Radiantmagic-煌炎の勇者-

橘/たちばな

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神界に眠るもの

生き残りのエルフ

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サウェイト大陸の上空へとやって来たヒーメル。グラインは大陸を凝視する。広大かつカラフルな色合いの森に覆われる中、廃墟となったエルレイ城が見える。ヒーメルが城に近付くと、一行は辛うじて残されている城のバルコニーに降り立った。
「まさか二度も此処へ来る事になるなんてね……」
城へ潜入した時、リフの脳裏にエルレイ城での出来事が浮かび上がる。歴戦の勇者の仲間の一人であり、人間を信じるエルフ族ネルの恋人レルヴァスが闇の力によって凶悪なアンデッドの魔物となっていた事。ビースト族の戦士クロウガ、ネルと共にレルヴァスと戦った末、サラが忌まわしき敵バキラの術に掛かっていた事実を知らされた事。何もかもが残酷かつ忌まわしい出来事でしかない。そしてネルはもういない。リフは思う。犠牲になった者達の無念を晴らす為、そしてサラを救う為にも、決して立ち止まるわけにはいかない。今此処に、自分と共に戦おうとしている心強い仲間がいるのだから。
「ったく、酷ぇ臭いだな。何があったってんだ?」
城内に残る腐敗臭で不快感を露にするキオ。魔物どころか人の気配すらない。聖竜の塔の鍵の在処を示す地図には、このエルレイ城に位置する場所にも目印が書かれている。となるとこの城内の何処かに鍵が存在するのではと考えたグライン達は城の探索を始める。所々破壊された壁や柱が目立つものの、僅かに物品が残されている。だが、城に残された物品はエルフ族の戦士が使用していたと思われる一般兵用の武器くらいしかなく、鍵らしきものは見つからない。
「城の中には何もないのか……」
探索を始めてから暫く経っても収穫はなく、グラインはどうしたものかと溜息を付く。
「ウーン、あの地図にはこのエルレイ城を示していたんだけどネ」
ティムも困った様子で呟く。
「エルフの連中が何か知ってるんじゃないかしらね」
ガザニアからの一言。やはりエルフ族から話を聞かないと手掛かりを掴めないのかとティムは思う。確かにエルフ族なら何か知ってる可能性はありそうだが……。
「ア、そうだ」
ティムがふとある方法を閃く。その方法とは、人間以外の種族で直接聞き込みに行くという作戦であった。人間以外の種族――つまりキオとガザニア。しかしガザニアは外見上、人間と余り変わらない。ドレイアド族と説明しても異種族と偽った人間と疑われる可能性もある。そこでキオに調査へ行ってもらうという考えだった。肉体を失って魂だけの存在となったティムが単身で行ってもおかしな事を言う幽霊だと思われてまともに相手してくれないだろうから、最低一人くらい調査に出向く必要があると。
「あぁ? オレがエルフの奴らから直接話を聞き出すってわけかよ」
「そういう事ヨ。この中で人間らしくない見た目なのはアナタだけなんだかラ」
歴史探訪目的で旅をしているものの、道に迷った鬼人族という設定でキオに聞き込み調査をしてもらうティムの作戦に、グライン、ガザニア、リフは若干心配そうな様子。
「こんなバカに上手く出来るとは思えないけど、余計な面倒事を避けるには致し方ないかもね」
「へっ、つまり旅人って事で聞き込みするだけでいいんだろ? さっさとやってやるぜ」
「ワタシも付いていくワ」
魂だけの存在となったが故、ティムはキオの中に入り込んでこっそりとアドバイスするつもりで同行を試みる。グライン達はエルレイ城前の広場で待機する事になり、キオとティムはエルフの村へ向かった。
「エルフの住む領域にこんな面白い場所があったのね」
様々な色の樹木が存在するエルレイの樹海に興味津々のガザニア。リフは自分の指にはめられた神光の指輪を見つめながらも、サラの事を考えていた。キオが戻って来るまで休憩する事にしたグライン達は、ガザニアの自然魔法で生み出した薪で焚き火を囲む。
「何だか不思議な森だな。エルフはこんなところに住んでいるのか」
エルレイの樹海の独特な雰囲気に、グラインも密かに興味を抱く。
「グライン……教えて欲しい事があるの」
突然リフが声を掛ける。
「教えて欲しい事って、何を?」
「ジョーカーズよ。あなたが知ってる限りの事を教えてくれないかしら」
リフはサラを攫った憎き悪の組織であるジョーカーズ――何が目的でサラを攫ったのか気になっていた。しかもサラは、バキラの手によってジョーカーズに仕える者と化している。グラインは知ってる限りの事を話す。天の祭壇での戦いの出来事――ジョーカーズの首領であるタロスが禁断の古代魔法と歴戦の勇者の力を我が物にし、人智を越えた凄まじい力で一つの大陸を破壊し尽くした事。クレバルが犠牲となり、リルモまでも敵に倒されて行方不明になってしまった事。全て話し終わらないうちに、リフは言葉を失っていた。
「僕の仲間も、あいつらのせいで犠牲になってしまった。あいつらだけは絶対に滅ぼさなくてはならない。僕の大切なものを沢山奪った、あいつらだけは……!」
俯き加減で激しい怒りを燃やすグライン。
「不必要に憤って頭に血を登らせるんじゃないわよ」
ガザニアからの一言で、冷静になろうとするグライン。
「ごめんなさい。あなたも色々辛かったのね……」
忌まわしさのあまり触れたくない出来事を無理に話させてしまったのではと思い、つい詫びるリフ。
「いいんだ。僕は……何があっても絶対に絶望しないから」
グラインは深呼吸をし、心を落ち着かせようと精神を集中させる為に瞑想をする。
「この子はあんたの為にも、無理してまで突き進むんじゃないかしら。いくら勇者といえど、限度があるのにねぇ」
瞑想しているグラインを見つめながらも気怠そうに言うガザニア。瞑想中のグラインは全く動じる気配がない。
「グライン……あなたは……」
リフはグラインを見つつも、決意を固める。これは全てのものを救う為の戦い。彼らの力にならなくては、サラだけでなく全てを救えない。だからこそ今、彼らと共に戦わなくてはならない。自分には聖剣ルミナリオと内に眠る聖光の力がある。そう、私も絶望してはいけない。全てを救う為にも。


一方、キオはエルフ族の村を訪れていた。村に住むエルフの数はごく少数となっており、村全体の雰囲気も重苦しくなっている。
「お前は誰だ。また人間か?」
エルフの男が警戒するかの如くキオに問い掛ける。
「おいおい、冗談じゃねえよ。オレは旅の鬼人族だよ。ニンゲンはこんな肌の色してねえし、こんな立派な角生えてねえし、耳だって尖ってねえだろ? ニンゲンなんかと一緒にすんじゃねぇっての」
キオは自分の中に宿っているティムからのアドバイスを受け、大の人間嫌いで世界を流離う冒険家の鬼人族だと主張する。
「そ、そうか。確かに人間どもに角はないし、耳は尖っていないな。それで、我がエルフの村に何の用で来た?」
「あ、ああ。ちっと聞きてぇ事があんだけどよ」
キオは聖竜の塔の鍵の在処について聞くものの、男は聞いた事がないと言わんばかりの顔をする。
「悪いがそんなものは知らない。他を当たってくれ」
素っ気なく返答し、去って行く男。
「おい、こいつら当てになんのかよ」
「まだ解らないでショ。手あたり次第聞いてみるのヨ」
キオは村中にいるエルフから鍵について聞いて回る。村の奥の花壇には、エルフの老人が寛いでいた。
「何じゃ、お前さんは。人間ではないようじゃが……魔物か?」
「魔物じゃなくて鬼だよ鬼! 旅の鬼人族だよ!」
「オニ……ふむ、つまりオニという名の魔物かのう?」
何だこの爺さんと思いつつも、キオは老エルフに聖竜の塔の鍵について聞き始める。
「フム……セイリューの塔の鍵とな……ゴホゴホ。それはラファエルの印かのぉ」
老エルフの言うラファエルの印が聖竜の塔の鍵だと確信したキオは在処について問う。
「どこにあるかとな……んーと、はて? そういやお前さん、どこかで会ったかのう? んん? お前さん、よう見たらミモルではないか。ミモルや。ちょっと水持ってきてくれんかのう」
「はぁ? おいおい、ボケちまってるのか?」
手掛かりが掴めたと思えば、どうやら自分を誰かと間違えるくらいボケてしまってるようで、これ以上は話にならなさそうと思ったキオはその場から去ろうとする。
「一先ず水持ってきてあげたらどうかしラ?」
キオの中に入った状態のティムからの一言。
「何でオレがボケた爺さんの面倒見なきゃいけねぇんだよ」
「バカね。それで何か進展があるかモしれないでショ。人助けガ思わぬ幸いを招く事だってあり得るのヨ」
全くしょうがねぇなと思いつつも、ティムの言葉に従う形で水を持って来る事にしたキオだが、辺りには水を補充出来るような場所が見つからない。どんな水を持って来ればいいんだと思ったキオは、近くにいる女エルフに声を掛ける。
「何よアナタ。変な角付けた人間? 人間は大嫌いだから帰ってちょうだい」
「バカ野郎、人間じゃねえよ! こんな赤い肌の人間なんかいるわけねえだろが!」
「ふーん、確かにアナタみたいな肌の色の人間は見た事ないわね。人間じゃないとしたら魔物?」
「鬼だっつーの!」
「ああ、オニっていう種族なのねー。変な種族! で、何か用?」
ろくな奴がいねぇな、と思いつつもキオは改めて花壇の前にいる老エルフが飲みたがっている水について話す。
「あー。エルレイ水ね。あの爺さん、ボケちゃったけど水飲めば少しの間ボケが落ち着くようになるのよ」
エルレイ水とは井戸から採れる水であり、それは何処にあるんだとキオが問うと、女エルフはうーんと首を傾げる。
「アナタ、本当に人間じゃないの? オニって言うけど、本当は人間だったってワケじゃないよね?」
女エルフはキオが人間嫌いの旅の鬼人族である事に訝しんでいる様子だ。
「何だよ、疑ってんのか? 第一オレはあんたらと同じく人間が大嫌いなんでよ。人間なんかと一緒にすんなよな」
嘘を交えつつも反論するキオ。
「……もしアナタが本当に人間嫌いだってなら、ちょっとアタシの話に付き合って欲しいのよ」
「あぁ? 何があったんだよ」
女エルフは語る。少し前に人間の女を連れたビースト族の男が村を訪れ、更に得体の知れない力を持つ人間の男まで現れ、エルフ族の英雄であったネルを味方に付けて反逆させた事件が起きた事を。エルフによる人間討伐部隊がネル達を追う事も兼ねてビースト族に人間を討つ協力を求めた結果、ビースト族との対立を招いて激しく争う事になってしまい、部隊が全滅してしまった。ネルの裏切りと多くのエルフを失ってしまったショックで長老がボケてしまったという。そう、花壇にいる老エルフは長老だったのだ。
「まさか、そんな争いを招く事態に発展していたなんテ……」
ティムはエルフ族とビースト族の対立が引き起こした戦いに憤りを覚える。何故人間をそこまで憎悪し、人間を滅ぼす考えについて他種族へ同調を求めた挙句、意に反すれば争う事を選んだのか。エルフ族の多くが魔導帝国の兵力として利用されたといえど、人間を滅ぼすという考えは決して許されるものではない。ましてや他種族を利用してまで――!
「あんたら、そこまで考えるくらい人間を嫌ってたのかよ……」
「当然よ。聖光の勇者とかいう汚らわしい人間の女がドブ臭いクチでネル様を誑かしたっていわれてるし」
「ナッ……!」
カチンと来るティム。聖光の勇者、つまり娘であるティリアムの悪口が気に障ったのだ。下手に文句言うと却って面倒な事になりかねないので、内心怒りながらもグッと堪える。更に女エルフは、人間討伐部隊の中には自分の兄も属していて、ビースト族との戦いで犠牲になったという事を打ち明ける。
「何もかも人間のせいよ。兄の命を奪ったビースト族も憎い……。ドブ臭い人間なんか一日でも早く滅びてしまえばいいのよ!」
憎悪を剥き出して感情的に叫ぶ女エルフ。キオは返答せず、ただ黙って聞くばかりだった。
「……あー、アタシの話はこれで終わり。付き合ってくれてありがと」
「お、おう」
ようやく話が終わったところで井戸の場所について聞き出すキオ。女エルフは井戸がある場所を教えると、後は勝手にしてちょうだいと言い残して去って行った。
「よっぽど人間にろくな思い出がねぇんだな、エルフの奴らは」
飲み水用として使っていた小瓶を手に井戸のある場所へ向かう。井戸は、村から少し離れた場所に設けられていた。
「気持ちは解るケド……ワタシの娘は汚らわしくないし、ドブ臭くないわヨ! あのコ、いくら何でも言っていい事と悪い事があるワ!」
娘を侮辱されたと思い、怒りを露にするティム。
「言っておくケド! ティリアムはワタシ譲りの儚くて美しいお人形サンのような娘だからネ!」
「お、おう」
別にそんな事まで聞いてねぇよ、と思いつつもキオは井戸の前までやって来る。井戸の中に飛び降りると、綺麗な水が湧いている。小瓶に一杯水を汲み、井戸から出るキオ。長老が屯している花壇に戻ってみたが、長老の姿はなかった。
「おい、あの爺さんいなくなってるじゃねえか!」
何処行っちまったんだと思いつつ探し回るキオ。だが長老の姿は見つからない。村中探し回っている中、再び辿り着いた井戸の前に長老がいた。
「だああああ! あんた、いつの間にこんなとこに来てたんだよ!」
突然の失踪で無駄に歩き回されたキオは思わず掴み掛るように言う。
「んお? 何じゃお前さんは。人間か?」
すっかりキオの事を忘れているようだ。
「忘れてんじゃねぇよ! あんたに水持ってくるよう頼まれた鬼だよ! 旅の鬼人族だ!」
キオは井戸の水が入った小瓶を差し出す。
「んーそうじゃったかのう。まあそれはそうと、ちょっと喉が渇いてのう。水貰うぞ」
長老は小瓶の水を一気飲みする。
「ん、んー。で、お前さん……何しに来たんじゃ? って、よく見たらシトカではないか。シトカよ、ワシの為に水持ってきてくれたのか!」
ダメだこの爺さん。今度はシトカという名前の人物に間違えられてすっかり呆れた様子のキオだが、何も収穫がないまま帰るわけにはいかないので、最低限知っておくべき情報を得ようと改めて聖竜の塔の鍵について聞き出す。
「セーリューの何とやらと、な。ラファエルの印と言われておるが、それをどうするつもりじゃ?」
「ちょっと興味あるっつか、噂では神のお宝って伝えられてるらしくてだな……えっと、それを調べに来たってわけよ」
ティムのアドバイスを元に、半分棒読みでぎこちなく返答するキオ。
「……お前さん、本当に人間じゃないのか? 今のは本心でないな?」
「え? バッカ野郎! こんな角生えてて肌色赤い人間がいるわけねぇだろ!」
「あーわかっとるわかっとる。まずお前さんみたいな魔物が人間なわけないぞな。カッカッカッカッ」
「んな事ぁいいからさっさと聖竜の塔の鍵の事を教えろよ!」
「カッカッ、お前さんなかなか面白いから教えてもいいかもしれんのう」
長老は三つ目の聖竜の塔の鍵となるラファエルの印の在処について語る。かつてエルフ族の英雄であったネルが大魔導師レニヴェンドから印を授かり、当初は村の中で預かろうとしていたものの、ある日突然ネルが印を持ち出して、ビストール王国に預けて貰ったとの事だ。
「ビストール王国だぁ? それは間違いねぇんだな?」
「ワシは人間と違って嘘など付かん! 嘘付きばかりの人間なんかとは大違いじゃよ。ところでシトカよ……ワシの人間撲滅計画について聞きたいかの?」
「いや、そいつぁ遠慮しとくぜ。ありがとよ」
ろくでもねぇ話なんか聞いてられるかという事で、キオは軽く礼を言ってその場から去って行く。
「はぁ……エルフってのはろくでもない奴らばっかだぜ。どんだけ人間嫌ってんだよ」
エルフ族の村の聞き込み調査から解放されたキオは思わず愚痴をこぼす。
「見た感じ、村のエルフはごく少数しかいないみたいネ。せめてメモリードさえ使えれバ色々解るんだケド……」
ティムはエルフ族とビースト族の間で起きていた争いの事がどうしても気になっていた。何もかも人間のせいで、全ては人間が悪いというのだろうか。人間を憎悪する理由は決して理解出来ないわけではない。だが、魔導帝国による多大な犠牲を理由に人間を滅ぼすという考えは許されるものではない。憎悪がもたらす殲滅は、新たな悪を生むのだから。


その頃――暗黒魔城の常闇の空間では、タロスが注がれた酒のグラスを翳していた。傍らにネヴィアが立っている。
「タロス様」
声と共に現れたのはダグ。バキラとクロトも同時に出現すると、雷鳴が轟く。
「如何かね、新たなる兵力ヴァルキネスは」
「ハッ、今や我と肩を並べる程の実力を得ています」
「ふむ、上出来だ」
ヴァルキネスが順調に力を付けているという報告を聞き、不敵な笑いを浮かべるタロス。酒のグラスを飲み干すと、ファントムアイが現れる。
「タロス様。エルレイの樹海にて例の小僧どもを発見致しました」
南西の大陸サウェイト内に存在するビースト族とエルフ族の領域の偵察用として派遣されていたファントムアイであった。レイオを倒したゾルアとイーヴァの動向のみならず、人間討伐に意欲を燃やすエルフの部隊とビースト族による争い、そしてグライン一行が訪れた事も把握していた。
「あれ程打ちのめされてもまだ足掻くとは、害虫というのはどこまでもしぶといものよな」
タロスは盤上のチェスの駒をジッと見つめる。
「聞いた話、ミラーシェがやられたんだってね。ま、あいつらがどう足掻こうと絶望させる方法は幾らでもあるんだけどさ」
バキラは邪悪な笑みを浮かべている。表向きは旅の手品師ソフィアとして動いていたミラーシェは、ダルゴラの元で傷の治療に専念している最中であった。
「ふむ、私の出番でしょうか」
口を開いたのはネヴィアだ。
「クックックッ……ネヴィアよ。君にとっては試しがいがあるのではないかね?」
タロスが空になったグラスを見つめながら笑うと、ネヴィアはグラスに酒を注ぐ。
「お任せを。我々の害となる愚者に死と冥府の世界をとくと見せましょう」
ネヴィアはマントを翻し、その場から姿を消す。更に鳴り響く雷鳴の中、楽しませてもらおうと言わんばかりの表情を浮かべるタロスとバキラ。
「バキラよ。息抜きも必要であろう? 久々に少しお遊びに付き合って頂きたい」
「いいよ」
チェスの相手を快く引き受けるバキラ。クロトとダグは微動だにせず、タロスとバキラは盤上に並ぶ駒を動かしていた。


キオがエルフの村から去った後、長老は自分の家に戻る。長老の家には、使用人の女エルフがいた。
「長老様、ダメですよ。あまり外出されては」
「おお悪い、シトカよ。飯はまだかい?」
「私はミモルですよ。シトカは別の人です」
「そーかそーか。まあどっちでもいいわい。カッカッカッ」
使用人の名はミモルで、長老の世話をしている身であった。シトカとはキオに様々な出来事を話していた女エルフの名前だ。長老はオニと名乗る人間のような魔物に水を貰ったという事を話すと、ミモルの表情が真剣なものになる。
「ま、魔物ですって? いけませんよ、魔物なんかと関わっては。ましてや人間どもに似てるなんて」
「すまんすまん。でも、いい奴じゃったよ。魔物にはいい奴もいるかもしれんのう」
しみじみと語る長老。通りすがりの存在であるキオに水を与えられた恩は忘れていない様子だった。
「とにかく。今からお食事の時間ですから、お外に出てはいけませんよ」
「わかったわかった。はよう飯食わせてくれ。カッカッカッ」
上機嫌の長老に、ミモルの表情が綻ぶ。それ程いい事あったのかなと思いつつも、ミモルは台所で食事の準備を始めた。


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