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プロローグ
しおりを挟む「この穀潰しが、さっさとゴミ捨てに行ってこいよ」
——ドン
少年はゴミと一緒に玄関から突き飛ばされて外に出た。
「えへへへ、またレイト兄に怒られちゃいました」
優しい笑顔で独り言を言い、殴られた肩をさすりながら立ち上がり、ゴミを運び始める。
「お母様行ってきます」
「はいはい、気をつけて行ってらっしゃい」
後ろの方から、レイト兄とお母様の声が聞こえてくる。
そして、レイト兄の駆け足の音が近づいてくる。
「何、ちんたら歩いてるんだよ!」
——ガツン
レイト兄に頭を殴られた。
その衝撃で、持っていたゴミをばらまいてしまう。
「ごめんなさい」と言って、慌ててゴミを集める。
レイト兄はそんな僕を見下ろしながら、
「この妾めかけの子が!トロくて気持ち悪いんだよ。魔導もロクに使えない落ちこぼれのお前が俺の目に入ると、俺が汚れるだろ。早く消えろよ」
そういって唾を吐きかけてからレイト兄は学校に向かった。
そう、学校に。
生まれてこのかた、学校というものに通ったことがなかった。
——学校ってどんなところなんだろう。楽しいのかな?
学校に憧れがあり、レイト兄が羨ましかった。
しかし、僕はタダで家に住まわせていただいている身だから、願望なんて口にするのも憚かられる。
家に帰れば、掃除、洗濯、昼食の用意、買い物などなど、毎日のルーティーンが待っている。
学校に行く暇なんて到底ない。
ゴミ捨てを終え、家に戻り玄関を開けた。
「アスカさん、何をちんたらゴミ捨てに行っているのですか?
さっさと掃除洗濯を済ませて、旦那様のために昼食の用意をしてくださいませ。
私は今度のパーティーの打ち合わせに行ってきますので」
玄関でお母様が外出の準備をしていた。
侍女達が、靴を取り出したり、姿鏡を持ったりして、お母様の支度を手伝っている。
今日はかなり綺麗にしている。
多分、街の庄屋の旦那に会いに行くのだろう。
この前、買い物中に、お母様と庄屋の旦那が路地裏でキスをしているところを偶然見てしまった。
まあ、お父様だって毎晩違う女性と寝ているのだからおあいこか。
「分かりましたお母様、行ってらっしゃいませ」
「あなたみたいな子を引き取って、しかも育ててあげているんだから、ちゃんと感謝して働きなさいよ」
そう言って、お母様は侍女を2人連れて出かけた。
屋敷には、僕だけが残った。
僕はお父様の妾の子、つまり愛人との間に生まれた子ども。
本当の母親が死んでしまってからは、アロガンス家に引き取られた。
それからというものの、毎日毎日、お母様やレイト兄、そしてお父様からも嫌がらせを受けている。
蹴られ、殴られ、蔑まれ。
ただ、こんな僕にも侍女の2人は優しくしてくれた。
だけど、雇われの身、侍女達は表立って味方をすることはできなかった。
黙々と涙を堪えながら、「お天道様は必ず見ている」とか「いつか必ず自由になりたい」、「学校に行きたい」と考えながら、ルーティーンをこなしていく。
それが、アスカ・ニベリウム、10歳の日常であった。
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