異世界トリップして霊獣さまを食べちゃった

木漏れ日

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正式な婚約

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恥ずかしさで寝込んでいる間に、王妃さま主導で、着々と婚約の準備が進んでいた。

 数は多くはないけれども、質のよいローブやガウンが作られて、青の竜にあわせるように、水色や藍色などの服が多くなっていく。

 正式な婚約の申し込みの使者が、ノリスが私の私室に来た翌日に王城にやってきていて、その使者に、婚約受諾の返書を持たせて、返すのが決まりだ。

 その返書を受けて婚約者が、年長者を伴って、結婚の申し込みに来るのが今日。
 その場で承諾の返事をして夜には内輪での会食会。

 明日は大神殿で、婚約の署名を行い、夜には婚約披露の舞踏会が行われる。

 婚約披露パーティを持って、正式な婚約者としてお披露目したことになるので、その時点で、私の身分は、ノリスの婚約者という位置づけになる。

 この世界ではウィンディア王女の地位よりも、はるかにノリスの婚約者の地位の方が高い。

 それだけ竜というのは、霊獣の中でも尊ばれるのだ。

 ノリスの婚約者に内定したという噂が流れただけで、オルタナ教団の聖女奪還の動きは、ピタリとやんだ。

 誰が竜の婚約者を奪おうなどと思うだろうか?

 だからこれ以降の、私の癒しの仕事は、支障なくおこなわれることになった。

 一番の山場は、今夜の夕食会だ。

 そこでお父様とレイが、16歳の成人式を迎えるまで、私の身を王国で預かることを承諾させることになっている。

 失敗したら、明後日にはノリスにさらわれて、たぶん地上にでることはできなくなってしまうだろう。

 それぐらい竜というのは、番に執着するらしい。

 まぁ、ノリスは私が番だとわからなかったぐらいだから、そこまでの事はないだろうけれど。

 金髪をハーフアップに結い上げて、可愛く水色のリボンでとめる。
 昼間なので肌を見せないシンプルな白いローブだけで、飾りはなし。

 竜は嫉妬心が強いから、自分が贈ったものでない、宝飾品を嫌う。
 婚約の証として、その場で何か贈られることになるから、それを身につける。

 大丈夫かなぁ。
 なんどもおさらいしたけれども、失敗しないかなぁ。

 部屋でウロウロしていると、侍女さんが迎えにきちゃったよ。

 控室につくと、王妃さまが

「綺麗に支度ができたわね。せっかく娘ができたのに、あんまり早く婚約してしまうから、旦那さまのご機嫌が悪いのよ。」

 そんなことを笑いながらいって、私の支度を満足いくまで眺めている。

「お母様、大丈夫でしょうか?私このまますぐに連れていかれたりしませんよね。」

「大丈夫よレティ、今回は婚約だけよ。婚約者がいれば、あなたの守りが強固になるわ。ノリスなんてお守り位に考えておけばいいのよ。」

 さすがに、あの王様の妻だけあって、お母様は逞しい。

 「そろそろ行きましょうか。」
 お母様は私の手をとってお父様の御座所に向かうと、ご自分の椅子に座る。

 私は、その横の椅子にかけて、ノリス達がくるのをまった。

 やがて呼び出しの声とともに、砂漠の長とのノリスが侍従を伴って現れた。

 ノリスは真っすぐに王のもとにいくとひざまずき

「砂漠の民の長、デュランダル・ネビュラスに連なる者、砂漠の守護者たるノヴァーリス・ネビュラスでございます。アイオロス・ウィンディ王が娘、レティシア・ウィンディア姫を、わが伴侶として迎えたく、婚約のお許しを願いに参上いたしました。お許しいただけますでしょうか。」
 
 王様は
「おもてをあげられよ、ノヴァーリス・ネビュラス殿。」
と、ノリスに声をかけ

 「レティシアこちらへ参れ」と私を呼んだ。

 そして私の手をとって、ノリスのところまで連れていき
「わが娘、レティシア・ウィンディアを貴公に託す。頼むぞ」
 と言った。

 ノリスは立ち上げると
「この命に代えましても、レティシア・ウィンディア姫を、お守りいたします。」と誓いをたててくれた。

 そして私の両手をとると、再びひざまずき

「レティシア・ウィンディア姫。私の伴侶となって下さいますか」
と、言った。

 これはあれだ。
 プロポーズというやつだ。
 私が「ハイ」と返事をすると。

 砂漠の長が素晴らしい宝玉がついたネックレスとイヤリング、そして指輪を持ってきた。
「これは、我一族の至宝だ。ノリスを支えてやってくれ。」

 ノリスはそれらを、優しく私に付けてくれる。

 だぶんですけど、これ1個で王国1つくらい買えそうな気がするのは、きっと気のせいなんかじゃないよね。
 
 砂漠の民、恐ろしすぎる。

 これで一連のパフォーマンスは終わりだ。

 王様が
「レティシア、婚約者殿に庭園を案内してはどうか。」
という。

 つまりこれは、後はお若い方たちで、というアレだな。

 私は、ノリスを庭園のあずまやに連れていくと、やっと緊張がほぐれてきた。

 ノリスは何も言わないで、私を抱っこして、目を細めている。

「ねぇ、ノリス」
「うん?」
「私、16歳まで、ここで暮らしてもいい?」
「ここにいたいのかい?どうして。」
「私、親子になってまだ日が浅いから、ちゃんと王様や王妃さまと親子になりたいの。」
「ねぇ、レティ。僕らは番のおねだりを断ったりできないよ。」
「ごめんなさい。」
「ここは、ありがとうだよレティ。」
「ありがとう、ノリス。」

 そこでノリスは何かに気がついたように、私を膝から降ろすとあずまやの椅子に腰かけさせた。

 そしていきなり私の足を持ち上げてしげしげと眺め出す。

 すっかりあわてて
「ノリス!。」
 と叫んだけれども、ノリスは私の足首にあるアンクレットが、とても気になる様子だ。

「ノリス、あのねこれは……。」

「うん、わかったピンクだ。あの時邪魔したのもピンクだな。でも面白い仕掛けだな。ここをこうすうれば、うん、出来た!」

「ノリス、これはセーラ皇女との友情の証なの。」

「うん、大丈夫、ずっと付けてていいよ。」

 ノリスはいかにも鷹揚に言ったけれど、なんか怪しい。
 アンクレットに何か仕掛けを施したんじゃないかなぁ。

 それでも、思ったよりもずっと、ノリスといるのは居心地がいい。
 最悪な出会いだったのに、こんなにも穏やかでいられるなんて不思議だなぁ。

 きっとあれだな。女の子って誰かの特別になりたいんだ。
 自分だけを大事にしてくれる特別な場所があれば、他には何もいらないんだ。

 ちょっとだけ、女の子が恋愛に一生懸命になる理由がわかった気がした。

 女の子って、こと男の子が絡むと怖くなるから、誰の敵にもなりたくなくて、恋愛を避けてきたけど、自分だけの場所がこんなにも安心できるなんて知らなかったな。

 このままずっとノリスの側にいてもいいかな。
 私はそんな風に思う自分の変化がおかしかった。

 ノリスは、私が晩餐会の準備に入るまで、私から離れようとはしなかった。

 「姫さまのお仕度を致します。」
 と主張する侍女軍団と、しばらく睨み合ったぐらいだ。

 とはいえ、竜とはいえ、そこは男だ。
 自分が正しいと思い込んでいる女には、勝てなかったようだ。

 晩餐会は非常に和やかなものになった。
 
 ノリスが16歳まで私を王城に置くことを、快く許してくれたからだ。

 後、4年で、私はノリスの横に立つにふさわしい人になろう。
 私は密かに決意を固めた。
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