裏世界

那雲

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 呼び出しについては心底気になるが、こちらから向かっても無駄足になるだろう。それに、拠点にいるのがあの人一人だけってのも心配だ。あの人、戦闘向きじゃないし。
 さて、どう暇を潰そうか、と考えていると、玄関扉が音を立てて開いた。
「あ、ただいま。」
「珍しいな、出迎えか?」
「そんな訳ないだろ。大方、今帰ってきたばかりって所じゃないのか。」
「装備も付けっぱだしな。」
 依頼に行っていた数人が帰ってきた。ギルド内でも騒がしい方に分類される連中だ。
「おかえりなさい。」
 彼らと僕の仲は殊更良いという訳ではないが、同じ "括り" に分けられた事から、他のギルドメンバーと比べて交流が深い。若干、子ども扱いされている気もするが。
「調子はどうだ?」
 リーダーとは別に、僕達の "括り" の中で中枢的な役割を担っている男、鬼龍きりゅうが、僕の肩を掴んで言った。
「ぼちぼちです。」
 その大きな手を振り払い、ぶっきらぼうに答えたつもりが、相手は気にした素振りを全く見せない。
「他のパーティーメンバーはどこにいるんだ?」
 そういえば、と周りを見渡して聞いてくる。まあ、基本的には一緒にいたもんな。不思議に思っても無理はない。
「今日はそれぞれ別行動です。恐らく、まだ任務中なのでしょう。」
 アイツら、夢中になると長いからな。多分、リーダーと同じぐらいの時間に帰ってくるだろう。
「あー、そうか、そろそろ始まるもんな。俺たちも個々で戦えるようにしねぇと……。」
 僕の言葉で思い出したのか、男は何か考え始めてしまった。まあ、やたら絡まれるよりはいいか。
 パーティーメンバーを再び呼び集めはじめた男を横目に、僕は台所へ向かう。そろそろ夕飯の支度をしないといけないからだ。買い出しに行った連中がまだ帰ってきていないが、朝見た時は十分食材はあったので大丈夫だろう。
 毎度思うが、さすが貴族様の元別荘だ。台所が死ぬほど広い。たった数人で回す場所じゃないだろうに、ギルド内の飯当番は1~5人程度で決まっている。まあ、飯前の時間は集まりが悪いから仕方ないのかもしれないが。ちなみに、僕は1人班、SaRaは2人班、鬼龍はパーティーメンバーとで4人班だ。
 そうそう、こっちの方にも冷蔵庫やコンロ、電子レンジなどの家電製品に準ずるものがある。製品名はそのままで、作りが魔道具のソレになっただけのものだ。という訳で、あっちで料理上手だった僕はこちらでも不自由なく飯を作れるのだ。これは他の料理上手な人たちにも言えるから、胸を張って言う事でもないんだが。
 そんな風に色々と考えながらも夕飯を作っていると
「お、いい匂い。」
 と言って誰かが台所に入ってきた。誰かとは言っても、僕が飯当番の時に台所にやってくる奴は1人ぐらいしかいないのだが。
「つまみ食いはなしだぞ、灯油。」
 完成したおかずを狙っていた彼に、僕は調理を続けたまま注意する。灯油は僕と同じパーティーに所属していて、炎を模した赤い羽織が目印の盾使いだ。かなり犬っぽい。
「いや~、ユキの飯って美味いからさ。なあ、ちょっとだけだから!」
 ユキとはお察しの通り、僕のことだ。その名の通り雪を模した白い羽織を着て、刀みたいな武器を使っている。ちなみにこの手の武器の総称はカタナ。そのまんまだ。
 それと、いくら美味いからってつまみ食いは許さない。その意を込めて、近くにあった竹串を背後へ投げる。投げナイフの如くアイツの手元に突き刺さったそれに、ヒッと悲鳴が上がる。
「わかった、わかった!悪かったって。」
 そう言って両手を上げ、降参だとアピールする。僕はその様子をちらっと確認し、再び調理に集中し始めた。

「さて、こんな感じかな。」
 ホカホカと湯気を立てる料理の品々を眺め、我ながらよくできたと一つ頷く。
「ユキ!ご飯できた?!」
 誰かがタイミング良く台所にスライングしてきた。出入口の方を見れば、いつの間に帰っていたのか、天使のような髪をした少年が目をキラキラさせてこちらを見ていた。
「ちょうど完成した所だよ、ギャラクシー。」
 彼はギャラクシー。元気いっぱいの少年で、ギルドのみんなから愛されている。僕も、この子が可愛くて仕方がない者の1人だ。
「じゃあ、ボクお料理運ぶー!」
「ありがとう。なら、机の上にあるお皿から持っていって。あと、他の連中にも手伝うよう言ってほしい。」
 はーい、と返事をしながらギャラクシーが副菜の乗ったを運び出す。僕もスープが入った鍋を運ぼうと持ち上げたら、そのままどこからか伸びてきた手に奪われる。
「さすがに、お前にこれは重いだろ。そっちのパン運べ。」
 鍋を持ったまま顎でパンの籠を指したのは、鬼龍のパーティーに所属している、ウルフだった。第一印象は寡黙な怖い人。だって、デカいし前髪長いし声低いしで威圧感が凄かったんだよ。でも、今ではいい人だと思ってる。こうやっていつの間にか背後にいるのは慣れないが……。
「あー、そうだな。そうする。」
 悲しいかな。僕はあまり力がある方じゃない。実際、あの鍋を持ち上げるだけでも一苦労で、食堂まで持っていくなんてどれだけかかることやら……。それほど遠いわけでもないんだけど!頑張れば1人で運べるし!
 とは言っても、僕よりは彼がやってくれた方がずっと速いだろうから、大人しくパンを運ぶ事にした。
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