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第3章 新しい友だちができました
第17話 センパイ、私の身体を借りたいんですか
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休み時間。
教室で体操着に着がえ、シューズを持って体育館へと向かう。
4階から1階まで階段を下り、体育館に繋がっている渡り廊下を目指す。
その足取りは重く、となりに浮かんでいる美幽センパイの軽やかさとは真逆だった。
「旭ちゃん、なんだか元気なさそうね」
「体育はあまり得意じゃないんです」
ずっと机にかじりついているよりは、身体を動かしたほうが少しは気分が晴れる。
けれども、体育の授業となると話は別だ。
実技のテストに団体競技……私にとって体育はストレスなのだ。
「旭ちゃん。今、体育の授業ではなにをやっているの?」
「ダンスです」
「まあ、ダンス!!」
美幽センパイはこれ以上ないくらい、ぱあぁっ! と笑顔を明るくする。
「美幽センパイはいいですよね。ダンスが得意だから」
以前、美幽センパイが投稿したダンス動画を見せてもらった。
動きはキレキレで、まるで重力を感じさせないくらい軽やかな踊り……って、ほんとうに宙に浮かんでいたのには驚いたけど。
でも、それを抜きにしても目を引くくらいしなやかで美しいダンスだった。
「そりゃあ、必死に練習したからね。人間、死ぬ気でがんばれば、なんでもできるわ!」
「ほんとうに死んでる人に言われても」
「ところで旭ちゃん。授業ではどんなダンスを踊るの?」
「ヒップホップです。ステップを踏んだり足をクロスしたり。私、つまづきそうになっちゃって」
「旭ちゃんも幽霊になる? つまづかなくていいわよ」
「センパイの足、透けてますもんね。でも、なりたいとは思わないかなぁ」
「あら、そう? 残念ね」
「そのうち創作ダンスもはじまるみたいですよ。班の人たちと一緒に振り付けを考えて、みんなで踊るみたいです」
「なにそれ、面白そう! 私もやりたい!」
美幽センパイはキラキラと目を輝かせて興奮ぎみに私につめ寄ってくる。少しは落ち着いてほしい。
「美幽センパイが在籍していた時にはダンスの授業はなかったんですか?」
「どうだろう? 私、昔の記憶がないから。そもそも、ここの生徒だったかどうかも分からないし」
「えっ、そうなんですか!? だって、その制服、うちのとほとんど一緒じゃないですか」
「ああ、これ? 気づいたころには着ていてね。もしかしたらコスプレかも」
「うーん。センパイのことだから、コスプレするならもっとかわいいブレザーの制服とか着てそう」
「そう言われると、たしかにそうね。さすが旭ちゃん! 私のこと、よく分かってる!」
「いえ、それほどでも」
私たちはふふっと笑い合う。
出会ってまだ日は浅いけれど、一緒にいる時間は長いから、だいぶ打ち解けてきた。
こんな私でも、相手のことを少しは分かってあげられている。
その実感が嬉しくて、ちょっぴり誇らしい気持ちになる。
「あーあ、私もダンスの授業受けたいなー」
「私と一緒に受ければいいじゃないですか。誰にも見つからないんだし」
「でも、せっかく踊るなら誰かに見てほしいじゃない」
「私がちゃんと見てますって」
「もっとたくさんの人に見てほしいんだけどなぁ。しかたない、旭ちゃんで我慢するかー」
「私で悪うございましたね」
私はぷぅっと頬をふくらませた。
得意のダンスを大勢の前で披露したい美幽センパイの気持ちは分かるけれど、私だって私なりに協力しているのだ。少しは感謝してくれてもいいと思う。
いよいよ渡り廊下が近づいてきた。外は明るいのに、私の気持ちはあまり晴れない。
美幽センパイは宙を舞いながら、チラチラと私の顔色をうかがってくる。
「ん? センパイ、なんですか?」
「旭ちゃん、お願いがあるんだけどー」
「なんです? 急に改まって」
「旭ちゃんの身体、貸してくれない?」
「ええ~っ!?」
私は目を大きく見開き、つい叫び声を上げてしまった。
廊下を歩いていた生徒の目が、私にいっせいに集中する。
私はあわてて両手で口をふさぎ、視線から逃れるように渡り廊下に飛び出した。
そして、体育館にはまっすぐ行かず、脇にそれ、人目のない隅で美幽センパイと向き合った。
私は真っ赤になって抗議した。
「いったい私の身体をどうするつもりですかっ、センパイ!」
「よく考えてみて、旭ちゃん。私が旭ちゃんの身体を借りてダンスを踊れば、私はみんなに見てもらえる。旭ちゃんは体育の成績がよくなる。Win-Winの関係だと思わない?」
「たしかに、苦手なダンスをしなくて済むのは魅力的ですけど……」
「ねっ、いい話でしょう。お願い! ちょっとだけでいいから、私に旭ちゃんの身体を貸して~」
美幽センパイは満面の笑みを浮かべて、さあさあ、と私に強く迫ってくる。
美幽センパイのいけない誘惑に、つい流されてしまいそうになる。
けれども、私の正義はあと一歩のところで踏みとどまった。
「やっぱりダメ~っ! そういう不正はよくないと思います!」
「そ、そんなぁー」
美幽センパイはがっくりと肩を落とした。
教室で体操着に着がえ、シューズを持って体育館へと向かう。
4階から1階まで階段を下り、体育館に繋がっている渡り廊下を目指す。
その足取りは重く、となりに浮かんでいる美幽センパイの軽やかさとは真逆だった。
「旭ちゃん、なんだか元気なさそうね」
「体育はあまり得意じゃないんです」
ずっと机にかじりついているよりは、身体を動かしたほうが少しは気分が晴れる。
けれども、体育の授業となると話は別だ。
実技のテストに団体競技……私にとって体育はストレスなのだ。
「旭ちゃん。今、体育の授業ではなにをやっているの?」
「ダンスです」
「まあ、ダンス!!」
美幽センパイはこれ以上ないくらい、ぱあぁっ! と笑顔を明るくする。
「美幽センパイはいいですよね。ダンスが得意だから」
以前、美幽センパイが投稿したダンス動画を見せてもらった。
動きはキレキレで、まるで重力を感じさせないくらい軽やかな踊り……って、ほんとうに宙に浮かんでいたのには驚いたけど。
でも、それを抜きにしても目を引くくらいしなやかで美しいダンスだった。
「そりゃあ、必死に練習したからね。人間、死ぬ気でがんばれば、なんでもできるわ!」
「ほんとうに死んでる人に言われても」
「ところで旭ちゃん。授業ではどんなダンスを踊るの?」
「ヒップホップです。ステップを踏んだり足をクロスしたり。私、つまづきそうになっちゃって」
「旭ちゃんも幽霊になる? つまづかなくていいわよ」
「センパイの足、透けてますもんね。でも、なりたいとは思わないかなぁ」
「あら、そう? 残念ね」
「そのうち創作ダンスもはじまるみたいですよ。班の人たちと一緒に振り付けを考えて、みんなで踊るみたいです」
「なにそれ、面白そう! 私もやりたい!」
美幽センパイはキラキラと目を輝かせて興奮ぎみに私につめ寄ってくる。少しは落ち着いてほしい。
「美幽センパイが在籍していた時にはダンスの授業はなかったんですか?」
「どうだろう? 私、昔の記憶がないから。そもそも、ここの生徒だったかどうかも分からないし」
「えっ、そうなんですか!? だって、その制服、うちのとほとんど一緒じゃないですか」
「ああ、これ? 気づいたころには着ていてね。もしかしたらコスプレかも」
「うーん。センパイのことだから、コスプレするならもっとかわいいブレザーの制服とか着てそう」
「そう言われると、たしかにそうね。さすが旭ちゃん! 私のこと、よく分かってる!」
「いえ、それほどでも」
私たちはふふっと笑い合う。
出会ってまだ日は浅いけれど、一緒にいる時間は長いから、だいぶ打ち解けてきた。
こんな私でも、相手のことを少しは分かってあげられている。
その実感が嬉しくて、ちょっぴり誇らしい気持ちになる。
「あーあ、私もダンスの授業受けたいなー」
「私と一緒に受ければいいじゃないですか。誰にも見つからないんだし」
「でも、せっかく踊るなら誰かに見てほしいじゃない」
「私がちゃんと見てますって」
「もっとたくさんの人に見てほしいんだけどなぁ。しかたない、旭ちゃんで我慢するかー」
「私で悪うございましたね」
私はぷぅっと頬をふくらませた。
得意のダンスを大勢の前で披露したい美幽センパイの気持ちは分かるけれど、私だって私なりに協力しているのだ。少しは感謝してくれてもいいと思う。
いよいよ渡り廊下が近づいてきた。外は明るいのに、私の気持ちはあまり晴れない。
美幽センパイは宙を舞いながら、チラチラと私の顔色をうかがってくる。
「ん? センパイ、なんですか?」
「旭ちゃん、お願いがあるんだけどー」
「なんです? 急に改まって」
「旭ちゃんの身体、貸してくれない?」
「ええ~っ!?」
私は目を大きく見開き、つい叫び声を上げてしまった。
廊下を歩いていた生徒の目が、私にいっせいに集中する。
私はあわてて両手で口をふさぎ、視線から逃れるように渡り廊下に飛び出した。
そして、体育館にはまっすぐ行かず、脇にそれ、人目のない隅で美幽センパイと向き合った。
私は真っ赤になって抗議した。
「いったい私の身体をどうするつもりですかっ、センパイ!」
「よく考えてみて、旭ちゃん。私が旭ちゃんの身体を借りてダンスを踊れば、私はみんなに見てもらえる。旭ちゃんは体育の成績がよくなる。Win-Winの関係だと思わない?」
「たしかに、苦手なダンスをしなくて済むのは魅力的ですけど……」
「ねっ、いい話でしょう。お願い! ちょっとだけでいいから、私に旭ちゃんの身体を貸して~」
美幽センパイは満面の笑みを浮かべて、さあさあ、と私に強く迫ってくる。
美幽センパイのいけない誘惑に、つい流されてしまいそうになる。
けれども、私の正義はあと一歩のところで踏みとどまった。
「やっぱりダメ~っ! そういう不正はよくないと思います!」
「そ、そんなぁー」
美幽センパイはがっくりと肩を落とした。
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