薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤

文字の大きさ
42 / 181
第1章 洞窟出現編

42話 魔人グラウン

しおりを挟む
 ちょうどプランツがブラックと会っていた頃、グラウンとストームは洞窟のある岩山に着いたのだ。

 プランツの話では、ブラックの部下が待っている可能性があるとのことだったが、辺りは静かだった。
 人間の警備の者もいるはずなのにその者すらいなかったのだ。

「グラウン、誰もいないね。
 プランツは考えすぎだよね。
 だって、私たちがブラックに楯突くなんて誰も知らないじゃない。
 でもここに人間はいるはずよねー。」

 ストームの言う通り、考えすぎなのかもしれないが、誰もいないのがおかしいのだ。

 もともと今回の計画に乗ってはみたものの、勝算が本当にあるのか疑問だったのだ。
 確かに私もプランツやストームと同じで、身体を消滅させられて、長年人間の身体に入りながら生きながらえてきた。
 そして今回復活出来たことが本当に喜びであった。
 本来の自分の身体、能力を持つことがどんなに素晴らしいことか。
 しかし、長年人間をやっていた事で、人間についても色々と知る事が出来たのだ。
 魔人と違い、色々な努力や工夫をする事で問題を解決していく所などは、頭が下がるのだ。
 特に最近までは自分の身体を使う仕事をしており、努力をして鍛える事で得られる達成感は素晴らしいことも実感していたのだ。
 もちろん、人間が全て素晴らしいわけでは無いが、人間にも善人、悪人はいるわけで、それは魔人でも同じと思ったのだ。

 500年もの間、復活できなかった事は不幸でもあり復讐にも値するかもしれないが、人間でいた事で得たものも沢山あったのである。
 だからこそ、簡単に人間達を征服する事や、ブラックを裏切ることに疑問はあったのだ。
 ・・・だが、プランツは仲間なのだ。
 500年以上前からの親友なのだ。
 その友人が一緒に戦いたいというので有れば、それに答えてあげたいと思ったのだ。
 だから、今回もしも敗北になったとしても、不満は無いのだ。

 それにしても、静かすぎるのが気になるのだ。
 辺りを目を凝らして見ると、目に見えているものが歪んでいるようにも感じたのだ。
 もしかしたら・・・
 目を閉じて精神を集中させると、近くに強力な2人の魔人の気配を感じたのだ。
 しまった、なぜ気づかなかったのだろう。
 これは、精神支配にかけられている。
 偽物の映像を頭に送られている。
 目を閉じたまま、気配のある方に魔力を貯めて衝撃波を送ったのだ。
 その途端、パリンと割れたような音がして、目を開けると本来の様子が目に入ってきたのだ。
 そこにはブラックの部下であるユークレイスとスピネルが洞窟の横でこちらを見て立っていたのだ。
 危なかったのだ。
 何も気づかず洞窟に向かっていれば、抵抗することなく捉えられるか攻撃を受けていただろう。
 ユークレイスが精神に働きかける魔法が得意なのは知っていたが、以前は自分にかけれるほどのレベルの魔人では無かったはず。
 この500年・・・長すぎたのかも知れない。
 我々にとって魔人としての時間は止まっていたが、彼らは違うのだ。
 私はまだ支配されているストームに思念で呼びかけた。
 『ストーム、敵はいる。 
 集中して魔人の気配を探れ。
 目に見えるものを信じるな。』

 ストームは私の声に応え、目を閉じ精神を集中させた。

「すまない、グラウン。
 まんまとかかってしまった。
 もう大丈夫よ。」

 やはり、簡単にはいかないな。
 罠をかけて待ち構えていたとなると、プランツの真意はすでにブラックにわかっていたのだろう。
 だが、ここでやめるわけにはいかないのだ。

「流石だな、ユークレイス。
 はじめはわからなかったよ。」

「褒めていただきありがたいですね。
ですが、私もあなた方がいなくなった500年、遊んでいたわけではありませんから。
 もう、格下では無いのですよ。
 ですが、すぐに見破るとは。
 油断は出来ませんね。」

 ユークレイスは表情を変えずに答えた。

 ストームにユークレイスの相手は無理だ。
 この精神支配の魔法にレジストするにはかなりの魔力が必要だ。
 ストームにはずっと維持する力はない。
 かと言って、もう1人の魔人のスピネルが弱いわけではないのだ。
 ただ、スピネルは広範囲に作用する魔法を得意としており、ストームも同じなわけで勝機が無いわけではないのだ。
 私がユークレイスを倒すまで、ストームが時間を稼げばいいのだ。
 その後2人で倒せば何とかなるかもしれない。
 まあ、私がまず勝つのが必須であるのだが。

 私たちと行動を共にしている魔人たちの精神支配も解かれたようで、その者たちにはストームを援護するように指示をだしたのだ。

「ストーム、スピネルを任せる。
・・・死ぬなよ。」

 私はそう言い、地面に向けて魔力を注いだ。
 私とユークレイスの周りを深い崖と高い岩山で囲んだのだ。

「わかってましたよ。
 あなたの考える事はお見通しですから。」

 魔力を他に使っている間は精神攻撃を上手くレジスト出来ないのだ。
 すぐに跳ね除ける事は出来るが、考えを読まれてしまう。
 読まれたところで、力で押し切ればいいだけなのだが。

「そうですね。力で押し切ればいいですが、今の私はそんなに簡単にはいきませんよ。」

 私は主に物理的な攻撃がメインなのだ。
 精神攻撃とは相性が悪いが、攻撃の威力は私のが上なのだ。
 そう、当たればダメージを与えられるのだ。
 ・・・しかし当たらないのだ。
 先読みされてしまうのだ。
 私は崖や岩山で作った囲いを狭めた。
 行動範囲を少なくする事で、攻撃が当たる確率を上げるためだ。
 そして、上手く追い詰め、相手が防御する間も無く連続で攻撃を仕掛け、ユークレイスに衝撃波を与える事に成功したのだ。
 よし。
 上手く行った。
 トドメを刺すために近寄った時、後ろから攻撃を受けたのである。
 見ていた情景は歪み、いるはずのユークレイスが消え、振り向いた所に存在したのだ。
 瞬時に移動した?
 いや、違う。
 ・・・ああ、最後にまたかかってしまったのか。
 自分が思う映像を見せられていたのだな。
 
 ストームすまない・・・
 私の意識は途絶えたのだ。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

おばさん冒険者、職場復帰する

神田柊子
ファンタジー
アリス(43)は『完全防御の魔女』と呼ばれたA級冒険者。 子育て(子どもの修行)のために母子ふたりで旅をしていたけれど、子どもが父親の元で暮らすことになった。 ひとりになったアリスは、拠点にしていた街に五年ぶりに帰ってくる。 さっそくギルドに顔を出すと昔馴染みのギルドマスターから、ギルド職員のリーナを弟子にしてほしいと頼まれる……。 生活力は低め、戦闘力は高めなアリスおばさんの冒険譚。 ----- 剣と魔法の西洋風異世界。転移・転生なし。三人称。 一話ごとで一区切りの、連作短編。 リーナ視点が主です。 ----- また続けるかもしれませんが、一旦完結です。 ※小説家になろう様にも掲載中。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...