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影法師
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ころん。ころん。と、でんぐり返しを繰り返しているのはノエルです。
ノエルは退屈でしかたありません。
誰もいないんですもの。
有朋はいつものように書庫にいますけれども、それっていないのとおんなじです。
ころん。ころん。でんぐり返し。
カラン。カラン。
その時夢幻堂の扉が開きました。
するすると入ってきたのは影法師です。
影法師は、チョコンとノエルのまえに坐ると、へこへこと頭を下げています。
「へんなあやかし。ノエルがたべてしまうよ」
それを聞くと影法師はあわてて、するすると扉まで逃げ出しました。
けれども外に出ないで、じっとノエルを見つめています。
困ったなぁと、ノエルは思いました。
暇なのも困りますけれど、あやかしのお客様はもっとこまります。
その時、カランカランと夢幻堂の扉が開いた音がして、次には瑠偉の声がしました。
「な、な、なんだよお前。なんでそんなとこに突っ立ってんだよ」
瑠偉は肩をすくめて、妖を部屋に招きいれました。
「なんだよ。なんか困ってんのか?」
瑠偉の言葉に妖は、激しく頷くと、しきりに夢幻堂の扉を指さします。
「しゃねぇ。ノエル行くぞ」
瑠偉は妖の後についていくことにしたようです。
扉を開けて瑠偉は驚きました。
どうやら放置された古い納屋に入り込んでいたのが崩れたらしく、小さな男の子が生き埋めになっています。
「ノエル」
瑠偉が叫ぶとノエルは77匹の小さな子ぎつねになって、せっせと瓦礫を撤去していきました。
大狐になれば一息で瓦礫くらい吹っ飛ばせますが、男の子まで飛んでいってしまいますからね。
瓦礫から助け出した男の子を、瑠偉が治癒していきます。
みると男の子は大事そうに、小さな犬のぬいぐるみを抱きしめていました。
「そうか。お前この犬に付いていたんだね」
瑠偉が尋ねると、影法師は男の子の側にひたりと座り込みました。
そうして何度も何度もへこへこと瑠偉に頭を下げ続けます。
「レオ」
男の子がうわ言をいうと、影法師はたちまち犬のぬいぐるみの中に入りこんで、男の子をぺろぺろと舐めました。
「おいで」
瑠偉がいうと子犬はロボットみたいに、てこてこと瑠偉のところにやってきました。
当たり前です。
ぬいぐるみには、関節なんてありませんものね。
瑠偉は固定の術式を練り上げると「幻」と音声を挙げます。
子犬のぬいぐるみは、白い煙に包まれると、たちまち普通の犬の姿になりました。
子犬はよほど嬉しいらし、ワンワンと吠えながらくるくると走り回りました。
「影法師、その幻術は10年しか持たないよ。10年経ったらまた夢幻堂にくるがいい。今度こそ幽世に祓ってやるからな」
瑠偉の言葉に子犬は「ワン」と大きく吠えました。
その時かすかに人の声が聞こえてきました。
「その子を探しているのだろう。ここに連れてきておやり」
瑠偉が言えば、子犬は真っすぐに、人声のする方に走り寄り
「ワンワン、ワンワン」
とけたたましく吠えては、ついてこいと合図を送ります。
「なんだかこの犬、俺たちをどこかに案内したいんじゃないかな」
「ばかばかしい。それより子供を探さないと」
そう言う男に子犬は、さらにけたたましく吠えたてます。
「やっぱり変だ。オレはこいつについていくぜ」
ひとりがそう言えば、もう1人の男も諦めたように子犬の後を追います。
「やっ。あそこに倒れてるのは行方不明の坊主じゃないか」
「そうだよ。この子犬はそれを知らせにきたんだ」
「大丈夫だ。この納屋が崩れて気を失たんだろうが、幸い怪我はない」
そう言って子供を抱えあげる男の側で、子犬はキューン、キューンと心配そうに鳴いています。
「アハハ。もう大丈夫だ。お前も頑張ったな」
もう1人の男がそう言って子犬を抱き上げました。
「こいつはどうやらこの子の友だちらしい。一緒に連れて帰るぞ」
「勝手にしろ」
男たちは子供と子犬を抱えて町に戻っていきます。
「行ったね」
隠れてその様子を見ていた瑠偉は、ちょっとにっこりして言いました。
「ごはん!」
ところがノエルはお腹がペコぺコです。
「瑠偉、ごはん」
瑠偉はノエルのご飯を全部取ってしまったのです。
ノエルがこんなにお腹が空いているというのに……。
「わかったよ、ノエル。いい子だったご褒美に、今夜は僕の霊力を食べさせてあげる」
それを聞いてノエルはたちまちご機嫌になりました。
何しろ瑠偉のごはんは、爽やかな草原のかおりと温かな太陽のぬくもりの味がするのですからね。
ご馳走が貰えると大喜びのノエルを見て、瑠偉は少しだけ後悔しました。
大丈夫かなぁ。
ノエルは大喰らいですからね。
瑠偉は今度はがっくりと肩を落として、夢幻堂の扉を開きました。
せっかく妖助けをしたというのに……
ノエルは見えない尻尾をパタパタ振って、上機嫌で扉の中に消えていきます。
ノエルは退屈でしかたありません。
誰もいないんですもの。
有朋はいつものように書庫にいますけれども、それっていないのとおんなじです。
ころん。ころん。でんぐり返し。
カラン。カラン。
その時夢幻堂の扉が開きました。
するすると入ってきたのは影法師です。
影法師は、チョコンとノエルのまえに坐ると、へこへこと頭を下げています。
「へんなあやかし。ノエルがたべてしまうよ」
それを聞くと影法師はあわてて、するすると扉まで逃げ出しました。
けれども外に出ないで、じっとノエルを見つめています。
困ったなぁと、ノエルは思いました。
暇なのも困りますけれど、あやかしのお客様はもっとこまります。
その時、カランカランと夢幻堂の扉が開いた音がして、次には瑠偉の声がしました。
「な、な、なんだよお前。なんでそんなとこに突っ立ってんだよ」
瑠偉は肩をすくめて、妖を部屋に招きいれました。
「なんだよ。なんか困ってんのか?」
瑠偉の言葉に妖は、激しく頷くと、しきりに夢幻堂の扉を指さします。
「しゃねぇ。ノエル行くぞ」
瑠偉は妖の後についていくことにしたようです。
扉を開けて瑠偉は驚きました。
どうやら放置された古い納屋に入り込んでいたのが崩れたらしく、小さな男の子が生き埋めになっています。
「ノエル」
瑠偉が叫ぶとノエルは77匹の小さな子ぎつねになって、せっせと瓦礫を撤去していきました。
大狐になれば一息で瓦礫くらい吹っ飛ばせますが、男の子まで飛んでいってしまいますからね。
瓦礫から助け出した男の子を、瑠偉が治癒していきます。
みると男の子は大事そうに、小さな犬のぬいぐるみを抱きしめていました。
「そうか。お前この犬に付いていたんだね」
瑠偉が尋ねると、影法師は男の子の側にひたりと座り込みました。
そうして何度も何度もへこへこと瑠偉に頭を下げ続けます。
「レオ」
男の子がうわ言をいうと、影法師はたちまち犬のぬいぐるみの中に入りこんで、男の子をぺろぺろと舐めました。
「おいで」
瑠偉がいうと子犬はロボットみたいに、てこてこと瑠偉のところにやってきました。
当たり前です。
ぬいぐるみには、関節なんてありませんものね。
瑠偉は固定の術式を練り上げると「幻」と音声を挙げます。
子犬のぬいぐるみは、白い煙に包まれると、たちまち普通の犬の姿になりました。
子犬はよほど嬉しいらし、ワンワンと吠えながらくるくると走り回りました。
「影法師、その幻術は10年しか持たないよ。10年経ったらまた夢幻堂にくるがいい。今度こそ幽世に祓ってやるからな」
瑠偉の言葉に子犬は「ワン」と大きく吠えました。
その時かすかに人の声が聞こえてきました。
「その子を探しているのだろう。ここに連れてきておやり」
瑠偉が言えば、子犬は真っすぐに、人声のする方に走り寄り
「ワンワン、ワンワン」
とけたたましく吠えては、ついてこいと合図を送ります。
「なんだかこの犬、俺たちをどこかに案内したいんじゃないかな」
「ばかばかしい。それより子供を探さないと」
そう言う男に子犬は、さらにけたたましく吠えたてます。
「やっぱり変だ。オレはこいつについていくぜ」
ひとりがそう言えば、もう1人の男も諦めたように子犬の後を追います。
「やっ。あそこに倒れてるのは行方不明の坊主じゃないか」
「そうだよ。この子犬はそれを知らせにきたんだ」
「大丈夫だ。この納屋が崩れて気を失たんだろうが、幸い怪我はない」
そう言って子供を抱えあげる男の側で、子犬はキューン、キューンと心配そうに鳴いています。
「アハハ。もう大丈夫だ。お前も頑張ったな」
もう1人の男がそう言って子犬を抱き上げました。
「こいつはどうやらこの子の友だちらしい。一緒に連れて帰るぞ」
「勝手にしろ」
男たちは子供と子犬を抱えて町に戻っていきます。
「行ったね」
隠れてその様子を見ていた瑠偉は、ちょっとにっこりして言いました。
「ごはん!」
ところがノエルはお腹がペコぺコです。
「瑠偉、ごはん」
瑠偉はノエルのご飯を全部取ってしまったのです。
ノエルがこんなにお腹が空いているというのに……。
「わかったよ、ノエル。いい子だったご褒美に、今夜は僕の霊力を食べさせてあげる」
それを聞いてノエルはたちまちご機嫌になりました。
何しろ瑠偉のごはんは、爽やかな草原のかおりと温かな太陽のぬくもりの味がするのですからね。
ご馳走が貰えると大喜びのノエルを見て、瑠偉は少しだけ後悔しました。
大丈夫かなぁ。
ノエルは大喰らいですからね。
瑠偉は今度はがっくりと肩を落として、夢幻堂の扉を開きました。
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