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第2章 センパイと過ごす学校生活
第12話 センパイ、動画を投稿していたんですか
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放課後。
部活動へとあわただしく向かう生徒たちを尻目に、私はそそくさと昇降口へと向かう。
美幽センパイは当たり前のように私についてきた。
「旭ちゃんは部活には行かないの?」
「私、部活に入っていないので」
私は淡々と答え、下駄箱からローファーを取り出した。
「部活に入れば、友だちもできるんじゃないかしら」
「そうかもしれませんけど、私、洗濯物を取りこまなきゃだから」
私は足を入れたローファーのつま先をとんとん、と軽く地面に打ちつける。
それから、スクールバッグを肩にかけ直し、昇降口を後にした。
きれいな四階建ての校舎を背にしながら、正門までの道を歩く。生徒の姿はまばらで、今は数えるほどしかいない。
美幽センパイは青空に向かって長い手を突き出し、んー、と気持ちよさそうに伸びをしていた。
「旭ちゃんは、気になる部活はないの?」
「それはまぁ、なくはないですけど」
「今度見学に行ってみたら? 今なら仮入部もできるんでしょう?」
美幽センパイの言う通り、私たち一年生には部活動を自由に見学できる期間が設けられている。仮入部をして実際に体験し、その後で正式に入部を決めることだって可能だ。もちろん、すでに入部しているクラスメイトも少なくない。
とは言え、ぼっちで見学に行くのはなかなかハードルが高いわけで。
私はすっかり逃げ腰になっていた。
「私、家事もしなくちゃだから。部活に入っている暇なんてありません」
「旭ちゃんが部活に入りたいって言ったら、お父さんだって応援してくれると思うな。なんなら私が一緒に見学に行ってあげましょうか?」
「けっこうです。ていうか、センパイなら私がダメって言ってもついて来そう」
「うふふ、ばれた?」
「ちなみに、センパイだったらどの部に入ります?」
「ダンス部!」
即答だった。
「センパイ、ダンスがお得意なんですか?」
「習ったことはないんだけどね。アイドルの動画を見ていたら、私もつい踊ってみたくなっちゃって」
「センパイ、かわいいアイドルが好きですもんね」
「それで、私も見よう見まねでダンスを録画して、動画サイトに投稿したんだけど……。まるで反響がなくて」
「投稿したんですか!?」
美幽センパイはポケットからスマートフォンを取り出し、動画を見せてくれた。
夜の体育館に明かりを灯し、その中央で美幽センパイが優雅に踊っている。
あまりに軽やかで、まるで宙を舞っているんじゃないかと錯覚するくらいだ。
……と思ったら、ほんとうに宙を飛んでいた。それ反則っ!
とはいえ、動きはキレキレで、なにより手足がすらりと長くてスタイルがいいから、かなり見映えがいい。
「へえ、お上手じゃないですか。これで反響がないんですか?」
「コメント欄を見てくれる?」
言われた通り、画面を下にスクロールしてみる。すると、コメントが数件書きこまれていた。
『なにも映ってないんだけど』
『白い影が一瞬見えたような……』
『え、怪奇現象?』
『ヤベー、見なきゃよかった』
美幽センパイが困ったように眉をハの字に寄せ、ため息をつく。
「どうやら、みんなには私のダンスが見えていないみたいで」
「たはは……」
私は美幽センパイに同情した。どんなに上手に踊れても、見てもらえないのでは話にならない。
美幽センパイは切なげに訴えかける。
「私は旭ちゃんがうらやましい。生きていれば、必ず誰かが見てくれるんだもの。私はどんなにがんばっても誰にも見てもらえない」
「センパイ……」
美幽センパイの言葉は私の胸にじいんと響いた。
美幽センパイの姿は誰にも見えない。
だから、美幽センパイがどんなに上手に踊ってみせたところで、誰からも評価されない。
がんばっているのに、誰にも見てもらえないだなんて。それって、すごく悲しいことだよね。
なんだか世界中から無視されているみたいで、あまりの理不尽さにズキズキと胸が痛んだ。
私は美幽センパイをまっすぐ見上げた。
「私はセンパイのこと、ちゃんと見ています。だから安心してください。この先も動画を投稿し続けるならチャンネル登録だってしますから」
「旭ちゃん……」
美幽センパイの瞳がにわかにうるおいを増し、涙の粒が目尻に浮かぶ。
センパイは指の背で涙をぬぐい、嬉しそうに白い歯をこぼした。
「ありがとう、旭ちゃん。これからも一緒にがんばりましょうね」
「はい!」
私の励ましを素直に喜んでくれる人がいる。
それだけで、なんだか誇らしいような、満たされたような気持ちになって、私まで笑顔になる。
やっぱり、友だちっていいものだなって、素直に思えた。
「それじゃ、一緒にダンス部に入りましょうか。私は正式には入部できないけれど、旭ちゃんのとなりで踊れたらきっと楽しいわ」
「いやですよ。私、運動苦手だし」
私が断ると、美幽センパイは思い切りズッコケた。
「なんでよ、旭ちゃん! 今、一緒にがんばろうって!」
「それとこれとは話が別です! 入るなら文科系の部活にします!」
むう~っ! といがみあう私と美幽センパイ。
それから、ぷっ、とお互い吹き出して、くすくす笑い合った。
部活動へとあわただしく向かう生徒たちを尻目に、私はそそくさと昇降口へと向かう。
美幽センパイは当たり前のように私についてきた。
「旭ちゃんは部活には行かないの?」
「私、部活に入っていないので」
私は淡々と答え、下駄箱からローファーを取り出した。
「部活に入れば、友だちもできるんじゃないかしら」
「そうかもしれませんけど、私、洗濯物を取りこまなきゃだから」
私は足を入れたローファーのつま先をとんとん、と軽く地面に打ちつける。
それから、スクールバッグを肩にかけ直し、昇降口を後にした。
きれいな四階建ての校舎を背にしながら、正門までの道を歩く。生徒の姿はまばらで、今は数えるほどしかいない。
美幽センパイは青空に向かって長い手を突き出し、んー、と気持ちよさそうに伸びをしていた。
「旭ちゃんは、気になる部活はないの?」
「それはまぁ、なくはないですけど」
「今度見学に行ってみたら? 今なら仮入部もできるんでしょう?」
美幽センパイの言う通り、私たち一年生には部活動を自由に見学できる期間が設けられている。仮入部をして実際に体験し、その後で正式に入部を決めることだって可能だ。もちろん、すでに入部しているクラスメイトも少なくない。
とは言え、ぼっちで見学に行くのはなかなかハードルが高いわけで。
私はすっかり逃げ腰になっていた。
「私、家事もしなくちゃだから。部活に入っている暇なんてありません」
「旭ちゃんが部活に入りたいって言ったら、お父さんだって応援してくれると思うな。なんなら私が一緒に見学に行ってあげましょうか?」
「けっこうです。ていうか、センパイなら私がダメって言ってもついて来そう」
「うふふ、ばれた?」
「ちなみに、センパイだったらどの部に入ります?」
「ダンス部!」
即答だった。
「センパイ、ダンスがお得意なんですか?」
「習ったことはないんだけどね。アイドルの動画を見ていたら、私もつい踊ってみたくなっちゃって」
「センパイ、かわいいアイドルが好きですもんね」
「それで、私も見よう見まねでダンスを録画して、動画サイトに投稿したんだけど……。まるで反響がなくて」
「投稿したんですか!?」
美幽センパイはポケットからスマートフォンを取り出し、動画を見せてくれた。
夜の体育館に明かりを灯し、その中央で美幽センパイが優雅に踊っている。
あまりに軽やかで、まるで宙を舞っているんじゃないかと錯覚するくらいだ。
……と思ったら、ほんとうに宙を飛んでいた。それ反則っ!
とはいえ、動きはキレキレで、なにより手足がすらりと長くてスタイルがいいから、かなり見映えがいい。
「へえ、お上手じゃないですか。これで反響がないんですか?」
「コメント欄を見てくれる?」
言われた通り、画面を下にスクロールしてみる。すると、コメントが数件書きこまれていた。
『なにも映ってないんだけど』
『白い影が一瞬見えたような……』
『え、怪奇現象?』
『ヤベー、見なきゃよかった』
美幽センパイが困ったように眉をハの字に寄せ、ため息をつく。
「どうやら、みんなには私のダンスが見えていないみたいで」
「たはは……」
私は美幽センパイに同情した。どんなに上手に踊れても、見てもらえないのでは話にならない。
美幽センパイは切なげに訴えかける。
「私は旭ちゃんがうらやましい。生きていれば、必ず誰かが見てくれるんだもの。私はどんなにがんばっても誰にも見てもらえない」
「センパイ……」
美幽センパイの言葉は私の胸にじいんと響いた。
美幽センパイの姿は誰にも見えない。
だから、美幽センパイがどんなに上手に踊ってみせたところで、誰からも評価されない。
がんばっているのに、誰にも見てもらえないだなんて。それって、すごく悲しいことだよね。
なんだか世界中から無視されているみたいで、あまりの理不尽さにズキズキと胸が痛んだ。
私は美幽センパイをまっすぐ見上げた。
「私はセンパイのこと、ちゃんと見ています。だから安心してください。この先も動画を投稿し続けるならチャンネル登録だってしますから」
「旭ちゃん……」
美幽センパイの瞳がにわかにうるおいを増し、涙の粒が目尻に浮かぶ。
センパイは指の背で涙をぬぐい、嬉しそうに白い歯をこぼした。
「ありがとう、旭ちゃん。これからも一緒にがんばりましょうね」
「はい!」
私の励ましを素直に喜んでくれる人がいる。
それだけで、なんだか誇らしいような、満たされたような気持ちになって、私まで笑顔になる。
やっぱり、友だちっていいものだなって、素直に思えた。
「それじゃ、一緒にダンス部に入りましょうか。私は正式には入部できないけれど、旭ちゃんのとなりで踊れたらきっと楽しいわ」
「いやですよ。私、運動苦手だし」
私が断ると、美幽センパイは思い切りズッコケた。
「なんでよ、旭ちゃん! 今、一緒にがんばろうって!」
「それとこれとは話が別です! 入るなら文科系の部活にします!」
むう~っ! といがみあう私と美幽センパイ。
それから、ぷっ、とお互い吹き出して、くすくす笑い合った。
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