 戦闘中は熟年夫婦のような阿吽の呼吸を見せるくせに、剣を収めた途端、初恋の中学生のような反応をする。
(……ん~?)
私はニヤリと笑った。
(こりゃあ、見ててじれったいねえ)
イリスの、あの堅物が。 あんな風に頬を染めて、男の顔色を窺うなんて。
(背中を押してやるのが、親友の務めってやつかい?)
私は大斧を肩に担ぐと、忍び足で二人の背後へと回り込んだ。
「お疲れさん! 二人とも、熱いねえ!」
私が二人の肩にガシッと腕を回すと、イリスが飛び上がった。
「リ、リゼット!? いつの間に……!」
「カイルも、お疲れ。いい動きだったじゃないか」
私は強引に二人を引き寄せ、至近距離で向かい合わせる形にした。
「お、おう。サンキュ」
カイルが戸惑ったように私を見る。
私はニカッと笑うと、イリスの耳元で、しかしカイルにも聞こえる声量で囁いた。
「ねえイリス~」
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「……は?」
イリスが、キョトンとする。
私は畳み掛けた。
「昔から、あんたは真面目で、放っておけないタイプが好きだったものね~。……姫様だけじゃなくて、アイツのことも、守りたくなっちゃった? それとも……守られたい?」
その言葉の意味を理解した瞬間。
ボンッ!!
という音が聞こえそうなほど、イリスの顔が真っ赤に染まった。
「なっ、ななな、何をバカなことを!!」
「カイル殿は戦友で、その、信頼できる仲間であって……! け、決してそのような不純な……あわわ!」
目が泳ぎまくっている。 分かりやすすぎる。
「おい、どういう意味だよ?」
カイルが、首を傾げて聞いてくる。
「はあ!? 分かんないのかい、この朴念仁!」
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「リ、リゼットォォォッ!! 言ってません! 言ってませんよ!!」
イリスが涙目で私の口を塞ごうとする。 カイルも、さすがに顔を赤くして頭をかいている。
「そ、そうかよ……。ま、まあ、俺も……イリスのことは、その……信頼してる、けどよ」
「……っ~~~~!!」
イリスが湯気を出しながら、その場にうずくまってしまった。
「あははははっ! あんたたち、青春してるねえ!」
私は腹を抱えて笑った。
まったく、不器用な二人だ。 でも、悪くない。 かつて、死に場所を探していた私の親友は、今、生きるための「熱」を見つけたようだ。
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◇◇◇
一部始終を見ていた俺は、苦笑しながら柱の陰から出てきた。
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彼女の登場は、ただの戦力増強だけではない。 張り詰めていた公国の空気や、膠着していた人間関係をかき回し、前へと進める最強の「触媒(起爆剤)」となったようだ。
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