拝啓、魔女の紫塔さん ~君の地獄へ連れてって~

黒上タクト

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第十二章 第三節 「地獄で待つもの/夜の果てに手を伸ばして」

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 教会の敷地に入ると、意外にも追っ手や、警備といった人たちは現れない。外への巡回に出払ってしまっているのか、はたまた廃ビルの崩壊でやっつけてしまったか。少し不自然な感じも覚えつつ、私たちは教会の門を開いた。


 聖堂へ入ると、ステンドグラスが輝き、その色彩に空間が彩られる。その美しさにさっきまで殺伐としたやりとりをしていた私たちにとっては、まさにオアシスのように感じられた。

「救い……きっと、この世の苦しみを少しでも忘れられるよう、この教会も生まれたのね」
「みおっち、随分詩的だね」
「そうかしら。……驚くほど誰もいないわね」

 聖堂に紫塔さんの声が響いていく。音のない空間、人気ひとけが無くて、どこか寂しい。こんな教会は見たことがない。大体は誰か、祈りに来ている人、そうでなくともシスターさんや牧師さんがいたりするもの。どうしてここがガラ空きなのか……。

「紫塔さん、ここを……燃やすんだよね」
「ええ。ここを潰せば、この街の教団はかなりの損害を受ける。……でも、それだけじゃ足りないわ」

 そうだ。教団には教徒がいてこそ。そして教えを説くものがいる。この最終決戦で、あの牧師の姿をまだ見ていない。

「どこにいるのかしら……」

 紫塔さんが見回すように、私含めみんな周囲を見る。聖堂にはよく掃除された床と、横長の椅子がいくつかあるだけ。人の気配は見当たらない。

「留守、とか……?」
「いやみんな、アタシ、ママの話を聞いたことがあって……」

 紗矢ちゃんが言うには、基本的に教会に人がいなくなることはまずないらしい。昼は礼拝などで聖職者たちや教徒たちが集い、夜も遅くまでやっているみたい。だから、今のような状況はおかしいのだ。

「魔女の非常事態でみんな出払ってる……ってどう?」
「どうだろうはるっち……教会の営業を取りやめてまで、アタシたちを追っている……のかな」
「どうかしらね」

 非常事態だから、という線はあると思う。だけれど今は、教会に人がいないというのが現実だ。

「燃やす準備をするわ」

 私たちは四人で教会の中を歩いて回り、そして試験管の液体を仕掛けていく。使うのは二本、それをさらに薄めて床が水浸しになるほどばらこうという計画だ。この教会に水道はもちろんある。

「紫塔さん、この液体ってどうやって火をつけるの? マッチを使うんじゃちょっと危なくない?」
「そうねシェリー、だけど心配いらないわ。これはスイッチがあるの」

 ほう、初耳だ。なにかギミックを仕掛けているのかな?

「『私が念じる』……それだけよ」
「えっ、紫塔さん、そんな魔法使いみたいなことできるの!?」
「シェリー、……私は一応魔女よ? ああでも……そういうこともできるのよ」

 あまり魔法の力を明かしていなかったことを考えたからか、紫塔さんは言い直した。

「あのたった二本の試験官が、教会中を浸して燃える液体になるんだ……」
「魔力っていうのは、常軌じょうきいっした存在なのよ。さあ、出る準備をしましょう」

 あらゆるポイントに薬品を撒き終わり、私たちは教会を出ようと門のほうへと向かう。

「……待って」
「どうしたの、紫塔さん」
「……マズいことになったかもしれないわ」

 紫塔さんは手をかけた門の取っ手を一向に引かない。

「何か忘れもの?」
「違うわ」

 そんな答えが返ってきた。すると……焦げ臭い匂いが漂ってきた。あれ……?

「紫塔さん、着火するタイミング早くない?」
「違うわ晴香。これは私がつけた火じゃない……!」

 はっ、と一瞬思考が止まった。それは、どういう……!?

められたわ! どこか出口を探しましょう!!」

 その言葉に、頭がパニックになるのは仕方がなかった。無我夢中で走って見て回った。けれど、どこの窓も、出口も、全て閉じられていた。

「なっ……くっ……」
「落ち着いてみおっち! こういうときこそ、深呼吸だよ……!」
「だめよ紗矢、煙を吸ってはいけないわ……」

 聖堂の奥に火が見えた。そして、背後からも火が噴いた。多分、周りを取り囲むように火を放たれてしまっているみたいだ。

「どこを……どこか、ないのかしら……!?」
「紫塔さん、余っている試験官は幾つ?」

 紫塔さんが懐を探ると、一本の容器が出てくる。

「これだけ……中身は……」
「中身は……?」

 その時、大きく崩れる音がした。火のついた瓦礫がれきが壁を崩す。だけれどそこに穴ができることはなく、壁になったままだ。

「ぐっ……こうしちゃいられないわ! 探しましょう!」

 紫塔さんに余裕がない。それがどうか、彼女から冴えた手を奪いませんように。そう願いながら、私もどうにか手を探すことにした。



 そうは言ってももう時間はない。瞬く間に火は燃え盛るだろう。なにか、なにか方法は……? 爆薬が残っているなら、使えば瓦礫を突破できるかもしれない。

「紫塔さん、最後の試験管は爆薬なの?」
「違うわ、これはただの……未完成品よ」

 違うとなると、力ずくで教会の外に出るのは難しいかもしれない。なら、と私の次の案を出す。



「ここ、隠し通路とかないかな? 紗矢ちゃん!」
「えぇっ!?」

 急な無茶ぶりかもしれない。でも、ここでこの教会の構造について一番知っているのは紗矢ちゃんのはずだ。

「なにか、どっか変な場所なかった? この教会」
「変なところって……うーん……」
「秘密の部屋とか、隠し部屋とか」
「いや覚えてない……なかったと思うけど……」

 それでも紗矢ちゃんは必死に頭を抱えて何かないかというのを探そうとしている。

「うわっ!」

 シェリーの目の前に瓦礫が落ちてきた、運が悪かったら下敷きになっていただろうという大きさのものだ。そろそろ探しに行ける余裕もなくなってきた。

「……みおっち、言いたくないけど……」
「ダメよ紗矢、最後まで、最後まであがいて!」

 火の手が回り、温度も上がっている。さらに煙も轟々ごうごうと上がっているのだ。

「どうすればいい……!?」

 紫塔さんが動けない。おそらく手がもう無い。

「あ、あぁ……」

 紗矢ちゃんが座り込んでしまった。まるでもうお手上げだと言わんばかりに。

「紗矢、どうしたの!?」
「ごめん。なんか、わかっちゃった。アタシ、これ以上手を考えられない。『終わり』が見えちゃった」
「そんな……諦めないで!」

 だけれど紗矢ちゃんはもうスイッチが切れたように動かない。彼女の目に光はなく、もう糸が切れている……ように見えた。

「和泉さん……?」
「ごめん……アタシ、バカだ……わかってる、もっとあがかなきゃって。でも……もう、…………疲れちゃった」
「和泉さん……っ! 無理を……」

 シェリーが紗矢ちゃんを背中から包み込んだ。二人の目に見えた、哀しい煌めきは気のせいではない気がする。

「そん、な……ここで終わりだなんて……」

 ……ついに紫塔さんも膝をついた。燃え盛る炎はみんなを照らす。

「私が、皆をここにいざなってしまった……」

 紫塔さんの言葉が、次第に波紋のように皆の心に伝わった。あきらめのような、私たちの気持ちに宿るか弱い灯を揺さぶるような。揺さぶられた灯はその勢いで形を崩して、そして……。

「あ、ああ……」
「紫塔、さん……」

 シェリーの顔を見て、私は胸が痛くなった。ああ、彼女も希望を失ってしまった。もうその足が、出口を探しに動き出すこともない。

「みんな……」
「はるっち。……っ」
「晴香ちゃん……」
「晴香……」

 みんな泣いている。こんなところで終わってしまうなんて、という気持ちなんだろう。じゃあ――私は? 私の目から流れるものなんて、ない。

「みんな、なんで泣いてるんだ……?」
「晴香、あなたは……まだ、絶望していないというの……?」

 絶望……? そんなことしてる場合じゃないじゃん。

「駄目だよ! まだ何かあるはずだよ!」
「そんな……終わってしまったのよ、私たち」
「違う、違う違う! そんなわけない!」
「晴香……げほっげほっ……ごめんなさい……」

 煙が充満してきて、息も苦しくなってきた。……確かに何かきざしになるものは今は無い。だけれど、何かが私の中で「折れるな」と声を上げている。それは……見えているけれど、意識の外にあるものなのか、みんなの絶望する姿なのか、――紫塔さんを幸せにするという信念なのか。とにかく、私の中の灯は消える気配がない。

 握っている「未完成品」と言われた試験管。紫塔さんが折れたということは、これにここを打破できる力はない。思い出せ、ここに来るまで何があった。ここには何がある。
 閉じ込められた空間、聖堂、……紗矢ちゃんが教えてくれた隠し通路。だけれどそこは閉じられていた。……何で閉じられているんだ? 鍵? いいや、外から塞ぐような閉じ方だった。

 もし、外から板か何かで抑えられているとしたら……例えばこの教会に入るときの大きな門、あちこちを囲う建築物由来の瓦礫。そんなものよりも、あの隠し通路の扉を抑えられるものというのは必然と小さくなる。あそこは人ひとり通るのがやっとの所だからだ。だからもし力で押し切れるとするならそこが一番突破口になるんじゃないか?

「……みんな、力を貸してほしい」
「何、はるっち……?」
最期さいごのお願い、聞いてほしいな」

 おろかなひらめきかもしれない。もしかしたら子どもみたいな発想かもしれない。

「携帯、みんな持ってるよね」
「……もう、電池はゼロよ」

 そう、もう満足に充電も出来ていないから、みんな携帯はただの重りになっている。

「隠し通路へ行こう!」

 もう時間はない。刻々と炎はこの教会の全てを焼き尽くそうとしている。私はかえりみずに隠し通路のほうへ駆けだす。他の三人がついてきているかどうかは、わからない。足音も炎の音で聞こえやしない。




 幸運にもどうにか隠し通路までたどり着く。煙が充満していて長居はできそうにない。

「晴香、なにか狙いがあるのね?」

 みんなついてきてくれていた。心配は少ししていたけれど、みんな来てくれたんだ。

「うん。……ねえ紫塔さん、リチウムイオン電池で、強い爆弾は作れる?」
「……!」

 驚いた顔をすると、紫塔さんは自分の携帯電話を取り出す。

「……出来なくはないわ。でも、それは『爆弾』にするだけで着火のスイッチは仕込めない。着火するものが必要よ」

 周辺に火は見えるけれど、肝心の扉の所に火はない。火に投げ込んで携帯を爆弾にする予定だ。

「これでどう?」

 ポケットの中のマッチ箱を取り出し、中身を扉の前にばら撒く。ここで火をくべて、着火点としよう。

「……当たるも八卦、当たらぬも八卦。もう出来ることはないわね」

 紫塔さんがみんなの携帯電話に何か印を刻んでいく。簡単な幾何学模様だ。

「晴香、やるならとことんやるわよ。準備は良いわね?」

 扉のマッチに火をつけた。轟々と、扉を燃やし始める。だけれどそれだけじゃ足りない。このままではただ焼けるだけだ。

「――お願いっ!」



 みんなの携帯電話を、火の中へと放り込んだ。爆発音が響いたと思うと、風が吹き込んだ。外の空気を感じることができた。

「空いたわ!」
「行こう、みんな!」

 ただ一つの希望、それを確かに手繰り寄せたのを感じた。





「っ!?」

 気が付くと、もう辺りが真っ暗だ。ここは……? と見渡すと周囲には木々。そうだ、ここは教会敷地内の林だ。

「……今何時だ……?」

 携帯を見ようとして、使ってしまったことを思い出した。だんだんと起きる前の事を思い出してきた。
 教会を脱出した後、近くのこの林に避難してきたんだ。夏の日差しは暑いし、それに本能的に休息できる場所を探していたんだ。だから足が勝手にこの林の中へと向かった。もう疲れと、煙を吸って苦しかったのとできっと私たちは、もう何もできなかったんだろう。

「紫塔さん、シェリー、紗矢ちゃん!」

 三人の姿もあった。私同様、地面に寝転がっている。もしかして……と不安がよぎったけれど、大丈夫、息はある。

「……んん」

 紫塔さんが反応したので、彼女に声をかけると辛そうに目をあけた。もう疲労困憊ひろうこんぱいという様子だ。

「晴香……私たち」
「大丈夫、生きてるよ」
「…………」

 何か言いたげな、深刻そうな顔。……そうだ、まだ私たちを取り囲む危機は終わっていない。

「……牧師を討つんだよね?」
「ええ。でも、きっと私たちの前に姿を表すでしょう」
「どうして?」
「魔女一味を討ったか、確かめるためよ」

「そうとも」

 背筋が凍った。聞き覚えのある冷たい男の声。振り向けばあの牧師が私たちを見下ろしていた。その手には拳銃がある。

「しぶといな君たちは。やはり魔女、というべきか」
「あとはあなただけでしょう? もうこの街の熱狂的な教徒たちはいない」
「そうかもしれないな。魔女、貴様がやったのだ。多くの血を流し、自分のために罪もない人々を巻き込んだのだ。貴様は“裁かれるべき”存在だと、私は思う。そこのご友人、君たちが罪もない人々を殺めたのだ」

「――でも、それが紫塔さんを封殺していい理由にはならない」
「なに? ……! 君は……」
「生まれついて裁かれるべき運命、そんなのおかしい。間違っている! だから……私は紫塔さんの力になる。紫塔さんのために戦う!」
「……気が触れたか。魔女と交わって、君こそ“熱狂的な信者”となったのだ。君は自ら、地獄への一本道を下っているのだぞ。彼女と関わらなければ、味方になどならなければ、君は今頃、日なたの元を生きる真っ当な人生を歩んでいただろうに」

 何かが私の中で切れた。こいつは何を偉そうに語っている? 何が正しいか、それを決めるのはアンタじゃないだろう?

「あったま来た。アンタが私の人生を決めるんじゃない!!」
「――救えぬ。ならば」

 銃の、リボルバーの撃鉄が起こされた。銃口は私に向けられている。

こそが、過ちを進める前の死こそが、君の救済キュウサイとなろう」
「晴香、危ない!」

 盛大な銃声が鳴った。何か牧師の方へ駆けだそうとしたのだろう私の身体。胸を貫く熱、そして赤い染みが広がっていく。

「ぐっ……」
「即死を狙ったのだが……それも拒むか。肺だろう。満足に息も出来ぬだろう」

 口の中に広がる血の味、吐き出される赤い血。息を整えようにも、やり方が分からなくなっている。

「じきに死ぬ。君が望むなら、もう一発、急所を狙おう」
「はぁ、はぁ……」

 断る! と叫ぼうにも吐き出される血が引っかかって声も出ない。ああ、もうすぐ死ぬんだ。だけど――この気持ちだけは、折っちゃ駄目だと思った。

「フン、では魔女。君の番だ。最期に言い残すことはないかね?」
「どうしてそんなことを聞くの? 早く撃ってしまえばいいじゃない」
「――職業癖だ」

 自分の行動の綻びを訂正しつつ、牧師は引き金を引いた。







零時レイジよ」

 頭に声が響いた。朦朧もうろうとしていた意識の中ではっきりと聞こえたそれに、私はしがみついた。ぼやけて色を失っていたいた視界が開けていく。身体の感覚が戻っていく。やり方を忘れた呼吸が戻ってくる。

「!」

 見れば、周囲が真っ赤に染まっていた。真っ赤な別世界のような都会のこの光景、見たことがある……!

「ここは……」
「晴香、以前一度あなたも来たことがあったわね。私の世界、私の“魔法”」
「……つまり」
「この力の事は教えたと思うわ。『昨日の出来事を一つだけ改変する』魔法」
「どうするの?」
「あなたを救う」
「……例え私に銃弾が当たらなかったとしても、ピンチじゃない?」
「物事は枝葉のように広がっているの。つまり、広がる前の幹がある。だから、それを変える。見届けましょう、晴香」
「紫塔さん……」
「私たちは、“魔女”の力を世界に示す……!」

 赤い光景が崩れていく。私と紫塔さんのつないだ手は、その中でも強く、強く、つながりを断たれることはなかった。





「ぐうあっ!?」

 目の前にうずくまっている白髪の男性。腹部から血を流している。辺りを見ると、紫塔さんの手に銃が握られているのが見えた。それはさっきまで牧師が握っていたものと同じだ。

「な……なにをした……! さっきまで私の手にあったそれが、なぜ貴様の手にある!?」
「これが魔女の力よ。私は世界に抗い、生き抜いて見せる。その前に立ちはだかるものは……倒すまで」
「やはり害悪……! 貴様のような外れ者がこの世の秩序ちつじょを乱す! 私が倒れようとも、教団はこの国中、そして世界中にある。逃れることはできない! 貴様は所詮一瞬強まっただけの小川、世界の潮流に飲まれて、いずれ消えるだろう!」
「なら、その潮流を乗っ取ることにするわ。私は勝ってみせる。できないなんて、あなたに決められる筋合いはないわ」

 牧師はフッと笑う。まるでごとをあざけるように。

「若気の至り……君は、君たちの道は誰も到達できなかったものだ。君たちがそれを成せるかどうか」

 突然、牧師は立ち上がる。だけどもう先は長くはないだろうと感じさせるふらつき。その歩調で一歩ずつ紫塔さんの方へと近づいてくる。

「紫塔さん!」
「――地獄で待ってるぞ」

 すると紫塔さんの前でひざまずき、牧師は紫塔さんの銃口をくわえ、そして……。




「ん、んぅ……」

 紗矢ちゃんが目を覚ましたみたいだ。

「アタシ、助かったの……?」
「ええ。紗矢、戦いは終わったわ」
「……えっ!?」

 そう聞くと紗矢ちゃんは勢いよく起き上がった。

「やっつけちゃったの!? 牧師を!」
「ええ。……。」

 今も教会敷地内の林に私たちはいる。自ら命を絶った牧師の遺体は遠くへと片付けた。

「そうか。終わったんだ。……。……アタシたち、これからどうしようか」
「そうね。この街の教会はなくなった。教会に追われることは無いでしょう。……教団の人間が外部から来ている可能性はあるけれど。だけど」
「街全体が、私たちを拒む、か……。そうだよね」

 私たちは何も知らない人からしたら、牧師はじめ様々な人達を手にかけた大罪人だ。いくら警察が関与しないとはいえ、きっと色んな人から侮蔑ぶべつの視線を浴びることになるだろう。

「ここを、出る手立てを考えなくちゃいけないのかな。……でも」

 紗矢ちゃんは少し間を置いてから、続けた。

「疲れたな……」
「ええ」

 私も同じことを思っていた。ここから緻密ちみつにこの地を抜け出す方法、行き先を考えるのは、正直余裕がない。あれだけかっこいいことを牧師に言っておいてだけど、今すぐ動ける元気はなかった。

「はぁ」

 そう言って寝転がったのは紫塔さんだった。

「星が……綺麗ね」
「……?」

 言われるままに、私も寝転がり、空を見上げる。木々の間から覗く星空は、なぜだかいつもより輝いて見えた。

「このまま……空の果てへと飛んで行ってしまいたいわね」
「みおっち、ロマンチストだねぇ?」
「好きなの。ふとした時に見える、星空が」
「アタシも好きだよ」
「晴香は?」
「勿論好きだよ」
「シェリーはどうなのかしら」
「好きだと思うよ」
「シェリーちゃん、寝ちゃってるね。寝る子は育つっていうけどさ」
「ふふっ」

 それから三人でしばらく星空を見上げ、少し語り合った。少しずつ、会話のキャッチボールが途切れて、そして私もボールを投げて、返ってこなくて、空へと思いを馳せる。夜が明けるまで。
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