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第1章 洞窟出現編
01話 薬華異堂薬局
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薬局の閉店時間になった。
ダラダラと片付けながら、薬剤師の川上舞はある思いにふけっていた。
もうすでに他の従業員は帰った後だったので、だらけた態度を指摘されることもない。
もちろん、経営者家族である自分に文句を直接的に言う人はいないのだが。
10年ぶりに実家の家業を継ぐために、それまで働いていた病院を辞め、田舎に戻ってきたのである。
実家はかなり昔から続いている「薬華異堂」と言う名の薬局。
名前だけ聞くと、「やくかいどう」なんて、あまり関わりたくない変な名前の薬局であるが、祖父の代からは調剤薬局も併設し県内に数店舗を展開しているのだ。
祖父は忙しい日々を送っていたが、主な仕事を父に任せ、最近は本店である薬華異堂にいる事が多かったようだ。
その祖父が先日亡くなったのである。
父の社長就任と同時に呼び戻されたというわけなのだ。
大学に入ると同時に上京。
都会での生活に慣れてしまい、田舎の生活が苦痛でしか無かった。
娯楽も少なく、美味しいカフェやランチができるところもほとんどない。
まだ20代後半の女性としては、楽しく遊びたいのも当たり前なのだ。
薬華異堂薬局は、長年漢方薬などを中心に地元の古くからある薬局として、親しまれていた。
時代の流れに合わせ、業務内容は変わっては来ていたが、その威厳のある外観は昔と同じように残されていた。
そして、そこに併設されるように調剤専門の薬局が作られているのだ。
一通り業務が終了したので、併設店舗からその威厳ある本店へと移動した。
奥は私たち家族の自宅につながっているのである。
まだ父は帰っておらず、部屋は冷たい空気に包まれていた。
社長ともなると色々忙しいようである。
私は一人っ子で、母は3歳の時に病死をしており、記憶はほとんどない。
多少は寂しい思いもしたが、この薬華異堂薬局が遊び場ともなっていた。
学校では知ることかできない話や知識を大好きな祖父から聞くことができ、とても魅力的な場所だったのだ。
今でも、本店内は漢方専門薬局として、色々な生薬の匂いで満たされている。
苦手な人もいるだろうが、私にとっては気持ちを落ち着かせてくれる、心地よい匂いとなっているのだ。
うーん、やっぱりこっちはいい匂い。
消毒薬の匂いとは違う。
久しぶりに祖父の使っていた本棚に目を向けた。
沢山の漢方や東洋医学、中医学の本が並んでいた。
今まで読んだことがない本ばかり。
ここに来ると、勉強しなければ・・・と言う気持ちにさせられるのである。
少し前から、気になることがあった。
祖父が入院中にくれた鍵があるのだ。
薬華異堂薬局の入口の鍵なのだが、自分がもう使うことがないだろうと私にくれたものだ。
よく見ると、鈴のキーホルダーに付いている薬華異堂の鍵とは別に、小さな鍵が一緒に付いているのだ。
もらった時には深く考えていなかったが、今更ながらこれはなんの鍵なんだろうと思うようになったのである。
もちろん、父に聞いても思い当たるものはなかったのだ。
すでに祖父は他界しており謎のまま・・・。
最近は合いそうな鍵穴を試しては、違った・・・の繰り返しであった。
何故だかわからないが、どうしてもこの鍵が何なのかを確かめたくて仕方なかったのだ。
そしていま、この鍵ではないかと思える扉に遭遇したのである。
ん?これ・・・もしかしたら!
何気なく、厚手の古い書物を手に取った時である。
手に取った本を投げだし、その本があったところに釘付けになったのだ。
それは30センチ四方の扉のようなもので、鍵穴もちゃんとついていた。
古い本棚の割には扉も痛んでおらず、鍵穴も少し錆びている程度で、問題はなさそうである。
やっと見つけた・・・
まだ鍵を試してはいないが、確信があったのだ。
鍵穴と自分が持っている鍵の色や素材が同じであるのだ。
すぐに白衣の中の鍵を取り出した。
少し力が必要だったが、問題なく鍵が回り、扉が開いたのである。
中は金庫のような構造になっていた。
その中には数冊の書物とその上に、1通の封筒がおいてあった。
もしかしたら、祖父の遺産?とも思ったが、見るからにそんな代物では無かった。
金品が入っているとは思っていなかったので、特にがっかりする事は無かった。
しかし、その封筒を目にした途端、手が震えた。
なぜならそこにはこう書かれていたのだから。
「 舞へ 」
祖父からの遺言では?とはじめは考えたが、どうしてもおかしいのだ。
その封筒は、何十年も前から存在するように色褪せていたからだ。
さらに、その下にある書物はそれとは比べものにならないくらいの劣化を感じさせる代物であった。
本当に私が開けて良かったのか、父が帰るのを待って中身を確かめた方がいいのでは・・・。
そんな事を考えていたが、少なくともこの封筒の宛名は自分であるため、これを開けることに問題はないだろうと結論に達したのだ。
中には1枚の便箋が入っていた。
○
○
○
『 鍵穴を見つけたんだね。
ここにある書物は代々、薬華異堂に伝えられてきた「秘密の調合」なのだよ。
今は何が書いてあるかはきっとわからないだろう。
実は、これを守るのも私の代で終わりにしようと思ったのだよ。
これからの時代の人たちに負担はかけたくなかったからね。
私の手でこれを燃やしてしまえばよかったのだが、そうする勇気がなかった。
舞に判断を委ねてしまう事になったのを許して欲しい。
もしも舞がこれを見つけたならば、舞の望むようにしてほしい。
捨ててもよし、残してもよし。
勝手だと思うかも知れないが、よろしく頼むよ。
舞が、これを見つけない事を祈っているよ。
川上昌幸 』
○
○
○
・・・とりあえず、自分の部屋に行こう。
何故か、父にこの場を見られるのはまずいと考えたのだ。
本棚を元通りにして、古めかしい書物を大事に持ち、自分の部屋がある2階に移動したのである。
ちょうどその時だった。
「ただいまー、今帰ったよ。」
ご機嫌な父の声が聞こえたのだ。
ダラダラと片付けながら、薬剤師の川上舞はある思いにふけっていた。
もうすでに他の従業員は帰った後だったので、だらけた態度を指摘されることもない。
もちろん、経営者家族である自分に文句を直接的に言う人はいないのだが。
10年ぶりに実家の家業を継ぐために、それまで働いていた病院を辞め、田舎に戻ってきたのである。
実家はかなり昔から続いている「薬華異堂」と言う名の薬局。
名前だけ聞くと、「やくかいどう」なんて、あまり関わりたくない変な名前の薬局であるが、祖父の代からは調剤薬局も併設し県内に数店舗を展開しているのだ。
祖父は忙しい日々を送っていたが、主な仕事を父に任せ、最近は本店である薬華異堂にいる事が多かったようだ。
その祖父が先日亡くなったのである。
父の社長就任と同時に呼び戻されたというわけなのだ。
大学に入ると同時に上京。
都会での生活に慣れてしまい、田舎の生活が苦痛でしか無かった。
娯楽も少なく、美味しいカフェやランチができるところもほとんどない。
まだ20代後半の女性としては、楽しく遊びたいのも当たり前なのだ。
薬華異堂薬局は、長年漢方薬などを中心に地元の古くからある薬局として、親しまれていた。
時代の流れに合わせ、業務内容は変わっては来ていたが、その威厳のある外観は昔と同じように残されていた。
そして、そこに併設されるように調剤専門の薬局が作られているのだ。
一通り業務が終了したので、併設店舗からその威厳ある本店へと移動した。
奥は私たち家族の自宅につながっているのである。
まだ父は帰っておらず、部屋は冷たい空気に包まれていた。
社長ともなると色々忙しいようである。
私は一人っ子で、母は3歳の時に病死をしており、記憶はほとんどない。
多少は寂しい思いもしたが、この薬華異堂薬局が遊び場ともなっていた。
学校では知ることかできない話や知識を大好きな祖父から聞くことができ、とても魅力的な場所だったのだ。
今でも、本店内は漢方専門薬局として、色々な生薬の匂いで満たされている。
苦手な人もいるだろうが、私にとっては気持ちを落ち着かせてくれる、心地よい匂いとなっているのだ。
うーん、やっぱりこっちはいい匂い。
消毒薬の匂いとは違う。
久しぶりに祖父の使っていた本棚に目を向けた。
沢山の漢方や東洋医学、中医学の本が並んでいた。
今まで読んだことがない本ばかり。
ここに来ると、勉強しなければ・・・と言う気持ちにさせられるのである。
少し前から、気になることがあった。
祖父が入院中にくれた鍵があるのだ。
薬華異堂薬局の入口の鍵なのだが、自分がもう使うことがないだろうと私にくれたものだ。
よく見ると、鈴のキーホルダーに付いている薬華異堂の鍵とは別に、小さな鍵が一緒に付いているのだ。
もらった時には深く考えていなかったが、今更ながらこれはなんの鍵なんだろうと思うようになったのである。
もちろん、父に聞いても思い当たるものはなかったのだ。
すでに祖父は他界しており謎のまま・・・。
最近は合いそうな鍵穴を試しては、違った・・・の繰り返しであった。
何故だかわからないが、どうしてもこの鍵が何なのかを確かめたくて仕方なかったのだ。
そしていま、この鍵ではないかと思える扉に遭遇したのである。
ん?これ・・・もしかしたら!
何気なく、厚手の古い書物を手に取った時である。
手に取った本を投げだし、その本があったところに釘付けになったのだ。
それは30センチ四方の扉のようなもので、鍵穴もちゃんとついていた。
古い本棚の割には扉も痛んでおらず、鍵穴も少し錆びている程度で、問題はなさそうである。
やっと見つけた・・・
まだ鍵を試してはいないが、確信があったのだ。
鍵穴と自分が持っている鍵の色や素材が同じであるのだ。
すぐに白衣の中の鍵を取り出した。
少し力が必要だったが、問題なく鍵が回り、扉が開いたのである。
中は金庫のような構造になっていた。
その中には数冊の書物とその上に、1通の封筒がおいてあった。
もしかしたら、祖父の遺産?とも思ったが、見るからにそんな代物では無かった。
金品が入っているとは思っていなかったので、特にがっかりする事は無かった。
しかし、その封筒を目にした途端、手が震えた。
なぜならそこにはこう書かれていたのだから。
「 舞へ 」
祖父からの遺言では?とはじめは考えたが、どうしてもおかしいのだ。
その封筒は、何十年も前から存在するように色褪せていたからだ。
さらに、その下にある書物はそれとは比べものにならないくらいの劣化を感じさせる代物であった。
本当に私が開けて良かったのか、父が帰るのを待って中身を確かめた方がいいのでは・・・。
そんな事を考えていたが、少なくともこの封筒の宛名は自分であるため、これを開けることに問題はないだろうと結論に達したのだ。
中には1枚の便箋が入っていた。
○
○
○
『 鍵穴を見つけたんだね。
ここにある書物は代々、薬華異堂に伝えられてきた「秘密の調合」なのだよ。
今は何が書いてあるかはきっとわからないだろう。
実は、これを守るのも私の代で終わりにしようと思ったのだよ。
これからの時代の人たちに負担はかけたくなかったからね。
私の手でこれを燃やしてしまえばよかったのだが、そうする勇気がなかった。
舞に判断を委ねてしまう事になったのを許して欲しい。
もしも舞がこれを見つけたならば、舞の望むようにしてほしい。
捨ててもよし、残してもよし。
勝手だと思うかも知れないが、よろしく頼むよ。
舞が、これを見つけない事を祈っているよ。
川上昌幸 』
○
○
○
・・・とりあえず、自分の部屋に行こう。
何故か、父にこの場を見られるのはまずいと考えたのだ。
本棚を元通りにして、古めかしい書物を大事に持ち、自分の部屋がある2階に移動したのである。
ちょうどその時だった。
「ただいまー、今帰ったよ。」
ご機嫌な父の声が聞こえたのだ。
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