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第1章 美少女幽霊センパイ現る
第1話 センパイが、で、で、出た~っ!?
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私の名前は浅野旭。
私立翠山女学院中等部1年C組。出席番号1番。
私が通う中等部には、出るとうわさのトイレがある。
校舎の隅に追いやられた、4階の一番奥の暗いトイレだ。
なにが出るかって?
そりゃあトイレで用を足せばいろいろ出るでしょ。あースッキリしたー。
……って、そういう話じゃない!
出るのだ、幽霊が。
西日が傾く人気のない放課後。私はうわさのトイレを利用していた。
洗面台で手を洗い、顔を上げて鏡をのぞく。
すると、私の背後に一人の美しい中学生の女の子が立っていた。
びっくりして後ろをふり返っても、誰もいない。
けれども、鏡に向き直ると、その女の子はたしかにいた。
私の顔からサーッと血の気が引き、みるみる青ざめていく。
「で、で、出た~っ!?」
「きゃああ~っ!?」
私が悲鳴を上げると、鏡のなかの幽霊も私の声にびっくりしたらしく、両耳をふさいで叫び声を上げた。
おどおどと見つめあう、私と幽霊。
「み、見えるの? 私のことが」
「は、はい。わりとよく、はっきりと……」
お互いとまどいをかくせず、声を失ってしまう。
幽霊は、いわゆる黒髪ロング、前髪ぱっつんの美少女だった。
よく整った顔立ち、切れ長の瞳、すっと伸びた鼻筋。
肌がきれいで、とにかく透明感がすごい。
……って、ほんとうに透き通ってるし!
背はすらりと高くて細身。私と同じ、襟が萌黄色のセーラー服を身にまとっている。でも、よく見たらデザインが少しちがうかも。
全体的に大人びているから、きっとセンパイにちがいない。
「そ、そんなにまじまじと見つめられると照れるのだけど」
幽霊のセンパイは恥ずかしそうに身をよじり、すねたように唇を小さくとがらせる。
「すっ、すみません。あまりにおきれいだったので、つい」
私はぺこぺこ平謝り。
たとえ相手が幽霊であれ、初対面なのにじろじろ見まわしちゃ、たしかに失礼だよね。
けれども、幽霊のセンパイは頬をわずかに赤らめて、
「そう。きれいだから見とれてしまったのなら仕方ないわね」
まんざらでもない顔をしていた。
「ちょっと待ってね。よっと」
センパイは宙に浮かび上がるように鏡のなかからにゅっと飛び出した。
そして、とん、とローファーの靴で地に足をつけた。
……かと思いきや、足の先が薄く消えかかっている。
スカートから伸びた黒タイツの脚は長く、身長は165センチくらいはありそうだ。
スタイルがよくて、すごくうらやましい。
「えっと、浅野旭ちゃんだったかしら」
「どうして私の名前を知っているんですか?」
「ふふっ、かわいい子はチェックしているの」
「別にかわいくなんかないし」
褒められ慣れていないせいか、不覚にも頬が熱くなってしまう。相手は幽霊なのに。
「ところで、センパイのお名前は?」
「私は美幽っていうの。よろしくね」
「よろしくお願いします。美幽センパイ」
私が頭を下げると、美幽センパイは柔らかく微笑んだ。
幽霊は怖いものだと決めつけていたけれど、美幽センパイの笑顔からは優しそうな人柄がうかがえて、緊張感がゆるやかにほどけてきた。
「旭ちゃん。よかったら、うちに上がっていく?」
「えっ? うちってどこですか?」
「ここだけど」
美幽センパイは右手の親指を立て、誘うように背後の鏡を指し示す。
つまり、鏡のなかってことだよね?
なかに入ったら閉じこめられて、永遠に出てこられなくなるパターンかな?
想像したら、背筋がぞぞっと寒くなった。
「い、いえっ! 突然おじゃましちゃ悪いので遠慮します!」
「あら、そう? 残念ね。……なんて。ほんとうは片づいていないから、来るって言われたらどうしようって内心ヒヤヒヤしていたの」
美幽センパイは小さく舌を出し、くすくす笑う。
いい人そうだけど、やっぱり油断はできない。なにせ相手は幽霊なのだ。
「あはは……」
私は美幽センパイに合わせて引きつった笑みをこぼし、こっそりと気を引きしめ直した。
「うちにはテレビも漫画もゲーム機もあるのよ。でもこの校舎、Wi-Fiがつながりにくいのが問題ね。職員室だけはよくつながるんだけど、人がいる間はうるさいし。あーあ、先生たち、早く帰ってくれないかなー」
美幽センパイは残念そうにため息をつく。
「センパイって、案外現代に通じているんですね」
「案外ってなに? 私だってイマドキの女の子なんだから、現代に通じていて当然でしょう? 私、アイドルの動画を見るのが大好きなの」
美幽センパイに軽く怒られてしまった。
たしかに、相手が幽霊だからって偏見を持つのはよくないよね。
美幽センパイはちょっとムッとしていたけれど、私が反省していると分かると、表情を和らげた。
「まあ、いいわ。私、旭ちゃんとお話できて死ぬほど嬉しいの」
「もう死んでますもんね」
「そういうことじゃなくてっ! これからも仲よくしてね、旭ちゃん」
「えぇ……」
「あら、私とは仲よくできない?」
「い、いえ。でも、幽霊と仲よくなって大丈夫なのかなー、なんて」
「大丈夫、任せて。24時間365日、ずぅ~っと守ってあげるわ」
「それって、つまり取りつかれてるんじゃ……」
こうして、私と美幽センパイとの奇妙な日々がはじまった。
私立翠山女学院中等部1年C組。出席番号1番。
私が通う中等部には、出るとうわさのトイレがある。
校舎の隅に追いやられた、4階の一番奥の暗いトイレだ。
なにが出るかって?
そりゃあトイレで用を足せばいろいろ出るでしょ。あースッキリしたー。
……って、そういう話じゃない!
出るのだ、幽霊が。
西日が傾く人気のない放課後。私はうわさのトイレを利用していた。
洗面台で手を洗い、顔を上げて鏡をのぞく。
すると、私の背後に一人の美しい中学生の女の子が立っていた。
びっくりして後ろをふり返っても、誰もいない。
けれども、鏡に向き直ると、その女の子はたしかにいた。
私の顔からサーッと血の気が引き、みるみる青ざめていく。
「で、で、出た~っ!?」
「きゃああ~っ!?」
私が悲鳴を上げると、鏡のなかの幽霊も私の声にびっくりしたらしく、両耳をふさいで叫び声を上げた。
おどおどと見つめあう、私と幽霊。
「み、見えるの? 私のことが」
「は、はい。わりとよく、はっきりと……」
お互いとまどいをかくせず、声を失ってしまう。
幽霊は、いわゆる黒髪ロング、前髪ぱっつんの美少女だった。
よく整った顔立ち、切れ長の瞳、すっと伸びた鼻筋。
肌がきれいで、とにかく透明感がすごい。
……って、ほんとうに透き通ってるし!
背はすらりと高くて細身。私と同じ、襟が萌黄色のセーラー服を身にまとっている。でも、よく見たらデザインが少しちがうかも。
全体的に大人びているから、きっとセンパイにちがいない。
「そ、そんなにまじまじと見つめられると照れるのだけど」
幽霊のセンパイは恥ずかしそうに身をよじり、すねたように唇を小さくとがらせる。
「すっ、すみません。あまりにおきれいだったので、つい」
私はぺこぺこ平謝り。
たとえ相手が幽霊であれ、初対面なのにじろじろ見まわしちゃ、たしかに失礼だよね。
けれども、幽霊のセンパイは頬をわずかに赤らめて、
「そう。きれいだから見とれてしまったのなら仕方ないわね」
まんざらでもない顔をしていた。
「ちょっと待ってね。よっと」
センパイは宙に浮かび上がるように鏡のなかからにゅっと飛び出した。
そして、とん、とローファーの靴で地に足をつけた。
……かと思いきや、足の先が薄く消えかかっている。
スカートから伸びた黒タイツの脚は長く、身長は165センチくらいはありそうだ。
スタイルがよくて、すごくうらやましい。
「えっと、浅野旭ちゃんだったかしら」
「どうして私の名前を知っているんですか?」
「ふふっ、かわいい子はチェックしているの」
「別にかわいくなんかないし」
褒められ慣れていないせいか、不覚にも頬が熱くなってしまう。相手は幽霊なのに。
「ところで、センパイのお名前は?」
「私は美幽っていうの。よろしくね」
「よろしくお願いします。美幽センパイ」
私が頭を下げると、美幽センパイは柔らかく微笑んだ。
幽霊は怖いものだと決めつけていたけれど、美幽センパイの笑顔からは優しそうな人柄がうかがえて、緊張感がゆるやかにほどけてきた。
「旭ちゃん。よかったら、うちに上がっていく?」
「えっ? うちってどこですか?」
「ここだけど」
美幽センパイは右手の親指を立て、誘うように背後の鏡を指し示す。
つまり、鏡のなかってことだよね?
なかに入ったら閉じこめられて、永遠に出てこられなくなるパターンかな?
想像したら、背筋がぞぞっと寒くなった。
「い、いえっ! 突然おじゃましちゃ悪いので遠慮します!」
「あら、そう? 残念ね。……なんて。ほんとうは片づいていないから、来るって言われたらどうしようって内心ヒヤヒヤしていたの」
美幽センパイは小さく舌を出し、くすくす笑う。
いい人そうだけど、やっぱり油断はできない。なにせ相手は幽霊なのだ。
「あはは……」
私は美幽センパイに合わせて引きつった笑みをこぼし、こっそりと気を引きしめ直した。
「うちにはテレビも漫画もゲーム機もあるのよ。でもこの校舎、Wi-Fiがつながりにくいのが問題ね。職員室だけはよくつながるんだけど、人がいる間はうるさいし。あーあ、先生たち、早く帰ってくれないかなー」
美幽センパイは残念そうにため息をつく。
「センパイって、案外現代に通じているんですね」
「案外ってなに? 私だってイマドキの女の子なんだから、現代に通じていて当然でしょう? 私、アイドルの動画を見るのが大好きなの」
美幽センパイに軽く怒られてしまった。
たしかに、相手が幽霊だからって偏見を持つのはよくないよね。
美幽センパイはちょっとムッとしていたけれど、私が反省していると分かると、表情を和らげた。
「まあ、いいわ。私、旭ちゃんとお話できて死ぬほど嬉しいの」
「もう死んでますもんね」
「そういうことじゃなくてっ! これからも仲よくしてね、旭ちゃん」
「えぇ……」
「あら、私とは仲よくできない?」
「い、いえ。でも、幽霊と仲よくなって大丈夫なのかなー、なんて」
「大丈夫、任せて。24時間365日、ずぅ~っと守ってあげるわ」
「それって、つまり取りつかれてるんじゃ……」
こうして、私と美幽センパイとの奇妙な日々がはじまった。
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