薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤

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第4章 火山のドラゴン編

128話 魔人の国のドラゴン

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 スピネルを先頭に、ブラックの姿のドラゴンと私は暗い洞窟を進んだ。

 魔人の国に繋がる洞窟を抜けると、すでにネフライトが待っていたのだ。
 ネフライトは私を見て一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに目線をブラックに向けたのだ。
 私もこちらに来るとは思ってなかったのだろう。

 ユークレイスから事情は聞いているだろうが、多分スピネルがブラックとドラゴンの共存についても思念で伝えていると思われた。
 ネフライトは以前からとても丁寧な対応をする執事の様な魔人であったが、今回はいつも以上の対応なのを見て、既に全てを理解している様であった。

「ブラック様より伺っております。
 さあ、こちらに。」

 そう言うと、立派な馬車が用意されており、それに乗るように進めたのだ。
 魔人であれば一瞬で城まで行けるというのに、わざわざ馬車を使う辺りが、王を出迎えに来たと言う事なのだろう。

「何でわざわざ乗らなければいけないのだ。
 魔人であればすぐに城まで行けるのではないか?」

 先ほどスピネルがしたように城まで一瞬で行けるのに、馬車に乗る事がドラゴンは不思議に思ったようだ。
 ネフライトが困った顔をしたので、私がすかさず口を挟んだ。

「この馬車と言うものに乗ると、城までの国の様子を見る事ができます。
 この国を知るためにも、どうぞ乗ってくつろいでください。」

 私がそう言うと、なるほどと理解したようで問題なく馬車に乗り込んだのだ。
 
 ブラックの姿のドラゴンは、知らない者が見たらいつものブラックにしか見えないので、今回のことは幹部達のみが知る事となった。
 もちろん、ユークレイスがいるので記憶の改ざんは難なく出来るのであったが、なるべく城の外に情報が漏れないように努めるようだ。
 馬車に乗ったドラゴンは周りを興味深そうに見ながら、質問をしてきたのだ。
 私やスピネルが丁寧に答えると、ドラゴンはとても満足げであった。
 魔人の城に着くとジルコンを始め、幹部達が待っていたのだ。
 緊張した雰囲気の中、ブラックの姿のドラゴンが現れると皆ひざまづいて、敬意を示したのだ。
 ドラゴンは当たり前のような顔をして真ん中を通り抜け、用意された部屋に落ち着いたのだ。
 ドラゴンの通り過ぎた後のジルコンの表情が怒りを表しているのが手に取るようにわかったので、内心ヒヤヒヤしたのだ。
 ブラックは独裁的な王では無かったので、幹部からもとても慕われていたのだ。
 その為、このドラゴンの態度は特にジルコンには納得出来るものではなかったのだろう。

 とりあえず、ブラックの言う通り魔人の国に王として迎えたのは良いが、この後どうすれば良いか、ブラックの意図がわからなかった。
 私はと言えば、ブラックの姿のドラゴンに付き添って質問に答えると言う事が続いた。
 まずは、食べ物についてだ。
 もちろん周りからエネルギーを吸収することで食事を取らなくても問題ない事はわかっていた。
 だがむやみに他の生き物の生命エネルギーを吸い取る事を避けて欲しかったし、今はブラックの身体であるので食事を楽しんでもらうことにした。
 美味しい飲み物や食事に接してもらうため、準備をしたのだ。
 私は一緒に食事をして、食べ方なども教えたのだ。
 はじめは嫌がっていたが、興味の方が大きかったようで、果物を一口食べてからは、色々な物を食したのだ。

「なるほど、人間や魔人はこのような物をとってエネルギーとするのだな。
 なかなか良いではないか。」

 それからは私が勧めるもの全てに興味を持っていったのだ。
 まずは、この世界や人間の世界での衣食住について話した。
 街中についても知ってもらいたかったが、この国の住民の前に出すことには不安があったので、全ては城の中での説明となったのだ。
 
 しかし、もともとドラゴンのため、空高く飛ぶ事が出来ない事が不満に思うようになったのだ。
 ブラックの身体では飛べる訳ではないし、アクアの時のようにブラックを侵食することも出来ない為、イライラが募ってきたのだ。
 少し気に入らないとすぐに燃やしてしまったり破壊的な行動をするようになったのだ。
 つまりブラックの器ではあったが、魔人としての力を使うことも出来ず、かと言って本来の自分の力も使う事が出来なかったのだ。
 やはり、ドラゴンの身体が欲しかったのだ。

 その為には、封印されたエネルギーを取り戻すか、ブラックから離れ別の者を侵食し不完全な復活をするしか無かった。
 しかし、実のところブラックの身体に入ったことで、ある程度の力が抑えられている為、この身体からも簡単に出れない状況であったのだ。

 そう、この共存はドラゴンにとっても良いことばかりでは無かったのだ。

 ブラックはこの展開を見抜いていたのかもしれない。

 
 

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