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第5章 闇の遺跡編
181話 私が進む未来
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私は魔人の国から洞窟を抜けて人間の国に戻った。
もちろん、ブラックがカクのお屋敷まで送ってくれたのだ。
「舞、では明日また来ますね。」
ブラックはそう言ってすぐに移動したのだ。
どうも、ネフライトから王としての仕事が色々溜まっていると言われたようで、今日中に全てをこなして来ると話していたのだ。
明日私が自分の世界に転移する事を決めたので、それまでに仕事を終わらせたかったようだ。
やはり、魔人の王の仕事は色々忙しいらしい。
私がお屋敷の前に着いた時、勢いよく扉が開いた。
「舞、お帰り!
一緒に買い物に行きたかったから、待ってたんだよ。
でも、なかなか帰って来ないから、買ってきちゃったよ。」
以前と同じで、カクは私の洋服や必要になる物を色々買ってきていたのだ。
「カク、気が早いわ。
一度帰って、色々準備をしてから来るから、こっちに住むのはもう少しかかるわ。」
そう言いながらも、相変わらずせっかちなカクを見ているのは楽しかったのだ。
私はカクにどんな物を買って来たか見せてもらった。
そこにはまるで私の気持ちがわかっていたかのように、欲しかった物が色々あったのだ。
「カク、この本・・・」
「うん、話す事は問題ないけど、これからは色々な書物を読む事になるだろう。
だから、この国の文字が読めて、書けなくてはいけないね。
あ、でも心配しなくていいよ。
言葉は問題なく通じるんだから、文字を覚えるなんて簡単だよ。
ちゃんと教えてあげるからね。」
・・・そうなのだ。
何故かこの世界に転移した時から、意思の疎通は問題なかったのだ。
だから今まで気にしていなかった事・・・
しかしこの世界で勉強するためには、最初のハードルはそこなのだ。
色々知りたくても、書物で知識を得るには読めなくてはならないのだ。
カクはその事をよくわかっていた。
本当にいつも私の事を考えてくれる人なのだ。
次の日、私は朝早く目が覚めた。
何だか落ち着かなくて、外に出て久しぶりに薬草庫に向かったのだ。
中に入ると、そこは以前と同じ生薬に似た独特の匂いで包まれていた。
まるで、薬華異堂薬局の本店の中にいるような気分になったのだ。
そして私はゆっくりと深呼吸をして、この匂いを満喫したのだ。
よく見ると、前に来た時よりも薬草の種類が増えていた。
火事の前の薬草庫と同じ状態になるのも、それほど時間はかからないと思った。
ふと、火事の時でも焼けなかった古い扉が目に止まった。
薬草庫がほとんど燃えてしまった中でもこの扉は残っていたのだ。
私の世界とこの世界を継なぐこの扉は、何か強い力があるのかもしれないと思ったのだ。
そしてこの魔法陣・・・足元に置かれている布状の物に描かれた図を見たのだ。
以前、ハナさんが異世界への転移の方法を、ブラックと一緒に模索したと言っていた・・・
これを作り出したのもハナさんなのかと思うと、ますます私は勉強しなければと思ったのだ。
私はお屋敷に戻り、帰る準備をした。
朝食の後、来た時と同じ薄水色の白衣を羽織り、赤いスーツケースを持って一階に降りたのだ。
「舞、まだ魔人の王が来てないが・・・」
ヨクがそう言ったとき、お屋敷の扉がノックされたのだ。
私が扉を開けると、ブラックが立っていた。
「舞、準備は出来たようですね。」
私の姿を見て、優しく微笑んだのだ。
「ええ、じゃあ行きましょうか。」
私達はお屋敷の外の薬草庫に移動した。
そして私は魔法陣の中心に立ったのだ。
今までと違い、みんなと別れる寂しさはなかった。
ここでの生活の準備をするために帰るのだから。
前もってヨクから貰っていた光の鉱石が入った袋を、白衣のポケットから取り出したのだ。
「では、行って来ますね。
ちゃんと父と話してすぐに戻りますから、待っててくださいね。
カク、準備が整ったら、手紙を書くわね。」
私はそう言ってカクとヨクに微笑んだのだ。
そして最後にブラックを見つめると、ブラックは優しく見つめ返してくれたのだ。
私はみんなの見守る中、袋から光の鉱石の粉末を取り出し、自分の頭上に投げた。
その綺麗な粉は周辺に広がると、すぐに魔法陣の中心へと引き寄せられ私を包むように集まったのだ。
そして何も見えなくなったかと思うと、すぐに見慣れた自分の部屋が現れたのだ。
私は自分の生まれた世界に帰って来たのだ。
○
○
○
私は靴を持ってそっと一階に降りたのだ。
漢方専門の本店の方はシーンと静まり返っていて、私の足音だけがギシギシと響いたのだ。
父の気配は無く、どうもこちらの店舗はお休みのようだった。
調剤薬局につながる通路の方からは、何人かの声が聞こえて来た。
問題なく営業しているようで、私は安心したのだ。
私は本店の方の、おじいちゃんが使っていた本棚を眺めた。
厚手の本をどかすと、秘密の扉はそこにちゃんと存在していて私はホッとしたのだ。
他の本をいくつか見ていると、一番隅に古いアルバムを見つけたのだ。
中を開くとおじいちゃんの若い時の写真やおばあちゃん、そして母の懐かしい顔まで見る事が出来たのだ。
今までここにあった事に、なんで気付かなかったのだろうと、私は残念でならなかった。
母は私が小さい時に亡くなっていたので、記憶はほとんどないのだ。
父や小さな私と一緒に写る写真は持っていたが、母の若かりし姿を見たのは初めてだったのだ。
それを見て懐かしい気持ちが込み上げて来た時、アルバムの間に挟まっていた古びた封筒がバサッと落ちたのだ。
その中にはもっと年代物の白黒の写真が数十枚入っていたのだ。
しかし、写真の中の人達は見た事も無い人ばかりであった。
幼い子供の写真の裏を見ると 昌幸 3歳 そして日付が入っていたのだ。
それはおじいちゃんが小さい頃の写真だったのだ。
なるほど、それならば白黒の年代物の写真である事が納得できたのだ。
私は数枚見た後、手を止め息をのんだのだ。
その写真の中に目を引くものがあったのだ。
それは高齢の女性が優しげな眼差しで、三歳のおじいちゃんを膝に乗せて見つめている写真なのだ。
その横にやりかけの刺繍のような物が置かれているのだが、驚いた事にそれは転移に必要な魔法陣の図に他ならなかったのだ。
そうか、やっぱり・・・
きっと、この人がハナさんなのだ。
薄々わかってはいたが、ハナさんは遠い昔の人では無かったのだ。
時間の流れの違いから、異世界では五百年前と言われていた事が、この世界ではその三分の一くらいなのかもしれない。
・・・だとすると、この優しそうな女性がハナさん?
ハナさんと思われる女性は、おじいちゃん以外にも色々な人と一緒に写っている写真が沢山あったのだ。
ハナさんの人生は色々大変だったのかもしれないけど、この写真を見る限りはきっと幸せだったのだと思う。
何故ならどの写真も、沢山の人達と一緒に笑顔で写っていたものばかりなのだ。
そして一番最後にあった写真には、私も見慣れた建物が写っていたのだ。
それは今の薬華異堂薬局本店の姿そっくりの建物だった。
きっと今までに何度か建て替えてはいるだろうが、この時と同じ趣のある姿は今も変わらず受け継いできていたのだ。
私は何だか嬉しくて涙が自然とポロポロ落ちて来たのだ。
そしてそれを見ながら、私に出来る事を最大限頑張ろうと心に決めたのだ。
どんな形になるかはわからないけれど、ハナさんやおじいちゃんから受け取ったバトンを必ず未来に渡したい・・・そう思ったのだ。
もちろん、私なりの方法で・・・
その時薬局の入口の鍵がガチャっと開く音がしたのだ。
父が帰って来たようだ。
私が父にこれから話す事は難題かもしれない。
でもこの写真を見たら、どんなに時間がかかっても父をちゃんと説得して、ブラックやみんなのいる世界に行くと言う自信が益々わいてきたのだ。
私は本棚の横から顔を出して、父を迎えたのだ。
父は少し驚いたようだったが、すぐにいつもの笑顔を見せてくれたのだ。
「お父さん、おかえりなさーい」
「舞、おかえり。」
薬局の中に、二人の声がいつもより少し高めに響いたのだった。
【完】
もちろん、ブラックがカクのお屋敷まで送ってくれたのだ。
「舞、では明日また来ますね。」
ブラックはそう言ってすぐに移動したのだ。
どうも、ネフライトから王としての仕事が色々溜まっていると言われたようで、今日中に全てをこなして来ると話していたのだ。
明日私が自分の世界に転移する事を決めたので、それまでに仕事を終わらせたかったようだ。
やはり、魔人の王の仕事は色々忙しいらしい。
私がお屋敷の前に着いた時、勢いよく扉が開いた。
「舞、お帰り!
一緒に買い物に行きたかったから、待ってたんだよ。
でも、なかなか帰って来ないから、買ってきちゃったよ。」
以前と同じで、カクは私の洋服や必要になる物を色々買ってきていたのだ。
「カク、気が早いわ。
一度帰って、色々準備をしてから来るから、こっちに住むのはもう少しかかるわ。」
そう言いながらも、相変わらずせっかちなカクを見ているのは楽しかったのだ。
私はカクにどんな物を買って来たか見せてもらった。
そこにはまるで私の気持ちがわかっていたかのように、欲しかった物が色々あったのだ。
「カク、この本・・・」
「うん、話す事は問題ないけど、これからは色々な書物を読む事になるだろう。
だから、この国の文字が読めて、書けなくてはいけないね。
あ、でも心配しなくていいよ。
言葉は問題なく通じるんだから、文字を覚えるなんて簡単だよ。
ちゃんと教えてあげるからね。」
・・・そうなのだ。
何故かこの世界に転移した時から、意思の疎通は問題なかったのだ。
だから今まで気にしていなかった事・・・
しかしこの世界で勉強するためには、最初のハードルはそこなのだ。
色々知りたくても、書物で知識を得るには読めなくてはならないのだ。
カクはその事をよくわかっていた。
本当にいつも私の事を考えてくれる人なのだ。
次の日、私は朝早く目が覚めた。
何だか落ち着かなくて、外に出て久しぶりに薬草庫に向かったのだ。
中に入ると、そこは以前と同じ生薬に似た独特の匂いで包まれていた。
まるで、薬華異堂薬局の本店の中にいるような気分になったのだ。
そして私はゆっくりと深呼吸をして、この匂いを満喫したのだ。
よく見ると、前に来た時よりも薬草の種類が増えていた。
火事の前の薬草庫と同じ状態になるのも、それほど時間はかからないと思った。
ふと、火事の時でも焼けなかった古い扉が目に止まった。
薬草庫がほとんど燃えてしまった中でもこの扉は残っていたのだ。
私の世界とこの世界を継なぐこの扉は、何か強い力があるのかもしれないと思ったのだ。
そしてこの魔法陣・・・足元に置かれている布状の物に描かれた図を見たのだ。
以前、ハナさんが異世界への転移の方法を、ブラックと一緒に模索したと言っていた・・・
これを作り出したのもハナさんなのかと思うと、ますます私は勉強しなければと思ったのだ。
私はお屋敷に戻り、帰る準備をした。
朝食の後、来た時と同じ薄水色の白衣を羽織り、赤いスーツケースを持って一階に降りたのだ。
「舞、まだ魔人の王が来てないが・・・」
ヨクがそう言ったとき、お屋敷の扉がノックされたのだ。
私が扉を開けると、ブラックが立っていた。
「舞、準備は出来たようですね。」
私の姿を見て、優しく微笑んだのだ。
「ええ、じゃあ行きましょうか。」
私達はお屋敷の外の薬草庫に移動した。
そして私は魔法陣の中心に立ったのだ。
今までと違い、みんなと別れる寂しさはなかった。
ここでの生活の準備をするために帰るのだから。
前もってヨクから貰っていた光の鉱石が入った袋を、白衣のポケットから取り出したのだ。
「では、行って来ますね。
ちゃんと父と話してすぐに戻りますから、待っててくださいね。
カク、準備が整ったら、手紙を書くわね。」
私はそう言ってカクとヨクに微笑んだのだ。
そして最後にブラックを見つめると、ブラックは優しく見つめ返してくれたのだ。
私はみんなの見守る中、袋から光の鉱石の粉末を取り出し、自分の頭上に投げた。
その綺麗な粉は周辺に広がると、すぐに魔法陣の中心へと引き寄せられ私を包むように集まったのだ。
そして何も見えなくなったかと思うと、すぐに見慣れた自分の部屋が現れたのだ。
私は自分の生まれた世界に帰って来たのだ。
○
○
○
私は靴を持ってそっと一階に降りたのだ。
漢方専門の本店の方はシーンと静まり返っていて、私の足音だけがギシギシと響いたのだ。
父の気配は無く、どうもこちらの店舗はお休みのようだった。
調剤薬局につながる通路の方からは、何人かの声が聞こえて来た。
問題なく営業しているようで、私は安心したのだ。
私は本店の方の、おじいちゃんが使っていた本棚を眺めた。
厚手の本をどかすと、秘密の扉はそこにちゃんと存在していて私はホッとしたのだ。
他の本をいくつか見ていると、一番隅に古いアルバムを見つけたのだ。
中を開くとおじいちゃんの若い時の写真やおばあちゃん、そして母の懐かしい顔まで見る事が出来たのだ。
今までここにあった事に、なんで気付かなかったのだろうと、私は残念でならなかった。
母は私が小さい時に亡くなっていたので、記憶はほとんどないのだ。
父や小さな私と一緒に写る写真は持っていたが、母の若かりし姿を見たのは初めてだったのだ。
それを見て懐かしい気持ちが込み上げて来た時、アルバムの間に挟まっていた古びた封筒がバサッと落ちたのだ。
その中にはもっと年代物の白黒の写真が数十枚入っていたのだ。
しかし、写真の中の人達は見た事も無い人ばかりであった。
幼い子供の写真の裏を見ると 昌幸 3歳 そして日付が入っていたのだ。
それはおじいちゃんが小さい頃の写真だったのだ。
なるほど、それならば白黒の年代物の写真である事が納得できたのだ。
私は数枚見た後、手を止め息をのんだのだ。
その写真の中に目を引くものがあったのだ。
それは高齢の女性が優しげな眼差しで、三歳のおじいちゃんを膝に乗せて見つめている写真なのだ。
その横にやりかけの刺繍のような物が置かれているのだが、驚いた事にそれは転移に必要な魔法陣の図に他ならなかったのだ。
そうか、やっぱり・・・
きっと、この人がハナさんなのだ。
薄々わかってはいたが、ハナさんは遠い昔の人では無かったのだ。
時間の流れの違いから、異世界では五百年前と言われていた事が、この世界ではその三分の一くらいなのかもしれない。
・・・だとすると、この優しそうな女性がハナさん?
ハナさんと思われる女性は、おじいちゃん以外にも色々な人と一緒に写っている写真が沢山あったのだ。
ハナさんの人生は色々大変だったのかもしれないけど、この写真を見る限りはきっと幸せだったのだと思う。
何故ならどの写真も、沢山の人達と一緒に笑顔で写っていたものばかりなのだ。
そして一番最後にあった写真には、私も見慣れた建物が写っていたのだ。
それは今の薬華異堂薬局本店の姿そっくりの建物だった。
きっと今までに何度か建て替えてはいるだろうが、この時と同じ趣のある姿は今も変わらず受け継いできていたのだ。
私は何だか嬉しくて涙が自然とポロポロ落ちて来たのだ。
そしてそれを見ながら、私に出来る事を最大限頑張ろうと心に決めたのだ。
どんな形になるかはわからないけれど、ハナさんやおじいちゃんから受け取ったバトンを必ず未来に渡したい・・・そう思ったのだ。
もちろん、私なりの方法で・・・
その時薬局の入口の鍵がガチャっと開く音がしたのだ。
父が帰って来たようだ。
私が父にこれから話す事は難題かもしれない。
でもこの写真を見たら、どんなに時間がかかっても父をちゃんと説得して、ブラックやみんなのいる世界に行くと言う自信が益々わいてきたのだ。
私は本棚の横から顔を出して、父を迎えたのだ。
父は少し驚いたようだったが、すぐにいつもの笑顔を見せてくれたのだ。
「お父さん、おかえりなさーい」
「舞、おかえり。」
薬局の中に、二人の声がいつもより少し高めに響いたのだった。
【完】
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