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天界探索

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「わかりました。アスカのその顔つきは、梃子でも動かない時の顔つきです。天界へのルート探索を許可します」

 姫様は、やれやれと言った表情で、僕に、天界へのルートを探索することを許してくれた。

「しかし、条件があります」
「条件ですか?」
「天界へのルートが見つかり次第、一度、私に連絡してください。そして、そのルートの安全性などを話し合い、天界への潜入の可否を審議したいと思います。これが私ができる譲歩です」
「‥‥‥わかりました。それで構いません」

 姫様の表情も梃子でも動かない時の表情をしていた。
 だから、姫様から譲歩を引き出せただけでもかなりの成果である。

 その後、高等諮問会は、終了し、僕は帰路につこうとする‥‥‥‥、と、突然、王宮の出口で見知った人物から声をかけられる。

 それは、ロージェ先生だった。

「アスカ、お主は、またとんでも無いことをしようとしているな。天界へのルート探索なんて、命が何個あっても足りないかもしれないんだぞ」
「やはり、そうですよね」
「天界へ通づる道には、必ず門番が存在する。だから、もし、天界に行くならば、その門番を倒さなければならない。しかし、門番を倒せば、そりゃ必ず天界本部から増援がくる。そうなれば、我々には勝ち目はないだろう」
「そうですよね。裏道でもあればいいんですが‥‥‥」
「だがな、アスカ、ワシも天界大統領を倒すのには賛成じゃ、そして、お主が今日、天界へのルート探索と言った時にじゃ、ソイニー隊長が昔、シルベニスタ大戦の時に、ユーリ様と話していたことを、偶然聞いたことを思い出したのじゃ」
「それは、どんな内容だったのですか?」
「それは‥‥‥‥、『ユキナを天界から脱出させなければ、あのルートは使えるかしら』と言っていたのじゃ」
「ユキナ様を? 天界から?」
「そうじゃ、おそらく天界に囚われたこちらの世界の住人を救出する相談をしていたのだと思うが、その時、ルートの話をしていたのだ。もしかすると、ソイニー隊長が何か知っているかもしれない」
「ソイニー師匠なら、何かしら知っているかもしれませんね、しかし、ソイニー師匠は今は囚われの身です」
「そうじゃ、だが、家に帰れば、何か手がかりがあるかもしれん」
「そうですね。ロージェ先生、貴重な情報ありがとうございます。家に帰ってとりあえず手がかりを探してみます」
「そうすると良い、まあ、今日は家に帰ってゆっくり休むと良い。剣の稽古を明後日からにしよう」
「はい、わかりました」

 僕は、ロージェ先生の帰宅を見送った後、すぐに家に直帰した。
 家に入ると、カレーの匂いがする。

「お帰りなさい」

 と家の奥から、ユミ姉の声が聞こえてくる。
 ソイニー師匠が囚われの身になってしまってから、家の家事全般はユミ姉がしてくれている。

「高等諮問会はどうだった?」
 ユミ姉は料理を作りながら、僕に訊く。

「無事に終わりました。何もお咎めはなかったです」
「お咎めって、日本を救った本人にお咎めなんてないわよ」
「そんな風に見られてるなんて、僕は知りませんでした。それと、天界大統領と倒すため、ソイニー師匠を救うために、天界へのルートを探索することを許してもらいました」

 僕の話を聞いたユミ姉は、手の動きを止める。

「アスカは‥‥‥天界に行きたいのね」
「はい、天界に行かなければ、この事態を打開できないので」
「正直、私は、アスカに天界に行って欲しくないの」
「え‥‥‥、ユミ姉」
「私は、ソイニー師匠から、アスカのことを任せられたの。天界に行ったら今以上に危険がいっぱいだから、私はアスカに天界に行って欲しくないの」大人に任せておけばいいとさえ思うわ」
「だけど、ユミ姉、僕は‥‥‥」
「わかってるわ、だけどアスカは天界に行くのよね、まあ、言ってもアスカが止まらないことはわかってるわ。しかも、今はそれが一番ベストなことも」
「ごめんね、ユミ姉」
「だけど、約束して、アスカ、必ず生きて帰ってくることを。私は、アスカに死んで欲しくないわ」
「それは、必ず、守ります。あの、天界のことについてなんですが、ユミ姉は、ソイニー師匠から、天界へのルートについて何か聞いたことがありますか?」

 僕は、ユミ姉の優しさを噛み締めながら、気になっていたことを尋ねた。

「ソイニー師匠から? うーん聞いたことがないわね」
「やはりそうですか」
「もしかするとだけど、ソイニー師匠の書庫になら何か手がかりがあるかもしれないわね」
「書庫ですか、だけどあそこはソイニー師匠以外立ち入り禁止の場所で」
「まあ、そうなんだけど、今は緊急事態でもあるし、実は、私、スペアキーを持ってるのよね」
「本当ですか?」
「これが、その鍵」

 ユミ姉は、ポケットから鍵を取り出して僕に渡した。まるで、ユミ姉は、僕がこのことを尋ねることを初めから分かっているかのようだった。

「もし、ソイニー師匠にバレたら一緒に怒られましょう」
「ありがとう、ユミ姉、それじゃあ、調べてきます」

 僕は、地下の書庫に向かう。
 中に入ると、一面本だらけであった。この中からお目当の本を探すとなると、大変気が遠くなるが、やるしかないと自分を鼓舞する。
 1時間くらい経っただろうか、天界について書かれた本を片っ端から探していた。
 しかし、天界への道筋について記載した本は見当たらない。
 一度、諦めて、ユミ姉が作ってくれた料理を食べに戻ろうとした時‥‥‥。
 僕の目に一つの本が止まった。その背表紙には「天界日誌」と書かれており、しかも手書きで、明らかにソイニー師匠の筆跡でもあった。

 僕は、その本に手をかけ、そして、中を確認する。
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