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ノエルのお買い物
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春休みと言えば宿題もない訳で、懸案の霊獣との契約も無事に終えた瑠偉にとっては、心休まる時間が過ぎていくはずでした。
「瑠偉おきてー! 瑠偉おはよー」
春休みだというのに、何を朝っぱらから大声を出しているんだとばかりもそもそと布団にもぐりこんでしまった瑠偉に落ち度はないはずでしたが……
ぼすっとばかりに瑠偉の上に馬乗りになったノエルは、むにゅーと瑠偉のほっぺたを両手で引っ張って何としても起こそうとする構えをみせました。
「うぬぅーノエル。何してんだ」
文句を言い始めた瑠偉がみたものは……
なんと3~4歳くらいの素っ裸の幼女が布団の上にいたのです。
「ぎゃーー」
魂ぎるような悲鳴をあげると、瑠偉は幼女の頭からシーツを被せて。そのまま抱きかかえたかと思うと茶の間まで全力疾走をしました。
「あら、瑠偉。朝から随分賑やかね。廊下は走らないって父さんから習っていないの?」
のほほんとした声をかけた冴子さんに、瑠偉はシーツの固まりを突き出して叫びました。
「それどころじゃないんだ! 母さん、女の子が、女の子が僕のベッドに!」
瑠偉が、がうがうと大騒ぎをしているその時、白いシーツの固まりから幼女が顔をだしてクレームをつけました。
「瑠偉ダメー。もうぉー」
すっかりおかんむりの幼女は、柔らかい栗色の髪の毛を腰までたらし、琥珀色の瞳がくりくりしていてふくれっつらでも愛らしいのです。
「あら、ノエル。もう人化できるのねぇ。早いわね、さすがに」
冴子さんが、いとものんびりとそう言ったので、ようやく瑠偉にも幼女の正体がわかっりました。
「へぇっ! ノエルなの?」
ぼんやりとそんなことを言う瑠偉を、冴子さんはからかいます。
「へぇー。瑠偉ってば、女の子がベッドに入り込んだと思ったんだ。なるほどねぇー」
瑠偉は真っ赤になっりましたがそれでも必死に訴えました。
「だってノエル裸だったんだ!」
「ふーん、幼女なんて男も女もそー変わらんだろうに」
母親にあんまりな発言に、これだからおばさんは嫌だとしみじみと瑠偉は思ってしまった。
いくら幼女だって女の子は女の子です。
裸を見ればびっくりしても当たり前ではないでしょうか。
「ノエルも毛皮を服に変化させればいいんだけど、まだむりかねぇー」
冴子さんはそんなことをいいますが、本当ならこんなに幼い聖獣が召喚に応じることはありません。
ちゃんと大人になってから召喚に応じるものなのです。
そういう意味でもノエルは何から何まで型破りなのですが、幼いノエルは人化に伴って毛皮を洋服に変化させることができないようでした。
幼い聖獣の子供には、衣服の概念なんて持っていないのですから、洋服を着るところから教えていくしかないと冴子さんは考えました。
「ほら、ノエル抱っこだよ」
冴子さんはノエルを抱きかかえて自室に戻ると、しっかりノエルに服を着せてから居間に戻ってきました。
白いプルオーバーと赤いハーフパンツ。
それに赤い靴下。小さな赤いスニーカーまでもってきています。
「母さん、それって」
瑠偉が驚いたことにノエルは瑠偉が幼い時の服を着せてもらって、ご満悦の様子なのです。
「もちろん、瑠偉の物ならぜーんぶおいてあるわよ」
冴子さんは大威張りでそんなことをいいますが、それはそれでちょっと嫌かもと瑠偉は思いました。
「今日は日曜日だからね。ノエルの洋服を買いにいこうね。私女の子が欲しかったのよねぇー」
冴子さんはノエルを連れてショッピングに行くこうと、楽しそうに準備を初めています。
そうして瑠偉の冷たい視線を感じて冴子さんは慌てて弁明しました。
「瑠偉は瑠偉で可愛いのよ」
別にノエルに嫉妬した訳ではなく、呆れて見ていただけなのですが、そんな子供じみた母親の姿を瑠偉は案外好もしいと思っているのです。
いきなり現れた母にこうも簡単に心を許してしまうなんてなぁ。
なにしろほとんど母親らしいことをしてこなかった癖に、冴子さんはのほほんと当たり前のような顔で瑠偉の母親づらをしています。
だのに瑠偉は結局文句も言わないで、そんな母親を受けいれてしまったのでした。
とはいえさすがに中学生にもなって母親との買い物なんて気恥ずかしいばかりだと主張したのですが、冴子さんは瑠偉が同行すると決めてしまいました。
言い出したら理屈もなにもあったもんじゃなく、最後は泣き落としまで繰り出す冴子さんを見て、瑠偉はすっかり抵抗をあきらめたのです。
長らく父親としか暮らしてこなかった瑠偉は初めて女の理不尽さを経験しましたが、残念ながらこれからは思う存分その神髄を味わうことになります。
小さな女の子の服ってのは、随分カラフルなものだとベンチに座って瑠偉はほとほと感心しています。
ちょっぴりしか布地を使っていないのに。瑠偉の服よりも値段が高いことにも驚いてしまいました。
ノエルは聖獣のはずなのに、洋服選びが楽しいらしく、喜々としてファッションショーを繰り広げています。
そんなノエルの姿を見て、さらに冴子さんの気合がはいるという訳で、瑠偉はこのベンチでぽつねんと長い時間待っているのでした。
「瑠偉くん、瑠偉じゃない。こんなところで何しているの?」
いきなり声をかけてきたのは、同級生の浅岡芽衣でした。
芽衣は瑠偉の中学校ではベスト3に入るぐらいの美少女なのですが、いかんせん口が悪くてせっかくの美少女ぶりをぶち壊してしまうのでした。
それでも髪をハーフアップにして、黒スパッツに薄いブルーミニワンピ姿の浅岡芽衣は、やっぱり可愛らしい少女です。
「いやぁ。妹と母さんの買い物の荷物持ちに駆り出されたんだ」
瑠偉は足元の荷物を指さしながら苦笑いをしました。
「それはお疲れ様」
芽衣がそう言って瑠偉の隣にこしをおろすと同時に、母親とノエルが戻ってきましたた。
ノエルは髪をツインテールにしてピンクのリボンをかざり、ベビーピンクのフリルたっぷりのワンピースを着用しています。
これは絶対に母親の趣味だなぁと瑠偉は思いました。
瑠偉にもフリルやレースを着せて遊びたかったと、さっき本音を漏らしていたのです。
「まぁーなんて可愛いの!」
芽衣は歓声をあげると、せっせと携帯で写真を撮り始めてしまいます。
確かにノエルはめったにいないほど愛らしい幼女ですが、いきなり写真はないだろうと瑠偉が文句を言おうとして周囲の様子が変なのに気が付きました。
いつの間にかノエルの周りに人垣ができて、キャーキャー言いながら大勢の人が携帯を向けているのです。
写真や動画を取りながら、まるでノエルがアイドルでもあるかのような大騒ぎをしています。
「お人形さんみたい」
「かわいいー!」
「あの男の子も可愛いわよ!」
ノエルだけでなく自分にまで火の粉が飛んできそうな気配に瑠偉はさっさととんずらすることにきめました。
瑠偉は芽衣に簡単に別れを告げると荷物とノエルを担ぎあげ、母親を促して脱兎のごとく逃げ出してしまいました。
「瑠偉ちゃんたら、そんなに嫌がらなくてもいいじゃないの写真ぐらい」
冴子さんはぽやぽやとそんな呑気なことを言うので、瑠偉は時々大人ってものには感受性ってのがないのだろうかと真剣に悩んでしまいます。
「瑠偉ー。ノエルかわいい?」
ノエルが首をこてんとさせて瑠偉を見上げました。
さっきからギャラリーが、かわいい、かわいいと言うので、疑問に思ったのでしょう。
「うん、あざといくらいにかわいいよ」
瑠偉は一瞬くらくらとした自分を叱りつけながらそう返事をしました。
自分の聖獣にくらっとするなんて、いくらなんでもあんまりなんですが、実際ノエルときたら実にあざと可愛いのです。
瑠偉はこれからどうやってノエルと接すればいいのか、真剣に悩み始めてしまいました。
何といっても瑠偉は健全な思春期の男なんですから。
そんな瑠偉とノエルの様子を冴子さんは面白そうに見ています。
これから面白くなりそうだわ。
冴子さんは面白ければ、自分の息子で遊ぶことだって躊躇しないのです。
だから有朋もそれで随分と大変な目に遭ってきたのでした。
「瑠偉おきてー! 瑠偉おはよー」
春休みだというのに、何を朝っぱらから大声を出しているんだとばかりもそもそと布団にもぐりこんでしまった瑠偉に落ち度はないはずでしたが……
ぼすっとばかりに瑠偉の上に馬乗りになったノエルは、むにゅーと瑠偉のほっぺたを両手で引っ張って何としても起こそうとする構えをみせました。
「うぬぅーノエル。何してんだ」
文句を言い始めた瑠偉がみたものは……
なんと3~4歳くらいの素っ裸の幼女が布団の上にいたのです。
「ぎゃーー」
魂ぎるような悲鳴をあげると、瑠偉は幼女の頭からシーツを被せて。そのまま抱きかかえたかと思うと茶の間まで全力疾走をしました。
「あら、瑠偉。朝から随分賑やかね。廊下は走らないって父さんから習っていないの?」
のほほんとした声をかけた冴子さんに、瑠偉はシーツの固まりを突き出して叫びました。
「それどころじゃないんだ! 母さん、女の子が、女の子が僕のベッドに!」
瑠偉が、がうがうと大騒ぎをしているその時、白いシーツの固まりから幼女が顔をだしてクレームをつけました。
「瑠偉ダメー。もうぉー」
すっかりおかんむりの幼女は、柔らかい栗色の髪の毛を腰までたらし、琥珀色の瞳がくりくりしていてふくれっつらでも愛らしいのです。
「あら、ノエル。もう人化できるのねぇ。早いわね、さすがに」
冴子さんが、いとものんびりとそう言ったので、ようやく瑠偉にも幼女の正体がわかっりました。
「へぇっ! ノエルなの?」
ぼんやりとそんなことを言う瑠偉を、冴子さんはからかいます。
「へぇー。瑠偉ってば、女の子がベッドに入り込んだと思ったんだ。なるほどねぇー」
瑠偉は真っ赤になっりましたがそれでも必死に訴えました。
「だってノエル裸だったんだ!」
「ふーん、幼女なんて男も女もそー変わらんだろうに」
母親にあんまりな発言に、これだからおばさんは嫌だとしみじみと瑠偉は思ってしまった。
いくら幼女だって女の子は女の子です。
裸を見ればびっくりしても当たり前ではないでしょうか。
「ノエルも毛皮を服に変化させればいいんだけど、まだむりかねぇー」
冴子さんはそんなことをいいますが、本当ならこんなに幼い聖獣が召喚に応じることはありません。
ちゃんと大人になってから召喚に応じるものなのです。
そういう意味でもノエルは何から何まで型破りなのですが、幼いノエルは人化に伴って毛皮を洋服に変化させることができないようでした。
幼い聖獣の子供には、衣服の概念なんて持っていないのですから、洋服を着るところから教えていくしかないと冴子さんは考えました。
「ほら、ノエル抱っこだよ」
冴子さんはノエルを抱きかかえて自室に戻ると、しっかりノエルに服を着せてから居間に戻ってきました。
白いプルオーバーと赤いハーフパンツ。
それに赤い靴下。小さな赤いスニーカーまでもってきています。
「母さん、それって」
瑠偉が驚いたことにノエルは瑠偉が幼い時の服を着せてもらって、ご満悦の様子なのです。
「もちろん、瑠偉の物ならぜーんぶおいてあるわよ」
冴子さんは大威張りでそんなことをいいますが、それはそれでちょっと嫌かもと瑠偉は思いました。
「今日は日曜日だからね。ノエルの洋服を買いにいこうね。私女の子が欲しかったのよねぇー」
冴子さんはノエルを連れてショッピングに行くこうと、楽しそうに準備を初めています。
そうして瑠偉の冷たい視線を感じて冴子さんは慌てて弁明しました。
「瑠偉は瑠偉で可愛いのよ」
別にノエルに嫉妬した訳ではなく、呆れて見ていただけなのですが、そんな子供じみた母親の姿を瑠偉は案外好もしいと思っているのです。
いきなり現れた母にこうも簡単に心を許してしまうなんてなぁ。
なにしろほとんど母親らしいことをしてこなかった癖に、冴子さんはのほほんと当たり前のような顔で瑠偉の母親づらをしています。
だのに瑠偉は結局文句も言わないで、そんな母親を受けいれてしまったのでした。
とはいえさすがに中学生にもなって母親との買い物なんて気恥ずかしいばかりだと主張したのですが、冴子さんは瑠偉が同行すると決めてしまいました。
言い出したら理屈もなにもあったもんじゃなく、最後は泣き落としまで繰り出す冴子さんを見て、瑠偉はすっかり抵抗をあきらめたのです。
長らく父親としか暮らしてこなかった瑠偉は初めて女の理不尽さを経験しましたが、残念ながらこれからは思う存分その神髄を味わうことになります。
小さな女の子の服ってのは、随分カラフルなものだとベンチに座って瑠偉はほとほと感心しています。
ちょっぴりしか布地を使っていないのに。瑠偉の服よりも値段が高いことにも驚いてしまいました。
ノエルは聖獣のはずなのに、洋服選びが楽しいらしく、喜々としてファッションショーを繰り広げています。
そんなノエルの姿を見て、さらに冴子さんの気合がはいるという訳で、瑠偉はこのベンチでぽつねんと長い時間待っているのでした。
「瑠偉くん、瑠偉じゃない。こんなところで何しているの?」
いきなり声をかけてきたのは、同級生の浅岡芽衣でした。
芽衣は瑠偉の中学校ではベスト3に入るぐらいの美少女なのですが、いかんせん口が悪くてせっかくの美少女ぶりをぶち壊してしまうのでした。
それでも髪をハーフアップにして、黒スパッツに薄いブルーミニワンピ姿の浅岡芽衣は、やっぱり可愛らしい少女です。
「いやぁ。妹と母さんの買い物の荷物持ちに駆り出されたんだ」
瑠偉は足元の荷物を指さしながら苦笑いをしました。
「それはお疲れ様」
芽衣がそう言って瑠偉の隣にこしをおろすと同時に、母親とノエルが戻ってきましたた。
ノエルは髪をツインテールにしてピンクのリボンをかざり、ベビーピンクのフリルたっぷりのワンピースを着用しています。
これは絶対に母親の趣味だなぁと瑠偉は思いました。
瑠偉にもフリルやレースを着せて遊びたかったと、さっき本音を漏らしていたのです。
「まぁーなんて可愛いの!」
芽衣は歓声をあげると、せっせと携帯で写真を撮り始めてしまいます。
確かにノエルはめったにいないほど愛らしい幼女ですが、いきなり写真はないだろうと瑠偉が文句を言おうとして周囲の様子が変なのに気が付きました。
いつの間にかノエルの周りに人垣ができて、キャーキャー言いながら大勢の人が携帯を向けているのです。
写真や動画を取りながら、まるでノエルがアイドルでもあるかのような大騒ぎをしています。
「お人形さんみたい」
「かわいいー!」
「あの男の子も可愛いわよ!」
ノエルだけでなく自分にまで火の粉が飛んできそうな気配に瑠偉はさっさととんずらすることにきめました。
瑠偉は芽衣に簡単に別れを告げると荷物とノエルを担ぎあげ、母親を促して脱兎のごとく逃げ出してしまいました。
「瑠偉ちゃんたら、そんなに嫌がらなくてもいいじゃないの写真ぐらい」
冴子さんはぽやぽやとそんな呑気なことを言うので、瑠偉は時々大人ってものには感受性ってのがないのだろうかと真剣に悩んでしまいます。
「瑠偉ー。ノエルかわいい?」
ノエルが首をこてんとさせて瑠偉を見上げました。
さっきからギャラリーが、かわいい、かわいいと言うので、疑問に思ったのでしょう。
「うん、あざといくらいにかわいいよ」
瑠偉は一瞬くらくらとした自分を叱りつけながらそう返事をしました。
自分の聖獣にくらっとするなんて、いくらなんでもあんまりなんですが、実際ノエルときたら実にあざと可愛いのです。
瑠偉はこれからどうやってノエルと接すればいいのか、真剣に悩み始めてしまいました。
何といっても瑠偉は健全な思春期の男なんですから。
そんな瑠偉とノエルの様子を冴子さんは面白そうに見ています。
これから面白くなりそうだわ。
冴子さんは面白ければ、自分の息子で遊ぶことだって躊躇しないのです。
だから有朋もそれで随分と大変な目に遭ってきたのでした。
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