薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤

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第5章 闇の遺跡編

179話 ブラックの本心

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 ブラックが舞に会いに来る前の事である。
 
 私は舞をカクの家に送った後すぐに城に戻った。
 自分の魔力を込めたペンダントを急いで作る指示をしたのだ。
 次の日ペンダントが出来るとすぐに渡したかったので、まだ朝早くではあったが、カクの家に向かったのだ。

 洞窟を歩きながら考えていた。
 舞は私の城に一緒に住んでくれると思っていたのだ。
 それなのに人間の世界に住むと言われて私はかなりショックだった。
 その後の精霊の言葉を聞いて、私は動揺したのだ。
 正直、あの森での舞の言葉は、ずっと私の側で過ごすと言う意味に思ったのだ。
 しかし、宴の後の話では少し違っていたのだ。
 舞の気持ちが変わったのか、それとも初めからそんなつもりで言っていなかったのか・・・
 もしかすると、精霊のせいなのか・・・
 そう思うと、早く本心を聞きたかったのだ。

 私は舞のいるお屋敷の前に立ち、扉をノックした。
 すると中から薬師の取りまとめでもあるご老人が出てきたのだ。

「これはこれは、魔人の王ではないですか。
 この時間にいらっしゃるとは、舞に急ぎの用件ですかな?
 昨夜は寝るのが遅かったので、まだ舞は眠っておりまして・・・。
 起こしてきますので、中でお待ちください。」

 そう言って私を中に招き入れてくれた。

「ああヨク殿、それなら起こさなくても良いので、待たせてもらっても良いでしょうか?」


「もちろんですぞ。」
 
 そう言って、温かなお茶を出してくれたのだ。

 私はお屋敷の中で少し待たせてもらうことにした。
 待っている間、人間の世界の興味深い話を色々と聞かせてもらい、舞の話にもなったのだ。

「ブラック様・・・舞からこちらの世界に住む話は聞きましたかね?」

「ええ・・・正直に話すと私の城で過ごしてくれるかと思っていたのです。
 しかし、こちらで生活すると聞いて・・・」

「舞から理由は聞いたのですか?」

「いいえ・・・ただ、こっちで生活するので、以前よりは会えるとだけ・・・」

 ご老人はお茶を飲んでいたカップをテーブルに置き、先程までの朗らかな表情と違い、真面目な顔で話し始めたのだ。

「なるほど・・・
 まあ、直接言われたわけでは無いのですが、舞はあなたにふさわしい女性になる為にここで勉強したいのですよ。
 単に魔人の王に気に入られたからいるだけの女性とは思われたく無いのだと思いますよ。
 舞はこっちの世界で生きていく力をつけて、魔人の友人たちにも認められる女性になりたいと言っておりましたよ。
 自分だからこそ出来る事を探したいと・・・。
 多分、ブラック様が偉大な魔人の王である事に改めて気付いたのですよ。
 だから、自由にやりたい事をやらせてあげてはどうですかな?」

 舞がそんな事を考えていたなんて・・・思ってもいなかった話に私は驚いたのだ。

「私など、全く偉大でも何でも無いのですよ。
 舞や仲間に助けられてばかりです。
 王という立場だって、すぐに誰かに明け渡しても良いくらいなのですよ。
 ただ、私も責任を放棄することは出来ないので、私と代われる者が出て来るまでは役目を果たそうとは思っております。
 舞がそんな風に思っているとは考えてもいませんでした。
 私は側にいてくれるだけでいいと思っていたのですが。」

「ハッハッハッ、舞はそんな性格では無いことはわかっていたのでは無いですかのう?
 自分の思い通りになる娘なら、興味も無かったのではないですか?
 いつも勝手な行動で、心配ばかりさせる・・・そうではないですかな?」

 私はここで舞の話が聞けて本当に良かった。
 このご老人の言う事が全く正しいと思ったのだ。
 舞のやりたい事をさせてあげよう。
 ・・・ただ、私も黙って見ているだけはもう出来なかった。
 ライバルと言うべき精霊の存在が、やはり心配で仕方なかったのだ。
 もう、理解ある魔人の王を演じるのはやめたのだ。

 その時、バタンとドアが開いて舞が現れたのだった。


             ○

             ○

             ○
          

 舞はブラックと結界の中に二人きりになった事にとても動揺した。

 どうも結界により、この部屋には誰も入れない空間になったようなのだ。
 誰からも邪魔されない場所と言うブラックの言葉で、私の鼓動は速くなったのだ。
 
「舞・・・」

 私は名前を呼ばれてますます鼓動が早くなって、ブラックを見る事が出来なかった。
 すると、ブラックが近くに来て肩に手を置いたのだ。
 そして首筋に手がいくと、胸元に冷たい感覚がはしった。
 よく見ると、以前くれたペンダントと同じ物が光っていたのだ。

「これ・・・」

「前のは壊れてしまいましたよね。
 指輪もありますが、この前の件で私に何かあれば舞を守れない事がわかったので、やっぱりこれも渡しておこうと思って。
 朝早くから押しかけてすみません。」

 それは思ってもいなかった事で、色々勝手な想像をしていた私は少し恥ずかしくなったのだ。

「ああ、そうだったわ。
 ブラック、ありがとう。
 また、ずっと身につけているわね。」

 そう言ってブラックの顔を見て微笑むと、ブラックはいきなり抱きしめてきたのだ。

「今日はこうするつもりは無かったのですが、舞を見ていたら抱きしめずにはいられませんでした。」

「あの・・・」

「このまま黙って聞いて、舞。
 私の気持ちを伝えます。
 正直、わたしの城で舞と一緒に暮らしたかった。
 ですが、舞がやりたい事を応援します。
 さっき、ヨク殿に話を聞きました。
 ・・・でも、私にも待つのは限界があります。
 だから、今日は強引に言います。
 ・・・やりたい事が終わったら、必ず私の所に来る事を約束しなさい。
 もう、どこかに行くことは許さない。
 舞は・・・私だけのものなのだから。」

 今まで紳士的なブラックが、こんな風に私に強く言うことなんて無かったのだ。
 でも私はその言葉が嬉しかったのだ。
 今回、父に本当の事を話してまでこの世界に来た理由・・・
 大変な事もあったけれど、全てはブラックを助ける為そしてずっと一緒にいたかったから・・・
 私は小さな声でブラックの耳元で一言だけ伝えたのだ。

「・・・はい、約束します。」
 
 そう言って、背伸びをして私からブラックにキスをしたのだ。
 ブラックは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにとても嬉しそうな顔になって、頭を撫でながらまた抱きしめてくれたのだ。
 私は心が暖かくなり、身体が溶けるような幸せな気持ちになったのだ。
 スッピンでパジャマでいたことなんて、もうどうでも良くなっていた。
 それにやっぱり結界があって正解だった。
 だってこんな所、カクには見せられないと思ったからだ。


 
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