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アルカと3匹の精霊獣
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「アルカ、おはよう」
「アルカ、もう朝だよ」
「アルカ、今日もお仕事日和の良い天気だよ」
わいわいと大騒ぎしているのは、アルカと使い魔契約をしている精霊獣たちです。
精霊獣というのは人型を取らない精霊のことで、ふわふわとした柔らかい毛皮と愛らしい容姿を持っていることが多いようです。
「ふぁーー。おはようミィ。起こしてくれてありがとうヒィ。本当に良い天気ねフゥ」
アルカは律儀にも精霊獣それぞれに丁寧に声をかけます。
このアルカの律儀なところが気に入って、ミィ達はアルカの使い魔になったのです。
それとアルカのお料理に惹かれたという面もあります。
精霊獣ってけっこうグルメが多いのですよ。
ミィと呼ばれた水色の猫は、ぴょこんとアルカの布団の上に飛び乗って、自慢そうに胸を逸らしました。
ミィは水を司る精霊獣で、毎朝真っ先にアルカを起こすのを楽しみにしています。
ヒィは火を司る鳥型の精霊獣で、窓辺にちょこんと飛び乗って、朝日がきらきらと入り込んでいるのをアルカに示しました。
フゥはちょこんとアルカの肩によじ登っています。
フゥは緑色の風の精霊獣なのですが、アルカの使い魔の中で一番の甘えん坊の犬型精霊獣なのです。
アルカはフゥを頭から降ろすと、ヒィの方を見て素晴らしくいい天気なのを確認すするなり元気に飛び起きました。
「素敵なお日様だわ。さぁせっかくの良い天気を無駄にするわけにはいかないわよ。シーツを洗濯してしまいましょう」
「わかったよ、それなら僕の仕事だね。まかせておいて」
アルカがベッドから引っこ抜いたシーツの固まりを、ミィがさっさと受け取って庭に持っていきます。
裏庭には洗濯用のたらいや洗剤、それに洗濯ものを干すためのロープなどをしまっている物置小屋があるのです。
「僕も手伝うよ」
ヒィが一緒になって飛んでいってしまいましたから、後に残ったのはフゥだけです。
「じゃぁフゥ。大急ぎで着替えて洗面を済ませてしまうから、そうしたら一緒に朝食を作りましょう」
それを聞いてフゥは思わず緑の尻尾をパタパタとせわしなく振ってしまいました。
「わかったよ。それじゃぁ僕は籠を取ってくるね。菜園で待ってるからね」
フゥが飛び出していこうとするのへ、アルカはあわてて声をかけました。
「フゥ、かまどに火を入れて、お湯を沸かしておいてくれる。お湯があれば便利だからね」
「はぁーい」
フゥが元気よく返事をしたので、アルカは大急ぎで着替えを済ませてしまいました。
麻で出来たワンピースをすっぽりとかぶって、腰のところで紐を結ぶだけです。
そのワンピースだって生成りなので、まるっきり装飾のない服ですが、はち切れんばかりにエネルギーに満ちている少女には装飾品なんて必要ありません。
艶々としたすべらかな肌と、生き生きとして好奇心にあふれた琥珀色の瞳。
幾分赤みがかった亜麻色の髪は、癖もなくさらさらと背中に流れています。
アルカを一目みた人は、みんなアルカの生き生きとした笑顔に魅せられてしまいます。
「アルカは美人じゃないかもしれないが、魅力的な女の子なのは確かだな」
「爺さんの目は節穴か? ありゃ将来美人になるに決まっているさ」
アルカの評価はまちまちですがひとつだけ確かなのは、今現在のアルカは美女とはほど遠いということです。
けれどもアルカはそんな外野の言葉など、気にもとめないフリをしています。
アルカだって女の子である以上、美人じゃないと言われて心穏やかではありません。
だから将来美人になるという言葉を信じることにしているのです。
アルカはちょっぴり赤みがかかった髪を忌々しそうに眺めると、三つ編みにしてしまいます。
アルカは綺麗なブロンドに憧れていて、光があたると赤毛に見える自分の髪があまり好きではないのです。
けれども小さいころ赤毛だった女の子が、大人になって綺麗なブロンドになったって話もあるので、希望は捨てていません。
お仕事をするのに、ふわふわを髪をなびかせている訳にはいきませんからね。
なにしろアルカのお仕事は、沢山の荷物を竜の谷まで運ぶことなのですから。
空を飛ぶのには、フワフワ髪は邪魔になるのです。
アルカは麻のワンピースの上に真っ白な木棉のエプロンをつけて、菜園までかけていきました。
既にフゥが美味しそうなルールの若い葉っぱや、レイリの葉を摘んでくれています。
「ご苦労様、フゥ。サラダの野菜はそんなものでいいかな。トモの赤い実の熟れたところを3つばかりもいでくれる? 私はスープになりそうなトロンの黄色い実を集めてくるから」
「トロンのスープかぁ。大好物だよ。じゃぁトモの実をとって来るね」
フゥは楽しそうに菜園の奥に飛んでいきました。
ルールやレイリの葉は、若い新しい葉だけを摘んでやれば、翌日にはもう新しい葉っぱが顔を出します。
だから全部摘んでしまわなければ、毎日だってサラダを食べることができるのです。
トモの実は真っ赤で、お日様の日差しが強い夏になる実なのですが、酸味と甘みのバランスが良くてサラダに混ぜると彩も味もぐんと良くなるので便利な野菜なのでした。
そうして今からアルカが向かうのは果樹がなっている森です。
果物としてそのまま食べることのできる実や、火をいれることで美味しく食べることのできる実が鈴なりになっているので、毎日その日に食べる分だけ、森から頂いてくるのです。
森はけっこう気難しいものなので、欲張りだったり森を荒らしたりしたら、迷いの森に連れ去ってしまったり、酷い悪戯をするので注意が必要なのでした。
アルカはお師匠様に森への敬意を散々言い含められて育ったので、森の主を怒らせるような真似なんて絶対にしません。
重そうなトロンの実がなっている木の前にくるとアルカは丁寧にたのみました。
「朝食にトロンのスープを作りたいので、どうか1つ分けていただけますか?」
そうすると枝がゆっくりとしなって、トロンの実がアルカの目の前に降りてきました。
アルカはトロンの実を1つだけ枝を傷つけないように丁寧にもぎます。
「ありがとう。いただきます」
アルカが礼を言って森を出ようとすると、小枝がアルカの髪に絡みつきました。
「イタィ。どうしたの。私、森に悪戯なんかしないよ」
アルカが振り返ると髪に絡みついたのは、オランジェの枝です。
「まぁ、もうオランジェの実がなったの? もしかして1つ頂けるのかしら?」
アルカが歓声をあげると、オランジェの枝がついておいでというように、するすると森の奥に誘います。
枝に誘われてついていけば、オランジェの実のよい香がしてきます。
オランジェの実からは美味しいジュースが取れるのですが、枝からもいでも日持ちがするので籠にもっておいておくだけでよい芳香剤にもなるのです。
「まぁ、とっても沢山の実がなったのね。ちょっと多めに頂いてもいいかしら。この香、大好きなのよ」
そういうとアルカはふわりと宙に真っ白な布を浮かべました。
布はふわふわとオランジェの大木に近づいていきました。
そうするとオランジェの大木は、ブルブルと枝をゆすって、ぼたぼたオランジェの実を落としてくれるのです。
真っ白な布は巧みにオランジェの実を受け取って、ひとつも地面に落としたりはしません。
オランジェの実は、子供の頭ぐらいの大きさがありますし、たっぷりと7つも落としてくれたので結構な量になりました。
けれども不思議なことに真っ白な布は、荷物にあわせてずんずんと大きくなって、実を全て受け取るとこぼさないようにきれいに包んで口をリボン結びに縛ってしまいます。
実はこの布はアルカが荷物を運ぶ時につかう、風の布でどんな大きな荷物だって綺麗に包むと、その大きなリボンをふわふわと動かして、鳥のように飛べるのです。
アルカは風の布を呼び寄せると、その中にトロンの実も入れてしまいました。
なにしろトロンの実は、アルカの顔ぐらいの大きさがあって、中身がぎっしり詰まっているので重いのです。
今日の朝食の材料が揃ったのでアルカが台所に入ると、フゥがサラダの下ごしらえをしてくれています。
アルカはまずはオランジェの実を、一番大きな籠にいれてしまいました。
「あぁ、すっごくいい匂い。オランジェの実が成ったんだ。すっかり夏になったんだね」
フゥはオランジェの実の匂いを好もしそうに嗅いでいます。
「ええ、今朝、オランジェの木が呼んでくれたのよ。こんなにいい匂いなのに気が付かなかったなんてねぇ。今朝はオランジェのジュースを作るから、ドレッシングにはオランジェの皮を刻んで混ぜちゃいましょう」
そんなことを言いながら、アルカは低温保存庫から昨夜仕込んでおいたパン種を取り出しました。
低温発酵させることで、昨夜のうちにパン種を仕込むことが出来るのです。
くるくると適当な大きさに丸めると、オーブンに放り込みます。
そうしてパンを焼いている間に、オランジェの実を絞ってジュースをつくり、それは低温保存庫で冷やしておきました。
オランジェの皮を刻んだものと塩やビネガー、油を良く混ぜてドレッシングを作ると、トロンの実に取り掛かります。
大きなトロンの実の上を切り落とすと、どろどろとしたトロンジュースを小鍋に入れます。
それからトロンの実の固い外皮に守られている柔らかい肉をこそぎだして、丁寧にすりつぶしてそれも小鍋に混ぜてしまいます。
そこにミルクと塩を入れて、沸騰させないようにくつくつと煮込んでいくと、トロトロでほんのり甘いトロンスープが出来上がるのです。
フゥが沸かしてくれていたお湯を使って、ハーブティを入れたころには、パンの焼ける良い匂いがしてきました。
「うわぁー、いい匂い。洗濯ものは全部干してきたよ」
「わぁー。もしかしてトロンスープがあるの? オランジェの実がある。すっかり夏になったんだね」
ヒィとミィも戻ってきたので、今からみんなで朝食の時間です。
「さぁ、朝ごはんにしましょ。みんな、お膳を出すのをてつだってね」
アルカが言えば精霊獣たちもいそいそとお手伝いをしてくれます。
ふわふわの猫や犬や小鳥たちが、せっせと食卓に食べ物を並べていく様子は、とても愛らしいのですが本人たちにはそんな自覚はありません。
焼き立てのパンとベルべのジャム。花喰い鳥から分けて貰った花蜜とアルカお手製のミルククリーム。
若葉とトモの実のサラダには、オランジェのドレッシングがたっぷりとかかっています。
トロトロのトロンのスープとオランジェのジュース。
そして眠気を吹っ飛ばして、頭がしゃっきりとするハーブティ。
精霊獣であるミィたちは、獣なので本当はお肉や卵が好きなのですが、それは朝は我慢なのです。
庭や森で手に入る野菜や果物、それに木の実とは違って、お肉というのは高いものだから。
それになんといっても、アルカの料理はとっても心があったまるのです。
「いただきます」
さぁ、おいしく召し上がれ。
アルカと3精霊獣のいつもの一日の幕開けです。
「アルカ、もう朝だよ」
「アルカ、今日もお仕事日和の良い天気だよ」
わいわいと大騒ぎしているのは、アルカと使い魔契約をしている精霊獣たちです。
精霊獣というのは人型を取らない精霊のことで、ふわふわとした柔らかい毛皮と愛らしい容姿を持っていることが多いようです。
「ふぁーー。おはようミィ。起こしてくれてありがとうヒィ。本当に良い天気ねフゥ」
アルカは律儀にも精霊獣それぞれに丁寧に声をかけます。
このアルカの律儀なところが気に入って、ミィ達はアルカの使い魔になったのです。
それとアルカのお料理に惹かれたという面もあります。
精霊獣ってけっこうグルメが多いのですよ。
ミィと呼ばれた水色の猫は、ぴょこんとアルカの布団の上に飛び乗って、自慢そうに胸を逸らしました。
ミィは水を司る精霊獣で、毎朝真っ先にアルカを起こすのを楽しみにしています。
ヒィは火を司る鳥型の精霊獣で、窓辺にちょこんと飛び乗って、朝日がきらきらと入り込んでいるのをアルカに示しました。
フゥはちょこんとアルカの肩によじ登っています。
フゥは緑色の風の精霊獣なのですが、アルカの使い魔の中で一番の甘えん坊の犬型精霊獣なのです。
アルカはフゥを頭から降ろすと、ヒィの方を見て素晴らしくいい天気なのを確認すするなり元気に飛び起きました。
「素敵なお日様だわ。さぁせっかくの良い天気を無駄にするわけにはいかないわよ。シーツを洗濯してしまいましょう」
「わかったよ、それなら僕の仕事だね。まかせておいて」
アルカがベッドから引っこ抜いたシーツの固まりを、ミィがさっさと受け取って庭に持っていきます。
裏庭には洗濯用のたらいや洗剤、それに洗濯ものを干すためのロープなどをしまっている物置小屋があるのです。
「僕も手伝うよ」
ヒィが一緒になって飛んでいってしまいましたから、後に残ったのはフゥだけです。
「じゃぁフゥ。大急ぎで着替えて洗面を済ませてしまうから、そうしたら一緒に朝食を作りましょう」
それを聞いてフゥは思わず緑の尻尾をパタパタとせわしなく振ってしまいました。
「わかったよ。それじゃぁ僕は籠を取ってくるね。菜園で待ってるからね」
フゥが飛び出していこうとするのへ、アルカはあわてて声をかけました。
「フゥ、かまどに火を入れて、お湯を沸かしておいてくれる。お湯があれば便利だからね」
「はぁーい」
フゥが元気よく返事をしたので、アルカは大急ぎで着替えを済ませてしまいました。
麻で出来たワンピースをすっぽりとかぶって、腰のところで紐を結ぶだけです。
そのワンピースだって生成りなので、まるっきり装飾のない服ですが、はち切れんばかりにエネルギーに満ちている少女には装飾品なんて必要ありません。
艶々としたすべらかな肌と、生き生きとして好奇心にあふれた琥珀色の瞳。
幾分赤みがかった亜麻色の髪は、癖もなくさらさらと背中に流れています。
アルカを一目みた人は、みんなアルカの生き生きとした笑顔に魅せられてしまいます。
「アルカは美人じゃないかもしれないが、魅力的な女の子なのは確かだな」
「爺さんの目は節穴か? ありゃ将来美人になるに決まっているさ」
アルカの評価はまちまちですがひとつだけ確かなのは、今現在のアルカは美女とはほど遠いということです。
けれどもアルカはそんな外野の言葉など、気にもとめないフリをしています。
アルカだって女の子である以上、美人じゃないと言われて心穏やかではありません。
だから将来美人になるという言葉を信じることにしているのです。
アルカはちょっぴり赤みがかかった髪を忌々しそうに眺めると、三つ編みにしてしまいます。
アルカは綺麗なブロンドに憧れていて、光があたると赤毛に見える自分の髪があまり好きではないのです。
けれども小さいころ赤毛だった女の子が、大人になって綺麗なブロンドになったって話もあるので、希望は捨てていません。
お仕事をするのに、ふわふわを髪をなびかせている訳にはいきませんからね。
なにしろアルカのお仕事は、沢山の荷物を竜の谷まで運ぶことなのですから。
空を飛ぶのには、フワフワ髪は邪魔になるのです。
アルカは麻のワンピースの上に真っ白な木棉のエプロンをつけて、菜園までかけていきました。
既にフゥが美味しそうなルールの若い葉っぱや、レイリの葉を摘んでくれています。
「ご苦労様、フゥ。サラダの野菜はそんなものでいいかな。トモの赤い実の熟れたところを3つばかりもいでくれる? 私はスープになりそうなトロンの黄色い実を集めてくるから」
「トロンのスープかぁ。大好物だよ。じゃぁトモの実をとって来るね」
フゥは楽しそうに菜園の奥に飛んでいきました。
ルールやレイリの葉は、若い新しい葉だけを摘んでやれば、翌日にはもう新しい葉っぱが顔を出します。
だから全部摘んでしまわなければ、毎日だってサラダを食べることができるのです。
トモの実は真っ赤で、お日様の日差しが強い夏になる実なのですが、酸味と甘みのバランスが良くてサラダに混ぜると彩も味もぐんと良くなるので便利な野菜なのでした。
そうして今からアルカが向かうのは果樹がなっている森です。
果物としてそのまま食べることのできる実や、火をいれることで美味しく食べることのできる実が鈴なりになっているので、毎日その日に食べる分だけ、森から頂いてくるのです。
森はけっこう気難しいものなので、欲張りだったり森を荒らしたりしたら、迷いの森に連れ去ってしまったり、酷い悪戯をするので注意が必要なのでした。
アルカはお師匠様に森への敬意を散々言い含められて育ったので、森の主を怒らせるような真似なんて絶対にしません。
重そうなトロンの実がなっている木の前にくるとアルカは丁寧にたのみました。
「朝食にトロンのスープを作りたいので、どうか1つ分けていただけますか?」
そうすると枝がゆっくりとしなって、トロンの実がアルカの目の前に降りてきました。
アルカはトロンの実を1つだけ枝を傷つけないように丁寧にもぎます。
「ありがとう。いただきます」
アルカが礼を言って森を出ようとすると、小枝がアルカの髪に絡みつきました。
「イタィ。どうしたの。私、森に悪戯なんかしないよ」
アルカが振り返ると髪に絡みついたのは、オランジェの枝です。
「まぁ、もうオランジェの実がなったの? もしかして1つ頂けるのかしら?」
アルカが歓声をあげると、オランジェの枝がついておいでというように、するすると森の奥に誘います。
枝に誘われてついていけば、オランジェの実のよい香がしてきます。
オランジェの実からは美味しいジュースが取れるのですが、枝からもいでも日持ちがするので籠にもっておいておくだけでよい芳香剤にもなるのです。
「まぁ、とっても沢山の実がなったのね。ちょっと多めに頂いてもいいかしら。この香、大好きなのよ」
そういうとアルカはふわりと宙に真っ白な布を浮かべました。
布はふわふわとオランジェの大木に近づいていきました。
そうするとオランジェの大木は、ブルブルと枝をゆすって、ぼたぼたオランジェの実を落としてくれるのです。
真っ白な布は巧みにオランジェの実を受け取って、ひとつも地面に落としたりはしません。
オランジェの実は、子供の頭ぐらいの大きさがありますし、たっぷりと7つも落としてくれたので結構な量になりました。
けれども不思議なことに真っ白な布は、荷物にあわせてずんずんと大きくなって、実を全て受け取るとこぼさないようにきれいに包んで口をリボン結びに縛ってしまいます。
実はこの布はアルカが荷物を運ぶ時につかう、風の布でどんな大きな荷物だって綺麗に包むと、その大きなリボンをふわふわと動かして、鳥のように飛べるのです。
アルカは風の布を呼び寄せると、その中にトロンの実も入れてしまいました。
なにしろトロンの実は、アルカの顔ぐらいの大きさがあって、中身がぎっしり詰まっているので重いのです。
今日の朝食の材料が揃ったのでアルカが台所に入ると、フゥがサラダの下ごしらえをしてくれています。
アルカはまずはオランジェの実を、一番大きな籠にいれてしまいました。
「あぁ、すっごくいい匂い。オランジェの実が成ったんだ。すっかり夏になったんだね」
フゥはオランジェの実の匂いを好もしそうに嗅いでいます。
「ええ、今朝、オランジェの木が呼んでくれたのよ。こんなにいい匂いなのに気が付かなかったなんてねぇ。今朝はオランジェのジュースを作るから、ドレッシングにはオランジェの皮を刻んで混ぜちゃいましょう」
そんなことを言いながら、アルカは低温保存庫から昨夜仕込んでおいたパン種を取り出しました。
低温発酵させることで、昨夜のうちにパン種を仕込むことが出来るのです。
くるくると適当な大きさに丸めると、オーブンに放り込みます。
そうしてパンを焼いている間に、オランジェの実を絞ってジュースをつくり、それは低温保存庫で冷やしておきました。
オランジェの皮を刻んだものと塩やビネガー、油を良く混ぜてドレッシングを作ると、トロンの実に取り掛かります。
大きなトロンの実の上を切り落とすと、どろどろとしたトロンジュースを小鍋に入れます。
それからトロンの実の固い外皮に守られている柔らかい肉をこそぎだして、丁寧にすりつぶしてそれも小鍋に混ぜてしまいます。
そこにミルクと塩を入れて、沸騰させないようにくつくつと煮込んでいくと、トロトロでほんのり甘いトロンスープが出来上がるのです。
フゥが沸かしてくれていたお湯を使って、ハーブティを入れたころには、パンの焼ける良い匂いがしてきました。
「うわぁー、いい匂い。洗濯ものは全部干してきたよ」
「わぁー。もしかしてトロンスープがあるの? オランジェの実がある。すっかり夏になったんだね」
ヒィとミィも戻ってきたので、今からみんなで朝食の時間です。
「さぁ、朝ごはんにしましょ。みんな、お膳を出すのをてつだってね」
アルカが言えば精霊獣たちもいそいそとお手伝いをしてくれます。
ふわふわの猫や犬や小鳥たちが、せっせと食卓に食べ物を並べていく様子は、とても愛らしいのですが本人たちにはそんな自覚はありません。
焼き立てのパンとベルべのジャム。花喰い鳥から分けて貰った花蜜とアルカお手製のミルククリーム。
若葉とトモの実のサラダには、オランジェのドレッシングがたっぷりとかかっています。
トロトロのトロンのスープとオランジェのジュース。
そして眠気を吹っ飛ばして、頭がしゃっきりとするハーブティ。
精霊獣であるミィたちは、獣なので本当はお肉や卵が好きなのですが、それは朝は我慢なのです。
庭や森で手に入る野菜や果物、それに木の実とは違って、お肉というのは高いものだから。
それになんといっても、アルカの料理はとっても心があったまるのです。
「いただきます」
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