Radiantmagic-煌炎の勇者-

橘/たちばな

文字の大きさ
52 / 68
神界に眠るもの

隠された遺産

しおりを挟む



翌日、グラインを始めとする多くの人々が謁見の間に集まる。玉座にはニールが腰を掛けていた。
「まずは君達に礼を言わせてくれ。君達がいなければ、私はずっと身動きの出来ぬ人形となっていたであろう。忌まわしき魔術から救ってくれて感謝する」
バキラの傀儡の呪術から解放された事について、改めてグライン達に礼を言うニール。
「我が妹イニアの事が気掛かりであるが……あの連中の仕業である事は間違いないと見て良いのかな?」
あの連中とはバキラとクロトの事だ。王女イニアが消息不明となったのはバキラ達に攫われたのではないかとニールは考えていた。
「ここからは私が話しましょう」
声と共にティムの魂が現れる。
「うん? これは……?」
「ニール王子。覚えていますか? あの時の不思議な白い獣の事を」
ティムはかつての出来事について触れると共に自身の正体を明かす。同時にレヴェンもティムとの関係性について打ち明けた。
「あの不思議な白い獣が……神の子として生まれたお方だったというのか……?」
ニールは驚きの余り表情をポカンとさせる。ティムは全ての事件の元凶となるジョーカーズを倒すべく、聖光の勇者ティリアムを蘇らせる為に神界へ赴くという提案を出す。神界は空の上に広がる天上界の奥に存在し、天上界へ行くには竜人族の長である聖竜の女王の力を借りる必要がある。聖竜の女王は竜人族が住むドラゴル大陸の中心地に建てられた聖竜の塔にて天上界への扉を管理しており、聖竜の塔を開く為の鍵が四つ必要だというのだ。
「竜人族に聖竜の女王……竜人族は神に最も近い種族だと伝えられているらしいが、空の上の世界の架け橋になっているというのか」
ニールは聖竜の女王について色々興味を抱いていた。
「で、その四つの鍵って奴は何処にあるんだよ」
キオが問う。
「それは……」
ティムは答えに詰まっている様子。
「何だよおい、まさか全然わかんねぇとか言うつもりか?」
ティムによると、四つの鍵は大魔導師レニヴェンドに預けられたとの事で、レニヴェンドが消息を絶った今、何処に存在するか解らないというのだ。
「冗談じゃねえぞ! 在処が解らなかったらどうしようもねぇだろが!」
怒鳴るように声を荒げるキオ。
「ニール王子。以前私が王にお尋ねした事を覚えていますか?」
かつて王に伝説の大魔導師に関する話を聞いていた事についてティムが問う。
「もしやあの時、貴女が父上に伝説の大魔導師の話を聞こうとしていたのは、四つの鍵の在処を掴む為に……?」
ニールが問い返す。
「そういう事になりますね。いずれ我が娘、ティリアムを蘇らせる時は来ると考えていたから……」
「なんと……! いやはや、あの時はとんだ無礼を……」
「気にしないで下さい。あんなナリをしていたら怪しむのも無理ないから。それより……」
ティムはかつて訪れたニルド高原の洞窟について聞き出す。ニルド高原の洞窟はニールも調査した事があり、本当に変わった点はなかったのか改めて確かめようとしているのだ。
「確かにあの洞窟の調査に出向いた事はありますが……あの洞窟で何か気になる点でもあるのですか?」
ニールが首を傾げる。ティムが洞窟に着眼しているのは、レイニーラ付近に存在するだけあって、レイニーラの建国者でもある大魔導師レニヴェンドが四つの鍵の一つを何処かに封印している可能性があるのではないかと考えているのだ。
「あの洞窟は、ティムと初めて出会った場所だ。王様は本当に何も知らなさそうだったけど……」
王もニールも洞窟に関する情報で変わった部分はないと認識しており、グライン達はレイニーラの人々が知らない秘密が隠されている可能性に賭けてみるというティムの考えに乗る事にした。
「あ、あの……えっと、母……さん」
グラインはぎこちない様子でレヴェンに呼び掛ける。
「何かしら? グライン」
「これからの未来というか……僕達が行くべき場所は何処なのか、予言できる?」
グラインはレヴェンの未来が見える能力で四つの鍵の手掛かりが掴めないかと考えていた。
「……残念ながら、今のところ四つの鍵が何処にあるのかまでは読めないわ。ただ……」
「え?」
「あなたにとって最も受け入れ難い出来事が見える……とだけ言っておくわ」
レヴェンの不吉な言葉を聞いたグラインは思わず表情を凍り付かせてしまう。
「レヴェン、余計な事は言わないでちょうだい」
ティムが鋭い声で言う。
「あ、ごめんなさい」
申し訳なさそうに詫びるレヴェン。グラインはレヴェンの言葉の意味を考えているうちに、「一体何を見たというんだ? 母さんは何故そんな縁起の悪い事を教えるんだ?」と不安な気持ちになってしまう。
「いつまでもウダウダ言ってねぇで、とっととその洞窟に行ってみようぜ。オレは動きたくてしょうがねえんだよ」
キオが急かすように言う。
「単細胞バカがうるさいから早く行くわよ」
「あぁ? 単細胞バカって誰の事だコラ」
「あんた以外に誰がいると?」
「んだとてめぇ!」
ガザニアとキオが言い合う中、グラインは一先ずニルド高原の洞窟へ向かおうとする。
「もし何か見つけたら私に知らせてくれ。私に出来る事があらば力になるつもりだ」
ニールの意向を快く引き受けた一行は城を出る。レヴェンは切なげな表情でグラインの行方を見守っていた。洞窟へと足を運んでいるうちに、グラインは思わず懐かしい気持ちになる。イニア王女の飼い猫シロキチの捜索でクレバルに無理矢理洞窟まで連れて行かれた事だ。あの頃は先輩面して突っかかられたりもしたけど、今となっては思い出の一つであり、クレバル自身ももういない。そして、洞窟の中でティムと初めて出会った時も。
「この洞窟……今となっては懐かしいわね」
ティムも懐かしんでいる様子。
「ところで……私の口調、ティムとして振る舞っていた時の方がいいかしら」
ティムは密かに今後の接し方について考えていた。ティマーラである本来の落ち着いた口調で接するべきか、ティムとしての片言混じりの陽気な口調で接するべきかを問うと、どっちでも構わないよとグラインは返答する。
「だったら……この方ガ慣れてるでショ? あまり堅苦しイ事ハ好きじゃナいのよネ」
ティムだった頃のノリに切り替わった瞬間、グラインは思わず微笑む。
「どっちが素なのかわかんねーな」
キオが不思議そうにしている中、ティムはフフッと微笑みかける。
「ふん、くだらない話してないでさっさと用事を済ませるわよ」
ガザニアの一言で一行は洞窟に突入する。洞窟内は相変わらず様々な魔物が生息しているものの、今のグライン達の敵ではない低級の魔物ばかりで、キオが軽々と蹴散らしていく。
「何だよここ。ちっとも歯応えねぇザコばっかだし、準備運動にもならねぇぜ」
不満そうに愚痴をこぼすキオを横に、グラインはふと洞窟の主とされている魔獣グレイドベアの事を思い出す。あの時はリルモのおかげで事無きを得たけど、もしまだこの洞窟に生息していたとしても今の自分なら十分戦えるだろう。それどころか、キオやガザニアといった心強い仲間もいる。そんな事を考えているうちに、地鳴りが起きる。グライン、ティムにとって聞き覚えのある唸り声。
「お、ちったぁ骨がありそうな奴がいたか?」
嬉しそうに戦闘態勢に入るキオ。現れたのは、グレイドベアだった。
「キオに任せた方がよさそうネ」
ティムが耳打ちするように言うと、グラインはそうだねと同意する。涎を垂らしながらも鋭い爪を振り下ろすグレイドベア。キオは爪の攻撃を軽く避け、空中回転しつつも鋭い蹴りと連続パンチを繰り出していく。
「グアアアアアアア!」
キオの攻撃を受け続けるグレイドベアが雄叫びを上げる。怒り任せに大暴れするグレイドベア。その衝撃で岩が崩れ落ちていくが、キオは動じる事無く、全身を炎で纏い、火炎旋風脚を繰り出す。
「うおららららららァーッ!」
炎に包まれた拳による怒涛のラッシュが叩き込まれ、敢え無く絶命するグレイドベア。
「ケッ、ただの見掛け倒しかよ。ザコには用はねぇっての」
勝負はキオの圧勝だった。
「アナタだったら十分勝てると思ってたカラ、これくらいハ当然ネ」
ティムはキオの格闘による実力を認めている様子。難なく奥へ進む一行は洞窟の最深部へ辿り着く。最深部は、苔だらけの壊れた石像が二つ設けられた小部屋だった。
「フーン、この場所ハ来た事なかっタわネ。一見何もなさソウだけド……」
グラインのみならず、ティムも初めて来る場所であった。
「何だよ、お宝も何もねぇじゃねえか」
ガッカリさせやがってと不満を漏らすキオ。
「いや、もしかしたら何か隠されているかもしれない。調べてみよう」
グラインは小部屋の壁等を調べ始める。
「おい、こんなところに何があるってんだよ?」
「単細胞には解らない秘密が隠されてるかもしれないって事よ」
「てめぇはいちいち一言多いんだよ!」
ガザニアの毒舌に対してキオが騒ぐ中、グラインは神経を研ぎ澄ませつつも隅々まで壁を調べる。
「……何だろう。気のせいかもしれないけど、微かに音がするよ」
壁を調べているうちに、グラインは僅かに壁の向こうから何かが滴り落ちる音を感じ取っていた。それは普通の人間にはうまく聞き取れないものであり、嵐の試練によって聴力が鋭くなる程感覚が鍛えられていたのだ。
「さてハこの壁の向こう、隠し通路ニ繋がっていルのかしラ? 面白くなってきたワ」
ティムが興味深そうな様子で壁に注目している。
「キオ。ちょっとこの壁、壊せる?」
「あぁ? んな事ぁ、オレにとっちゃあ朝飯前だぜ」
キオはグラインが指す壁に渾身の力を込めた拳の一撃を叩き込む。罅が入り、崩れ落ちる壁の向こうには鍾乳洞のある新たな通路が広がっていた。音の正体は、鍾乳洞から滴り落ちる水滴だったのだ。
「やっぱリ、こんな隠し通路があったのネ。レイニーラの人達ガ知らなかったのモ無理もないわネ」
何らかの秘密が存在するというティムの推測が確定に繋がったと悟り、新たな道を進んでいく一行。進んだ先には、強い魔物が生息していた。巨大なマムシの魔物『ギガバイパー』、ランタンを持った黒装束の幽霊『ヘルスプーク』、岩をも軽く切り裂く鎌を自在に振り回すカマキリの魔物『マンティシア』、鷲の頭と猛獣の身体を合体させたような姿を持つ魔物『グリフォーン』、蛇のシッポを持つ鶏の魔物『コカトリス』等がグライン達に襲い掛かる。
「ちったぁ楽しませてくれそうじゃねえか」
意気揚々と魔物に挑むキオ。
「コカトリスのブレスに気をつけテ!」
ティムが注意を促す。コカトリスのブレスを浴びると石化してしまうのだ。二体のコカトリスがキオに向けて石化ブレスを吐き掛けると、ガザニアは植物の蔦を操り、間一髪でキオを引っ張り出してブレスの直撃を免れる。
「てめぇ、何しやがる!」
「さっきの注意を聞いてないのかしら? 危うく石化から逃れたのよ」
ぶっきらぼうに振る舞うキオを横に、グラインが炎と風の魔法を駆使しながらも次々と魔物を吹っ飛ばしていき、鎌状の炎が出たヘパイストロッドを手にマンティシアに突撃する。けたたましい鳴き声を上げるグリフォーンはガザニアが召喚したマッドローパーに捕えられ、鋭い鞭の舞で叩きのめされていく。
「ケッ、オレだって負けてらんねぇぜ」
キオは炎に包まれた拳でギガバイパーに一撃を食らわせ、顔面に連続回し蹴りを叩き込んでいく。
「今だ! アゲインスブラスト!」
グラインが放った風圧の衝撃波はマンティシアの身体に風穴を開け、数体のヘルスプークを吹っ飛ばしていく。グライン、キオ、ガザニアによって、魔物の群れは全滅した。
「ふう、やはり油断は出来ないな」
未知の領域に加え、新手の魔物の出現にグラインは気を引き締める。先へ進むと魔物が現れるものの、一行は力を合わせて撃退していく。暫く進んでいるうちに降り階段を発見し、突き当たりには崩れた岩で塞がれている場所がある。岩の隙間からは僅かに光が溢れている。どうやら出口となる場所が岩で塞がれているようだ。一行は階段を降りると、ジメジメした薄暗い通路に出る。数々の魔物が立ち塞がるものの、問題なく蹴散らしていく一行。奥へ進むとまたも下へ続く階段を発見し、降りていくとそこには小部屋がある。小部屋の中は、朽ちた机と宝箱、数少ない本が置かれた本棚が設けられていた。
「この宝箱、もしや……」
グラインは宝箱を開ける。中には地図のようなものと古びたノートが入っていた。ノートにはこう書かれている。


『魔導帝国が滅びても、災いの根源が絶たれたわけではない。皇帝に力を与えし者が、魔界のどこかに存在している。私は全ての災いを根絶やしにする為、深海に封印されし伝説の古代魔法を我が物とした。だが、人間が古代魔法を扱う事は禁忌であった。それを覚悟の上で、魔界へ赴く事にした。もう地上に帰る事はない。もしもの時の為に、聖竜の女王が住む塔の鍵四つを預けておく。私と親しい間柄だった同士の住む場所が丁度良かろう――』


途中からはページが黄ばんでいる上、文字が擦れて読めなくなっていた。地図には四つの目印が記されている。恐らく四つの鍵の在処となる場所なのだろう。そしてこのノートは大魔導師レニヴェンドが遺したメモであると。
「フーン、この地図の目印の在処ハ……」
ティムは地図の目印となる場所をじっくり眺める。一つ目はラアカス大陸、二つ目は北東の大陸ノスイストルのギガント山に位置する場所。三つ目は南西の大陸サウェイトのエルレイ城に位置する場所。四つ目は暗黒大陸の魔族が住む王国デルモンドに位置する場所となっていた。
「とりあえず手掛かりを見つけたって事か?」
「そういう事ネ」
さっさと出ちまおうぜとキオが言う中、グラインは本棚にある書物を一つずつ調べ始めた。伝説の大魔導師が所持する本だけあって、何か重要な内容が書かれているかもしれないと考えているのだ。
「こんなところで読むよりも、全部持って帰ればいいんじゃない? バチが当たるわけじゃないし」
ガザニアの考えにグラインはそれもそうかとあっさりと納得する。本棚の書物を全て持ち帰った一行は洞窟から脱出しようとするものの、魔物の襲撃が後を絶たない。力を合わせて魔物の群れを撃退し、何とか洞窟から出る事が出来た。レイニーラ城へ帰還した一行は、ニールに報告がてら持ち帰った書物を差し出す。
「伝説の大魔導師が所持していた本とな……ふむ、なかなか興味深い」
ニールは早速書物を手に取って読み始める。レヴェンも大魔導師の書物に興味を持っていた。
「グラインよ、よくやってくれた。この本は預からせてもらうよ」
手に入れた書物を明日までには一通り読み通しておくとニールが告げると、一行は一先ず休息を取るべく、グラインの家で一晩を過ごす事にした。レヴェンも自宅へ連れて行こうとするグラインだが、レヴェンは動こうとしない。
「グライン、私はちょっと城に残らせてもらうわ。あなたが持って来た本を読んでおく必要があるから」
「え、でも……」
レヴェンはニールと共に大魔導師の書物を読む事で、何か息子の力になれる事があるかもしれないと考えていた。レヴェンの意思を汲んだグラインはキオ、ガザニアを連れて自宅へ向かって行った。城から出るグラインの後ろ姿を見守るレヴェンの表情はどこか悲しげであった。
「あ、父さん。母さん……」
グラインの家にはバージルとラウラがいた。
「おおグライン。今日は我が家で休んでいくのか?」
バージルの一言に快く頷くグライン。
「明日から僕達はまた旅立たなくてはならない。その為にも……」
「何も言わなくていいよ。あんたも随分見違えたね」
ラウラはグラインの成長を肌で感じていた様子で、嬉しそうな表情で褒めるばかり。だが内心、自分達が本当の親ではない事実を知ってしまった事で申し訳ない気持ちになっていた。それはバージルも同じである。
「グライン……お前が今何を思っているのか解らんが、今まで黙っていてすまなかった」
本当の両親がいる事について黙っていた件でバージルとラウラが詫びるものの、グラインは二人に対して何の蟠りも抱いておらず、逆に戸惑うばかり。
「謝らなくていいよ。二人とも、今まで僕を育ててくれたんだから……僕にとっての父さんと母さんである事に変わりないよ。あの人が本当のお母さんでも……あなた達は僕にとっての父さんと母さんだから」
本当の母親であるレヴェンの存在について複雑に思いながらも、バージルとラウラは自分を育ててくれた両親だからという気持ちを打ち明けるグライン。
「……ありがとう」
バージルとラウラは涙を浮かべながらも、グライン達を家に招き入れる。キオとガザニアはグラインと共に食卓の席へ付く。
「お前ら人間って、随分あったかそうなとこに住んでんだな」
キオは注がれたグラスの茶を飲みながら言う。
「血は繋がってなくても、ご両親だと思うならしっかり親孝行しなさいよ」
ガザニアの一言にそのつもりだよと返答するグラインだが、思わずレヴェンの事が頭を過り、この戦いが終わったら今此処にいる義理の両親と離れる事になるのだろうかと考えてしまう。ラウラの手料理をご馳走になり、自室へ向かったグラインは深い眠りに就く。傍らにはキオとガザニアが眠りに就いていた。




ワタシハ……ダレ? 


……ワタシハ……ダレナノ……



お前など……シラナイ……


オマエは……キエサレ……




「……おい! グライン!」
目を覚ますと、視界にキオの表情があった。ぼやけた光景の中、声だけが聞こえるという得体の知れない夢から醒めたグラインは、頭がボーっとしている状態だ。
「ったく、悪い夢でも見たのかよ? やけにうなされてたぜ」
夢の中の出来事が思い出せず、よく解らないけど何か聞き覚えのあるような声がした。その声の主は、まるで誰かに似ているような……。
「さっさと行くわよ。王子達は本を全部解読出来たか解らないけど」
「う、うん」
今は夢の事を考えている場合ではない、と思いつつもグラインはキオ、ガザニアを連れてレイニーラ城へ向かう。ティムは既にグラインの中に入り込んでいた。謁見の間には既に書物を読み通していたニールとレヴェンがいた。
「おお、よくぞ来てくれた! あれから本を全て読んでみたのだが……」
ニール曰く、文字の掠れとページの黄ばみが多く断片的な部分しか読み取れなかったものの、様々な事実が解ったという。一つはレニヴェンドが習得した古代魔法は再び海の底に封印された事。もう一つは古代魔法を扱う為に必要となる膨大な魔法力を得る秘宝『天の核玉』が太陽の神殿に封印されていた事。レニヴェンドは天の核玉を利用して古代魔法を扱い、太陽の神殿に返す形で核玉を封印したと。レニヴェンドには親友がいた。光り輝く鎧を纏う聖騎士ソーリアンと呼ばれる者。ソーリアンはレニヴェンドの意思で秘宝を守る事を選び、自身の命が尽きてもレニヴェンドの秘術によって不死のガーディアンとして秘宝を守り続ける事になったと。書物には常人に解らない古代文字で記されたものもあったが、レヴェンが全て解読していた。
「という事ハ……」
タロスが手にした古代魔法はレニヴェンドが習得したものであり、天の核玉をも我が物にしたのではないかとティムは推測する。
「実に凄い発見だ。まさかここで大魔導師に関する歴史を知る事になろうとは」
ニールは読んでいた書物を閉じる。
「君達にお願いしたい。どうか父上の無念を晴らし、妹イニアを救い出してくれ!」
グラインはニールの頼み事を快く引き受ける。
「グライン……」
レヴェンがグラインの傍に歩み寄る。
「……母さん」
「私の命に代えてでも、母親としてあなたを守ってあげたい。今まで母親らしい事をしてやれなかったから……。けど、あなた達の足を引っ張るわけにはいかない」
レイニーラ城に残り、グライン達の旅の無事を祈る事を告げるレヴェン。グラインはレヴェンの澄んだ目を見ているうちに、何処かしら切ない気分になる。
「どうか、無事で生きて……私のグライン……」
レヴェンの目から一筋の涙が溢れ、そっとグラインを抱きしめる。実の母からの抱擁は、今まで感じた事のない温もりが伝わっていた。
「僕は……絶対に帰って来る。絶対に……」
そう応え、仲間と共に謁見の間を後にするグライン。ニールとレヴェンに見送られながらも旅立っていく一行。城を出るとバージルとラウラ、クラークとセメン、他ムィミィ族、オルガ、コニオ、族長、鳥人族が集まっていた。
「また旅立つんだな」
バージルの一言に黙って頷くグライン。
「あたしが与えたお守り、ちゃんと持ってるかい?」
ラウラの言葉でグラインは黄色い宝玉が埋め込まれたペンダントを掲げる。よしよしと笑顔になるラウラ。
「グライン君。どうかこれを受け取ってくれ。息子の部屋に置いていたものなんだが」
クラークはグラインにブローチを差し出す。グランブローチと呼ばれる、地の魔力が込められたアクセサリーだった。
「どうか息子の無念を晴らして下さい。息子の分まであなた様の無事をお祈りいたします」
セメンの懇願を受け、解りましたとグラインは決意と共にブローチを握り締める。
「ガザニア、キオ。君達も……僕に付いて来てくれるか?」
旅立つ準備が出来たグラインは同行についてガザニアとキオに問い掛ける。
「わざわざ問うんじゃないわよ。付いて行かない理由があるとでも?」
「あいつらだけはオレの手で叩きのめしてやらねぇと気が済まねぇ。てめぇが断っても付いていくつもりだぜ」
ぶっきらぼうな態度でイエスと返答する二人に安心するグライン。
「フム、旅立ちの時じゃな。角笛は持っているか?」
声と共に風王がやって来ると、グラインは空獣の角笛を手に取る。
「よし、それなら問題ないな。メロディはちゃんと覚えておるな?」
「はい、大丈夫です」
グラインは角笛を吹き始める。奏で終えると、遠くから空獣ヒーメルが飛んで来る。
「うわわわわわ! な、何だありゃ!」
突然現れたヒーメルに驚く人々。風王が人々にヒーメルについて説明している中、グライン達はヒーメルの背に乗ろうとする。そこにオルガ、コニオ、族長が駆け付ける。
「キオ……」
オルガはキオを見つめる。
「オルガ。この先どうなるかわからねぇが、オレは必ず帰って来るからな」
軽く笑顔を見せるキオ。
「……あなたはそう易々とくたばりやしないわよね。コニオと族長の事は心配しないで。どうか無事で帰って来て……」
「キオ兄ちゃん、絶対にかえってきてよ!」
「お前ならばきっと大丈夫だと信じておる。頑張るのだぞ」
祈るように言うオルガ、コニオ、族長に力強くおうよと応えるキオ。
「故郷を失った今、我々に出来る事はこの地を守る事だ。あのような惨劇を繰り返させるわけにはいかぬ。我々が命に代えてでもレイニーラ王国を守ってみせよう」
「ニンゲンの国はややこしそうだけど、ワシらにも出来る事があらば精一杯の事をするつもりだム」
ウィンダルとキングムィミィからの一言。多くの人々に見送られながらも、グライン、キオ、ガザニアはヒーメルの背に乗る。一行を乗せたヒーメルは翼を広げ、大空に飛び立った。
「グライン……」
レヴェンは息子の運命を思いつつも、城の窓からかの地へ飛んで行くヒーメルをずっと見つめていた。


空を飛ぶヒーメルに乗るグラインにティムが語り掛ける。
「ワタシは肉体を失っタ今……もうアナタ達を能力デサポートする事ハ出来ない。話を聞く事くらいハ出来るケド……これかラはアナタ達の手で困難を乗り越え、未来を切り開くのヨ」
肉体をなくしたティムは、メモリードや数々の光の力によるサポート魔法を使う事は不可能となっていた。
「……そうだね。今まで何度か君に助けられたけど……僕達の手で前へ進まなくてはいけない。僕は……勇者として選ばれたんだから」
グラインは勇者としての使命感と共に、決意を固める。



そう、何があっても……やらなくてはいけない。


僕の大切なものを沢山奪った、忌まわしきジョーカーズを滅ぼさなくてはならない。リルモや、連れ去られた人々を助ける為にも。今を生きる全ての人々を守る為にも。


勇者として目覚めた僕の力だけではあいつらには勝てない。だけど、僕は決して絶望しない。運命を恐れてはいけない。



どんな方法であろうと、あいつらを滅ぼす事が出来るのなら――!




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...