【完結保証/毎日3話投稿】転生龍覚者と導きの紋章 〜始原の森から始まる、現代知識チートによる最強建国記〜

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4章:帝国大侵攻と龍覚者の反撃 〜裁かれる罪、王女の決断〜

第142話:戦場の誓い

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カジミールが消滅した場所には、焦げ付いた土の匂いだけが残っていた。

断罪の雷光が焼き付けた残像が、まだ網膜の裏でチカチカと明滅している。

俺は、剣を鞘に納めた。

カチャリ、という硬質な音が、張り詰めていた空気を解く合図となった。

「……終わった、のか」

誰かが呟いた。

東の空が白み始め、夜の帳(とばり)がゆっくりと上がり始めていく。

それと共に、王城の方から、そして街の方から、堰を切ったような歓声が湧き上がり始めた。

「帝国軍が退くぞぉぉぉッ!!」

「俺たちの勝ちだ! 公国の勝利だ!!」

兵士たちが武器を掲げ、互いに抱き合い、涙を流して生還を喜んでいる。

だが、俺の心臓はまだ早鐘を打っていた。

処刑の重み。

友を裏切った者を裁いた、オリヴィアの震える背中。

それらを飲み込み、俺は公王として、民の前で気丈に振る舞わなければならない。

ふと、足元で何かが動いた。

「……んぅ……レン……」

フィーナだ。

限界まで力を貸してくれた彼女は、俺の脚にしがみついたまま、緊張の糸が切れたように船を漕いでいた。

俺は小さく息を吐き出し、彼女の頭をそっと撫でた。

「よく頑張ったな。……少し、眠るといい」

俺はフィーナを背負い直し、喧騒から少し離れた広場の端へと足を向けた。

オリヴィアは、アリシアとティアーナに支えられている。

今の彼女には、友人たちとの時間が必要だろう。

俺は一人、夜明けの風に当たりながら、思考を整理しようとした。

その時だ。

崩れた城壁の陰。

朝焼けが差し込み始めた瓦礫の山の前に、二つの影があるのに気づいた。

カイルと、イリスだ。

「……あいつら」

俺は足を止めた。

いつもなら軽口を叩き合う二人だが、今の空気は明らかに違っていた。

カイルは、いつになく真剣な、いや、悲壮なほどの決意を秘めた顔で、イリスを見つめている。

そしてイリスもまた、直立不動のまま、どこか強張った様子で彼を見つめ返していた。

(……そういえば)

俺は思い出した。

決戦の最中、リゼットがニヤニヤしながら言っていた言葉を。

『あの不器用な二人も、そろそろ決着つけないとねぇ』

俺は気配を殺し、物陰からそっと見守ることにした。

これは、俺が踏み込むべき領域ではない。


◇◇◇


(イリス視点)

「……戦争、終わったな」

カイル殿の声が、朝焼けの空気に溶ける。

その声は、戦闘中の荒々しいものではなく、どこか低く、そして微かに震えているように聞こえた。

わたくしの目の前に立つ、剣士。

ボロボロの鎧。

体中に刻まれた無数の傷跡。

その全てが、彼がわたくしを守り抜いてくれた証だった。

「……はい。 終わりました」

震える声で答えるのが精一杯だった。

心臓が、痛いほど強く脈打っている。

カイル殿が一歩、わたくしに近づく。

その瞳から、逃げることができない。

「……で、約束通り、答えを聞かせてもらおうか」

その言葉に、わたくしの記憶が鮮烈に蘇る。

『約束』。

それは、アイギス・フォートでの激戦。

瓦礫の中で、夕日を背に彼が叫んだ言葉。

『俺は……お前がいないとダメなんだ。 これからの人生も、ずっと隣で、お前を守らせてくれねえか?』

『この戦争が終わったら、ちゃんと答え聞かせろよ! 待ってるからな!』

あれは、ただの愛の告白ではなかった。

共に生き、共に歩むという、生涯の誓い(プロポーズ)。

(……わたくしのような者が)

迷いが、胸をよぎる。

わたくしは騎士。

剣に生き、主君に忠誠を誓った身。

彼のような、太陽みたいに眩しい人の隣で、「守られる」だけの存在になっていいのだろうか。

「……カイル殿。 わたくしは、不器用で……愛想もなくて……ただ剣を振ることしか能のない女です」

わたくしは、俯いて言葉を紡いだ。

「貴方が望むような、可愛らしい『守られるだけの女』には……きっとなれません」

「はっ、知ってるよそんなこと」

カイル殿が、短く笑った。

顔を上げると、彼は困ったように、でも優しく眉を下げていた。

「俺が惚れたのは、か弱くて守ってやらなきゃいけない女じゃねえ。 ……誰よりも強くて、気高くて、でも本当は不器用で危なっかしい……『イリス』、お前だ」

「……っ!」

「俺は、お前の剣になりたいわけじゃねえ。 ……お前が安心して背中を預けられる『盾』になりてえんだよ」

彼の言葉が、わたくしの心の鎧を、一枚ずつ剥がしていく。

もう、誤魔化せない。

自分の気持ちに、嘘はつけない。

彼を失うかもしれない恐怖を、戦場で嫌というほど味わった。

彼がいない未来なんて、もう考えられないのだ。

わたくしは、ゆっくりと手を上げた。

血と泥で汚れた小手。

その手で、頭を守っていた兜の留め具を外す。

カチャリ。

金属音が鳴り、重い兜が外れた。

パラリと、束ねていた銀色の髪が解け、朝風になびく。

視界が広がる。

朝日の眩しさと、彼の存在が、鮮明に目に飛び込んできた。

わたくしは、兜を地面に置いた。

それは、一人の女性として彼に向き合う覚悟。

「……カイル殿」

わたくしは、精一杯の勇気を振り絞り、彼の瞳を真っ直ぐに見つめ返した。

頬が熱い。

涙が溢れそうだ。

でも、伝えなければならない。

「……謹んで、お受けいたします」

わたくしは一歩、彼に近づいた。

「わたくしも……貴方がいなくては、ダメになってしまいそうです」

言葉にすると、堰を切ったように想いが溢れ出した。

「貴方の背中を守る時、わたくしは誰よりも強くなれました。 貴方の盾があるから、わたくしは前を向いて戦えました」

わたくしは、胸に手を当て、騎士としての、いいえ、イリスとしての最上級の誓いを紡ぐ。

「これからの人生……わたくしの剣は、貴方と共にあります」

「……イリス」

「貴方という盾がある限り、わたくしは折れません。 ……ですから、どうか」

わたくしは、潤んだ瞳で彼を見上げ、微笑んだ。

「……わたくしを、カイル殿の『パートナー』として……お側においてください」

言い終えた瞬間。

「……っ、ああ!!」

カイル殿の顔が、くしゃっと歪んだ。

それは、泣き出しそうな、でも最高に嬉しそうな、子供のような笑顔。

次の瞬間。

強い力で、体が引き寄せられた。

「あ……っ!?」

カイル殿の太い腕が、わたくしを包み込む。

汗と、鉄と、そして彼自身の温かい匂い。

「二度と離さねえからな! ……絶対に、幸せにする! 俺の一生をかけて!」

耳元で叫ばれた言葉に、わたくしの涙腺は決壊した。

「……はい……はいっ……!」

不器用で、力任せな抱擁。

でも、そこには何よりも確かな愛があった。

わたくしは彼の背中に腕を回し、その温もりに顔を埋めた。


◇◇◇


(レン視点)

「ヒューヒュー! やるぅ!」

「隊長! おめでとうございまーす!!」

「ついにやったか、あの朴念仁!」

静寂は、一瞬で破られた。

どこからともなく現れたリゼットが、瓦礫の上から指笛を鳴らして囃し立てる。

それに呼応するように、物陰に隠れていた兵士たちからも、口笛と万雷の拍手が巻き起こった。

「うわっ!? お、お前ら!? いつの間に!?」

カイルが真っ赤になって叫ぶが、腕はしっかりとイリスを抱き寄せたままだ。

イリスに至っては、カイルの胸に顔を埋めたまま、耳まで真っ赤にして微動だにしない。
湯気が出そうなほど恥ずかしがっているのが、ここからでも分かる。

「……ふっ」

俺も思わず笑みがこぼれた。

張り詰めていた空気が、一気に温かいものへと変わっていく。

これが、俺たちが守りたかった日常だ。

「おめでとう、カイル。 イリス」

俺が声をかけると、カイルがバツの悪そうな、でも最高に幸せそうな顔でニカっと笑った。

「おう! ……悪いなレン、一番乗りしちまったわ」

「ああ、お幸せにな」

公国最強の前衛コンビが、戦場の瓦礫の上で、生涯の伴侶として結ばれた瞬間だった。

朝日は完全に昇り、二人を祝福するように黄金の光で包み込んでいた。
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